鉛フリーはんだ
鉛フリーはんだ(なまりフリーはんだ、Lead-free solder alloy)または無鉛はんだ(むえんはんだ)とは、鉛を含まないはんだのこと。
概要
従来、電子回路などの基板に電子部品を搭載するためには鉛と錫の合金であるはんだ(いわゆる含鉛はんだ)が大量に使用されていた。しかし、鉛は人体に有害であり、また廃棄物として自然環境に対する悪影響も懸念されたため、鉛を含まない鉛フリーはんだの開発、普及が進められている。しかし、鉛フリーはんだと含鉛はんだでは様々な特性の違いがあり、完全に置き換えるまでには至っていない。また現時点では鉛フリーはんだの人間やその他の生物に対する影響が深く評価されているわけではないテンプレート:要出典。ACGIHでは、鉛フリーはんだについても極少量の鉛を含む可能性があるため鉛入りはんだと同等の管理を求めている。
欧州連合ではRoHS指令として、2006年7月1日から鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル、ポリ臭化ジフェニルエーテルの電子・電気機器への使用が原則として禁止された。これにより、従来の鉛を含むはんだは欧州連合内に輸出するパソコン、テレビ受像機などへの使用ができなくなった。
欧州以外にも日本版RoHSと呼ばれるJ-MOSSや中国版RoHSと呼ばれる電子情報製品生産汚染防止管理弁法など各国で規制が進み、また企業の環境イメージの向上を目的として、鉛フリーはんだへの切り替えが進められている。
鉛フリーはんだの鉛含有率
- RoHS指令では、鉛含有率1000ppm(0.1wt%)以下に規制されている。
- JIS Z 3282(はんだ-化学成分及び形状)では、鉛含有率0.10質量%以下と規定されている。
- 各はんだメーカーの製造工程では、鉛含有率0.05質量%以下で管理している場合が多い[1]。
問題点
鉛フリーはんだは下記のような問題点がある。このため鉛フリーはんだの改良や、電子部品の高耐熱化、はんだ付け機器の対応などが進んでいるが、従来はんだ用の機器や電子部品に鉛フリーはんだを適用する場合には注意しなければならない。
機器対応
- 融点が高い種類の鉛フリーはんだでは、従来のSn-Pb系の鉛含有はんだで多く用いられている、温度固定されたはんだごてでは温度が低かったり、温度回復力が弱い等問題があるため、対応したこてを使う必要がある[2]。
- 機械によるはんだ付けの場合は、従来の鉛を含むはんだと組成が異なるために自動はんだ槽を化学的に浸食して穴を開けるなどの問題(エロージョン)が発生し、それを防ぐためにはんだ槽材質の変更が必要となる。SUS304ではなくチタン材、SUS316、SUS316L、鋳物などを採用しているメーカーが多い。
部品対応
- 合金の溶融温度がこれまでより数十度上昇するため、素子の熱破壊や劣化の危険性が高くなる。
- Sn-Zn系鉛フリーはんだで積層セラミック・コンデンサを実装すると、積層セラミック・コンデンサの絶縁抵抗が劣化する場合があった[3]。
信頼性
- 手作業によるはんだ付けにおいて、適切にはんだ付けされていても表面に艶のあるはんだ面と成らない(引け巣)ため不良との区別が付きにくく、実際の不良を見逃しやすくなるおそれがある。
- 含鉛はんだめっきと比較して錫めっきではウィスカー(針状の金属結晶)が発生し易くなり、ウィスカーによる端子間のショートによるトラブルが問題となる(特に嵌合時に応力が掛かるコネクタ類の端子に発生し易い)。
- エロージョンと同じ現象により、プリント配線板上においても銅パターンやスルーホールが鉛フリーはんだにより溶解される銅食われが発生することがある。銅食われが悪化すると最悪の場合断線してしまうため信頼性が低下する。
- Sn-Pb系の鉛含有はんだに比べて経年劣化や接続信頼性など、対環境性が低下することがある。
材質
鉛フリーはんだは使用される金属の種類により数種類ある。 スズ・銀・銅やスズ・ビスマスの合金が多く利用されている。
- SnAgCu系
- Sn(錫)、Ag(銀)、Cu(銅)を含むもの。加速試験などの対環境性に優れるが一般的に融点が最大220°C程度と高いためプリント配線板や部品への影響を考慮する必要がある。電子情報技術産業協会 (JEITA) はSn-3.0%Ag-0.5%Cuを標準組成として推奨している。銀を含むことによる高コスト化が問題となっているため、低銀組成のSn-1.0Ag-0.7CuやSn-0.3Ag-0.7Cu、Sn-0.1Ag-0.7Cuなどの開発が進んでいる。
- SnZnBi系
- Sn(錫)、Zn(亜鉛)、Bi(ビスマス)を含むもの。融点は共晶はんだと同等の183°C近辺だが、SnAgCu系に比べて加速試験などの対環境性に劣ると言われている。Znの活性度が高いために起こる現象である。
- SnCu系
- Sn(錫)、Cu(銅)を含むもの。材料コストは安く、従来のはんだに近い音響特性が得られるが、接合部の強度が低いのが難点である。これに対し近年は、Ni(ニッケル)、Ge(ゲルマニウム)、Co(コバルト)、Si(ケイ素)などを微量添加する事で信頼性を高めた製品が開発されている。SnAgCu系に比べて一般的に融点が高く、はんだ付け後に金属光沢が見られる事も特徴である。
- SnAgInBi系
- Sn(錫)、Ag(銀)、In(インジウム)、Bi(ビスマス)を含むもの。InやBiを使うことで融点を下げている。
- SnZnAl系
- 富士通が開発したもの。米国特許 (Patent No.:US 6,361,626) 取得
賛否
鉛フリーはんだを使うことにより、以下の効果が得られると考えられる。
- 作業環境の改善
- はんだ付け中に作業者が有害な含鉛飛沫を吸入する危険性が低くなる。
- 廃棄物による鉛汚染の防止
- 埋め立て処分された電気製品から鉛が周辺環境に流出して自然環境を汚染する危険性が低くなる。
ただし、以下のような疑問も指摘されている。
- 鉛汚染の防止として効果が限定的
- 鉛汚染源としてはんだ以外にも鉛蓄電池や散弾銃の鉛散弾があるが、はんだほど厳しい規制がなされていない。
- 代替物質が妥当でない
- インジウムは毒性評価が不十分である[4]。
- 銀、ビスマス、インジウムなどは価格や資源量に問題がある。
- 費用対効果が妥当でない
- 鉛フリーはんだは高価であり、はんだ付けにもより多くのエネルギーを使用するのに対し、費用対効果として妥当でないという指摘がなされることが多い。
脚注
- ↑ 千住金属工業 - 鉛フリーはんだ中の鉛含有率
- ↑ http://www.hakko.com/japan/new_products/ft700/topic_2.html
- ↑ 絶縁抵抗(IR)劣化問題とは - NE用語 - Tech-On!
- ↑ テンプレート:Cite journal
参考文献
鉛フリーはんだ技術・材料ハンドブック 菅沼克昭編著 工業調査会 ISBN978-4-7693-1265-9