ロアルド・ダール
ロアルド・ダール(Roald Dahl, 1916年9月13日 - 1990年11月23日)は、イギリス・南ウェールズ・カーディフ出身の作家・脚本家である。
目次
略歴
パイロット
ノルウェー人の両親のもとに生まれる。シェル石油で働き、タンザニアやカナダにも行ったが、第二次世界大戦が始まってからはイギリス空軍の戦闘機パイロットとして従軍した。乗っていた飛行機が墜落し脊髄に重傷を負うも、なんとか生還した。しかしこの傷は後々まで彼を苦しめることになる。
作家
その後、アフリカで聞いた不思議な話やパイロット時代の経験を元に小説を書くようになった。ある作家が、取材のためにダールの飛行体験についてメモを書くよう依頼したが、そのメモの素晴らしさにそのままダール名義で出版されたことがきっかけでデビュー。1942年にはすでにグレムリンの話を書いていた(これをディズニーが映画化しようとしたが頓挫)。風刺やブラックユーモアに満ちた短編小説や、児童文学で有名。
特に、「奇妙な味」と評されるダールの短編小説は、作家・評論家・翻訳家らへのアンケート結果によるミステリ・マガジン2007年3月号で、ミステリ小説オールタイム・ベストの短編部門第1位に輝いた『南から来た男』(Man From the South)の他、『味』(Taste)、『大人しい兇器』(Lamb to the Slaughter)などで、日常的な風景や会話の中に人間の心の奥底に潜む狂気をうかがわせ、高い評価を得ている。
007シリーズで有名なイギリス人作家のイアン・フレミングの友人であることから、映画『007は二度死ぬ』と『チキ・チキ・バン・バン』の脚本も手がけた。
家族
1953年に女優のパトリシア・ニールと結婚したが、1983年に離婚した。パトリシアは大スター、ゲイリー・クーパーと3年間不倫関係にあった。彼女は妊娠したが、クーパーの妻はカトリック教徒であるため離婚に応じず、子供を中絶せざるをえなかった。パトリシアはマスコミから袋叩きにあい、仕事も来なくなった。そんな時に彼女を可愛がっていた劇作家リリアン・ヘルマンの紹介により、ロアルド・ダールと出会い結婚した。結婚後も女優を続け、アカデミー主演女優賞を受賞した。5人の子供に恵まれたが、妊娠中に脳卒中に襲われ、夫のダールの献身的な看護とリハビリのおかげで無事に出産し、回復した。しかし、パトリシアは彼の度重なる浮気を理由に30年の結婚生活にピリオドを打った。「自伝」の結びにも「自分の愛した男性はただゲイリー・クーパーただ一人だった」と書いている。[1]
ロアルドは同郷の女性フェリシティー・クロスランドと再婚する。2人の間に子供はいない。長女オリヴィアが7歳の時に脳炎で亡くなり、4ヶ月だった息子テオは交通事故で脳に障害を負った。ロアルドの死後は、妻のフェリシティーによってロアルド・ダール基金が設立された。ちなみに子供たちは全員ロアルドになついていたため、現在も後妻のもとに集まるとのことである。
エピソードなど
- スタジオジブリの宮崎駿はロアルド・ダールのファンであり、オマージュとして 映画『紅の豚』で「銀河(天の川)」のような、「飛行士たちのヴァルハラ」への「昇天」エピソードを挿入した[2]。ダールのいくつかの日本語訳書において前書きや解説なども行っている。
主な作品・日本語訳書
短編集
- Over to You: 10 Stories of Flyers And Flying (1946年)
- 『飛行士たちの話』永井淳/訳(ハヤカワ・ミステリ文庫 1981年7月)
- 2000年に新装版 ISBN 978-4150712525
- 2000年に新装版。ハヤカワ・ミステリ文庫 ISBN 978-4150712518
- のち再刊。2005年10月/7 ISBN 978-4152086747
- Switch Bitch (1974年)
- 『来訪者』永井淳/訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)ISBN 978-4150712549
長編
- My Uncle Oswald (1979年)
- 『オズワルド叔父さん』 田村隆一/訳(早川書房、1991年)ISBN 4150712557
児童文学
日本では評論社より刊行。2005年よりシリーズ文庫『ロアルド・ダール コレクション』として新版刊行。
- The Gremlins (1943年)
- James and the Giant Peach (1961年)
- 『おばけ桃の冒険』 田村隆一/訳 1972年9月 ISBN 4566010503
- 『<ロアルド・ダール コレクション 1> おばけ桃が行く』 柳瀬尚紀/訳 2005年11月 ISBN 456601410X
- 「ジャイアント・ピーチ」の題名で映画化。
- Charlie and the Chocolate Factory (1964年)
- 『チョコレート工場の秘密』 田村隆一/訳 1972年9月 ISBN 4566010511
- 『チョコレート工場の秘密 (てのり文庫)』 田村隆一/訳 1988年7月 ISBN 4566022544
