ワイルドカード (スポーツ)
ワイルドカード(wild card)は、スポーツ競技における追加の特別参加枠(制度)、もしくはその対象のこと。主にプレーオフで地区優勝チーム以外に与えられる追加枠を指す。
- 人気のあるプレーオフの試合数を増やして収入を上げる
- 各組の1チームが独走した後半にも興味を持続できるようにする
- 組別のレベル差による順位の逆転(ある地区の2位が他地区の1位より勝率が高い時など)を補う
ことを目的に導入される。
メジャーリーグベースボール
通常、レギュラーシーズンでアメリカンリーグ、ナショナルリーグの各々リーグは東地区、中地区、西地区の3地区制で地区1位3チームが自動的にプレーオフに進むが、それに加えて各々リーグの3地区の2位以下になったチームの中で、勝率の高い順に2チームをワイルドカードゲーム(後述。日本では『PO進出決定戦』とも表記される)で戦わせ、その勝者がプレーオフに進出する。そのチーム、もしくはそれによるプレーオフ出場権利をワイルドカードと呼ぶ。
1995年シーズンから導入されたが、
- 1995年から2011年までは勝率の最も高い1チームを対象としていた。
- 2012年からはワイルドカードのノミネートを2チームに増やし、このノミネート球団同士で1試合のワイルドカードゲーム(対象2球団のうちで勝率が高いチームの本拠地で開催)を行い、勝利したチームがディビジョンシリーズに出場するという制度になった。
なお、上記2期間とも共通の規定として、同勝率で並んだ場合には一発勝負の「タイ・ブレーク」にて進出チームを決定している。(開催地は両チーム本拠地からくじで選ぶ。)なお、このタイ・ブレークの結果はレギュラーシーズン扱いとなり、個人成績もシーズン記録に算入される。タイ・ブレークは、ワイルドカードへの進出争い[1]、ワイルドカードゲームへの進出争い[2]で行われる場合だけでなく、地区同率1位同士の決定戦として行われることもある。(例:2009年のアメリカンリーグ中地区は、勝ったほうが地区優勝、敗れたほうはワイルドカードからも脱落という条件にて公式戦163試合目の「タイ・ブレーク」が戦われた。)[3]
両リーグとも地区ごとにレベル差があるため、ある地区の2位チームが別の地区の1位チームより勝率が上回るケースがある。ワイルドカードはそのような場合の2位チームへの救済措置として設けられている。
1997年、ナショナルリーグのフロリダ・マーリンズが初めてワイルドカードからワールドシリーズを制した。また、2000年代に入ってからは毎年のようにワイルドカードのチームがワールドシリーズに進出しており、2002年にはアメリカンリーグのアナハイム・エンゼルス、ナショナルリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツ(新庄剛志が日本人初のワールドシリーズ出場達成)がともにワイルドカードから勝ち進み、史上初のワイルドカード同士の頂上決戦が行われた。
一方で、ポストシーズンにおいて地区優勝チームもワイルドカードのチームも対等に扱われる点には従来から批判があった[4]。特に1997年以前はプレーオフのホーム開催権があらかじめ決められており、地区優勝争いをしている2チームが共にポストシーズン進出が決まると、その2チームのモチベーションが低下するという弊害も生んでいた。この一例が1996年のナショナルリーグ西地区であり、この年はサンディエゴ・パドレスとロサンゼルス・ドジャースが優勝争いをしていたものの、両チームともプレーオフに進めることが決まっていたために優勝争いが盛り上がらず、両チームは地区シリーズで共に3連敗を喫した。この対策として、1998年からは地区優勝チームのうち通算成績のよい方(同一の場合は直接対決に勝ち越した方)にホームアドバンテージが与えられることになった。また、2012年からはワイルドカードゲームという関門が設けられた事により、地区1位で通過せねばならないというモチベーションが高まった。
NFL
NFLは1970年度に AFL-NFL間の合併を完了。ディビジョン構成の再編をはじめとする様々な変更が行われ、その一つとしてプレーオフにワイルドカードが導入された。これがプロリーグにおける最初のワイルドカード制度である。その後ワイルドカードの本数は、チーム数の増加・ディビジョン構成の変更などの影響を受けつつ度々変更されている。
年度 | チーム数 | ディビジョン数 | ワイルドカード |
---|---|---|---|
1970-75 | 26 | 3 (×2) | 1 (×2) |
1976-77 | 28 | ||
1978-89 | 2 (×2) | ||
1990-94 | 3 (×2) | ||
1995-98 | 30 | ||
1999-01 | 31 | ||
2002- | 32 | 4 (×2) | 2 (×2) |
現在では、AFC・NFCそれぞれのカンファレンスにおいて、各ディビジョン1位の4チームと、残りチーム中の上位の2チームがワイルドカードとしてプレーオフに進む方式となっている。ワイルドカードはシード順で5・6位であり、たとえ他のディビジョンの1位チームより好成績であっても4位以上のシード順が与えられることはない。リーグが32チーム構成となった2002年度以降では、2本目のワイルドカードとなるのは例年おおむね10勝6敗程度の成績のチームであり、これがプレーオフ進出の足切りラインとなっている。
NFLにおいては、ワイルドカードのチームがプレーオフを勝ち上がって行くのはかなり難しい。これは以下のような理由による。
