名古屋ボストン美術館

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テンプレート:博物館 名古屋ボストン美術館(なごやボストンびじゅつかん)は、愛知県名古屋市中区金山に所在する美術館アメリカボストン美術館の姉妹館。名古屋ボストン美術館自身は資料の収集・保有はせず、展示資料はすべてボストン美術館から借り受けるシステムとなっている。

美術館は金山駅前の金山南ビルの2フロアを使用。開館からしばらくは上のフロアを古代オリエント美術の常設展としていたが現在は廃止し、企画展用のスペース「オープンギャラリー」となっている。

沿革

  • 1991年平成3年)11月 名古屋商工会議所が「名古屋ボストン美術館設立準備委員会」(委員長 加藤隆一名古屋商工会議所会頭)設置を決める。
  • 1995年(平成7年)8月 美術館を運営する名古屋国際芸術文化交流財団の設立発起人会が開催。
  • 1995年(平成7年)11月 財団法人の設立許可が下り、初代理事長には旧東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)元頭取の伊藤喜一郎が就任。
  • 1995年(平成7年)12月 アメリカのボストン美術館との間で「名古屋ボストン美術館」の設立契約が結ばれる。
  • 1996年(平成8年)2月 美術館が置かれる「金山南ビル」の建設が始まる。
  • 1998年(平成10年)11月 「金山南ビル」完成。
  • 1999年(平成11年) 美術館開館。
※名古屋ボストン美術館ホームページ「名古屋国際芸術文化交流財団概要・沿革」より。

展覧会

2006年5月現在で、計14回の展覧会を開催している。

  • 第1回 モネ、ルノワールと印象派の風景
    バルビゾン派からゴーギャンゴッホシニャックまでの風景画。ルノワールの数少ない風景画[1]などの、貴重なコレクションを惜しみなく展示した。
  • 第2回 岡倉天心とボストン美術館
    天心周辺の日本画家の作品と、天心が在職中に収集した東洋美術品。ボストン美術館の中国美術コレクションは、西欧世界では屈指の規模。(天心収集の中国美術品[2]
  • 第3回 母なる大地の声―アメリカ・サウスウェストプエブロ・インディアン
    プエブロ陶器はボストン美術館のネイティブ・アメリカン・コレクション[3]の中核。
  • 第4回 レンズがとらえた20世紀の顔―カーシュ写真展
    カーシュ(en:Yousuf Karsh 1908-2002)はカナダの肖像写真家。ボストン美術館の写真コレクション[4]の歴史は長く、スティーグリッツの自作の寄贈(1924年)に始まる。
  • 第5回 紅茶とヨーロッパ陶磁の流れ―マイセン、セーブルから現代のティー・セットまで
    ボストンはながらく、ヨーロッパ船との交易で財をなしてきた街。かつての富裕層の収集品が数多く寄贈されてきた。(ボストン美術館所蔵のヨーロッパ・デコラティブ・アート[5]
  • 第7回 ミレー展
    ピューリタン文化がかつての富裕層の共通基盤であったアメリカにあって、質素、勤勉、自足をイメージさせるミレー作品の人気は根づよい。ボストンはミレー・ブームの先駆けの地であり、ボストン美術館は本国外では最大規模のコレクションを誇る。ボストンの財はミレー晩年の生活を支えていた。(Wikimedia commons『種まく人』1850年[7]
  • 第8回 時を超えた祈りのかたち―アジアの心、仏教美術展
    ボストン美術館の「目玉」は日本美術であるとともに、東洋美術でもある。地理的にはアジア全域、歴史的には2000年を超えるスパンで秀逸な仏教美術品が収集されている。
  • 第9回 ボストンに愛された印象派
  • 第10回 ドイツ・ルネサンス版画の最高峰―デューラー版画展
    デューラーレンブラントゴヤなどは版画の大家でもある。この分野でもボストン美術館は充実したコレクションを誇る。デューラーを600点所蔵というのは桁外れの規模である。(ボストン美術館所蔵のデューラー版画作品[8]
  • 第11回 ドラクロワからムンクまで―19世紀ヨーロッパ絵画の視点
  • 第12回 レーン・コレクション アメリカンモダニズム―オキーフとその時代
    戦間期のモダニズム時代に活躍していたアメリカ作家の、とくに具象系の作品は、抽象表現主義を消化してすでに久しい今日の目から見た方がかえって新鮮に映る。ボストン美術館にしてはむしろ手薄な領域であったが、1980年代以降、拡張されつつある。(レーン・コレクション[9]
  • 第13回 ボストン美術館の巨匠たち―愛しきひとびと
    ルノワールの代表作中の代表作『ブージヴァルのダンス』[10]は待ち望まれた出品。
  • 第14回 花鳥画の煌き―東洋の精華
    徽宗の『五色鸚鵡図』[11]は、中国に残っていれば国宝指定はほぼ間違いない。1933年、富田幸次郎(後述)が日本で購入した。

