オニバス
オニバス(鬼蓮)はスイレン科の一年生の水生植物である。浮水性の水草であり、夏ごろに巨大な葉を水面に広げる。本種のみでオニバス属を構成する。
分布
アジア原産で、現在ではアジア東部とインドに見られる。日本では本州、四国、九州の湖沼や河川に生息していたが、環境改変にともなう減少が著しい(後述)。かつて宮城県が日本での北限だったが絶滅してしまい、現在では新潟県新潟市が北限となっている。
概要
植物全体に大きなトゲが生えており、「鬼」の名が付けられている。特に葉の表裏に生えるトゲは硬く鋭い。葉の表面には不規則なシワが入っており、ハスやスイレン等と見分けることができる。また、ハスと違って葉が水面より高く出ることはなく、地下茎(レンコン)もない。
春ごろに水底の種が発芽し、矢じり型の葉が水中に現れる。茎は塊状で短く、葉は水底近くから水面へと次々に伸びていき、成長するにつれて形も細長いハート型から円形へ変わっていく。円形の葉は、丸くシワだらけの折り畳まれた姿で水面に顔を出し広がる。円形葉の大きさは直径30cmから2m程度と巨大で、1911年には富山県氷見市で直径267cmの葉が見つかっている。
花は水中での閉鎖花が多く、自家受粉で100個程度の種子をつくる。種子はハスと違って球形で直径1cm程度。8月から9月ごろに葉を突き破って花茎を伸ばし、紫色の花(開放花)を咲かせることもある。種子はやがて水底に沈むが、全てが翌年に発芽するとは限らず、数年から数十年休眠してから発芽することが知られている。また冬季に水が干上がって種子が直接空気にふれる等の刺激が加わることで発芽が促されることも知られており、そのために自生地の状態によってはオニバスが多数見られる年と見られない年ができることがある。
人間との関わり
葉柄や種子を食用としている地域もあるが、大規模には利用されていない。
農家にとってオニバスは、しばしば排除の対象になることがある。ジュンサイなどの水草を採取したりなど、池で農作業を行う場合、巨大な葉を持つオニバスは邪魔でしかないうえ、鋭いトゲが全体に生えているために嫌われる羽目になる。また、オニバスの葉が水面を覆い水中が酸欠状態になったため、魚が死んで異臭を放つようになり、周囲の住民から苦情が出たという話もある。
水が少ない地域に作られるため池では水位の低下は死活問題に直結するが、オニバスの巨大な葉は水を蒸散させてしまうとされて歓迎されないこともあった。
中国ではオニバスの種子が食材として使われたり、漢方薬として用いられている。
保全状況評価
- 絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)
- 日本国指定の天然記念物 - 十二町潟オニバス発生地(富山県氷見市、1923年)
日本では、環境の悪化や埋め立てなどで全国的に自生地の消滅が相次ぎ絶滅が危惧されており、オニバスを含めた環境保全運動も起きている。ため池に関しても減反や水事情の改善によって以前よりも必要性が薄れており、管理している水利組合等との話し合いによって保全活動が行われているところもある。
氷見市の「十二町潟オニバス発生地」は1923(大正12)年に国の天然記念物に指定され保護されてきたが、後に指定範囲での自生は見られなくなっており、現在は再生の取り組みが行われている[1]。このほか、各地の自治体によって天然記念物指定を受ける自生地も多い。 環境省レッドリストでは絶滅危惧II類に指定されている[2] 。
近縁種
子供を乗せた写真で知られるオニバスに似た植物は、南米原産のオオオニバス(学名:Victoria amazonica )であり、オニバスとは別のオオオニバス属の植物。オオオニバス属にはオオオニバスとパラグアイオオオニバスの2種が属しており、2種の交配品も作られている。オニバスと違って葉の縁が立ち上がり、ヒツジグサに似た花を付ける。この花はスジコガネモドキ類(コガネムシ科カブトムシ亜科スジコガネモドキ族)の昆虫によって他家受粉し結実することが知られている。植物園などで見られることがある。
脚注・外部リンク
テンプレート:Sister- ↑ 氷見市 十二町潟オニバス発生地(天然記念物)
- ↑ 環境省生物多様性センター J-IBIS オニバス