タクシードライバー (1976年の映画)
テンプレート:Infobox Film 『タクシードライバー』(原題: Taxi Driver)は、1976年公開のアメリカ映画。制作会社はコロムビア映画。監督はマーティン・スコセッシ。脚本はポール・シュレイダー。主演はロバート・デ・ニーロ。
第26回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。また、1994年にアメリカ議会図書館がアメリカ国立フィルム登録簿に新規登録した作品の1つ。
目次
概要
大都会ニューヨークを舞台に夜の街をただ当てもなく走り続ける元海兵隊のタクシー運転手が、腐敗しきった現代社会に対する怒りや虚しさ、逃れられない孤独感から徐々に精神を病み、ついには自分の存在を世間に知らしめるため過激な行動に走る姿を描く。1960年代後半から1970年代中頃にかけて隆盛を極めたアメリカン・ニューシネマの最後期にして代表的な作品とされている。
ストーリー
ニューヨークにある小さなタクシー会社に運転手志望の男性が現れた。ベトナム帰りの元海兵隊員と称する彼、トラヴィス・ビックルは、戦争によるのか深刻な不眠症を患っているため定職に就くこともままならず、タクシードライバーに就職。誰となく目的地まで送り届け運賃を受け取る毎日を過ごしていた。社交性にやや欠け、同僚たちから守銭奴とあだ名されるトラヴィスは、余暇はポルノ映画館に通ったり、深い闇に包まれたマンハッタンを当てもなく運転する、という孤独の中にあった。そして、そこで目にする麻薬と性欲に溺れる若者や盛り場の退廃ぶりに嫌悪を示していた。
ある日、トラヴィスは次期大統領候補パランタインの選挙事務所付近を通りかかる。彼はそこで勤務する女性に魅かれ、選挙運動に興味を示した。彼女はベッツィーと言う名で、トラヴィスは彼女をデートに誘う。徐々に懇意になっていく二人だったが、トラヴィスは日頃の習性でベッツィーとポルノ映画館に入り、激昂させてしまう。以来どうなだめても応じず、思うようにことが運ばない彼はついに選挙事務所に押し掛け「殺してやる」と罵るのであった。
民主主義の理想と現実の狭間で、トラヴィスの不眠症は深刻さを増し、心は荒んでいく一方であった。「腐敗しきったこの街を俺が浄化してやる」という思いは憤怒から実行性を帯び目的へと固まっていく。そんな中、トラヴィスのタクシーに突如幼い少女が逃げ込んできた。ヒモらしい男が彼女を連れもどす。トラヴィスは方向性を定めるにいたった。
トラヴィスは裏のルートから拳銃を仕入れ、射撃の訓練と肉体の強化に励んだ。「俺に用か? 俺に向かって話しているんだろう? どうなんだ?」トラヴィスは鏡の前で、半狂人と化した自身の鏡像を前に不敵な笑いを浮かべ、あるいは怒りに満ちた表情で瞬時に拳銃を突き出すのであった。
そんな中、トラヴィスは食料品店で強盗事件に居合わせた。彼は咄嗟に拳銃を取り出し犯人を撃つ。刑事気取りの彼は偶然にもいつかの少女と会う。アイリスと名乗る少女にトラヴィスは売春で稼ぎ学校にも行かない生活を止めるように説得した。アイリスは、恋愛などではなくヒモに騙され利用されていることに気づいていない。しまいに少女にあきれられてしまうトラヴィス。
トラヴィスは浄化作戦を実行に移す。次期大統領候補であるパランタインの集会に現れたトラヴィスの出で立ちは、モヒカンにサングラス。パランタインを射殺しようとした彼はシークレット・サービスに目撃され人混みの中を逃げ去った。その夜トラヴィスは、アイリスのヒモ、スポーツのアパートを訪ねた。トラヴィスは正義の名の下にスポーツや用心棒、アイリスの客を立て続けに射殺。銃弾を受けて重傷を負うも、一人の少女を売春から救った彼は新聞から英雄扱いされる。
心変わりしたベッツィーからも好意を寄せられるが、彼は何事もなかったかのように夜の街をタクシーで一人彷徨い続けるのであった。
キャスト
役名 | 俳優 | 日本語吹替え版1 | 日本語吹替え版2 |
---|---|---|---|
トラヴィス・ビックル | ロバート・デ・ニーロ | 津嘉山正種 | 宮内敦士 |
