シプ

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シプは、マヤ文明で1周期ないし1年365日の暦として使用されたハアブ暦の第3の月の名称である。この月の守護神は蛇に似た姿の神だがまだ同定されていない。

 ウオの月の最終日の翌日、すなわち、シプの月の初日には、医師や妖術師でもある神官たちは妻と一緒に、彼らのうちの一人の神官の家に集まった。そこで、悪霊ばらいを行い、うやうやしく祈りを捧げ、薬の神であるイツァムナ、キット・ボロン・トゥム、アハウ・チャマヘスの名前を唱えた後、神官から香を受け取って、それを「新しい火」の入った香炉に投じた。その間にチャクたちは、神官が書物に使ったものと同じ緑青を、あらかじめ持参した薬の袋の中から取り出してあった、薬の女神でもあるイシュ・チェルの小さな像とアムというくじ引きのための小石に塗りつけた。その後、彼らはそれぞれ自分の仕事に使うものを包んで肩に担ぎ、チャン・トゥニアフという踊りを皆で踊った。踊りが終わると、男女に分かれて座って、次の年の祭りのためにくじを引いた。そして持参してきていた供物の食べ物と酒を飲み食いして酔いつぶれた。もっとも、神官は、人前で酔いつぶれるのを恥としたので酒を隠して思うままに飲んだ。

 その次の日は、猟師たちが、他の者たちと同じように妻と一緒に彼らのうちの一人の家に集まった。そこへ神官がやってきて、悪霊払いを行い、漁師たちは、儀式の道具として、香と新しい火と緑青をな並べた。猟師たちはうやうやしく、狩猟の神々であるアカヌム、スフィ・ツィブ、タバイなどの名を唱え、配分された香を香炉に投じた。そして、香が燃えている間に一本の矢と鹿の頭蓋骨をそれぞれ取り出し、チャクたちがそれに緑青を塗りつけると、ある者はこれらを手にして踊った。他の者は、耳に孔をあけたり、舌に孔をあけたりしてアックという草のやや幅の広い葉を7枚その孔に通した。これがすむと神官たちが供物を供え踊りを踊ったが、その間に酒がつがれて一同は酔いつぶれるまで飲み続けた。

 さらにその次の日は、漁夫たちの祭りの日で、これとほほ同じ順序で祭儀をおこなった。ただ、緑青は漁具に塗り付けて、耳には孔をあけるのではなく、耳の周囲を切って傷つけたりとか、チョホムという漁夫の踊りを踊って、長い太い棒に祝福を与えて付きたてるという点が猟師の祭儀と異なっていた。この祭りが村で終わると、首長をはじめとする大勢の者が海岸へ行って祭りを続けるのが慣わしだった。彼らは網や釣り針などの漁具をもっていって沢山の魚をとってにぎやかに時をすごした。