ラクロス
ラクロス (Lacrosse) とは、球技の一種。
目次
概要
クロスと呼ばれる先に網の付いたスティックを用いて、直径6cm・重さ150gの硬質ゴム製のボールを奪い合い、相手陣のゴールに入れることで得点を競う。漢字を当てて棒網球と表記される。
ラクロスの起源
ラクロスは、もともと北米の先住民達が、自分たちの神との繋がりを深める儀式の一環として行ったり、部族間の争いの平和的解決に用いていたものである。彼らが行うこの競技は白人から「スティック・ボール」と呼ばれていた。この競技が白人の文献に登場したのは、1637年のことである。
北米の先住民のラクロス競技は、試合前に呪い師によってセージや杉などの葉が火にくべられ、神聖なパイプによる清めの儀式が必ず行われる。現代においても、インディアンたちがこの競技を行う際には、必ずこの儀式が執り行われる。
そもそものラクロスの起源は南東部とされ、スティックも一本ではなく、チョクトー族などは両手にスティックを持って競技を行った。スティックの形状も部族ごとに違い(左図)、試合の準備には数ヵ月がかけられ、北米の先住民達は試合前に徹夜で戦勝祈願の踊りを舞い、これに臨んだ。
これは各チームが1,000人以上になることもあり、ゴールとゴールの距離は短くて500ヤード(約460メートル)、長いときには数マイルにも及ぶ広大なフィールドで、戦闘や狩りに必要な耐久力、勇気を養うためのものだったと言われる。
これをフランス系の移民がスポーツとして採り入れ、五大湖地方の部族のワイアンドット族(ヒューロン族)が使用していたスティックが、キリスト教の僧侶の持つ杖 (crosse) に似ていたことから、フランス語の定冠詞「La」を付けて「ラクロス (La-Crosse)」 と呼ぶようになった。
こうして1839年に、カナダに白人で構成されたラクロスチームが誕生し、ファースト・ネーションで構成されたチームとの公式戦が開催された。結果は、ファースト・ネーションで構成されたチームの連戦連勝による全勝だった。
現代競技としたのは、カナダのモントリオールの歯科医ウィリアム・ビアズで、彼はカナダとアメリカの国境付近に住むイロコイ族の保留地(Reservation)でこの競技の魅力に取りつかれ、これをスポーツ競技として普及させた。つまり、一本のスティックを持って行う現在のラクロスは、イロコイ族のラクロス競技が基になったものである。
1869年、ビアズによって公式ルールブックが出版され、この年にカナダの国技に採用された。
現代のラクロス
現在は1チーム男子10人・女子12人で、約100m×55mの競技フィールドで行われる。ゴールは183cm四方の正方形で、アイスホッケーと同様にゴールの裏もフィールドとして使うことができる。
プレーヤーにはアタック(AT)、ディフェンス(DF)、ミッドフィールダー(MF、ミディとも呼ばれる)などの役割分担があり、ゴールを守る選手はゴーリー(G)と呼ばれる。
クロスの先についた網(ポケット)の中でボールを揺すり、遠心力を利用して保持するラクロスに特有の動作のことをクレードルと呼ぶ。
世界的な競技人口は約60万人、日本では男女合わせて約25,000人とされる。4年に一度、男女それぞれワールドカップが開催される。
オリンピックではかつて公開競技として4回(1908年のロンドン、1928年のアムステルダム、1932年のロサンゼルス、1948年のロンドン)行われたことがある。
ラクロスの種類
ラクロスには主に下記の種類があり、それぞれ類似するもののフィールドの形状やルールが大きく異なる。
- フィールド・ラクロス:主に屋外で行われ、約110ヤード(100m)×約60ヤード(55m)の長方形の芝フィールドで競技される。プロリーグとしてはメジャーリーグ・ラクロス(MLL)がある。女子ラクロスはさらにルールが異なっている。
- ボックス・ラクロス(屋内ラクロス):屋内で行われ、約180フィート×約90フィートのフィールドで競技される。角が丸くなったアイスホッケーのアリーナで競技されることが多い。北米のみで競技されている。プロリーグとしてはナショナル・ラクロス・リーグ(NLL)がある。
