アブサン
アブサン(テンプレート:Lang-fr-short)は、フランス、スイス、チェコ、スペインを中心にヨーロッパ各国で作られている薬草系リキュールの一つ。ニガヨモギ、アニス、ウイキョウなどを中心に複数のハーブ、スパイスが主成分である。
フランス語での発音はアプサーント。英語ではアブシンス。アブサント、アプサンとも。名前はギリシア語の "ἀψίνθιον"("apsínthion"、ヨモギの意)に由来する。[1]
日本では、有名な商品名であるペルノー(テンプレート:Lang-fr-short)を一般名詞的に呼ぶ場合がある。ペルノーという呼び方は、同社のもう一つの有名な商品であるアニス酒を指すこともある。
目次
特徴・飲み方
アルコール度数が高く70%前後のものが多い。低いものでも40%程度、製品によっては89%を超えるものもある。薄く緑色を帯びており 水を加えると非水溶成分が析出して白濁する。色と白濁の度合いは製品によって大きく異なる。
他のリキュール類と異なる、特殊な香りと味を持っている。
そのまま飲むこともあるが、度数が高いため薄めて飲んだり、特異な香気があるためカクテル材料としても用いられる。
薄めて飲む場合、角砂糖に垂らす方法がよく知られており、しばしば「アブサンスプーンをグラスの上に渡してその上に角砂糖を置く」という形で供される。パブでは、グラスの上に渡した角砂糖をアブサンで湿らせて着火し、ミネラルウォーターを注いで消火し、アブサンスプーンでよく混ぜたものをクラシックスタイルとして提供している。
誕生から禁止、解禁まで
禁止前
元々はスイスのヴェルト・トラ・ヴェルで作られていたニガヨモギを原料とした薬を医師ピエール・オーディナーレが蒸留を応用し独自の処方を発案、彼はその製法を1797年にアンリ・ルイ・ペルノーに売却。ペルノーが商品化した。特に、19世紀フランスの芸術家たちによって愛飲され、作品の題材とされた。
安価なアルコールだったために多数の中毒者・犯罪者を出したことでも知られる。アブサン中毒で身を滅ぼした有名人としては、詩人ヴェルレーヌや画家トゥールーズ=ロートレック、ゴッホがいる。
禁止
ニガヨモギの香味成分であるツヨンにより幻覚などの向精神作用が引き起こされるとされ、1898年にベルギーの植民地であったコンゴ自由国で禁止されたのに始まり、20世紀初頭にはスイス・ドイツ・アメリカなどでアブサンの製造・流通・販売は禁止された[2]。現在ではツヨンが原因によるアブサン中毒は疑問視されている。
このため、ニガヨモギを用いないアブサンの代替品として、パスティス(テンプレート:Lang-fr-short 似せる、を由来とする)が製造された。販売を目的としない小規模な製造についてはほとんど取り締まりがなかったため、フランス・スイスなどを中心とする欧州の各地に自家用のアブサン醸造家が存在した。
一方、スペインなど禁止されていない国もあった。日本でもニガヨモギ抽出物が食品添加物(既存添加物)として使用が許可されていたため、ペルノーが一般的な流通ルートで輸入されており、国産製ではサントリーがカクテル用に一般流通させていたヘルメス・リキュール・シリーズのラインナップとしてアブサンを販売していたことから、洋酒販売店やバーにおいてはそれほど珍しい酒ではなかった。
解禁
その後、1981年にWHOが、ツヨン残存許容量が10ppm以下(ビター系リキュールは35ppm以下)なら承認するとしたため、製造が復活。禁止国であったスイスでも2005年3月1日に正式に解禁された。
作品の中のアブサン
国内の映画
- 多羅尾伴内 十三の魔王(1958年) - 多羅尾伴内扮するインドの魔術師がバーで口に含んで火を吐く手品を披露する。
- いつかギラギラする日-安岡力也演じる武器密売人が主人公の神埼(演:萩原健一)と共にアブサンを飲み交わす。「最後に~」との台詞から、規制前の古酒、或いは密造品と推測される。
海外の映画
- プリティ・ベビー(1978年) - 娼婦館のマダムらが好んで飲んでいた。
