フィールドワーク

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フィールドワークテンプレート:Lang-en-short)は、ある調査対象について学術研究をする際に、そのテーマに即した場所(現地)を実際に訪れ、その対象を直接観察し、関係者には聞き取り調査やアンケート調査を行い、そして現地での史料資料の採取を行うなど、学術的に客観的な成果を挙げるための調査技法である。地学地理学では巡検ともいう。

概要

フィールドワークは、日本語現地調査(実地調査)ということがあるが、上記のような定義にしたがった調査技法を用いる場合は「フィールドワーク」との表記が一般的である。また、フィールドワークを行う調査者のことを「フィールドワーカー」、聞き取りやアンケートの対象者(情報提供者)のことを「インフォーマント」あるいは「話者」という。

フィールドワークは、学問的に客観的な成果を求める活動であるため、自身の見聞を広めるだけのいわゆる旅行や、学問的な手法に拠らずに未開・未踏の土地の実態を明らかにするだけの冒険とは一線を画する。

このように研究者が専門的に行うフィールドワークのほか、「自然の家」などと称される青少年育成機関が児童向けに行っている自然観察行事、海外での異文化体験なども広くフィールドワークと呼ばれることがある。これらは教育的な側面が重視されるが、何かしらの客観的な成果を求める活動がみられる場合には、フィールドワークの原義に反するものではないといえよう。

また、主に地学系では、「巡検」という名で市民対象の行事の一つとして行うことがある。多くは、鉱物採取や化石採取、地層観察などであるが、社会教育の一環として、化石友の会といった同好会や博物館などが主催している。参加者から見れば、趣味やレクリエーションの延長上の野外活動として位置づけている。

対象と方法

対象

フィールドワークの実施対象は多岐にわたる。人文諸科学における直接の対象は人(個人、集団、社会民族、あるいは国家)であり、自然科学における対象はモノ(自然物など)である。ある特定の対象を研究する場合も、テーマや目的など、調査者の関心は多様でありうる。

人文諸科学において、フィールドワークを実施する対象地は、こうした調査者の関心の多様さを反映している。文化人類学の典型的なイメージともいえる「未踏の地で生活する先住民」といった、調査者にとってはまったくの異文化である海外の少数民族社会であることもあれば、調査者にとっての生活圏内であることもある。その例として、前者であればトロブリアンド諸島を対象としたマリノフスキーの研究『西太平洋の遠洋航海者』[1]があり、後者には暴走族を調査対象とした佐藤郁哉の研究『暴走族のエスノグラフィー』[2]やヤコブ・ラズの『ヤクザの文化人類学』などがある。

方法

以下は、文化人類学など主に人文諸科学におけるフィールドワークに顕著な方法の諸点について述べている。

  • 調査者(フィールドワーカー)
    当該対象の調査を実施するフィールドワーカーは、個人で調査地に赴く場合もあれば、一大調査団を結成して現地に調査本部を立ち上げるような大規模なものもある。マリノフスキーやエヴァンス・プリチャード[3]レイモンド・ファース[4]らの文化人類学の古典的研究は、前者の代表的な例である。一方、後者の例としては、1950年に8つ(翌年には9つ)の学会が連合して行った対馬学術調査団[5]などがある。
    海外の異文化社会を調査対象とする場合は、現地語の習得が必須となる場合が多い。現地語での会話力や読解力が乏しい場合、下記の文献調査や聞き取り調査で重大な支障を招くことがある。
    調査期間も、日帰りから数年に及ぶ長期滞在型まで幅広い。社会人類学者の中根千枝は、異文化社会のフィールドワークの場合、その社会におけるライフサイクルを把握するため、そして、その社会で起こるイベント(出来事、祭礼儀式など)を調査者が見逃す場合があるため、最低2年の現地滞在が必要であると指摘している[6]
  • 文献調査
    現地での調査に先立って、書斎研究室内で行われる文献研究・文献調査もフィールドワークの重要な部分である。予備的に調査対象の概要を把握しておくためである[7]
    実際に現地を訪れて収集した情報(古文書などの文献史料)の検討や評価にあたっては、その文献の所有者からの聞き取りによって、付随的な情報を収集しておくことも重要である。それ以外にも、現地における文献収集として、地方出版物や地方新聞・現地語新聞のバックナンバーなどを現地の図書館などで収集する活動も含まれる。
  • アンケート調査

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  • 参与観察

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  • 聞き取り調査
    現地での聞き取り調査では、当該地域における有力者や、土地の事情に詳しい人(事情通)が有力なインフォーマントになる可能性は高いが、客観性に耐えうる情報を収集する場合には、彼らによって提供される情報の精査(時系列的な正確性やインフォーマントの主観的意見との峻別など)が必要である。これらの人々に限らず、フィールドワークにおいて、いかに良質の情報提供者や調査協力者を確保できるかは、時としてその調査の成否を大きく左右する[8]。なお、聞き取りについてはインタビューの項を参照。
  • 調査報告書
    フィールドワークの主要な成果は、それにもとづいて完成された報告書(一例として民族誌など)によって問われることになる。

フィールドワークを重視する学問分野

動向

  • 上記に挙げたフィールドワークを重視する学問分野以外にも、経済学文学などでフィールドワークが重視され、広範な分野の学問にこの技法が導入されるようになった[9]
  • 近年、フィールドワークという研究手法が広く発達・普及し、より包括的にその特性を捉えるのが困難になっているという兆候がみられる。また、「フィールドワーク」という用語が専門的な研究以外にも(やや安易に)用いられるようにもなった。そこで、「フィールドスタディ」(field study、複数形でstudiesとも)という表現も現れるようになった。

脚注

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参考文献

関連項目

外部リンク

  • Malonowski,B., Argonauts of the Western Pacific, London : Routledge and Kegan Paul, 1922.(寺田和夫ほか訳 「西太平洋の遠洋航海者」、泉靖一編 『マリノフスキー・レヴィ=ストロース』、中央公論社<世界の名著59>、1967年)。
  • 佐藤郁哉 『暴走族のエスノグラフィー』、新曜社1984年
  • Evans-Pritchard, The Nuer, Oxford : Clarendon Press, 1940.(向井元子訳 『ヌアー族』、岩波書店、1978年)
  • Raymond Firth, We, the Tikopia, London : George Allen and Unwin, 1936.
  • 九学会連合編 『漁民と対馬 - 共同研究』、関書院、1952年。
  • 中根、1987年、22頁以下。
  • 佐藤、1992年、123-128頁。
  • 佐藤、1992年、140-145頁。
  • その一例として、経済学者中西徹によるフィリピンスラム経済に関する研究(1991年)、を参照。