山形浩生

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山形 浩生(やまがた ひろお、1964年3月13日 - )は、日本の評論家翻訳家野村総合研究所研究員。

略歴

東京都出身。小学校1年生の秋から約1年半、父親の海外勤務でアメリカに居住する。麻布中学校・高等学校卒業後、東京大学理科Ⅰ類入学。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻を経て、野村総合研究所研究員となる。1993年からマサチューセッツ工科大学に留学し、同大学の不動産センター修士課程を修了する。1998年プロジェクト杉田玄白を創設する。

野村総合研究所で開発コンサルタントとして勤務する傍ら評論活動を行っている。また先鋭的なSFや、前衛文学、経済書や環境問題に関する本の翻訳を多数手がけている。

人物

中学時代、SFや漫画に興味があり[1]、予備校の合間に秋葉原へ行くなど、パソコン少年でもあった。橋本治岸田秀を愛読し、大きな影響を受ける。

東大在籍時、SF研究会で活動。柳下毅一郎と共に、バロウズの詳細なファンジンである『バロウズ本』を制作。これが話題となり、ペヨトル工房から、バロウズの翻訳を依頼される。大学卒業後もバロウズの翻訳を多数手がけるだけでなく、鮎川信夫に一定の評価をする外は従来のバロウズの翻訳を罵倒し、改訳を多数行っている。「たかがバロウズ本」などの研究書を出版するなど、バロウズの日本への紹介者の一人として知られる。

マサチューセッツ工科大学の本屋で見つけた経済学者ポール・クルーグマンの著作に傾倒、のちに翻訳を手がける[2]。クルーグマンの翻訳で名前が知られるようになり、以後クルーグマン以外の経済書の翻訳も手がけている。1998年にはクルーグマンによる、日本経済復活の処方箋としてインフレ期待醸成の重要性を指摘した「日本のはまった罠」を翻訳[3]し、日本におけるインフレ調整論やリフレ政策などの先鞭をつけた。

オープンソースコピーレフトの活動に参加しており、ローレンス・レッシグの翻訳、オープンソースやLinuxに関する著書、訳書も多数手がけている。また、自身の翻訳や著作の多くも、フリーで公開している。

ポストモダン哲学や現代思想などニューアカ的・文化左翼的なものを批判することが多い[4]。また訳書における「訳者解説」でも、しばしば内容の解説を飛び越えて著者の間違いの指摘、関連する論者を名指しした厳しい批判を行う。

それが問題になることもあり、SF評論家の小谷真理の著作をパートナー(小谷の実の)の巽孝之が代筆している(ほどそっくりである)と揶揄したため[5]、小谷から抗議を受け、訴訟を起こされて敗訴している。また、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を批判した際には、抗議を受けてサイト上に謝罪文を掲載。『ハッカー宣言』の室井尚による書評と、それに関連して室井による反喫煙論批判を批判し、室井と共に小谷野敦からもコメントが来た[6]

また、『知の欺瞞』ローカル戦として浅田彰構造と力』におけるメタファーとしてのクラインの壺モデルを間違いだと批判した[7]。この批判については、大阪大学数学教室のトポロジスト菊池和徳が浅田は間違っていないとする異論を唱え、[8]山形も掲示板で自らの間違いを概ね認めた。[9]

思想的にはリバタリアニズムの傾向がある。環境政策への疑問を唱えることが多く[10]地球温暖化に対してはブッシュ政権の京都議定書離脱を支持する。環境問題については、「短期の変動に大騒ぎせず、長期的なデータをもとに最善の判断を下す」[11]ことが重要だと主張している。ただし、他の温暖化懐疑論者とは異なり、気候変動に関する政府間パネルの科学的正当性は概ね認めてはいる。

チベット問題に関しては、公式サイトの訳者コメント[12]においてチベット亡命政府を「チベットが経済支援なしでずっと貧しいままのほうがよかったとでも言うつもり?」と批判している。

著書

単著

  • 『新教養主義宣言』晶文社 1999年12月 のち河出文庫 
  • 『山形道場―社会ケイザイの迷妄に喝!』イーストプレス 2001年3月 『要するに』河出文庫
  • 『コンピュータのきもち 新教養としてのパソコン入門』アスキー 2002年10月
  • 『たかがバロウズ本。』大村書店 2003年2月
  • 『新教養としてのパソコン入門 コンピュータのきもち』アスキー新書 2007年7月

共著

  • 井上トシユキ 神宮前.org『2ちゃんねる宣言 挑発するメディア』文藝春秋、2001年
  • 『集客』六耀社 2003年2月(文とインタビュー、ハイナー・シリング写真)