- ガッチャ!(1985年) - 主人公のジョナサン(演:アンソニー・エドワーズ)がパリのカフェレストランでPernodをペルナードと英語読みし、ウェイターにペルノーと訂正される。その後、何故かウェイターの対応がぶっきらぼうになる。
- シェルタリング・スカイ(1990年) - レストランでペルノーを3人分注文している。
- ドラキュラ(1992年) - ゲイリー・オールドマンとウィノナ・ライダーの2人がロンドンのレストランで飲む。
- インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年) - トム・クルーズ演じるレスタトが、アヘン酒を飲んだ少年の血を飲み、(少年に)アブサンを飲ませたのかと訊ねる。
- 太陽と月に背いて(1995年) - パリの文人が集う酒場など、作中の各所でレオナルド・ディカプリオ演じる詩人アルチュール・ランボーとデヴィッド・シューリス演じるポール・ヴェルレーヌがたびたび飲んでいる。
- ライアー(1997年) - ティム・ロス演じる主人公が愛飲している。
- フロム・ヘル(2001年) - アヘンとアブサンを混ぜている場面がある。
- ムーラン・ルージュ(2001年) - ボヘミアンの仲間入りをしたクリスチャンを歓迎する為にみんなで飲んだ。アブサンの妖精としてカイリー・ミノーグが登場。
- トリプルX(2002年) - 悪役がグリーンの液体を飲んでいた。
- ユーロ・トリップ(2004年) - 東欧を旅していたティーンエージャーが購入。
- ヴァン・ヘルシング(2004年) - ヴァン・ヘルシング自身がアブサンのボトルを持ち歩いている。
- カタコンベ(2006年) - 主人公が姉に誘われて行った墓地内パーティーで飲む。「アルコールじゃない、アブサンだ」という台詞があり、飲んだ主人公がトリップする描写がある。
国内の小説
- 人間失格(1948年) - 喪失感の例えとして登場する。
- 苦艾の繭(2002年) - 吉川良太郎の小説。酒マニアの密売人にアブサンを利用した大掛かりなトラップが仕掛けられる。舞台はアブサン禁止令下のドイツ。
海外の小説
- 誰がために鐘は鳴る - 第四章でロバート・ジョーダンが水に入れて飲んでいる。
- 日はまた昇る - 第十八章でビルが飲んでいる。
- 二人の友 - ギ・ド・モーパッサンの短編小説。釣り仲間の二人の男が飲む。
- ルーンの子供たち - デモニックのサブタイトルの頭文字をつなぎ合わせて出てくる。またジョシュアがアブサンについて語っている。
漫画など
- あぶさん(1973年) - 作品名は、この酒の名前が由来の一つである。
- 正しい恋愛のススメ - 登場人物のひとり・原田一樹を酒に例えた際に挙げられた。
- 王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜 - 作中において、主人公(織部)が飲みアルコール度数の強さに顔を赤くするシーンがある。
- BARレモン・ハート - 「世界中の酒はすべておいてあり、当店に無い銘柄はない」旨を高らかに語ったマスターに常連(メガネさん)が「アブサン呑ませろ」と(冗談半分の皮肉であるが)迫り、悔しさのあまり(当時は復刻版が販売されていなかった)店を数日間休業してヨーロッパに渡り、探し歩いた。
- バーテンダー - Glass73「写る魂(後編)」(第10巻収録)において、アブサンとアブサンを使ったカクテル「午後の死」が登場する。
- ポーの一族 - 「ピカデリー7時」の中で、エドガーが訪ねたポリスター卿が「アブサント酒がお好み」として紹介されている。
- Under the Rose - グレース・キングがアブサンを愛飲している。
- うみねこのなく頃に - 登場人物のひとり、右代宮金蔵が愛飲していた。
脚注
関連項目
- アブシンチン - アブサンに含まれるニガヨモギの苦味物質
外部リンク
テンプレート:Link GA
- ↑ ἀψίνθ-ιον. Liddell, Henry George; Scott, Robert; A Greek-English Lexicon at Perseus Project.
- ↑ テンプレート:Cite web