乳房
テンプレート:Redirect テンプレート:半保護 テンプレート:Infobox 解剖学 乳房(にゅうぼう、ちぶさ)は、哺乳類のメスが持つ授乳器官。単に乳(ちち)あるいはお乳とも言い、俗におっぱいとも呼ばれる。
目次
概要
乳房は多くの哺乳類のメスに存在する、皮膚の一部がなだらかに隆起しているようにみえる柔らかい器官で、その内部には、乳汁(母乳、乳)を分泌する機能を持つ外分泌腺の乳腺(にゅうせん)が存在する。哺乳類の乳房は胴部の腹面に左右の対をなして発達する。乳房の中央には、乳汁が外部に分泌される開口部を含む乳頭(にゅうとう)が存在する。哺乳類では、産まれてから一定期間の間の乳児は乳汁を主たる栄養源として与えられ、生育する。哺乳類の名前は、ここから来ている。オスの乳房、乳腺はその生産機能と分泌の機能を持たないため通常、痕跡的である。
なお、野生の哺乳類では授乳時に乳頭が露出することによって辛うじて存在が判明する程度の膨らみにしか発達しない種が多い。また、単孔類では乳房や乳首は発達せず、腹面の育児嚢の中のくぼみ状の構造から母乳は分泌される。乳腺は本来は汗腺のようなものから発達したもので、単孔類のそれは原始的状態を保持したものと考えられる。
以下、特に断りがない限り、人間の乳房について記述する。
ヒトの乳房
概観
哺乳類であるヒトの乳房は、通常は胸部前面に1対存在する。その役割は出産後に母乳を分泌し、乳児を育てることであるが、文明が発達した現代においては、母乳を代替品の粉ミルクにより置き換えることも可能ではある。医学的に考察すれば その与えられた免疫機能の重要性は極めて高く、代替品では近似してはいても、その本来の成分には遠く及ばない。免疫の極めて低い状態で出生する新生児に確実に免疫を獲得させる目的からも、母乳が勧められる。
ヒトの乳房はその大きさや膨らみ方が他のサル類より大きい例が多いこと、また妊娠期間や育児中でなくとも目立つ存在である点で特異であり、これはヒトの進化の特徴のひとつと考えられる。しかし、その理由や過程については議論が多く、一定の結論は出ていない。
乳房の構造
乳房の表面は皮膚で覆われる。ヒトの女性では、通常は胸部の大胸筋の表面の胸筋筋膜上に左右1対が存在し、およその位置は、上下が第3肋間~第7肋間、左右は胸骨と腋窩の間である。乳房は思春期前は性差がなく男児と同じ(第1段階)であるが、思春期に乳腺が発達し、脂肪組織が蓄積する。乳房の脂肪組織の形・大きさは個人差が非常に大きい。20代より乳房の中身が徐々に衰退するため乳房が張りを失い徐々に下垂し始める[1]。
乳房の内容は成人型乳房の場合、その容積の9割は脂肪で、1割が乳腺である。初潮前後から成人型乳房になるまでは乳腺に対する脂肪組織の割合が成人型乳房より少なく、乳房が硬くなる。乳腺は、乳房一つあたり15~25個の塊として存在し、乳頭の周囲に放射状に並ぶ。それぞれの塊を葉(よう)と呼ぶ。それぞれの乳腺の葉からは乳管が乳頭まで続き、乳腺より機能し分泌された乳は、乳管、乳頭を通して体外へ出る。乳房組織の脂肪組織は乳の生産には全く関係しない。
乳房の成長
Tannerの分類によれば、両性において共通するのが第1段階である。その後、女性は第2・3・4段階の3課程を経て、第5段階において女性成人型に変化する。女性の思春期は7歳7ヶ月~11歳11ヶ月の間、平均年齢の9.74±1.09歳[2]に乳房の成長開始からが始まり、初潮の1年以上前で第2段階、初潮前後で第3段階、初潮の1年後以降で第4段階となり、第1段階から第5段階へ変化する期間は途中で初潮を挟む約4年間である[3][4][5]。男性は女性と異なり思春期初来から成長せず、筋肉の発達が始まった後に[6]、男性成人型へ成長する(ただし、女性化乳房の症状が出ている場合は事情が異なる)。
- 女性
Tannerの分類[7][8] (ステップ)[3][4] |
時期[3][4][5] | 特徴 | ||
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第1段階 (ステップ0) |
思春期前 | 乳頭のみ突出。膨らんでいない。第一次性徴は性別差なし。 | ||
第2段階 (ステップ1・めばえる) |
