クシシュトフ・ペンデレツキ
テンプレート:Portal クラシック音楽 クシシュトフ(またはクリシュトフ)・ペンデレツキ(Krzysztof Penderecki 1933年11月23日 - )は、ポーランドの作曲家、指揮者。クラクフ生まれのカトリック教徒。ポーランド楽派の主要作曲家の1人である。
目次
作風
ペンデレツキは、創作の源泉を宗教[1]であると明言している。「イコン性」の提示とは何かを問うのが、彼の音楽である。
初期の作品、たとえば「ダビデの詩篇」の冒頭は、いきなりピアノの最低弦のトリルから始まるなど、音響の特異性をまず前面に出し、その後で宗教的なメッセージの呼びかけを行う構造は、最近作にまで共通するムードである。「広島の犠牲者に捧げる哀歌」はクラスターが第一主題、衝撃を伴う特殊奏法が第二主題、といった観点で作曲されており、最終的に漸減クラスターの「終止音」で終わる。[2]特殊奏法をどれだけ駆使しても、その奏法群をグルーピングしたり、反復させたりといった古典的な構成を捨て去ることは初期作品においてもない。「第一弦楽四重奏」も弦楽奏者全員に「タッピング」をおこなうという異色の冒頭が話題になったが、その後は音列の展開が行われており、伝統的な視座を失うことはない。このような創作態度のまま、新ロマン主義の時代が到来したとたん、彼の音響主義は徐々に後退し始める。
オペラ「ルダンの悪魔」もクラスターは多いが、声楽パートはシェーンベルク以来の無調語法から一歩も外に出ず、ベルント・アロイス・ツィンマーマンのような多時間系思想もないために、はるかに音楽性がわかりやすく[3]なった。その後創作の頂点と言われた「ルカ受難曲」ではクライマックスに三和音を用いたことで合唱業界から好まれ、以後合唱を用いた作品が増え始める。ショスタコーヴィチが得意とした引用による影響で、ペンデレツキは自作曲でしばしば自作や他作からの引用を行うようになったが、それ以上にペンデレツキを変えたのは音響主義の破棄と、モノディーやユニゾンの復権[4]であった。後年は交響曲の作曲が増えるが、その中でも目立つのは第一ヴァイオリンのユニゾンで演奏される半音階的なメロディー[5]であり、以後の作品で使いまわされている。
音響主義を破棄して標題音楽へ後退してしまったために、ペンデレツキの中期から後期の評価は賛否両論に割れたままである。特にオペラ作品は「ユビュ王」で初演が大失敗し酷評の嵐と化したために、オペラ創作から一時期完全に離れていた。彼が音響主義から退却した時期と、指揮者としての活動を本格化させた時期は一致する[6]。指揮者として多忙になってからも、ブーレーズのように創作がセミリタイヤすることはなく、現在は交響曲第九番と新作オペラの完成に全力を注ぐ毎日だと言われる。[7]指揮者としての活動は当然のようにスター演奏家とのかかわりが増えることとなり、結果として「三人のチェロ奏者とオーケストラのための合奏協奏曲」・「ヴァイオリン協奏曲」・「ピアノ協奏曲」などの協奏作品が70年代から増え始める。「オーケストラとチェロのためのソナタ」や「オーケストラとヴァイオリンのためのカプリチオ」で演奏を担ったのはジークフリート・パルムやポール・ズーコフスキーのような前衛の時代の名手であったが、近年は現代音楽と関係のないソリストを起用することが多い。
「ペンデレツキ国際作曲コンクール」がラドムで隔年で開催されている。日本人の弟子は少ないが、創作の全盛期に教えを受けた者に七ツ矢博資[8]がいる。現在はNAXOSから主要作品が容易に入手できる。オーケストラの客演が非常に多く、自作の指揮を手がける傍ら、古典作品も振る親日派指揮者[9]である。最近の音楽は「クレード」などのカトリックの宗教音楽が多い。
主要作品
オペラ
交響曲
- 交響曲第1番 1973年
- 交響曲第2番「クリスマス」 1979-80年 - きよしこの夜などのクリスマス音楽を引用
- 交響曲第3番 1988年-1995年
- 交響曲第4番 「アダージョ」 1989年
- 交響曲第5番 「朝鮮風」1991年-92年
- 交響曲第7番「エルサレムの7つの門」 1996年
- 交響曲第8番「はかなさの歌」 2004年-2005年
管弦楽曲
- 放射
- 広島の犠牲者に捧げる哀歌(弦楽合奏)(1959-60年)
- アナクラシス(1959-60年)
- ポリモルフィア(1961年)
- 蛍光(1961年)
- ヤコブの夢(1974年)
- デ・ナトゥーラ・ソノリス第1番・第2番
- ヤコブの夢(1974年)
金管と打楽器のための作品
- ダンジガーファンファーレ(2008年)
- 平和のための前奏曲(ワールドオーケストラフォアピース委嘱作品・2009年)
協奏曲
ヴァイオリンと管弦楽のための作品
- ヴァイオリン協奏曲第1番(1976年)
- ヴァイオリン協奏曲第2番「メタモルフォーゼン」(1992年-1995年)
- カプリッチョ(1972年)
チェロと管弦楽のための作品
- チェロ協奏曲第1番(1972年)
- チェロ協奏曲第2番(1982年)
- 合奏協奏曲(2000年-2001年)
- ラルゴ(2003年)
- チェロと管弦楽のためのソナタ(1964年)
その他
- フルートと室内管弦楽のための協奏曲(1992年)
- ピアノ協奏曲「復活」(2001年 - 2002年)
- ホルン協奏曲「冬の旅」(2008年)
吹奏楽曲
- ピッツバーグ序曲(1967年)
- エントラータ(1994年)
- ブルレスケ組曲(1995年)
室内楽曲
- 弦楽四重奏曲第1番 1960年
- 弦楽四重奏曲第2番 1968年
- 弦楽三重奏曲 1991年
- 六重奏曲
合唱曲
- ルカ受難曲(1965年)
- 怒りの日(アウシュヴィッツで殺害された人々の思い出に捧げるオラトリオ)(1967年)
- ウトレンニャ(1971年)
- ポーランド・レクイエム(1980-84年)
- コスモゴニア(1970年)
- 来たれ、創造主(1987年)
- ベネディクトゥス(1993年)
- カディッシュ(2009年)
エピソード
「ミュージカル・ソー」とは本物の鋸ではない実在の楽器であるが、ペンデレツキは本物の鋸を初めて打楽器パートに指定した作曲家として有名である。[10]
受賞歴
- 2014: Order of the Cross of Terra Mariana, 1st Class
