位相幾何学
位相幾何学(いそうきかがく)、トポロジー(テンプレート:Lang-en-short)は「やわらかい幾何学」として知られる、比較的新しい幾何学の分野である。トポロジーの名称はギリシャ語のトポス[1]とロゴス[2]の合成に由来するもので、直訳すれば「位置の研究・学問」である。
概説
位相幾何学では、例えばドーナツ(円環体)と取っ手のついたコップは同一視される。これはドーナツを「連続」的に変形して取っ手のついたコップにすることができ、その逆もできるからである。ここで、「連続」という言葉を強調することには意味がある。連続性は、まさしく位相幾何学の存在理由となる概念であるからである。連続性を、より厳密に定義するために用いられるのが、近さを測る距離[3]の概念を抽象化した位相[4]と呼ばれる概念である。位相(これもまたトポロジーと呼ばれる)とはなんであるかということについて、その基礎づけを与える学問は点集合トポロジー[5]、一般位相[6]あるいは位相空間論と呼ばれ、そこでは位相空間の内在的な性質が浮き彫りにされる。
位相幾何学の研究は、低次元の空間を扱うものと高次元の空間を扱うものとで、その手法が大きく異なる。
位相幾何学にはいくつかの大きな分科があり、代数的位相幾何学[7]、微分位相幾何学[8]それから低次元位相幾何学に良く見られる幾何学的位相幾何学[9]などを挙げることができる。近年では生物学と数学の学際的分野である DNA の位相幾何学が勃興した。
歴史
ユークリッド幾何学が紀元前にはできていたことと比較すると、オイラーやガウスに始まる位相幾何学は高々 250 年の歴史であり、大きな差がある。オイラーは、いわゆるオイラーの多面体定理において球面に連続的に変形できるような多面体の辺・頂点・面の数の間にある関係が成り立つことを見出したが、これをもって位相幾何学の始まりとするのが一般的である。テンプレート:Seealso
多面体の頂点、辺、面の数を各々 <math>n_0</math>、<math>n_1</math>、<math>n_2</math> とおくと、これらが <math>n_0 - n_1 + n_2 = 2</math> の関係にあるとするオイラーの定理は、18 世紀当時の解析学、代数学を中心とする数学の流れにおいて孤立した結果であった。19 世紀にガウスは絡み目数を線積分により表示する公式を与え、また後半紀にリーマンが現在リーマン面と呼ばれる概念を提出し、ロッホは曲面の上の 2 つの偏微分方程式の解の自由度の差を曲面の種数を含む数と同定するリーマン・ロッホの定理をまとめた。これら前駆的研究に対して、トポロジーがひとつの分野として確立する契機となったのは 1900 年前後のポワンカレの一連の研究による[10]。
ポワンカレは 1895 年に出版した「Analysis Situs」の中で、ホモトピーおよびホモロジーの概念を導入した。これらはいまや代数的位相幾何学の大きな柱であると考えられている。
現代的な位相幾何学は 19 世紀に後半に確立された集合論を大きな基盤として成り立っている。集合論の祖のひとりであるゲオルク・カントールはフーリエ級数の研究に際してユークリッド空間内の点集合について考察している。
カントール、ボルテラ、アルツェラ、アダマール、アスコリらの研究を取りまとめる形で(今日では一般的な位相空間の特別の場合であると考えられている)距離空間の概念を確立したのはフレシェで、1906 年のことである。「位相空間」という用語を導入したのはハウスドルフで、1914 年に今日ではハウスドルフ空間と呼ばれる概念を定義するために用いられたものであるが、その一般化として現代的な意味での位相空間という概念が確立されるのは 1922 年、クラトフスキーの手による。
代数的位相幾何学
テンプレート:Main 古典的な位相幾何学は、図形として取り扱い易い多面体を扱っていたが、20 世紀に入り、(微分可能)多様体、ホモトピー、(コ)ホモロジー、ファイバー束等の新しい概念が導入されて、数学の最先端の一部を成している。
位相的性質
位相幾何学の基本的な考え方として、連続的変形によって変わらないような性質を見出すことがある。この「連続的変形」を数学的にきちんと定式化したものが同相写像あるいは位相同型写像と呼ばれる概念であり、同相写像によって保たれる性質は位相的性質であると呼ばれる。また、同相写像によって互いに移りあう 2 つの図形は互いに同相であるといわれる。例えば、冒頭のコップとドーナツの例では、どちらも 1 つのつながった図形(連結性)であり、また穴が 1 つだけ空いている(種数)。位相的性質のうち定量的に扱うことのできるものは特に位相不変量と呼ばれる。
視点を逆にして、同じ位相不変量をもつ図形が互いに連続的に移りあうか、という問題を考えることもできる。例えばポアンカレ予想はそのような問題である。
応用
テンプレート:節スタブ 位相幾何学の手法を用いると、抽象的な接続関係に関する性質や微小変形で不変な大域的な性質を扱うことができる。数学の一分野として整理される以前より、位相幾何学的手法が単発的に使われてきた(空間中の二つの電流の相互作用に対する、ガウスの線積分表示など)が、二十世紀後半には特に他分野との関連が深まり、現在でも応用領域は広がっている。
応用領域 | 内容 |
---|---|
物理学 | 宇宙の形状、素粒子の記述体系、我々の世界に関する性質(タイムマシンは存在するか?など)。 |
物質科学 | フラーレンなど分子構造。 |
生命科学 | 結び目をなす分子の、形状による機能や変形(DNAトポイソメラーゼ)。 |
情報科学 | 論理体系の意味論を展開する枠組みとして層 (数学)の利用、経路空間のホモロジーによる記述。またネットワークの取り扱いにおいてはグラフ理論を手段として研究され、一般的にはネットワーク・トポロジーとして知られている。 |
カタストロフィー理論 | 形態形成、経済現象の記述。 |
3次元コンピュータグラフィックス | 3DCGにおけるモーフィングはホモトピー変形を利用している。また立体計測やデジタルスカルプトで生成された複雑なポリゴンモデルを単純な構造のモデルに作り変える操作をリトポロジー(Retopology)と呼ぶ。 |
脚注
参考文献
関連項目
テンプレート:Link GA- ↑ テンプレート:Lang-el-short
- ↑ テンプレート:Lang-el-short
- ↑ テンプレート:Lang-en-short
- ↑ テンプレート:Lang-en-short
- ↑ テンプレート:Lang-en-short
- ↑ テンプレート:Lang-en-short
- ↑ テンプレート:Lang-en-short
- ↑ テンプレート:Lang-en-short
- ↑ テンプレート:Lang-en-short
- ↑ 「トポロジーとその「応用」の可能性」古田幹雄(応用数理 15(1) pp.49-52 20050325)[1]