思春期初来 - 初経の1年以上前 | 初経を挟む約4年間 | 蕾の時期。乳腺の発達が乳頭・乳輪周辺から発達し始める。 乳頭・乳輪周辺が膨らみ、乳頭・乳輪の色の変化がし始める。場合によっては乳頭が衣類の上から目立ち始めたり(胸ポチ)、乳頭が衣服とこすれてかゆくなり始める。 | |
第3段階 (ステップ2・ふくらむ) |
初経前後 | 乳腺が乳房全体で発達し始め、乳房の膨らみが横に拡がり、乳房全体が膨らみ、下輪郭がわかるようになってくる。横から見たときに下輪郭がまっすぐ。 | 乳頭の膨らみが増し、第3段階以降の乳頭径は4-9mmに膨らむ。乳輪の拡大及び乳頭・乳輪の色の変化が増す。乳腺に対する脂肪組織の割合が小さくなっていくため、徐々に乳房が硬さを増し、第4段階で最も硬くなる。第4段階から第5段階への移行期に乳腺に対する脂肪組織の割合が徐々に大きくなっていくため、乳房が徐々に柔らかくなっていく。 | |
第4段階 (ステップ3・まるくなる) |
初経の1年以上後 - 3年後 | 乳房が立体的に膨らむ。乳輪が乳房から隆起し、横から見たとき下輪郭が丸くなり、ほぼ成人型となる。 | ||
第5段階 | 乳腺と脂肪組織の割合が1:9となることで乳房が柔らかく、乳輪と乳房が同一平面上となり、女性成人型となる(成長終わり)。 |
特徴 | ||
---|---|---|
成長前 | 乳頭のみ突出、第一次性徴は性別差なし。 | |
成長後 | 乳頭・乳輪がやや拡大し、乳首・乳輪の色が変化し、男性成人型となる(成長終わり)。ただし、女性化乳房の症状が出ている場合はこの限りではない。 |
女性の乳房の衰退
上記で成長した乳房は20代からステップ1となり衰退し始める。衰退が早い人は20代でステップ2に達する人がいる。順序は以下の通りである[1]。
- ステップ0 乳房の成長の第5段階、丸い形で垂れていない。
- ステップ1 上胸のボリュームが落ちる(脇側がそげる)
- ステップ2 乳房下部がたわみ、乳頭が下向きになる。
- ステップ3 乳房が外に流れる、乳房自体が下がる。
性的アピールとしての役割
動物学者、デズモンド・モリスの『裸のサル』によると、ヒトの祖先が四足歩行していた時代は尻が赤く大きければ性的なアピールが出来た。やがて二足歩行をする様になるに従い、尻での性的アピールは目立たなくなる様になった。そのため胸部を大きくするという種が現れ生き残っていったのではないか、という説がある。この他にも乳房の発達とその性的意味に関しては多くの議論があり、定説はない。性的な意味を否定する説すらある。
また、ヒトの乳房は、神経終末が集中している乳首をはじめ刺激を受けると性的興奮を得やすい。医学博士の志賀貢によると、クリトリスの性感を100とすると、乳首の感度は80前後という事である。
その進化と議論
現在の西欧や日本に関して言えば、女性の乳房の存在は明らかな性的アピールであり、肉体の性的魅力の大きな要素をなしている。思春期の女性は乳房が思春期開始と共に発達し始めるのに[6]対し、尻の発達し始めるのは初経の1年前後[3]と乳房よりも後になる。また、性行為においては、乳房への愛撫は大きな位置を占める。歴史をたどっても、女性の乳房に性的意味を付したと思われる例は枚挙にいとまがない。そのような点から、女性の乳房は性的意味合いを持って進化したのだと考えるのはある程度は当然であろう。
では、なぜヒトにだけこのような進化が起きたかであるが、上記のようにモリスはこれをヒトが直立姿勢を取り、四つ足の姿勢を取らなくなったことに依るとした。多くのサル類では発情期に雌の尻が色づき、これを雄に示す行動が知られる。立位ではこれが出来ないため、似たような構造が胸に発達したという説である。また、性的愛撫の対象になったことに関しても、正面から向き合う交尾姿勢を取るようになったことから、直接に触れる位置にある乳房がその役割を担うようになったとする説もある。常時発達した状態にあることも、発情期に関係なく性的交渉を持つようになったことと関係づけて理解できるとする。
他方、このような説に対する反論も根強い。特に問題なのは、サル類においては、乳房が発達するのは妊娠期か育児期間であるという点である。つまり、ヒトの先祖において、まだ現在のような乳房でなかった時点ではサルと同じであった可能性が高い。とすれば、乳房が発達した雌は、子供を持っている、言い換えれば新たな子供を作れない状態にあり、そのような雌は求愛の対象にならないはずである。求愛の対象外であるサインとなり得る「発達した乳房」が性的魅力を持ち得るはずがないというのである。
