鼈甲
鼈甲(べっこう)とは、南方の海に生息するタイマイ(ウミガメの一種)の背と腹の甲を構成する最外層の角質からなる鱗板を10枚程度に剥がして得られる工芸品の素材である。色は半透明で、赤みを帯びた黄色に濃褐色の斑点がある。黄色の部分が多いほど価値が高い。現在では希少価値のほか、プラスチックとは異なる軽い質感を求めて鼈甲製品を購入する客層は多い。
なお生薬、漢方でいう鼈甲は、タイマイではなくスッポンのものである。これは土鼈甲(とべっこう)ともいう。
加工品
加工し易いので工芸品や装飾品の材料として重用されてきた。古くは正倉院にも収められているほか、職人の技術が向上した江戸時代には眼鏡のフレーム(徳川家康の眼鏡が有名)、櫛、かんざし、帯留め、ブローチなどに加工されて普及した。現在ではこうした装飾品の多くはプラスチック素材に変わったが、昔ながらの「鼈甲柄」を模していることが多い。鼈甲自体の手入れに関しては汗や整髪料には弱いので、眼鏡のフレームなどは空拭きで磨く必要がある。なお、鼈甲は人の体温によって微妙に変形する性質があることから、眼鏡の鼻当ての部分に使用すると掛けた人の形にフィットする。またプラスチックと違い、生き物に由来する材料なので繊維に方向性があり汗に濡れてもすべりにくい効果もある。鼈甲製の眼鏡が重宝される所以である。べっ甲のかんざしが良いとされているのも繊維の方向性のため、髪に挿した時、簡単にはずり落ちてこないからである。鼈甲は男性器や女性器を模した性具(所謂「張形」)の材料としても利用された(鼈甲製張形の画像)。
加工業者
タイマイは珊瑚礁域に生息するウミガメであるため、日本本土近海では採れず、鼈甲は琉球、ルソン等からの輸入される高価な素材であった。こうした背景から、日本の鼈甲加工業者の多くは輸入される窓口であった長崎市に存在する。現在は絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)によってタイマイの貿易が禁止されている(日本では1992年限りで輸入禁止)が、業者の多くは禁止前に原料在庫を確保していたり端材を有効利用するなどで対応している。ただし、動物愛護の高まりなどの影響から鼈甲製品の販売量は次第に減少傾向にあり、業者の転廃業は相次いでいる。なお、業者は条約の履行を確実なものとするため、原材料のストック量を経済産業省へ報告することが義務づけられている。
鼈甲復活への模索
キューバでは、タイマイを食用として捕獲しており、国家管理下で数トンの鼈甲の原料をストックしている。このため、キューバは貿易を一定の管理下に置きながら認める議案をワシントン条約の締結国会議で議題として提出、2000年の会議では賛成国が過半数に達し、可決の条件である2/3までに4票差の僅差に迫る状況となった。しかし、2005年の会議ではキューバは方針を転換、議案を取り下げたため貿易再開の道は閉ざされた。
英語の意味
英語の鼈甲(tortoiseshell)には、三毛猫の意味もある。
画像
- Kanzashi tortoiseshell.jpg
明治又は大正時代のべっ甲の簪(かんざし)
- Innsbruck 2 268.jpg
インドの櫛
- Schildpatt und Schmuck.jpg
べっ甲の実物と製品
- Schildpatt.jpg
べっ甲製品
- Ornamental Japanese hair pin, tortoiseshell, Edo or Taisho, Honolulu Museum of Art I.JPG
江戸か大正時代の簪(かんざし)ホノルル美術館所蔵
- Ornamental Japanese hair pin, tortoiseshell, Edo or Taisho, Honolulu Museum of Art II.JPG
江戸か大正時代の簪(かんざし)ホノルル美術館所蔵
- Ornamental Japanese hair pin, tortoiseshell with red lacquer, Edo or Taisho, Honolulu Museum of Art.JPG
べっ甲の簪(江戸又は大正時代)、ホノルル美術館所蔵
- Ornamental Japanese comb, tortoiseshell with mother-of-pearl, Edo or Taisho, Honolulu Museum of Art.JPG
べっ甲が使われた櫛(江戸又は大正時代)、ホノルル美術館所蔵
- Ornamental Japanese comb, tortoiseshell with lacquer, Edo or Taisho, Honolulu Museum of Art.JPG
べっ甲が使われた櫛(江戸又は大正時代)、ホノルル美術館所蔵
- Tortoiseshell box, silver inlay, owned by Maria Christina Bonde 1670-1736 - National Museum of Finland - DSC04268.JPG
17-18世紀のべっ甲製の箱(フィンランド国立博物館)