- 『<ロアルド・ダール コレクション 2> チョコレート工場の秘密』 柳瀬尚紀/訳 2005年4月 ISBN 4566014118
- 『チョコレート工場の秘密 フィルム・ブック』 柳瀬尚紀/訳 2005年9月 ISBN 4566013634
- 1971年「夢のチョコレート工場」メル・スチュアート監督による初の映画化。
- 2005年「チャーリーとチョコレート工場」ティム・バートン監督による2度目の映画化。
- The Magic Finger (1966年)
- 『魔法のゆび』 宮下嶺夫/訳 1986年7月 ISBN 4566012336
- 『<ロアルド・ダール コレクション 3> 魔法のゆび』 宮下嶺夫/訳 2005年11月 ISBN 4566014126
- Fantastic Mr Fox (1970年)
- 『父さんギツネバンザイ』 田村隆一・米沢万里子/訳 1976年3月 ISBN 456601052X
- 『父さんギツネバンザイ (てのり文庫)』 田村隆一・米沢万里子/訳 1988年9月 ISBN 4566022552
- 『<ロアルド・ダール コレクション 4> すばらしき父さん狐』 柳瀬尚紀/訳 2006年1月 ISBN 4566014134
- 「ファンタスティック・Mr.FOX」の題名で映画化。
- Charlie and the Great Glass Elevator (1967年)
- 『ガラスのエレベーター 宇宙にとびだす』 田村隆一/訳 1978年8月 ISBN 4566010546
- 『<ロアルド・ダール コレクション 5> ガラスの大エレベーター』 柳瀬尚紀/訳 2005年7月 ISBN 4566014142
- 『チョコレート工場の秘密』の続編。
- Danny the Champion of the World (1975年)
- 『ぼくらは世界一の名コンビ! ダニィと父さんの物語 』 小野章/訳 1978年6月 ISBN 4566010538
- 『ぼくらは世界一の名コンビ! ダニィと父さんの物語 (てのり文庫)』 小野章/訳 1990年4月 ISBN 4566022668
- 『<ロアルド・ダール コレクション 6>ダニーは世界チャンピオン』 柳瀬尚紀/訳 2006年3月 ISBN 4566014150
- The Wonderful Story of Henry Sugar and Six More (1977年)
- 『ヘンリー・シュガーのわくわくする話』 小野章/訳 1979年3月 ISBN 4566010554
- 『<ロアルド・ダール コレクション 7> 奇才ヘンリー・シュガーの物語』 柳瀬尚紀/訳 2006年10月 ISBN 4566014169
- The Enormous Crocodile (1978年)
- 『大きな大きなワニのはなし』 田村隆一/訳 1978年11月 ISBN 4566002314
- 『<ロアルド・ダール コレクション 8> どでかいワニの話』 柳瀬尚紀/訳 2007年1月 ISBN 4566014177
- The Twits (1980年)
- 『いじわる夫婦が 消えちゃった!』 田村隆一/訳 1982年7月 ISBN 4566010562
- 『<ロアルド・ダール コレクション 9> アッホ夫婦』 柳瀬尚紀/訳 2005年9月 ISBN 4566014185
- George's Marvelous Medicine (1981年)
- 『ぼくのつくった魔法のくすり』 宮下嶺夫/訳 1990年2月 ISBN 456601066X
- 『<ロアルド・ダール コレクション 10> ぼくのつくった魔法のくすり』 宮下嶺夫/訳 2005年4月 ISBN 4566014193
- The BFG (1982年)
- 『オ・ヤサシ巨人 BFG』 中村妙子/訳 1985年11月 ISBN 4566010570
- 『<ロアルド・ダール コレクション 11> オ・ヤサシ巨人BFG』 中村妙子/訳 2006年6月 ISBN 4566014207
- スティーヴン・スピルバーグ監督・製作による実写映画版が2016年公開予定。
- Revolting Rhymes (1982年)
- 『へそまがり昔ばなし』 灰島かり/訳 2002年3月 ISBN 4566010767
- 『<ロアルド・ダール コレクション 12> へそまがり昔ばなし』 灰島かり/訳 2006年6月 ISBN 4566014215
- Dirty Beasts (1983年)
- 『<ロアルド・ダール コレクション 14> こわいい動物』 灰島かり/訳 2006年10月 ISBN 4566014231
- The Witches (1983年)
- ジム・ヘンソン製作総指揮「ジム・ヘンソンのウィッチズ/大魔女をやっつけろ!」の題名で映画化。
- The Giraffe and the Pelly and Me (1985年)
- 『こちらゆかいな窓ふき会社』 清水達也・清水奈緒子/訳 1989年9月 ISBN 4566010597