ベッツィー | シビル・シェパード | 田島令子 | 井上喜久子 |
アイリス | ジョディ・フォスター | 冨永みーな | 木下紗華 |
スポーツ | ハーヴェイ・カイテル | 日高晤郎 | 東地宏樹 |
ウィザード | ピーター・ボイル | 寺島幹夫 | 浦山迅 |
トム | アルバート・ブルックス | 野島昭生 | 村治学 |
タクシー会社の受付 | ジョー・スピネル | ||
パランタイン上院議員 | レナード・ハリス | ||
ポルノ映画館の売店の女 | ダイアン・アボット | ||
銃のセールスマン | スティーブン・プリンス | 銀河万丈 | |
強盗に入る黒人 | 千葉繁 |
作品解説
トラビスとアイリス、たくさんの死体と踏み込んだ警察官たちを真上から写す場面は、空家になったアパートの上階の床をくり抜いて撮影された。同じシーンの血の生々しさから公開にあたってレイティング審査でXレート(=16歳以下入場禁止)指定を受け、光学処理(リンウッド・ダンによると言われる)で血糊の色を作り物らしく加工することでR指定を受けた。
配役
常に徹底した役作りで知られるデ・ニーロだが、本作の撮影に際し数週間実際にタクシーの運転手を務め、役の研究を行った。
売春で生計を立てる少女アイリスを演じたジョディ・フォスターは公開当時わずか13歳であったことが大きな話題を呼んだ。フォスターは本作のデ・ニーロとの共演で演技に開眼したと語る。突然アドリブを入れるなど子役として活躍してきたフォスターには刺激的な体験となった。フォスターは本作で第49回アカデミー助演女優賞にノミネートされ本格的に女優としての第一歩を歩み始めた。
監督マーティン・スコセッシは浮気した自分の妻の殺害を仄めかすタクシーの客として出演している。劇中ではデ・ニーロ演じるトラヴィスが、精神の昂揚しているスコセッシに終始無言で対応しているが、リハーサルの時には逆にデ・ニーロが冗談半分でスコセッシのセリフにアドリブで言い返し、驚いたスコセッシは「頭が真っ白になり、言葉を返せなかった」と後に笑って語っている。
演出・メイク
デ・ニーロが鏡に向かい「You talkin' to me?」と呟きながら自分の鏡像に銃を向ける場面は、脚本には書かれておらず、監督とデ・ニーロが即興で様々な試みを行った。「You talkin' to me?」は、2005年にアメリカ映画協会が選出した「アメリカ映画の名セリフベスト100」で10位にランクインした。
終盤のデ・ニーロのモヒカンは特殊メイクの巨匠ディック・スミスが作成したものである。ハーヴェイ・カイテルの長髪も鬘。
音楽
本作が遺作となったバーナード・ハーマンによるサックスを中心に据えた音楽も映画の高評価に一役買った。最後のレコーディング・セッションが終了して12時間後、息を引き取った。
評価・影響
この映画に影響されてジョン・ヒンクリーがレーガン大統領暗殺未遂事件を起こした。なお、本作自体も、1972年に起きた暴漢によるジョージ・ウォレス大統領選候補狙撃事件からインスピレーションを得たと言われている[1]。
受賞・ノミネート
映画祭・賞 | 部門 | 対象 | 結果 |
---|---|---|---|
アカデミー賞[2] | 作品賞 | マイケル・フィリップス、ジュリア・フィリップス | テンプレート:Nom |
主演男優賞 | ロバート・デ・ニーロ | テンプレート:Nom | |
助演女優賞 | ジョディ・フォスター | テンプレート:Nom | |
作曲賞 | バーナード・ハーマン | テンプレート:Nom | |
英国アカデミー賞 | 作品賞 | 『タクシードライバー』 | テンプレート:Nom |
主演男優賞 | ロバート・デ・ニーロ | テンプレート:Nom | |
助演女優賞 | ジョディ・フォスター | テンプレート:Won | |
監督賞 | マーティン・スコセッシ | テンプレート:Nom | |
アンソニー・アスクィス映画音楽賞 | バーナード・ハーマン | テンプレート:Won | |