訳書

  • H・R・ギーガー『バイオメカニクス』トレヴィル(リブロポ-ト)1989年2月
  • ティモシー・リアリーロバート・アントン・ウィルソン、ジョージ・A・クープマン『神経政治学 人類変異の社会生物学』リブロポート 1989年5月
  • ウィリアム・S・バロウズ『ソフトマシーン』ペヨトル工房 1989年8月(柳下毅一郎共訳)のち河出文庫 
  • バロウズ『おかま クィーア』ペヨトル工房 1989年11月(柳下毅一郎共訳)
  • フィリップ・K・ディック『死の迷路』創元推理文庫 1989年12月
  • バロウズ『映画ブレードランナー』リブロポート 1990年1月
  • 『キング・インク ニック・ケイヴ詩集』思潮社 1990年3月
  • バロウズ『ワイルド・ボーイズ(猛者) 死者の書』ペヨトル工房 1990年6月
  • ヴィクター・ボクリス編『ウィリアム・バロウズと夕食を バンカーからの報告』思潮社 1990年12月(梅沢葉子共訳)
  • フィリップ・K・ディック『暗闇のスキャナー』創元SF文庫 1991年11月
  • バロウズ『バロウズという名の男』ペヨトル工房 1992年10月
  • バロウズ『ダッチ・シュルツ 最期のことば』白水社 1992年12月
  • バロウズ『おぼえていないときもある』ペヨトル工房 1993年1月(浅倉久志、柳下毅一郎、渡辺佐智江共訳)
  • ブルース・タッカー『俺がJBだ!―ジェームズ・ブラウン自叙伝』JICC出版局 1993年3月(クイッグリー裕子,渡辺佐智江共訳)のち文春文庫 
  • P・J・オロ-ク『ろくでもない生活』宝島社 1993年4月
  • エイミー・ショールダー、アイラ・シルヴァーバーグ編『ハイ・リスク―禁断のアンソロジー』白揚社 1993年7月(坂本徳子、渡辺佐智江共訳)
  • キャシー・アッカー『アホダラ帝国』ペヨトル工房 1993年7月(久霧亜子共訳)
  • ロバート・フランク『アメリカンズ ロバート・フランク写真集』宝島社 1993年12月
  • パティ・スミス『バベル』思潮社 1994年1月
  • ニック・ケイヴ『神の御使い』思潮社 1994年2月(渡辺佐智江共訳)
  • ヘンリー・ミラー『モロク(Sexual resistans)』Dai-X出版 1994年4月
  • マイケル・ブラムライン『器官切除(ライターズX)』白水社 1994年4月
  • バロウズ『内なるネコ』河出書房新社 1994年10月
  • ダリウス・ジェームズニグロフォビア(ライターズX)』白水社 1995年1月
  • ティモシー・リアリー『フラッシュバックス ティモシー・リアリー自伝』トレヴィル(リブロポート)1995年2月(久霧亜子共訳)
  • バロウズ『ノヴァ急報』ペヨトル工房 1995年3月
  • ドナルド・バーセルミ『シティ・ライフ』白水社 1995年11月
  • H・R・ギーガー『バイオメカニクス』トレヴィル(リブロポート)1996年2月
  • ベルナール・チュミ『建築と断絶』鹿島出版会 1996年3月
  • バロウズ『ゴースト』河出書房新社 1996年6月
  • ギーガー『フィルム・テザイン』トレヴィル(リブロポート)1996年12月
  • ウィリアム・T・ヴォルマン『蝶の物語たち』白水社 1996年12月
  • トーマス・K・ランダウァー『そのコンピュータシステムが使えない理由』アスキー 1997年4月
  • ジェフ・トランター『Linux マルチメディアガイド』オライリー・ジャパン(オーム社)1997年5月
  • レナード・C・リュイン『アイアンマウンテン報告 平和の実現可能性とその望ましさに関する調査』ダイヤモンド社 1997年7月
  • ルック・サント文『「オン・プラネット・アース」惑星地球にて・異世界の旅―ジャン・スタラー写真集』トレヴィル 1997年10月
  • マックス・アギレーラ・ヘルウェグ『セイクレッド・ハート―劇場としての手術侵襲的手術からみた身体図鑑』トレヴィル(リブロポート)1997年10月
  • バロウズ『夢の書 わが教育』河出書房新社 1998年5月
  • ブライアン・イーノ『A year』パルコ出版 1998年6月
  • ハーモニー・コリン『クラックアップ』ロッキング・オン 1998年10月(渡辺佐智江共訳)
  • ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』メディアワークス(角川)1998年11月 のち日経ビジネス人文庫、ちくま学芸文庫  
  • 『キング・インク ニック・ケイヴ詩集2』思潮社 1998年12月
  • エリック・レイモンド伽藍とバザール オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』光芒社 1999年9月 - 原文も翻訳もコピーレフトで提供されている。
  • ハンター・S・トンプソン『ラスベガス・71』ロッキング・オン 1999年10月
  • アラン・クーパー『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』翔泳社 2000年2月
  • ケン・スミス『誰も教えてくれない聖書の読み方』晶文社 2001年2月
  • ローレンス・レッシグ 『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』翔泳社 2001年3月(柏木亮二共訳)
  • ペッカ・ヒマネンリナックスの革命 ハッカー倫理とネット社会の精神』河出書房新社 2001年5月(安原和見共訳)
  • ブルース・シュナイアー『暗号の秘密とウソ ネットワーク社会のデジタルセキュリティ』翔泳社 2001年10月
  • クリストファー・ロック『ゴンゾー・マーケティング』翔泳社 2002年7月
  • レッシグ 『コモンズ The Future of Ideas ネット上の所有権強化は技術革新を殺す』 2002年11月
  • ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』朝日出版社 2003年6月 のちフロンティア文庫、文春文庫  
  • シュナイアー『暗号技術大全』ソフトバンククリエイティブ 2003年6月 (監訳)
  • ビョルン・ロンボルグ『環境危機をあおってはいけない―地球環境のホントの実態』文藝春秋、2003年6月
