クロソイド曲線
クロソイド曲線(クロソイドきょくせん、テンプレート:Lang-en-short)とは緩和曲線の一種。光学の分野においてはコルニュ螺旋としても知られており、古くからオイラー螺旋とも呼ばれている。車でたとえると、ドライバーが車の速度を一定にし、ハンドルを一定の角速度で回して運転したときに車が描く軌跡がクロソイド曲線である。
クロソイドの名前はギリシア神話の女神クロソに由来するといわれる。
概要
直線の道路から急カーブに入ったところで、スピードを出し過ぎてヒヤリとした経験を多くのドライバーは持っているだろう。規格の低い道路などで、直線の道路に円弧の道路を直接接続すると、曲率半径の変化に不連続性が生じ、自動車なら急なハンドル操作、バイクなら急なバイクの倒し込みを行わなければ円周上をトレースできない。すなわち、加速度変化(躍度)が大きくなり、乗物であれば乗客が危険になる。そのため、直線と円弧とを繋ぐ中間にクロソイド曲線などの緩和曲線が挿入される。このクロソイド線形に沿って、ドライバーに取って好ましい、ハンドルを滑らかに等速回転する運転操作を行えば、自動車走行路線長の最短を通り、2次微分連続(C2連続)で変曲点の無い一定曲率グラフ上を、ハンドル操作による回転揺れ無く走行できる。つまり、クロソイド曲線とは、慣性航法の理想軌道上を走行し、自動車の消費エネルギーを最小にするルートと言うことができる。
平面図にこの曲線を引く際には、以前はX軸の一定間隔ごとに、Y軸の数値を収録した「クロソイド表」を参照していくつかの点をプロットし、それらを雲形定規で結んだり、専用の「クロソイド定規」を用いたりして仕上げていたが、現在はCADが普及したため容易に描くことができるようになった。
数学的記述
曲率半径を<math>R</math>、クロソイド始点から曲線長を<math>L</math>としたとき、両者の積が一定:
- <math>RL = A^2</math>
となる曲線と定義される。<math>A</math>は長さの次元を持つ定数で「クロソイドパラメータ」と呼ばれる。
上式において、無次元量<math>r = R/A</math> 及び <math>l = L/A</math> をそれぞれ定義することにより、<math>rl = 1</math>となり、<math>r</math> 及び <math>l</math> の幾何学的性質を議論することにより、実際の応用にはスケール因子として機能する <math>A</math> を調節することで足りることになる。これは、初等幾何学の三角形の相似を連想させて、多くの曲線の中でごく稀な相似則を有する曲線である。この相似則を利用して直線・円弧・クロソイドの複合した複雑な道路の路線設計が可能となる。
クロソイド始点を座標原点とし、<math>x</math> 軸をクロソイド原点における接線方向に取ったとき、無次元化された座標 <math>(x,\ y)</math> は先ほど定義した無次元化された曲線長 <math>l</math> を用いて
- <math>x(l)=\int_{0}^{l}\cos\frac{\theta^2}{2}d\theta,\quad y(l)=\int_{0}^{l}\sin\frac{\theta^2}{2}d\theta</math>
と書き表すことができる。上記の積分はフレネル積分として知られている。
実例
道路、線路
クロソイド曲線は第一次世界大戦後のドイツで戦後復興の象徴となるアウトバーンの道路線形として世界で最初に採用された。日本では1952年、国道17号の三国峠越えの区間を改良する際に初めて導入され(群馬県側にはこれを記念した碑が建てられている)、その後各地の道路の設計に利用されている。また鉄道においては曲率半径の小さい地下鉄などに使われている。
また、クロソイド曲線はスプライン系の曲線と比較してデータ点数とパラメータが大幅に少ないのでSDカード等のメディア容量の増加を防ぎ、またネットワークの負荷を大きく減少させる利点もあって、ADAS (Advanced Driver Assistance Systems) の高度化と車両の超短期開発の最前線で、CO2削減・各種アクティブ制御など高度化の基本関数となっている。同時に、道路のアップダウン情報の縦断勾配(設計値は数式で放物線軌道)、横断勾配(カント)の摺り付け、拡幅量の摺り付け、路面凹凸三次元座標、凍結等路面状況と風速など気象環境、渋滞状況の報知・予測データを使用してCO2排出量削減、転覆防止などの安全運転支援、車両制御やヘッドライトの傾き制御に使われている。
現在カーナビで使用されている折線列3次元データから車載コンピュータがリアルタイムに曲率計算し、上記用途に利用する動向もあるが現実の道路中心線形は建設時に5cmから1m程の製造誤差があり、しかも直線-円弧-クロソイド曲線-放物線の複雑な組み合わせから構成されているため、車載コンピュータで逆問題を精度良く高速に解く自動計算による線形の復元は、安全運転支援の目的で走行時の安定的な計算値を保証することが大変困難である。リアルタイム処理ではない事前の前処理と、超高速データベースに線形データを格納するためのオーサリングが欠かせないことが判明している。
ADAS 用途のデジタル地図としてはNAVTEQ社のElectronic Horizon[1]やSANEI社のVirtual Orbit[2](仮想軌道)が良く知られている。クロソイド曲線をデジタル地図の走行路データとして活用している自動車開発・検査用途のCAEソフトウェアは
等多数ある。このデジタル地図を各種の通信ネットワークから受信し、デジタル地図の走行路を前読みしてリアルタイム制御する試みも活発になりつつあること、変曲点が無く運転時にハンドルの回転揺れが無いなど高速走行になるほど有利な実用的軌道特性を持つことから、将来的には自動運転基盤地図要素としての利用が期待される。
ローラーコースター
クロソイド曲線はローラーコースターの垂直ループ(縦方向の360度回転)にも利用されている。これは正円だと乗員の首に負担が掛かり、むち打ちやブラックアウト現象が起こる恐れがあるためである。事実、世界初の垂直ループコースターは正円型をしており、乗車した人がむち打ちになったという事例が出ている。
機械
機械系への応用でも、このクロソイド曲線の優れた幾何学的特性をタービンブレードや機械カムの補間曲線に利用しようとする研究がある[9]。
脚注
関連項目
- ↑ Method and system for providing an electronic horizon in an advanced driver assistance system architecture テンプレート:En icon
- ↑ System, method and program for supporting driving of cars テンプレート:En icon
- ↑ 株式会社バーチャルメカニクス
- ↑ ネオテリウム・テクノロジー(株)
- ↑ MathWorks 日本
- ↑ キャテック株式会社
- ↑ 汎用機構解析ソフトウェア Adams
- ↑ AVL InMotion -次世代のHiLシミュレーション・ソリューション
- ↑ テンプレート:Cite journal