脂質
脂質(ししつ、Lipid)は、生物から単離される水に溶けない物質を総称したものである[1]。特定の化学的、構造的性質ではなく、溶解度によって定義される。1925年に W・R・ブロール (W. R. Bloor) によって以下の生化学的脂質の定義がなされている[2]。
ただし、上記の定義は現在では数多くの例外が存在し、十分な条件とは言えない。現在の生化学的定義では「長鎖脂肪酸あるいは炭化水素鎖を持つ生物体内に存在あるいは生物由来の分子」となる。
分類
脂質は、おおまかに単純脂質・複合脂質・誘導脂質の3種類に分けられる。ただし、これらの分類に当てはまらない物質も数多く存在するため、あまり厳密なものではない。
- 単純脂質 (Simple Lipid) - アルコールと脂肪酸のエステルをいう。アルコール部分には直鎖アルコールの他グリセリン、ステロールなどが、脂肪酸には多様な飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が使われる。
- 複合脂質 (Complex lipid / Compound lipid) - 分子中にリン酸や糖を含む脂質で、一般にスフィンゴシンまたはグリセリンが骨格となる。
- 誘導脂質 (Derived lipid) - 単純脂質や複合脂質から、加水分解によって誘導される化合物。生体中で遊離して存在するイソプレノイドもここに含める。
単純脂質
アルコールと脂肪酸のみがエステル結合してできている脂質を単純脂質という。生物では、エネルギーの貯蔵や組織の保護などに利用される。
生物中に多く見られる単純脂質は、アルコールとしてグリセリンをもつもので、これらを総称してアシルグリセロール(テンプレート:Lang-en-short)またはグリセリド(グリセライド、テンプレート:Lang-en-short)と呼ぶ。生物的観点からは中性脂肪と呼ばれることも多い。グリセリンには3つのヒドロキシル基があり、エステル結合した脂肪酸の数によってモノグリセライド(Monoglyceride)・ダイグリセライド・トライグリセライドと分けられる。生体中では主に脂肪として蓄えられ、必要に応じてエネルギー源として使用される。エーテル型脂質のアルキルエーテルアシルグリセロール(アルキルエーテルグリセライド)もここに分類される。
アルコールとして長鎖アルコールを持つものは蝋と呼ぶ。動物や植物表面に多く見られ、保護物質として働いている。一部の植物を除いて、エネルギー源とはならない。
グリセリンの代わりに、スフィンゴシンとアルコールがアミド結合したセラミドも単純脂質に分類される。
複合脂質
分子中にリン酸や糖などを含む脂質を複合脂質という。両親媒性を持つものが多く、細胞膜の脂質二重層の主要な構成要素であるほか、体内での情報伝達などに関わる。
複合脂質は、部分構造としてリン酸エステルを持つリン脂質と、糖が結合した糖脂質に大別される。また、複合脂質の骨格となる分子は一般的にグリセリンあるいはスフィンゴシンのみであるため、これらを基準としてグリセロ脂質とスフィンゴ脂質に分類することもある。
脂質とタンパク質が複合したリポタンパク質をここに含めることもある。
誘導脂質
単純脂質や複合脂質から、加水分解によって誘導される疎水性化合物を誘導脂質という。今日では、生体中で遊離して存在する各種イソプレノイドもここに含めることが多い。
脂肪酸・テルペノイド・ステロイド・カロテノイドなど、多様な物質が知られている。身体の構成、エネルギー貯蔵の他、ホルモンをはじめとする生理活性物質としてはたらく。
参考文献
- ↑ IUPAC Gold Book - lipids
- ↑ Bloor, W. R. "Biochemistry of the Fats". Chem. Rev. 1925, 2, 243–300. DOI: 10.1021/cr60006a003.