FeliCa

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FeliCa(フェリカ)は、ソニーが開発した非接触型ICカードの技術方式である。英語で「至福」を意味する "Felicity" と "Card"(カード)を組み合わせてつくられた名称で、ソニーの登録商標である。

概要

FeliCaは、非接触型ICカードのための通信技術として開発された。非接触型ICカードは、リーダ・ライタからキャリアを送信して電磁誘導によりICカードに電力を供給し、キャリアの変調によりリーダ・ライタとカード間で通信を行う。例えばISO/IEC 14443で規格化されているTYPE B方式は、ASK10%で変調を行い、NRZ符号を採用しているのに対してFeliCaの方式は、変調は ASK10% と同じであるが、マンチェスタ (Manchester) 符号を採用しているところが異なる。

当初、ISO/IEC 14443 TYPE Cとして提案を行った。同時にTYPE D~Gまでが提案されたが、規格の乱立になるとして議論が停止され採用されなかった。その後、FeliCaと上位互換性のある方式がISO/IEC 18092 (Near Field Communication, NFC) として規格化された。国内では、JICSAP ICカード仕様V2.0「第4部 高速処理用ICカード」や、日本鉄道サイバネティクス協議会でのICカード規定として規格化されている。

FeliCaは通常のICカードと同様にキャッシュカードやIDカードなどに適用可能な技術である。特に高速処理が求められる、自動改札機やビル入館などのゲートや、レジなどのアプリケーション向けに特化したコマンド体系になっている。そのため、ISO 7816-3の基本コマンドとは互換性はない。また、ICチップ内部のメモリは16バイト固定長のレコードのみがサポートされていて、ISO/IEC 7816-3で規定されているファイル構造との互換性はない。

暗号処理としては、相互認証にトリプルDES、通信路にDESもしくはトリプルDESを利用している。Dualカードタイプ(接触/非接触)では公開鍵暗号方式の処理が可能なものがある。

2011年6月には相互認証と通信路にAESも利用できるFeliCaチップが発表された[1]

1枚のカード(1つのチップ)にICカード乗車券、電子マネー、社員証など複数のサービスを搭載可能であるが、サービス利用時には、個々のサービス毎にアクセス鍵(共通鍵)を使って相互認証を行うのではなく、複数のアクセス鍵から「縮退鍵」と呼ばれる暗号化されたを合成し、この縮退鍵を用いて、一度に最大16のサービスについて相互認証することが可能となっている。縮退された鍵から元の鍵は生成できない。このことから、セキュリティレベルを落とすことなく処理速度の高速化を実現している。

FeliCaチップの搭載

FeliCaチップは、ICカードのICチップとして使用される他、携帯電話や腕時計などでFeliCaチップを搭載したものがある。

当初はソニーでのみ製造されていたが、インフィニオン・テクノロジーズと共同開発(2001年11月発表)、日立製作所の採用(2002年6月発表)など、複数のチップメーカーが供給できるようになった。

ICカードへの搭載

1997年9月に香港で「オクトパス」として初めて採用された。その後、2001年11月に日本でICカード乗車券「Suica」、2002年4月にシンガポールの「EZ-link」などで採用されてきた。

また、Edy付きのeLIOがポイントカードと一体化したヨドバシカメラの「ゴールドポイントカードIC eLIO」や、ICキャッシュカードの付加機能としてEdyが採用されたり、クレジットカードとSuicaが一体化した「VIEW Suica」がさらにビックカメラのポイントカードと合体した「ビックカメラSuicaカード」などサービスの融合も行われている。

過去には、1999年から2003年まで、東京臨海副都心青海パレットタウン内にあるMEGAWEBで発行されていた「MEGA WEB Member's Card」や2000年から2002年まで、東京臨海副都心お台場ソニーグループエンターテインメント施設メディアージュで発行されていた「メディアージュ ファンカード」にも採用されていた。 テンプレート:Main2

ソニーが販売しているICカードにはRC-S860と853/854があり、RC-S860はEdyで使用、RC-S853/854はサイバネ規格に準拠したカードでSuicaで使用されている。

