曲線
一般に、曲線(きょくせん、curve)はまっすぐではない曲がった線、したがって直線ではない線を意味する語である。数学においては、曲線にはその特別な場合として直線や線分の概念を含む。特に解析幾何学において、曲線は本質的に一変数の連続関数の組を用いて記述される。
定義
平面曲線
パラメータ t は実数のある区間 I(たとえば、数直線全体 R とか閉区間 [0, 1] など)を動くものとし、連続関数 φ(t), ψ(t) を与える。このとき、x = φ(t), y = ψ(t) とおくことにより、xy-平面 R2 において、(x, y) = (φ(t), ψ(t)) で表される点の軌跡を平面曲線という。
あるいはこれを φ(t) = (φ(t), ψ(t)) と置いて得られる実変数ベクトル値関数 φ: I → R2 そのものを平面曲線と呼ぶこともある。このとき曲線には、I での大小関係から自然に向きがつく。
もし、x = φ(t) が t について解くことができるなら、t = φ-1(x) と書けて、y = ψ(φ-1(x)) となるから、
- <math>y = f(x) \quad (f = \psi \circ \varphi^{-1})</math>
という連続関数 f が得られる。逆に、連続関数 f があって y = f(x) と書けているなら、φ = idI, ψ = f(あるいは同じことだが、x = t, y = f(t))と置いてやれば (φ(t), ψ(t)) = (x, f(x)) の軌跡は平面曲線を描く。
あるいは、x = φ(t), y = ψ(t) を連立してパラメータ t が消去できるなら、それは 2 変数の連続関数 F を用いて、F(x, y) = 0 の形に表すことができる。このとき一般には、F = 0 はもとの曲線以外にも複数の陰関数を含む。
空間曲線
上で見たことは、空間の次元が上がっても本質的に同じことが言える。一般に n 次元の場合を記しておく。
ある区間 I 内で連続的に変化するパラメータ t で添字付けられる Rn 内の点の族 x(t) = (x1(t), x2(t), ..., xn(t)) で各 xk(t) が t についての連続関数となるもの軌跡あるいは関数 x: I → Rn そのものを n 次元空間内の曲線とよぶ。特に n = 3 のときを空間曲線と呼ぶことがある。
一般の曲線
同様に一般の位相空間 E に対して、区間 I 上で定義される連続写像 ρ の像あるいは写像そのものを E 内の曲線という。
区間 I は連続的に変形して長さを 1 にできるから、一般に I としては [0, 1] をとることが多い。あるいは端点を含まないときは (0, 1) や [0, 1), (0, 1] を使う。
向きのある曲線 ρ: [0, 1] → E に対し、x0 = ρ(0), x1 = ρ(1) をそれぞれ、曲線 ρ の始点、終点と呼び、ρ を x0 と x1 を結ぶ道 (path) と呼ぶことがある。
λ(0) = λ(1) = x0 となる連続写像 λ は(x0 を基点とする)閉曲線あるいは閉道、ループなどという。
滑らかさ
曲線を連続写像の組であると捉えるとき、「連続」という部分を強めたり弱めたりすることができる。たとえば、仮定を弱めて高々有限個の不連続点を持つがそれ以外は連続(これを「区分的に連続」と言い表す)などとすると、一般にいくつかの曲線の和集合になる。これを曲線に入れる立場からは、この区分的に連続な写像としての曲線を区分的に連続な曲線と呼んで区別し、対して既に定義したような連続写像としての曲線を連続曲線という。これは一般に「一つのつながった曲線」つまり「弧状連結な曲線」というのとは意味が異なる。曲線が自己交差を持つことがあるからである。ただし、多項式関数 y = f(x) のグラフなどでは連続曲線と連結な曲線は同義なものになる。
また、一般に連続曲線は尖点(cusp; カスプ)を持つが、仮定を強めて「微分可能」とすると、この曲線は尖点を持たないものになる(これを滑らかと称する)。これは例えば、絶対値をとる関数 y = |x| を x = 0 を内点として含む区間 I で考えたものは微分不可能な x = 0 において尖った点を持っていることなどからわかるだろう。曲線上の任意の点で微分可能な曲線を可微分曲線あるいは滑らかな曲線という。通常は、各 xk(t) は t について区分的に十分滑らかであるなどの制限を加えることが多い。そうでなければ、たとえば平面上のあらゆる点を埋め尽くすペアノ曲線のような病的なものまでが曲線の仲間に入ってしまって不便だからである。日常語としての「曲線」はほとんどすべての場合、可微分曲線であるといってよい。
平面曲線の例
- y = f(x) が多項式関数なら連続であるから、よく知られた一次関数や二次関数のグラフは平面曲線の例である。
- 別の例としては
<math>x = \frac{3t}{1+t^3},\,y = \frac{3t^2}{1+t^3}</math>
で表される曲線(デカルトの正葉曲線)がある。これは y = f(x) の形には書けないが、x3 - 3xy + y3 = 0 の形に表される(三次曲線の一種である)。 - あるいは、x = cos t, y = sin t (t ∈ [0, 2π)) とおけば、これが単位円を描くこと、すなわち x2 + y2 = 1 を満たす点の軌跡に一致することはよく知られている。すなわち、円も平面曲線の例である。
性質など
代表的な曲線
- 正規分布曲線(ベル・カーブ)
関連項目
参考文献
- 『曲線の事典 性質・歴史・作図法』 礒田正美、Maria G. Bartolini Bussi編、田端毅、讃岐勝、礒田正美著
- 共立出版、2009年 ISBN 9784320019072