コバヤシマル
コバヤシマル (Kobayashi Maru、小説版邦訳ではコバヤシ・マル) は、アメリカのSFテレビドラマ『スタートレック』シリーズの劇場版第2作『スター・トレック2 カーンの逆襲』および第11作『スター・トレック』に登場する架空の宇宙艦。ただし作品世界内においても架空の存在であり、23世紀の宇宙艦隊アカデミーにおけるシミュレーション課題の一つ「コバヤシマル・シナリオ」の題材とされている。
コバヤシマル・シナリオ
民間の貨物船コバヤシマルがクリンゴン帝国との緩衝宙域近くで故障し、クリンゴン側へ漂流していくという想定。救難信号を受けた候補生たちは宇宙艦の指揮官および士官としてコバヤシマルを救助しなければならないが、そのためには緩衝宙域を超えクリンゴン領宙を侵犯することとなり、結果圧倒的多数のクリンゴン艦からの攻撃を受け、交戦状態に突入する。
実はこのテスト、どう行動しても最後は候補生たちが負け、すなわちコバヤシマル救出に失敗の挙句、全滅を免れないシナリオになっている。候補生が「絶望的な状況を打開できるかどうか」ではなく、「絶望的な状況に置かれたときどんな反応を示すか、最後まで的確な対応がとれるかどうか」を見極めるためのテストである。
そして、『スター・トレック2』および『スター・トレック』において、主人公たちは本当に絶望的な状況に、「コバヤシマル」に直面することになる。
コバヤシマルとカーク
艦隊アカデミーの歴史上、コバヤシマル・シナリオに勝ってしまった唯一の候補生がジェームズ・T・カークである。彼は試験の前日に実習室へ侵入し、シミュレーション用のプログラムを書き換えていたのだ。このことは『スタートレックII』でも言及されており、2009年公開の『スター・トレック』では実際にそれを行う様子が描かれている(一方、『スター・トレック』のスポックはこのテストを、「避けられぬ死を潔く受け入れることができるかどうかのテスト」だと解して「死を(避けようとさえせずに)潔く受け入れ」、両者の人となりの差が端的に現れた)。『スター・トレック』においては、艦隊アカデミーはこのカークの行為を重く受け止め、審問会を開き、彼を謹慎処分とした。ただし、この作品は過去が変えられ異なった歴史を歩んだ世界の話であり、本来の時間軸においては「教官から独創的だと評された」「その行動を評価すべきか処罰すべきかを悩み、コインを投げて決めた」とのセリフも登場する(『スタートレックII』映画版、小説版)。
なお、「コバヤシマル・シナリオは決して勝てないようになっている」ことは本来候補生には知らされていないはずであり、カークがなぜそれを知っていたかは不明である(『スター・トレック』では、カークは過去に2度コバヤシマル・シナリオに挑戦して負けており、その経験から予測した可能性はある)。
コバヤシマルのボードゲーム
ウェストエンドゲームズから出版された『スタートレック3』というソリテアゲームを3点集めたゲームの一つに『コバヤシマル』がある。「スタートレック」という架空世界の「コバヤシマルシミュレーション」という模擬演習のボードゲームという多重にメタフィクショナルなゲームである。 ソロプレイゲームの常として、確率的に分が悪い状況に立ち向かう設定だが、映画のようにインチキをしないと絶対に勝てないと言うようなことはない。
類似のシチュエーション、または名称
テレビドラマ
- 『新スタートレック』
- ディアナ・トロイの指揮官適性試験のエピソードで、似たような「“一見”生還不能のミッション」が描かれている。こちらの試験課題は「艦を救うため、部下の1人が確実に死ぬような命令を下せるかどうか」であった。
- 『スタートレック:ヴォイジャー』
- トゥヴォックが元マキのクルーを訓練するため、似たようなシナリオのプログラムを使用している。このプログラムでは、8人の生存者がいるフェレンギ船を救出する直前、プレイヤーの艦はロミュランの戦艦に遭遇。プレイヤーの選択によっては戦闘に陥り、全滅するシナリオである。
- 『スティングレイ』
- 名前は異なるが、エピソード『サイクロン・ジェット機出動』でフィッシャー少尉がスティングレイ乗務員になるために受けるテストが、「絶対失敗するミッション」であった。
- 『CSI:科学捜査班』
- 生化学修士号を持つ分析官デヴィッド・ホッジスの飼い猫の名前。シーズン7第16話では、「Mr.K、またの名をコバヤシマル。スタートレックの…」という台詞もある。
映画
- 『戦国自衛隊1549』
- 名前は異なるが、鹿島勇祐は演習シナリオ「D-3」をプログラムを変える形で攻略する。なお、スタッフは「スタートレックからネタをいただいた」と公言している。
- 『GODZILLA』
- 冒頭でゴジラに襲われる日本漁船の名前が「小林丸」となっている。
漫画
- 『機動戦士ガンダムF90』
- ジュピトリス級超大型輸送船コバヤシ丸が登場する。
- 『陸軍中野予備校』
- 主人公、酢堂大雑の愛犬の名前が「コバヤシ丸」である。同作にはジェネシス軟膏といったアイテムも登場するため、『スタートレック』に由来することがうかがえる。
小説
- 『レッドサン ブラッククロス』
- 第2巻に日本船籍のタンカー「コバヤシマル」が登場する。