- そもそも、プレーオフ参加チームの中で成績下位のチーム(第5・6シード)である。
- プレーオフの試合は、スーパーボウルを除きシード順で上位のチームのホームで開催される(ワイルドカードのチームがホームで戦えるのは、カンファレンス チャンピオンシップでワイルドカード同士の対戦となった場合のみである)。
- プレーオフの対戦カードは、シード順で上位のチームほど楽となるように組まれる(ワイルドカードは常に強豪との対戦を強いられる)。
- 先にプレーオフ進出を決めたチームや、1回戦免除の第1・2シードなどと異なり、通常最後にプレーオフ進出の決まるワイルドカードは日程的な余裕がない。
別の言い方をすれば、NFLのプレーオフは明確なハンデ戦である。上位シードにはホームでの開催権と1回戦の免除という優遇措置が施され、ワイルドカードなどの下位シードより有利な条件で戦うことになる。これにより、シーズン終盤 先にプレーオフ進出を決めたチームによる、さらに優良な条件を求めての順位争いを成立させている。
ワイルドカードが導入されてから1996年までの27年間、ワイルドカードからのスーパーボウル制覇は第15回スーパーボウルのオークランド レイダース(1980年度)による1回のみであった。しかし近年、プレーオフの構成変更や戦力均衡化の結果、ワイルドカードからスーパーボウル制覇を達成する例が多く見られるようになってきた(1997-2010の14年間で5回:XXXII・XXXV・XL・XLII・XLV)。ワイルドカードがスーパーボウルから最も遠い存在であることに変わりはないが、少なくとも「ワイルドカードからスーパーボウルに進出するのは至難」とする考えは過去のものになりつつある。
NBA
NBAでは東西両カンファレンスにおいて、各ディビジョン1位の3チームに加えて、それらを除くカンファレンス内における勝率上位5チームのワイルドカードがプレーオフに進出する。シード順を決める際、最上位のワイルドカードだけはディビジョン チャンピオンと同等に扱われる(2~4位シードのどれかとなる)。
なお NBA においては、“ワイルドカード”という表現はあまり使われない(シード順で呼ぶことが多い)。
サッカー
FIFAワールドカップのヨーロッパ予選と欧州選手権の予選で、各グループ1位が本大会に出場できるが、大会によっては各グループ2位の中で、成績上位優秀者がプレーオフに回らず、そのまま各グループ1位と同等に共に本戦に出場することがある。それ以外に「ベスト・ランナーアップ」と呼ばれることもある。
また1994年アメリカ大会やワールドユースなどは各組の上位2チームと3位の一部が次のラウンドに進むというルールがあるが、これもワイルドカードの一種である。
韓国のプロサッカー(Kリーグ)では、2006年まで14チームによる年間2回総当り。それを1回ずつに区切って前期と後期に分けて各ステージの1位チームと、それを除く年間通算成績上位2チームが決勝トーナメントに進出できた。
アメリカのメジャーリーグサッカーでもこの制度があり、東西両地区の上位3チームずつに加え、地区に関係なくそれ以外から勝ち点の上位4チーム(2010年までは2チーム)がMLSカップ(プレーオフトーナメント)にこまを進める方式となっている。2011年からはまずワイルドカードのノミネート4クラブで1回戦を行い、その勝者が2回戦に勝ちあがる。
モータースポーツ、自転車競技
ロードレース世界選手権(MotoGP)やUCIプロツアーなど、一部のモータースポーツカテゴリーや自転車のロードレースでは、本来シーズンフル参戦の選手しか参加を認められないレースについて、各レースの主催者の推薦により特にスポット参戦を認める場合があり、そのことをワイルドカードと呼ぶ(そのため、日本語では「主催者推薦枠」と訳されるのが一般的)。
多くの場合は当該レースを開催する国の選手が選ばれるが(例えばMotoGPの日本グランプリの場合は、通常全日本ロードレース選手権の当該クラスでシリーズランキング上位のライダーが選ばれることが多い)、推薦枠に余裕がある場合は、翌シーズン以降のフル参戦を目指すメーカーや選手がテスト参戦目的でワイルドカードを利用しスポット参戦することもある。
テニス
大会の出場選手は世界ランキングにより決められるが、ランキングが足りない選手を数人ワイルドカード(主催者推薦)で出場させることができる。地元の若手選手や故障明けの人気選手に使用されることが多い。2001年ウィンブルドン選手権でゴラン・イワニセビッチが唯一のワイルドカードによる出場で4大大会のシングルス優勝を達成している。
その他の競技
陸上競技の100m走などの短・中距離走の決勝戦以外にあり、各組で無条件で自動的に進出できる順位に入れなくても、記録次第で次回戦に進められる。例えば、決勝に進む8人を争う準決勝が3組に分けて行われる場合に、各組の上位2人に加え、各組の3位以下より記録上位の2人が決勝に出場するようなケースである。競技者には一般的に「プラス」と呼ばれる。純粋に記録だけで次回戦に進む競技者を選ぶようなシステムにしてしまうと、気象条件によっては風等記録に直結しやすい要因が組ごと違い、有利・不利が生じる可能性もあるため、このような仕組みをとることがオリンピック・世界選手権のような大会でも一般的である。
バスケットボールワールドカップやバレーボールワールドカップ・ワールドグランドチャンピオンズカップでの出場枠は、開催地と各地区予選を勝ち抜いたチームの他、各地区予選で敗退しても、連盟・大会組織委員会から1~数チーム推薦される。この推薦枠をワイルドカードと呼んでいる。