- 2013: Grammy for The Best Classical Compendium
- 2011: Viadrina Prize (Viadrina European University, Frankfurt)
- 2009: Order of Merit of the Grand Duchy of Luxembourg; Merit of Armenia
- 2008: Polish Academy Award for Best Film Score for Katyn; Commander of the Order of the Three Stars (Latvia)
- 2005: Order of the White Eagle (Poland)
- 2004: Praemium Imperiale – Music (Japan)
- 2003: Grand Gold Decoration for Services to the Republic of Austria;[21] Preis der Europäischen Kirchenmusik (Germany); Freedom of Dębica; Eduardo M. Torner Medal of the Conservatorio de Musica del Principado Asturias in Oviedo, Spain; honorary director of the Choir of the Prince of Asturias Foundation; Honorary President of the Apayo a la Creación Musical
- 2002: State Prize of North Rhine-Westphalia; Romano Guardini Prize
- 2001: Prince of Asturias Award for Art; Honorary Member of the Hong Kong Academy for Performing Arts;
- 2000: Cannes Classical Award as "Living Composer of the Year"; honorary member of the Society of Friends of Music in Vienna; Officer of the Order of Merit of the Italian Republic
- 1999: Music Prize of the City of Duisburg
- 1998: Composition Prize for the Promotion of the European economy; Foreign Honorary Member of the American Academy of Arts and Letters; corresponding member of the Bavarian Academy of Fine Arts, Munich; Honorary Board of the Vilnius Festival '99
- 1996: Primetime Emmy Award of the Academy of Television Arts & Sciences; Commander of the Ordre des Arts et des Lettres (France)
- 1995: Member of the Royal Irish Academy of Music (Dublin); honorary citizen of Strasbourg; Primetime Emmy Award of the Academy of Television Arts & Sciences; Herder Prize
- 1993: Distinguished Citizen Fellowship at the Institute for Advanced Study at Indiana University, Bloomington; Prize of the International Music Council / UNESCO for Music; Cultural Merit of the Principality of Monaco
- 1992: University of Louisville Grawemeyer Award for Music Composition for Adagio – 4 Symphony; Austrian Medal for Science and Art
- 1990: Grand Cross of Merit of the Order of Merit of the Federal Republic of Germany; Chevalier de Saint Georges
- 1985: Premio Lorenzo Magnifico;
- 1983: Wihuri Sibelius Prize (Finland); Polish National Award
- 1977: Prix Arthur Honegger for Magnificat
- 1977: Herder Prize
- 1968: Prix Italia for the Dies Irae in memory of the victims of Auschwitz
- 1967: Prix Italia for the St. Luke Passion; Sibelius Gold Medal
- 1966: Grand Art Prize of North Rhine-Westphalia for the St. Luke Passion;
- 1961: UNESCO prize for Threnody;
- 1959: II Warsaw Competition of Young Polish Composers of the Composers' Union – Penderecki received for his works stanzas, Emanations and Psalms of David all three awards the prize.