アンテナの形状

ICカードに搭載した場合のアンテナの形状は、SuicaEdyでは異なる。また、トランセカードはこれらとも異なる形状をしている。

  • RC-S860 四角 (Edy)
  • RC-S853/854 円弧 (Suica)

Edy用のRC-S860のアンテナはカードの端に沿って四角型に配置される。Suica等の定期券入れ等に入れて他のFeliCaカードと重ねたまま使われることが想定されるRC-853/854では、アンテナは干渉の影響を減少させるために木の葉の輪郭のような形状になっている。これにより、より電波を受信しやすくできるほか、アンチコリジョン機能が施されているFeliCaカードならば、3枚まで重ねてもそれぞれのカードを認識できる。

携帯電話・PHSへの搭載

携帯電話用のFeliCaチップはモバイルFeliCa ICチップまたはモバイルFeliCaチップと呼ばれている。ソニーとNTTドコモの合弁会社であるフェリカネットワークスが開発した。

2004年7月にはFeliCaチップを搭載した携帯電話が発売開始された。携帯電話にFeliCaチップを搭載することで、EdyやSuica(モバイルSuica)などを携帯電話で利用できる。モバイルFeliCaチップを利用したサービスをいち早く開始したNTTドコモの登録商標である「おサイフケータイ」が、事業者をまたいでのサービスブランドとして定着している。モバイルFeliCaチップはソニー1社が製造していたが、次期モバイルFeliCaチップは東芝とルネサス テクノロジを加えた3社から供給されることが2006年5月に発表された。この新世代のモバイルFeliCaチップ (FeliCa ver.2) は、容量の拡大や通信機能の搭載など機能強化を行ったもので、2006年10月にこれを搭載した携帯電話が発表された。

携帯電話での普及状況は、おサイフケータイの項もあわせて参照の事。

FeliCa用のリーダーライターについてはPaSoRiを参照。

その他

セキュリティ

FeliCaチップの安全性

FeliCaチップを搭載したカードRC-S860は、2001年にEAL3の評価を受け、2002年3月4日に英国CESGCからISO/IEC 15408 EAL4の認定を受けている。ただし、この認定には、PP/9806などのICカード用システムLSIの主要なProtection Profileで要求されているAVA_VLA.4やSOF-highが含まれておらず、EAL4+の認定は次期カードでの目標になっている。

安全性についての論争

月刊「FACTA」の2006年9月号に、FeliCaに脆弱性が存在するとの記事が掲載された[5]。さらに、同誌2007年1月号は、FeliCaチップの内部を見ることができ、その改変も可能であるとした[6]

これに対して、情報の出所が明らかでなく、具体的な記述もないという理由で、ITmediaが批判を加えた[7]ITmediaによれば、情報処理推進機構 (IPA) は、情報が提供された事実を認め、経済産業省にもその情報を伝えたが、IPAではソフトウェア脆弱性を取り扱っているものの、ハードウェアシステムの脆弱性は対象外ということもあり、提供された情報についてIPAでは検証はしていない、という[8]。 もっとも、IPAは、「ソフトウエア製品脆弱性関連情報」として、「ICカード等のソフトウエアを組み込んだハードウエア等に対する脆弱性」関連情報に関する届出を受け付けてはいる[9]

なお、この件についてソニーは、暗号解読の事実はない、とコメントした[10]

IDm偽装

無線部分の仕様は公開されており、カード固有番号のIDmは偽装することが可能であるため、IDmだけを使って認証することは危険である。一部のFeliCaチップを搭載したデバイスにおけるカードエミュレーションモードでは、ソフトウェアから自由にIDmを指定することが可能である。

そのため、セキュリティやプライバシーが必要なサービスやデバイスにおいては、セキュアエレメントを使用したチャレンジレスポンス方式による相互認証を行うことが必須となる。

プライバシー問題

カード固有番号やフリー領域へのアクセスは誰でもできるため、悪意あるカードリーダーの設置やカード読み取り等によってプライバシー情報が抜き取られる恐れがある。

FeliCaに関する規格・知財

  • JIS X 6319-4: ICカード実装仕様-第4部:高速処理用ICカード(日本工業標準調査会)[11]
  • 特開平10-20780[12](相互認証・通信路暗号化)
  • 特開平10-327142[13](相互認証用縮退鍵)
  • 電波法上、FeliCaのリーダ・ライタは、「高周波利用設備(誘導式読み書き通信設備)」に該当し、予め総務大臣から技術基準に適合していることの指定(型式指定)を受ける必要がある[14]