- ソフト・ラクロス:子供たちにも楽しめるように、簡単に安全に改善したラクロス。最大30メートル×15メートルのフィールドで行なわれる。
男子ラクロス
男子では、金属製のクロス、ヘルメット、ショルダー(肩及び胸部の防具)、エルボー/グローブ(腕部の防具)を用いる。トッププレイヤーのシュートは160km/hを超えることから、“地上最速の格闘球技”と呼ばれている。
1チーム10人で、アタック3人、ミッドフィールダー3人、ディフェンス3人、ゴーリー1人。そのうちオフェンス時は6人、ディフェンス時はゴーリーを含め7人で守らなければならず、残りのプレーヤーはハーフラインを超えることが出来ない(オフサイドルール)。
フィールドの大きさは100.6m×54.8m。ゴールの周りにはクリースと呼ばれる2.74mの円があり、オフェンスはクリースの中に入ってはいけないというルールがある。
1試合は20分×4クォーター。
クロスを用いて相手にプレッシャーをかけてもよく、アメリカンフットボールやアイスホッケーに似ている。ボールを保持している選手のグローブやクロスを叩くこと、タックルすることは可能。また、ルーズボール時にボールから半径3ヤード以内にいるプレーヤーに対しては、タックルが許されている。
ボールがフィールドの外に出た場合(アウトオブバウンズ)、通常は出したチームの敵方に渡されるが、シュートの場合は、ボールが出たときにボールに一番近かったプレーヤーのチームに渡される。そのため選手たちはシュートを外した後もボールを激しく追う。これをチェイスと呼ぶ。以前はシュート以外のアウトオブバウンズでも、ボールが出たときにボールに一番近かったプレーヤーのチームのボールとなっていたが、ルール変更により、よりわかりやすくなった。
選手の交代はフライと呼ばれ、交代エリアを使い何回でも交代は可能。フィールド内を全力疾走で駆け回るミッドフィールダーは2-3分おきにフライすることも多い。
選手が扱うクロスはポジションによって異なり、アタックやミッドフィールダーは動きやすさやクロスの振りの速さを重視して約1mのショートクロス、ディフェンダーは約1.8mのロングクロス、ゴーリーは網の部分が大きいゴーリークロスを使う。ディフェンス力強化のため、一部のミッドフィールダーがロングクロスを持つことも多く、ロングミディ(LMF)と呼ばれる。なお、試合中フィールド内でロングクロスを持つことが出来るのは4人まで。
試合中にファールが起きた場合は「エキストラ・マンダウン(マンアップ)」が発生する。ファールによってペナルティを課せられた選手が一時的に退場してゲームが再開されるシステムで、ペナルティを課せられたチームはペナルティが解除されるまでは相手よりも少ない人数でプレーすることになる。ペナルティによって人数が少なくなっている状態を「マンダウン」、相手のペナルティによって数的に有利になっている状態を「エキストラ」という。
ファールは大きく2つに分けられ、テクニカルファール(軽度のファール)とパーソナルファール(重度のファール)で課せられるペナルティタイムが変わる。テクニカルファールは、ルーズボール時もしくは味方がポゼッション(ボールをキープしている状態)している時に犯した場合は相手にポゼッションを譲るのみだが、相手がポゼッションしている時に犯してしまうと30秒のマンダウンとなる。パーソナルファールはいかなる状況であろうと1-3分のマンダウンとなる。ペナルティタイムはファールの種類、審判の判断により決まる。テクニカルファールは得点時に解除されるが、パーソナルファールは引き続き試合再開後も継続となる。
また、ファールが起きた場合でもファールを受けた側がボールを落とさない限り、審判はイエローフラッグ(黄色のハンカチ)を投げてファールが生じた事を知らせるのみでプレーを続行させる。これをスローホイッスルと言う。ボールが落ちた時に試合を止め「エキストラ・マンダウン(マンアップ)」へと移行する。
女子ラクロス