さらに、乳房の性的意味合いすら否定する説もある。現在社会では明らかに乳房を魅力としているが、過去の他の社会では必ずしもそれを認めない例があるというのがその理由のひとつである。たとえば江戸時代の日本においても、和装は乳房などの形を完全に隠してしまう。それに、性的快感があるから、性的意味合いがある、という点についても、では肛門に性的意味を認めるか、といった反論が可能である。このような部分についてはヒトの場合、生育歴や文化の影響が大きく深いため、種としての本来のあり方、といった議論が難しい面もある。熱帯地方においては乳房を露出する部族も存在するが、(特に冬季は)気温が低い温帯以北においては乳房は常時隠す習慣があることも地域による乳房の性的意味の差異の要因の1つとなっている。
乳汁の分泌とその調節
血液を原料に乳を作る。乳房組織の脂肪は乳の生産自体には関係がないため、その大きさと母乳の量・質には因果関係はない。乳(ちち)は、乳汁(にゅうじゅう)ともいい、ヒトや動物のうち哺乳類が幼児に栄養を与えて育てるために母体が作りだす分泌液で、乳房組織で作られ乳首から体外に出てくる。乳房組織は血液の赤みをフィルターして乳にする。出産直後に母体から出る乳は初乳と呼ばれ、幼児の免疫上重要な核酸などの成分が含まれている。
どんな哺乳類も本来子供を出産した後、数ヵ月から数年の哺乳期間だけ母体は乳を作り出す。脂肪組織に蓄えられたダイオキシンなどの極めて毒性の高い物質が母乳に溶け込んで排出される量は、年齢の高い女性ほど多くなりやすい。
平時は母乳は決して出ないが、妊娠・分娩後には脳下垂体から泌乳刺激ホルモン(プロラクチン)、オキシトシンが分泌され、このときだけは母乳が生産されるようになる。まれにホルモン異常などの疾患により、妊娠しなくとも母乳が出る場合がある。稀に、男性から出ることもある。
乳房の保護
思春期・成年女性の乳房は、胸から前に大きく突き出してやや垂れる柔らかい器官である。体が大きく動いた場合には、それとややずれた運動をする。そのため、乳房が大きい女性はそのままでは走った場合などに乳房が弾んで動くことで疼痛を感じる。これを抑えるため、乳房を覆って体に引きつけるための装置が考案されている。いわゆるブラジャーはこの例である。
他の哺乳類の乳房
哺乳類の乳腺の発達する部位は、左右対称に前足の腋の下から後ろ足の間、恥骨に続く乳腺堤と呼ばれる弓状の線上にある。この上の発達部位の中で、それぞれ哺乳類の種によって、特定のいくつかが発達する。前の方が発達する場合、子供は前足の腋の下に口を突っ込むことになるし、後ろが発達すれば、腹部下面や鼠径部に乳房が並ぶことになる。
一般的に多産の動物ほど乳房の数は多く、牛は4個(2対)、熊は6個(3対)、犬は8個(4対)、猫は10個(5対)、豚は14個(7対)存在する。ただし、個体差が大きく必ずしも個数や位置は一定ではない。乳頭と子が産直後に固定されるものもある。
なお、ヒトにおいても極く稀に本来の発達部位より前(主に脇の下の部分に生じるが、同様に乳腺堤上にあたる腹部の左右から股関節にかけての部位に生じる場合もある)に1対(複数発生例もあり、最大で9対生じる事もあるという)の乳頭を持つ例があり、「副乳」と称される。稀に膨らむ場合もあるが、ほとんどの場合が発達せずホクロのように見える。これは現在、哺乳類でもある人類の、地球上での出現・進化と深く関連していると推測されている。
哺乳類の乳房の所在箇所
疾患
- 妊娠に関連するもの
関連項目
脚注
- ↑ 1.0 1.1 下着ではじめるからだのエイジングケア・バスト編
- ↑ たなか成長クリニック・思春期
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 バストと初経のヒミツの関係
- ↑ 4.0 4.1 4.2 ワコール探検隊|「少女」から「おとな」へ約4年間で変化する成長期のバスト
- ↑ 5.0 5.1 恋をするとバストが大きくなるって、本当?-マイナビウーマン、2013年6月25日
- ↑ 6.0 6.1 お母さんの基礎知識(思春期・男の子編)(もっと詳しく…)-神奈川県ホームページ
- ↑ たなかクリニック・思春期の性成熟と成長
- ↑ 思春期の発現・大山建司