歴史

  • 1988年 ソニーが無線ICの開発を開始。
  • 1994年 名称がFeliCaに決定。
  • 1994年 香港のオクトパス社が採用を決定。海外での初の採用事例。
  • 1997年 オクトパスカードが正式導入される。海外での初の本格的な導入事例。
  • 1998年 広島のスカイレールサービスが「IC定期券」として採用。国内の交通系で初めての採用[15]
  • 1999年 ソニーがソニーファイナンスインターナショナルをはじめとした数社と共同でFeliCaを用いた電子マネー「Edy」のモニターテストをゲートシティ大崎にて実施。なお、当初は「Edy!」の名称を使用。
  • 1999年 東京臨海副都心お台場)のパレットタウン内のMEGAWEBにて「MEGA WEB Member's Card」の発行を開始。FeliCaを利用した館内独自のプリペイド型電子マネーサービスをはじめ、日本で初めて事前に決済クレジットカードを登録して使用する後払の「リンク式ポストペイ(後払)」方式による館内独自のクレジット型電子マネーを導入。2003年3月までカード発行と関連サービスを実施、リンク式ポストペイ方式の電子マネーは、後にQUICPayなどに採用される。
  • 2000年4月 東京臨海副都心・お台場のメディアージュにて「メディアージュファンカード」の発行を開始。FeliCaを利用した館内独自の電子マネーサービスをはじめ、映画館やエンターテイメントアトラクションなどの電子チケットサービス、会員制のポイントカードサービスなどが開始される。2002年3月までカード発行と関連サービスを実施。
  • 2000年 JR東日本が採用を決定。
  • 2001年11月 JR東日本がSuicaを導入。また、同時期にソニーグループのビットワレットが電子マネーEdyの正式サービスを開始。
  • 2004年 フェリカネットワークス社が設立される。
  • 2004年 はじめてモバイルFeliCaを搭載した携帯電話が発売される。
  • 2006年12月 月刊誌「FACTA」2007年1月号に "ソニー激震—— 暗号破られた「電子マネー」" という記事が掲載される。
  • 2007年 神奈川大学松下昭名誉教授らが、非接触ICカード技術の特許を巡り計20億円の損害賠償を請求。
  • 2009年3月 松下昭教授らの訴訟は、原告側の敗訴が高裁で確定。原告は上告を断念し、ソニーおよびJR東日本の勝訴が確定[16]

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

  1. 非接触ICカード用の次世代FeliCa ICチップを開発 Sony Japan | ニュースリリース
  2. イー・モバイル初となるLTE対応スマートフォンを発売予定, 報道発表資料, 2012年11月12日 - 2013年春以降に初の対応機種が発売される事が決定
  3. “かざすと楽しい”をFeliCaで実現――ソニーブース, ITmedia, 2009年3月5日
  4. ITmedia 2007年12月5日
  5. FACTA記事 2006年9月号
  6. FACTA記事 2007年1月号
  7. ITmedia 2006年12月20日 - 記事内容は非常に曖昧と指摘。
    ITmedia 2006年12月26日 - 具体的かつ合理的な説明に欠けると指摘。
  8. 議論すべき時が来た組み込み機器のセキュリティ, 高橋睦美, ITmedia, 2006年12月26日
  9. 脆弱性関連情報に関する届出について、「届出の対象」の(1)
  10. FeliCaの暗号が破られた?――ソニーは完全否定, 吉岡綾乃, ITmedia, 2006年12月20日
    ソニー、「FeliCaの暗号は解読されていない」と説明, 関口聖, ケータイ Watch, 2006年12月21日
  11. JISX6319-4
  12. 特開平10-20780
  13. 特開平10-327142
  14. 総務省 電波利用ホームページ 高周波利用設備の設置に関する申請手続き
  15. 平成19年版 情報通信白書
  16. FeliCaやSuica巡る特許係争,ソニーとJR東が二審も勝訴

関連項目

外部リンク

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