すり鉢

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

すり鉢(すりばち、擂り鉢)とは、食物をすりつぶしながら混ぜるための鉢[1]食材を細かな粒子状に砕いたり、ペースト状にすりつぶす加工を行うための調理器具である。陶製のものが多い[2]。同類のものに薬味用乳鉢がある[1]

概要

すり鉢の内側には「櫛目」という放射状の溝が付けられ、効率よく作業ができる。櫛目は名の通り、金属製のを使って手作業でつける。作業にはすりこぎ(擂粉木、擂り粉木、すりこ木)が鉢と対で使用され、素材には朴、また上等品には堅くて香気のあるサンショウの木などが用いられる[2][3]

すり鉢の大きさは寸(または号)で表される。一般的に大きめの方が安定して使い勝手が良いが、調味料など少量の素材では、櫛目に多くの材料が残って歩留まりが悪い。これを防ぐため、調味料作った際には、食材をすり鉢にいれてからめる。

なお、「する」という言葉が「お金をする」につながる忌み言葉として嫌い当たり鉢[4]当たり棒[5]と呼ばれることもある。そのためすり鉢でする行為を当たると表現する事もある。さらに、すり胡麻のことをあたり胡麻と呼ぶなどすり鉢ですった調理物を示す意味の言葉としても用いられる。なお、擂粉木は西日本では連木(れんぎ)ともいう[6]

逆円錐形の形状を表現する「すり鉢形」という言葉がある。硫黄島の「擂鉢山」などすり鉢に由来する地名もあり、転じてアメリカ海兵隊はかつて「スリバチ号」と命名した補給艦を運用していた。

人にへつらう意の「ゴマをする」という言葉は、すり鉢でいりゴマをすると油が出て鉢やすりこぎにこびりつく事から出た、幕末の流行語であったという(皇都午睡)。

使用法

片手ですりこ木の頭を押さえ、逆の手で中ほどを持ち、上の手は向こうへ押すだけ、中の手は横方向に動かす。動かし方は円形に擂る他、固まりを潰すときの「∞」(横8無限大)、きめを細かくする際のすりこ木を三菱マークのように動かす「三つ葉摺り」などの使い方がある。

二人以上で調理する場合は一人がすり鉢をおさえ、もう一人がすりこ木を操作するが、一人の場合は胡坐をかいて足の裏でおさえ、または正座して膝の間に固定する。

日本料理ではゴマや豆腐をすりつぶす、味噌の原料の大豆を潰す、魚のすり身を作る、とろろ汁ヤマイモをする、練り辛子を作るなど、非常に用途が広かった。しかしすり鉢で材料をする作業は時間と労力がかかることから、現代では電動式のフードプロセッサーに代替され、すり鉢を持つ家庭も減りつつある。

すり鉢を使用する料理は

櫛目に食材が残っているとカビたり異臭がするので、爪楊枝や竹製の専用の刷毛などでよく落とした後タワシで洗い、乾かしておく。他の鉢と重ねると櫛目が痛むので、収納の際には重ねないようにする。

すり鉢の生産史

すり鉢が最初に登場したのは、鎌倉時代中葉から後半、すなわち、13世紀末~14世紀初頭頃で、備前焼の窯(グイビ谷窯、熊山山頂9号窯など)で発見されている。16世紀頃から口縁部に縁帯を持つすり鉢が生産され、擂り目も隙間を埋め尽くすように施されるようになる。「備前すり鉢投げても割れぬ」と称され関西方面では他の器種とともに圧倒的なシェアを誇った。備前のすり鉢を横から見た形状は底部から丸く立ちあがるので、半球形に近い。

信楽焼の窯では、15世紀初頭の五位ノ木窯で擂り目が1条1単位のものが出現し、15世紀中葉から後半頃の長野3号窯や東出窯で擂り目4条1単位のすり鉢が出現する。16世紀後半になると7本1単位の擂り目を隙間を埋め尽くすかのように施すようになる。

瀬戸焼では、15世紀前半から中葉ころ(古瀬戸後期様式)の窯で擂り目6本1単位のすり鉢が生産され始める。その後15世紀末に10~12本1単位の擂り目を10~12方向に放射状に施すすり鉢が出現し、16世紀の大窯期にさらに擂り目をぎっしりと施すようになる。横からみた形状は富士山を逆さにして潰したような円錐状である。

丹波焼については、14世紀中葉から後半にかけての時期に1条1単位のものが現れる。焼き締め陶で丈夫であることから江戸時代前半(17世紀)にはまたたくまに関東までのシェアを誇った。しかし、18世紀になると、備前を模倣し半球形を呈する産のすり鉢に東日本のシェアを奪われてしまう。以後、堺産は、その堅牢さから徐々に東日本で瀬戸美濃産のすり鉢も圧倒し、明治時代までその傾向が続く。

常滑焼については中世を通じて捏ね鉢しか生産されなかった。また15~17世紀にかけて、瓦質と呼ばれるもろい土器のすり鉢が生産されている。その他、越前焼でもすり鉢が少なくとも室町時代から生産されていた。

すり鉢は味噌を自製するのに使うことから、店売りの味噌が普及する以前は一家に一個といえる道具で、住居跡からの出土例が非常に多い。口縁部の変化や擂り目の量の変化(新しくなるにつれて擂り目が増える)が著しい遺物であるため、考古学において遺跡の年代を決める編年の資料に使われることがある。

脚注

テンプレート:Reflist

関連項目

  • 石皿
  • 山椒(サンショウ) - すりこ木として使用される事が多い
  • 乳鉢
  • 1.0 1.1 意匠分類定義カード(C5) 特許庁
  • 2.0 2.1 擂鉢 関ケ原町歴史民俗資料館
  • 農具など生産の道具 高崎市歴史民俗資料館
  • あたり‐ばち【当(た)り鉢】 goo辞書(国語辞書)
  • あたり‐ぼう【当(た)り棒】 goo辞書(国語辞書)
  • れん‐ぎ【連木】 goo辞書(国語辞書)