- 『<ロアルド・ダール コレクション 15> こちらゆかいな窓ふき会社』 清水奈緒子/訳 2005年7月 ISBN 456601424X
- Matilda (1988年)
- 『マチルダはちいさな大天才』 宮下嶺夫/訳 1991年4月 ISBN 4566010678
- 『<ロアルド・ダール コレクション 16> マチルダは小さな大天才』 宮下嶺夫/訳 2005年9月 ISBN 4566014258
- ダニー・デビート監督「マチルダ」の題名で映画化 (主演: マーラ・ウィルソン)。
- また、2008年にイギリス本国で「Matilda The Musical」の題で舞台化された。
- 『ハリー・ポッターと賢者の石』が出る以前には、イギリスで児童書部門の売り上げ1位を独走していた。
- Rhyme Stew (1989年)
- 『<ロアルド・ダール コレクション 17> まぜこぜシチュー』 灰島かり/訳 2007年3月 ISBN 4566014266
- Esio Trot (1989年)
- 『恋のまじない、ヨンサメカ』 久山太市/訳 1997年5月 ISBN 4566010686
- 『<ロアルド・ダール コレクション 18> ことっとスタート』 柳瀬尚紀/訳 2006年3月 ISBN 4566014274
- The Minpins (1991年)
- 『ふしぎの森のミンピン』 おぐらあゆみ/訳 1993年12月 ISBN 4566003175
- The Vicar of Nibbleswicke (1991年)
- 『ねぶそくの牧師さん』 久山太市/訳 1999年10月 ISBN 4566010694
- 『<ロアルド・ダール コレクション 19> したかみ村の牧師さん』 柳瀬尚紀/訳 2007年1月 ISBN 4566014282
- The Mildenhall Treasure (2000年)
- 『ミルデンホールの宝物』 中村妙子/訳 2000年7月 ISBN 4566011089
自伝的作品
- Boy - Tales of Childhood (1984年)
- 『少年』 永井淳/訳 (早川書房、1989年) ISBN 4152034157
- 『少年(ハヤカワ・ミステリ文庫)』 永井淳/訳 (早川書房、2000年) ISBN 4150712573
- Going Solo (1986年)
- 『単独飛行』 永井 淳/訳 (早川書房、1989年) ISBN 4152034181
- 『単独飛行(ハヤカワ・ミステリ文庫)』 永井淳/訳(早川書房、2000年) ISBN 4150712581
- My Year (1993年)
- 『一年中ワクワクしてた』 久山太市/訳 2000年9月 ISBN 4566010759
- 『<ロアルド・ダール コレクション 20> 一年中ワクワクしてた』柳瀬尚紀/訳 2007年3月 ISBN 4566014290
アンソロジー
- 『王女マメーリア』田口俊樹/訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)ISBN 978-4150712563
- NEW ROALD DAHL’S COLLECTION OF SHORT STORIESの邦訳。
- 『まるごと一冊 ロアルド・ダール』 田村隆一・他/訳 2000年10月 ISBN 4566010740
- 『<ロアルド・ダール コレクション 別巻1> ダールさんってどんな人?』クリス・ポーリング/著 灰島かり/訳 2007年4月 ISBN 4566014304
- 『<ロアルド・ダール コレクション 別巻2> 「ダ」ったらダールだ!』ウンディ・クーリング/編 柳瀬尚紀/訳 2007年4月 ISBN 4566014312
小冊子
- Roald Dahl's Guide to Railway Safety(1991年), British Railway, ISBN 978-6132034410
- ロアルド・ダールの鉄道安全読本, 安藤 陽本/訳, 日本経済評論社 , 2001, ISBN 9784818813892
ロアルド・ダール劇場
ロアルド・ダール劇場「予期せぬ出来事」(Roald Dahl's Tales of Unexpected)とは、BBCで1979年から放映されたドラマシリーズ。ダール自身の短編小説を原作とした1話完結/30分のミステリーで、本人が案内役で出演している。日本でも1980年から東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送された。現在、DVDが入手可能である。
脚本
- 007は二度死ぬ (1967年)
- チキ・チキ・バン・バン (1968年)
脚注
関連項目・文献
- ロアルド・ダールコレクション
- ロアルド・ダール博物館
- 佐藤嗣二
- 田村隆一
- 柳瀬尚紀
- 富田泰子 『ロアルド・ダール (現代英米児童文学評伝叢書)』 (KTC中央出版、2003年) ISBN 4877582711
- ヒッチコック劇場 『指 (Man From the South)』 (1960年)