  • クルーグマン、ラルス・E・O・スヴェンソン『クルーグマン教授の〈ニッポン〉経済入門』(編訳)春秋社 2003年11月
  • ダン・バートン『リトル・ハッカー 「ハッカー」になった子供たち』翔泳社 2003年12月 (守岡桜共訳)
  • スティーブン・ジョンソン『創発 蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』ソフトバンククリエイティブ 2004年3月
  • レッシグ『フリー・カルチャー Free Culture―いかに巨大メディアが法をつかって創造性や文化をコントロールするか』2004年7月(守岡桜共訳)
  • イアン・ワトソン『エンベディング(未来の文学)』国書刊行会 2004年10月
  • ギーガー『ネクロノミコン(Pan-exotica)』1-2、エディシオン・トレヴィル(河出書房新社)2005年
  • ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』朝日出版社 2005年3月
  • 水戸芸術館アーキグラムの実験建築1961-1974』ピエ・ブックス 2005年4月
  • セシル・バルモンド『インフォーマル』TOTO出版 2005年4月 (金田充弘共訳)
  • ダニエル・C・デネット『自由は進化する』NTT出版 2005年6月
  • ハリー・G・フランクファート『ウンコな議論』筑摩書房 2006年1月
  • ハーバート・ジョージ・ウェルズ『タイムマシン』フロンティア文庫・フロンティアニセン 2005年3月
  • ロバート・J・グーラ『論理で人をだます法』朝日新聞社 2006年3月
  • ジョージ・エインズリー『誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか』NTT出版 2006年9月
  • スティーブン・ジョンソン『ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている』翔泳社 2006年10月 (乙部一郎、守岡桜共訳)
  • スティーブン・ウェバー『オープンソースの成功 政治学者が分析するコミュニティの可能性』毎日コミュニケーションズ 2007年2月 (守岡桜共訳)
  • バロウズ,アレン・ギンズバーグ『麻薬書簡 再現版』河出文庫 2007年9月
  • ポール・ポースト『戦争の経済学』バジリコ 2007年11月
  • イアン・エアーズ『その数学が戦略を決める』文藝春秋 2007年11月 のち文庫 
  • レッシグ『Code(version2.0)』翔泳社 2007年12月
  • フィリップ・ショート『ポル・ポト ある悪夢の歴史』白水社 2008年2月
  • デニス・T・エイヴァリー、S・フレッド・シンガー『地球温暖化は止まらない』東洋経済新報社 2008年2月(守岡桜共訳)
  • パトリック・ロスファス『風の名前―キングキラー・クロニクル 第一部』白夜書房 2008年6月(渡辺佐智江、守岡桜共訳)
  • ロンボルグ『地球と一緒に頭も冷やせ!温暖化問題を問い直す』ソフトバンククリエイティブ 2008年7月
  • スタンレー・ミルグラム『服従の心理』河出書房新社 2008年11月 のち文庫 
  • チャールズ・レッドビーター『ぼくたちが考えるに、―マスコラボレーションの時代をどう生きるか?』エクスナレッジ 2009年1月(守岡桜共訳)
  • コナー・オクレリー『無一文の億万長者』ダイヤモンド社 2009年2月(守岡桜共訳)
  • スーザン・ブラックモア『「意識」を語る』NTT出版 2009年3月(守岡桜共訳)
  • ハロルド・ウィンター『人でなしの経済理論-トレードオフの経済学』バジリコ 2009年4月
  • ジョージ・アカロフ、ロバート・シラー『アニマルスピリット』東洋経済新報社 2009年5月
  • フランク・ロイド・ライトの現代建築講義』白水社 2009年12月
  • レッシグ『Remix: ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方』翔泳社 2010年2月
  • 「歌」を語る 神経科学から見た音楽・脳・思考・文化 ダニエル・J.レヴィティン ブルース・インターアクションズ P-vine books, 2010.11.
  • そしてカバたちはタンクで茹で死に ジャック・ケルアック/ウィリアム・バロウズ 河出書房新社, 2010.5
  • 〈反〉知的独占 特許と著作権の経済学 ミケーレ・ボルドリン/デヴィッド・K.レヴァイン 守岡桜共訳. NTT出版, 2010.10.
  • 非才! あなたの子どもを勝者にする成功の科学 マシュー・サイド 守岡桜共訳. 柏書房, 2010.5
  • 毛沢東 ある人生 フィリップ・ショート 守岡桜共訳. 白水社, 2010.7.
  • アイデンティティ経済学 ジョージ・A.アカロフ/レイチェル・E.クラントン 守岡桜共訳 東洋経済新報社 2011.8.
  • 海賊の経済学 見えざるフックの秘密 ピーター・T.リーソン NTT出版, 2011.3.
  • ケインズ雇用と利子とお金の一般理論 要約・訳. ポット出版, 2011.11
  • この世で一番おもしろいミクロ経済学 誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講 ヨラム・バウマン ダイヤモンド社, 2011.11.
  • プランB 破壊的イノベーションの戦略 ジョン・マリンズ/ランディ・コミサー 文藝春秋, 2011.8.
  • ぼくらはそれでも肉を食う 人と動物の奇妙な関係 ハロルド・ハーツォグ 守岡桜・森本正史共訳 柏書房, 2011.6.
  • 99%の反乱 ウォール街占拠運動のとらえ方 サラ・ヴァン・ゲルダー『YES! Magazine』編集部編 守岡桜・森本正史共訳 バジリコ, 2012.1.
  • この世で一番おもしろいマクロ経済学 みんながもっと豊かになれるかもしれない16講 ヨラム・バウマン ダイヤモンド社, 2012.5.
  • 雇用、利子、お金の一般理論 ジョン・メイナード・ケインズ 2012.3. 講談社学術文庫
  • 貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える A・V・バナジー/E・デュフロ みすず書房, 2012.4.
  • トロツキー(上下)ロバート・サーヴィス 守岡桜共訳 白水社 2013.3.