新人賞 | ジョディ・フォスター | テンプレート:Won | |
ゴールデングローブ賞[3] | 主演男優賞 (ドラマ部門) | ロバート・デ・ニーロ | テンプレート:Nom |
脚本賞 | ポール・シュレイダー | テンプレート:Nom | |
カンヌ国際映画祭[4] | パルム・ドール | マーティン・スコセッシ | テンプレート:Won |
ロサンゼルス映画批評家協会賞[5] | 男優賞 | ロバート・デ・ニーロ | テンプレート:Won |
音楽 | バーナード・ハーマン | テンプレート:Won | |
ニューヨーク映画批評家協会賞[6] | 男優賞 | ロバート・デ・ニーロ | テンプレート:Won |
全米映画批評家協会賞[7] | 監督賞 | マーティン・スコセッシ | テンプレート:Won |
主演男優賞 | ロバート・デ・ニーロ | テンプレート:Won | |
助演女優賞 | ジョディ・フォスター | テンプレート:Won | |
ブルーリボン賞 | 外国作品賞 | 『タクシードライバー』 | テンプレート:Won |
報知映画賞 | 海外作品賞 | 『タクシードライバー』 | テンプレート:Won |
ランキング入り
媒体・団体 | 部門 | 対象 | 順位 |
---|---|---|---|
キネマ旬報 | 委員選出外国語映画部門ベスト・テン | 『タクシードライバー』 | 1位 |
アメリカ映画協会 | アメリカ映画の名セリフベスト100 | 「You talkin' to me?」 | 10位 |
アメリカ映画100年の悪役ベスト50 | トラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ) | 30位 | |
エンパイア | 史上最高の映画キャラクター100人[8] | トラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ) | 18位 |
DVD
DVD版では、アイリスに会いに行ったトラヴィスが隠し持っていた拳銃を用心棒風の男に取り上げられるシーンがカットされている。また銃を密売人から買う場面で銃の携帯許可証を入手できないか聞くシーンがカットされている。このとき、サービスでホルスターをもらっている[9]。
脚本担当のシュレイダーらによる音声解説や日本語吹替え音声を新規収録した本編ディスクのほかに、ロケ地のその後の様子や絵コンテと完成シーンを比較した映像を収録した特典ディスクが添付されている。
エピソード
- ポルノ映画館の売店の女を演じた女優ダイアン・アボットはデ・ニーロの元妻。1976年に結婚し、娘ドレナ・デ・ニーロをもうけるも1988年に離婚した。
- トラヴィスがテレビを観るシーンで流れる曲は、ジャクソン・ブラウンの『Late for the Sky』。
- 編集スーパーバイザー(Supervising Editor)とクレジットされているマーシア・ルーカスは当時ジョージ・ルーカスの妻。スティーヴン・スピルバーグもクレジット無しで同じ編集スーパーバイザーとして参加した。
- トラヴィスが劇中 銃器を購入するが、その内2つのオートマティック拳銃は「コルト .25口径」と「ワルサーPPK」と説明されているが、実際に撮影で使われているのはそれぞれS&W M61エスコートとアストラ コンスターブルである。また、後にトラヴィスが射撃練習場で使用しているシーンにはそれぞれ変わっており、スターリング・アームズ ピストルとワルサーPPKになっている他、「S&W .38口径」を購入したはずのリボルバーがコルト・ディテクティブスペシャルになっている。
参考文献
関連項目
外部リンク
テンプレート:パルム・ドール 1960-1979- ↑ The John Hinckley Case Crime Library
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- ↑ テレビ放送バージョンに収録されており、TBS放送のバージョンにも同シーンは収録されている。