クリスト
テンプレート:存命人物の出典明記 クリスト(Christo, 1935年6月13日 - )は、ブルガリア、ガブロヴォ生まれの美術家。本名はフリスト・ヴラディミロフ・ヤヴァシェフ(Христо Явашев, Christo Vladimirov Javašev (Javacheff) )。
妻のフランス人美術家、ジャンヌ=クロード(Jeanne-Claude Denat de Guillebon、1935年6月13日モロッコ生まれ - 2009年11月18日)とともに「クリスト&ジャンヌ=クロード」(Christo and Jeanne-Claude)の名で活動している。
20世紀の美術は芸術概念の拡張からさまざまな流派や傾向を生み、「アースワーク」「ハプニング」のような、従来の「美術」の枠組みからはずれたものも多い。ランド・アートの作家とされることもあるが、クリスト自身は自らの作品をランド・アートとみなしていない。こうした活動の美術史的評価はまだ定まっているとは言い難いが、クリストの活動はそれを肯定的に評価するかどうかは別問題として、「芸術とは何か」という問いをあらためて投げかけた点で、後世に記憶されるであろう。
その「作品」は一言で言えば「梱包」である[1]。彼の「梱包」は1958年、日用品の梱包から始まったが、もともとそのころから巨大な建物(後述のライヒスタークなど)や自然や公園の風景全体を梱包するアイデアはあった。1960年代以降、梱包は次第にその規模を巨大化させていく。美術館の建物を丸ごと梱包することにはじまり、オーストラリアの高さ約15メートル、長さ2キロメートルにおよぶ海岸を丸ごと梱包した「海岸の梱包」(1969)など、途方もない作品もある。「梱包」ではない作品には、コロラド州にあるロッキー山脈の幅400メートルもある谷に巨大なカーテンを吊るした「ヴァレー・カーテン」(1970-72)がある。
これらの「作品」はその性格上(布の性質、天候による破損のおそれ、自然に対する影響、担当役所による設置許可期間など)永続することは不可能で、もとよりクリストには恒久展示して永続させる意図はまったくなく(作品は夢のように現れ、夢のように消えて観客の中にしか残らない)、今は記録写真によってしか見ることはできない。見た者は、人工的な色の布で自然の風景が変わることや、見慣れた都会の風景が梱包で一変することに新鮮なショックをうける。もっとも巨大化する一方の梱包や、産業化したクリスト夫妻の作品制作に対する疑問もある。
1973年よりアメリカ国籍を持つ。それぞれのプロジェクトにかかる巨額の費用は、美術館や政府や企業などから一切の援助を受けることなく、プロジェクトの完成を予想したドローイングやコラージュ作品など、クリストの手によるオリジナル・アート作品の販売でまかなっている。また、プロジェクトは毎回、その梱包や作品設置の舞台となる場所の住民・政府官僚などとの許可が必要であり、しばしば反対運動や「これは芸術か否か」といった論争に巻き込まれており、1960年代の構想からそれぞれの実現まで数年から数十年がかかっている。
代表作
- ドクメンタ4のプロジェクト(1968年、ドイツ)
- 「梱包された海岸」(1969年、オーストラリア)
- 「ヴァレー・カーテン」(1970年-1972年、アメリカ、コロラド州)
- 「ランニング・フェンス」(1972年-1976年、アメリカ、カリフォルニア州)
- 「梱包された歩道」(1977年、アメリカ、カンザス州)
- 「囲まれた島」(1983年、アメリカ、フロリダ州)
- マイアミ付近の湾に浮かぶ11の島の周りの海を、島の輪郭に沿ったピンクのポリエチレン布で覆った。2週間だけ存続が許可された。
- 「梱包されたポン・ヌフ」(1985年、フランス、パリ)
- セーヌ川にかかるパリ最古の橋を完全梱包。市当局(市長ジャック・シラク)との交渉に9年をかけ、実現させた。2週間だけの会期中に300万人が見物に来た。
- 「アンブレラ・プロジェクト」(1991年秋、アメリカ、カリフォルニア州および、日本、茨城県)
- カリフォルニアの砂漠地帯に1760本の黄色の傘を、茨城県の水田地帯に1340本の青色の傘を同時期に点在させた。一本の傘の大きさは高さ6メートル、直径約8.7メートルという巨大なもの。1ヶ月弱の会期中に日本で50万人、アメリカで200万人を動員したが、日本は台風シーズンで傘が閉じている日が多く、訪れた観客を残念がらせた。アメリカでの展示中、強風で傘が倒れ、観客の一人が死亡、数名が負傷するという事故が起こった。また日本でも撤去作業中に、作業員の男性が一人死亡する事故が起こった。
- 「梱包されたライヒスターク(帝国議会議事堂) (Der verhüllte Reichstag, 1995年、ドイツ、ベルリン)
- ドイツ議会を巻きこむ長年の論争の末、やっと実現したプロジェクト。放火事件や第2次大戦で廃墟となり、統一ドイツの議事堂になる予定だったライヒスタークを完全にポリプロピレン布で覆い隠した。わずか2週間に500万人を動員。布やロープも既製品ではなく、作品のために織られ、材料費等の直接経費だけで約7億円がかかった。
- 「梱包された木々」(1998年、バーゼル、スイス)
- 長年の交渉の末実現。冬の11月から12月まで、バーゼル市の公園の巨木から低木まで178本の木々に銀色のポリエチレン布をまきつけた。大小さまざまな木の形に応じた銀色の塊が公園に出現した。
- 「梱包されたスヌーピーの家」(2003年、アメリカ、カリフォルニア)
- 漫画家チャールズ・M・シュルツは1975年に『ピーナッツ』のなかでスヌーピーの家(犬小屋)がクリストに梱包されてしまうエピソードを描いた。これに応えて、チャールズ・M・シュルツ・ミュージアムに、梱包された犬小屋の作品が寄贈されることになった。
- 「門」(ザ・ゲーツ)(2005年、アメリカ、ニューヨーク)
- 2005年3月、1979年に発案して以来長年の交渉の末、実現。ニューヨーク市・セントラル・パークの木が落葉した2月から3月にかけ、鮮やかなサフラン色の布の門が7503個設置された。このプロジェクトでは企業や市当局の援助はまったくなく、巨額の資金は1950年代や1960年代のドローイングや梱包アイデア図の販売、絵葉書販売などでまかなわれた。(en:The Gates)
脚注
- ↑ しかし2006年来日時には、クリストとジャンヌは自分達が「『梱包』のアーティスト」と呼称されることに疑問を覚えると語っている。