日本の女子ラクロスでは、木製や金属製のクロス、シャツ、巻きスカートがユニフォームとなる。以前はミニスカートとポロシャツが主流だった。ゴーリー以外は防具の類いを使用しないため、プレーヤーの体に対するチェックはルール違反となる。金属製のスパイクも着用が認められていない。また、「フィールダー」(ゴーリーを除くプレイヤー)は全員マウスガード着用を義務付けられている。昨今はボールスピードの向上により、アイガードを装着している選手も見受けられる。
1チームは12人(MFが5人いる)。男子同様オフェンス時は7人、ディフェンス時はゴーリーを含め8人で守ることになる。1試合は25分ハーフで、ハーフタイムが10分ある。
フィールドの大きさは横110m×縦60mが望ましいとされており、グラウンドによって多少の縮小が認められている。クリースは3mで、女子の場合はディフェンス選手も入ってはならない。クリース前方に半径11mの扇形と半径15mの半円を引き、半径11mの扇形の中でファールが起きた場合は、ファールを受けた選手がフリーな状態(フリーポジション)でシュートを打つ事の出来る処置がとられる。この事をフリーシュートと呼ぶ。
なお、上記はあくまでも日本のルールであり、世界各国でもそれぞれにルールが異なる。例えば、オーストラリアの全国大会では1チーム10人・30分ハーフで行われ、フィールドの選手もヘルメット着用を認められている。
プロリーグ
北アメリカでは屋内ラクロス(ボックス・ラクロス)のプロリーグ「ナショナル・ラクロス・リーグ(National Lacrosse League、略称NLL)」が1987年に設立され、現在アメリカ合衆国6チーム、カナダ3チームの計9チームが参加し2ディビジョン制で運営されている。
また同じ北アメリカで新たにフィールド・ラクロスのプロリーグ「メジャーリーグ・ラクロス(Major League Lacrosse、略称:MLL)」が1999年に設立され、現在アメリカ合衆国5チーム、カナダ1チームの計6チームが参加し1カンファレンス制で運営されている。
日本
日本でも、明治時代から知られていた。1986年に慶應義塾大学の男子学生(日本ラクロス協会の早川、大久保ら)が日本で最初にラクロスチームを結成する。その後、大学生の流行としてマスコミ等に取り上げられると、わずか数年間でその名は爆発的に周知された。一時は「女子大生のファッションアイテム」化したこともあったが、その後本気でゲームに取り組む者も着実に増えた。2006年時点で約360チーム存在していた、とされる。
全国大会は社会人・一般(クラブチーム)や大学チームの各地域リーグの代表が男女同時期に、ラクロス全日本選手権大会として行う。
2009年は女子ラクロスのワールドカップがチェコで開催され日本チームは7位となる。
- 全日本選手権
- 全日本学生選手権
ソフトラクロス
ソフトラクロスとは、「ラクロス」を子供たちにも楽しめるように、簡単に安全に改善したものである。子どもでも楽しめるように安全に配慮し開発される。
ルールは、色分けされた2組のチーム(1チーム6人)が、最大30メートル×15メートルのコート両端にある相手ゴールにボールをいかに速くインさせるかを競う。ただし、インさせる前に、必ず2回以上のパスを交換しなければならない。
平成9年には女子ワールドカップ開催に併せ、第1回ソフトラクロス大会が開催され、19チーム200人の参加があった。ソフトラクロス大会は、2009年には全日本選手権の決勝のコートで決勝戦を行う。
ラクロスを扱った作品
- 映画
- 『少林少女』 - 主人公がラクロス部の助っ人になる。
- 『ドラッグストア・ガール』 - 大林恵子がラクロス部所属。他の者もラクロスを始める。
- 『猫の恩返し』 - 主人公ハルの親友がラクロス部所属。
- ライトノベル
- 『暴風ガールズファイト』 - ミッションスクールの中高女子ラクロス部を舞台とする作品。
- 『乃木坂春香の秘密』 - 作中作でラクロスが扱われている。
- 漫画
- テレビアニメ
- 『ふたりはプリキュア』 - 主人公の1人がラクロス部所属であり、部活動としてラクロスの試合などが描かれたこともある。
- 『おちゃめなふたご クレア学院物語』 - 「見て! 私のラクロス」というサブタイトルの付いた回がある。