蒸気圧
蒸気圧(じょうきあつ、英語:vapor pressure)、あるいは平衡蒸気圧(へいこうじょうきあつ、英語:equilibrium vapor pressure)とは、任意の温度に対して、その物質の気体が液体状態あるいは固体状態と平衡になるような圧力のことである。ある物質のある温度での蒸気圧は一意に決定される。
ある物質の液体の周囲で、その物質の分圧が液体の蒸気圧に等しいとき、その液体は気液平衡の状態にある。温度を下げると蒸気は液体に凝結する。逆に温度を上げると液体は蒸発する(蒸気になる)。物質の沸点とは、その物質の液体状態での蒸気圧が外圧に等しくなる温度である。
ある物質の固体の周囲で、その物質の分圧が固体の蒸気圧(昇華圧)に等しいとき、その固体は固気平衡の状態にある。温度を下げると蒸気は固体に昇華する。逆に温度を上げると固体は蒸気に昇華する。物質の昇華点とは、その物質の固体状態での蒸気圧が外圧に等しくなる温度である。
同じ物質でも、液体状態での蒸気圧と固体状態での蒸気圧は異なっている。液体状態での方が固体状態でよりも高い蒸気圧となるような温度では、液体は蒸発し、蒸気は昇華して固体になるため、液体は凝固していく。液体状態での方が固体状態でよりも低い蒸気圧となるような温度では、固体は気体に昇華し、気体は液体に凝結するため、固体は融解していく。この二種類の蒸気圧が等しいような温度では、液体と固体の間で平衡が成り立ち、この温度を融点と呼ぶ。
液体混合物の蒸気圧は、ラウールの法則やクラウジウス-クラペイロンの式によって近似的に決定される。
水の蒸気圧
全ての液体と同様、蒸気圧が周囲の気圧まで達すると水は沸騰する。本質的に、より高度が高い場所ではより気圧が低くなるため、水はより低い温度で沸騰する。気圧と水の沸点の関係はアントワン式によって近似される。
- <math>\log_{10}P = 8.07131 - \frac{1730.63}{233.426 + T_b}</math>
または、
- <math>T_b = \frac{1730.63}{8.07131 - \log_{10}P} - 233.426</math>
温度Tb はセルシウス度 ℃ における沸点であり、圧力P の単位は Torr である。
各温度における水の蒸気圧を以下の表に示す:
蒸気圧 | |
---|---|
0 ℃ | 6 hPa |
10 ℃ | 12 hPa |
20 ℃ | 23 hPa |
30 ℃ | 42 hPa |
40 ℃ | 74 hPa |
80 ℃ | 475 hPa |
90 ℃ | 701 hPa |
100 ℃ | 1013 hPa |
110 ℃ | 1432 hPa |
120 ℃ | 1989 hPa |
130 ℃ | 2710 hPa |
140 ℃ | 3631 hPa |
150 ℃ | 4791 hPa |
蒸気圧の例
以下の表は蒸気圧を昇順に並べた様々な物質のリストである。
物質 | 蒸気圧 (SI単位系) |
蒸気圧 (バール) |
蒸気圧 (水銀柱ミリメートル) |
温度 |
---|---|---|---|---|
タングステン | 100 Pa | 0.001 | 0.75 | 3203 ℃ |
エチレングリコール | 500 Pa | 0.005 | 3.75 | 20 ℃ |
二フッ化キセノン | 600 Pa [1] | 0.006 | 0.18 | 25 ℃ |
水 (H2O) | 2.3 kPa | 0.023 | 17.5 | 20 ℃ |
プロパノール | 2.4 kPa | 0.024 | 18.0 | 20 ℃ |
エタノール | 5.83 kPa [2] | 0.0583 | 43.7 | 20 ℃ |
メチルイソブチルケトン | 26.48 kPa | 0.2648 | 198.62 | 25 ℃ |
フロン113 | 37.9 kPa | 0.379 | 284 | 20 ℃ |
アセトアルデヒド | 98.7 kPa | 0.987 | 740 | 20 ℃ |
ブタン | 220 kPa | 2.2 | 1650 | 20 ℃ |
ホルムアルデヒド | 435.7 kPa | 4.357 | 3268 | 20 ℃ |
硫化カルボニル | 1.255 MPa | 12.55 | 9412 | 25 ℃ |
プロパン | 2.2 MPa | 22 | 16500 | 55 ℃ |
酸素 (O2) | 54.2 MPa | 542 | 407936 | 20 ℃ |
窒素 (N2) | 63.2 MPa | 632 | 475106 | 20 ℃ |
気象学における意味
気象学における蒸気圧という用語は、たとえそれが平衡に達していなかったとしても空気中の水蒸気の分圧を意味するのに用いられ[3]、平衡蒸気圧はそのように記述される。気象学者もまた、大気中の水のしずくと微粒子の大きさおよび形を考慮する平衡蒸気圧と区別するために、通常より高い水もしくは塩水の平衡蒸気圧を言及するために飽和蒸気圧という用語を用いる[4]。
曲面上の蒸気圧
液滴など、液面が曲率を持つ場合、蒸気圧pd は表面張力の影響を受け、次のトムソン・ギブスの式(en:Ostwald–Freundlich equation)で与えられる[5]。ケルビン方程式も参照。
- <math>p_d = p_s \exp\left(\frac{2\gamma M}{a\rho RT}\right) = p_s \exp\left(\frac{2\gamma v_m}{akT}\right)</math>
ここで
である。