英語訳書

  • 楠本まき『エッグノッグ』祥伝社 2004年11月 ISBN 439646004X
  • 日野日出志『Hell Baby』 Blast Books 1995年1月 ISBN 0922233128

DVD等

  • アーキグラム・ムービーズ!』アップリンク(字幕翻訳担当)
  • 『ウィリアム・S・バロウズ ザ・ファイナル・アカデミー・ドキュメンツ』トランスフォーマー 2008年4月(監修担当)

脚注

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  1. 山形浩生インタビュー 山形浩生はいかにして作られたか より
  2. 公式サイトにおいてクルーグマンの論文の翻訳、The Economistの記事の翻訳などを公開している。クルーグマンの著作『The Age of Diminished Expectations』などを翻訳。
  3. テンプレート:Cite web
  4. そのためポストモダン哲学に批判を行ったアラン・ソーカルを評価している
  5. オルタカルチャー日本版』に収録
  6. 俺にからめよ山形浩生より
  7. テンプレート:Cite web
  8. テンプレート:Cite web
  9. http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/keijiban/e0015.html
  10. リバタリアニズム自体、環境保護に必須とも言える政府の規制やいわゆる「環境権」について否定的な立場を取る。また、現状の環境政策がコストの割に効果を挙げていないことも翻訳を通して指摘している。
  11. [1] ゴア『不都合な真実』評と対抗本
  12. チベットの未来Future Tibet" Frontline, 2007年7月27日号、pp.4-19 N.ラム著 山形浩生訳

関連項目

外部リンク