参考文献
- Bylander, Cindy (2004). Krzysztof Penderecki: a bio-bibliography. Westport, Connecticut: Praeger. ISBN 978-0-313256-58-5. OCLC 56104435.
- Maciejewski, B. M. (1976). Twelve Polish Composers. London, England: Allegro Press. ISBN 978-0-950561-90-5. OCLC 3650196.
- Robinson, Ray (1983). Krzysztof Penderecki: a guide to his works. Princeton, New Jersey: Prestige Publications. ISBN 978-0-911009-02-6. OCLC 9541916.
- Schwinger, Wolfram; trans. William Mann (1989). Krzysztof Penderecki: His Life and Work – encounters, biography and musical commentary. London, England: Schott. ISBN 978-0-946535-11-8. OCLC 715184618.
- Thomas, Adrian (1992). "Penderecki, Krzysztof". In Sadie, Stanley. New Grove Dictionary of Opera. London, England. ISBN 0-333-73432-7.
- Brockhaus Riemann Musiklexikon, 1979, ISBN 3-7957-8303-8.
- Krzysztof Lisicki, Szkice o Pendereckim, Varsovie, 1973
- Ludwik Erhardt, Spotkania z Pendereckim, Cracovie, 1975
- Wolfgang Schwinger, Penderecki, Begegnungen, Lebensdaten,Werkkommentare, Stuttgart, 1979, réed. 1994
- A. Ivachkine, Krzysztof Penderecki, Monografitchesky otcherk, Moscou, 1983
- Barbara Małecka-Contamin, Krzysztof Penderecki. Style et matériaux, Paris, 1997
- D. Mirka, The Sonoristic Structuralism of Krzysztof Penderecki, Katowice, 1997
- Krzysztof Penderecki, Labyrinthe du temps. Cinq leçons pour une fin de siècle, Montricher, 1999
- Tadeusz A. Zieliński, Dramat instrumentalny Pendereckiego, Cracovie, 2003
- Mieczysław Tomaszewski, Krzysztof Penderecki and His Music, Cracovie, 2003
- Regina Chłopicka, Krzysztof Penderecki. Musica sacra - Musica profana. A Study of Vocal-Instrumental Works, Varsovie, 2003
- Mieczysław Tomaszewski, Penderecki, Varsovie, 2003.
- François Coadou, Le cas Penderecki ou la question de l'avant-garde au xxe siècle, Caen, 2004
脚注
- ↑ 作曲の20世紀II・音楽之友社
- ↑ 八村義夫の「ラ・フォリア」にはペンデレツキの古典的構成についての論考がある。
- ↑ 最新名曲解説辞典<室内楽>の松下眞一の執筆による文章では「彼のオペラはあまり成功していないと思う」とある。
- ↑ Moeck社刊・ペンデレツキのルカ受難曲リスニングガイド
- ↑ 交響曲第4番の第二主題
- ↑ この辺りはブーレーズの創作の推移とも共通項が多い。
- ↑ 交響曲第6番は完成していない。
- ↑ 日本の作曲家・日外アソシエーツ
- ↑ 特にN響とは相性がよく、大晦日の第9も頼まれるほどである。
- ↑ 「放射Fluorescences」の冒頭で出現。鋸で材木を切る、という指定がなされている。