数学基礎論
テンプレート:出典の明記 数学基礎論(すうがくきそろん、英語:foundations of mathematics)は、数学の一分野。他の分野が整数・実数・図形・関数などを取り扱うのに対し、数学自体を対象とする。
歴史
厳密な論理によって構成される数学は、発展するに従って自分自身をも厳格に定義する方向へと進み、多くの数学者・論理学者がその夢に心血を注いだ。数学を論理学の上に基礎づける論理主義はフレーゲの独創的な仕事に始まるが、この計画はラッセルの発見したパラドックスによって頓挫する。
ラッセルは『数学原論』によってフレーゲの論理主義の問題点を解決するが、そこに用いられた公理はもはや論理的に自明とはいえず、本来の目的であった論理学に基づく数学の基礎づけに成功したとはいえない。
一方、ブラウワーは、直観主義によって数学をパラドックスから解放しようと試みるが、この考え方は、排中律の使用を制限することで数学の結果に対して大規模な修正を求めるものであった。
ヒルベルトは、数学を記号によるゲームとみなして無矛盾性を証明する形式主義によるヒルベルト・プログラムを提唱したが、ゲーデルの不完全性定理によって、その実現の不可能性が示された。また、数論を展開するのに十分な体系に見えるペアノの公理系では証明できないグッドスタインの定理など、特定の公理系では証明も反証もできない問題が数多く見いだされた。
このように一定の結論が得られた現在では、数学基礎論は本来の意味していた数学の基礎づけの活動から離れ、広義の数理論理学、特に集合論、モデル理論、証明論、計算理論等の数学の総称に変化している。
影響
また、数学を人間の精神活動から離れて、形式主義的にかつ有限の立場から検証しなおすことにより、計算機内部という機械的で有限な実体において数学的体系を再構築する計算機科学の基礎と発展に大きく寄与した。たとえば、今まで自明なものとして受け入れられていた多くの数論的関数を有限の立場から考察することにより、アルゴリズムの研究に直接の影響を与えた。現在、プログラミングは初等教育にも取り入れられるほど一般的になっているが、プログラミング言語で必ず登場するデータ型の形式的宣言や論理構造、関数の概念は遠くは数学基礎論に由来する。ゆえに、数学基礎論で活躍したフォン・ノイマンやチューリングが後に計算機科学において先駆的な役割を果たしたのも、偶然ではない。そのような意味で数学基礎論は単なる机上の空論ではなく、むしろコンピュータをインフラの一つとする現代社会の形成に多大な影響を与えたといえる。