アンジオテンシンII受容体拮抗薬
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(アンジオテンシンツーじゅようたいきっこうやく)は、昇圧物質アンジオテンシンII(以下、「AII」と略す)と拮抗し、AIIがAII受容体に結合することをブロックすることにより血圧の降下作用を示す薬物である。AII拮抗薬、ARB、AIIAなどともいう。本系統の薬剤はカルシウム拮抗薬と並び、世界的に処方されている高血圧症の治療薬であるが、1970年代に本薬剤の基本骨格を創製したのは、日本の武田薬品工業である。現在、日本国内で発売されているのは、ロサルタン(商品名:ニューロタン®)、バルサルタン(商品名:ディオバン®)、カンデサルタン・シレキセチル(商品名:ブロプレス®)、テルミサルタン(商品名:ミカルディス®)、オルメサルタン メドキソミル(商品名:オルメテック®)、イルベサルタン(商品名 アバプロ®/イルベタン®)、アジルサルタン(商品名:アジルバ®)などがある。
機序
AIIはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系と呼ばれる生体メカニズムの中で産生されるホルモン様物質でアンジオテンシンIが活性化された物質である。AIIの働きとして下記のような働きがある。
- 細胞質内にCa2+を流入させることにより血管を収縮させ血圧を上昇させる。
- 副腎皮質球状層のアルドステロン合成を促進し、分泌させる。
- 視床下部に作用して口渇感とADH(抗利尿ホルモン;antidiuretic hormone)放出を促す。
- 近位尿細管でNa+の再吸収を促進させる。
- レニン分泌を抑制する。
AII受容体はAT1とAT2の2つがあり、AIIの大部分はAT1に結合して上記のような作用を発現する。AII拮抗薬はこのAT1受容体を直接阻害して降圧作用を示す。同じようにアンジオテンシン系の降圧剤としてACE阻害薬がある。
- メタアナリシスにおいて、ACE阻害薬は、有意に低い全死因死亡率、心血管関連死亡率、および心血管発生率(それぞれ相対的低下13%、17%、および14%)と関連した。しかしARBによる治療は前述のいずれについても利益を示さなかった。脳卒中のリスクの減少は、ACE阻害薬とARBのどちらにも認められなかった。[1]
なお海外においてはサイアザイド系利尿薬ヒドロクロロチアジド(ハイドロクロロサイアザイド、HCTZ)との配合剤(「ハイザール:HYZAAR」等)が発売され臨床で使用されている。2006年12月には日本でもロサルタンとヒドロクロロチアジドの配合剤「プレミネント:PREMINENT」の販売が開始された。その後、カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタンも合剤が発売されている。
適応症
上記以外のARBには高血圧症以外の適応はない。
なお、日本国外における国内承認薬のその他の適応症として
- 2型糖尿病性腎症:ロサルタン
- 心不全:ロサルタン・バルサルタン・カンデサルタンシレキセチル
- 左室肥大を伴う高血圧患者の心血管系イベント抑制(特に脳卒中の予防):ロサルタン
- 心臓発作後の高リスク患者における心疾患死抑制:バルサルタン
- 病態の異なる広範な慢性心不全患者の心血管死および心不全の悪化による入院を減少:カンデサルタンシレキセチル
などがある。
副作用
禁忌
脚注
- ↑ Cheng J et al. Effect of angiotensin-converting enzyme inhibitors and angiotensin II receptor blockers on all-cause mortality, cardiovascular deaths, and cardiovascular events in patients with diabetes mellitus: A meta-analysis. JAMA Intern Med 2014 May; 174:773. (http://dx.doi.org/10.1001/jamainternmed.2014.348)