存続問題

米国のボストン美術館との姉妹館契約は20年間で、契約満了前に更新するかどうかを検討するとの内容だった。しかし、契約内容は名古屋側に展示品の選定権が無く、ボストンの所蔵品と他の美術品を一緒に展示できないなど、名古屋側に不利な内容となっており、企画立案の足かせとなった。さらに、開館後20年間でアメリカ側へ約5千万ドルを寄付することも義務付けられていた。

開館初年度の1999年(平成11年)の入館者数は70万3,000人を記録したものの、翌年度以降は年平均20万人と、当初予測していた平均33万人を下回り、慢性的な赤字が続いた。その結果、開館10年にして中部財界が拠出した設立・運営資金75億円は底をつき、アメリカ側へ後半10年間で支払う寄付金37億円が残った[1]2002年(平成14年)には研究部門の学芸部を廃止。開館から10年目にして閉館との報道が流れる。[2]

2005年(平成17年)3月23日、運営主体の名古屋国際芸術文化交流財団の理事長に就任した小笠原日出男(UFJ銀行名誉顧問、名古屋商工会議所副会頭)は、存続を前提に努力すると記者会見。地元財界や愛知県、名古屋市など関係団体に協力を求めるとともに、アメリカ側とも、寄付金の減額など契約内容の変更を求めて交渉すると述べた[3]

財団は、まず2009年度からの後半10年の契約について、寄付金の残金37億円を17億円へ減額することでアメリカ側と合意。次に、今後10年間の収支見込み全体では、支出予測から収入予測を差し引くと、なお55億円の不足が予想されることから、地元経済界に対し35億円の支援を、愛知県と名古屋市には、市と県が15億円ずつ拠出していた経営安定化基金30億円を取り崩し、県と市でそれぞれ10億円、合計20億円の支援を要請した。

美術館開館設立に先立つ1996年(平成8年)1月に、財団と愛知県、名古屋市の間で交わした覚書では、経営安定化基金は美術館解散の時には県と市に寄付すると決められ、取り崩しを禁じ、赤字の補填も要請しないとされていたが、2006年(平成18年)3月23日の名古屋市議会経済水道委員会で議論の末に支援が可決された。松原武久名古屋市長は「これが最後の支援と認識している」と述べた[4]

また、アメリカ側との交渉では、原則として米国ボストン美術館の展示に合わせていた企画展に関し、名古屋側が独自に委員会を設け内容を決定して開催できるように変更。著名な芸術家など魅力的な企画展の開催と、地元に密着した展示物の増加、子供の教育に関係した展示の拡大を図り、従来はアメリカ側の許可が必要だった展示室の利用を1部に限り名古屋側が自由に使えるような契約内容の変更も合意され、ひとまず2018年までの存続が決定した[5]

2006年(平成18年)9月に学芸部を復活し5名の学芸員を配置。同年10月に馬場駿吉が館長に就任した[6]

その他

2013年10月19日~12月1日 日本画を彩った巨匠たち~大観、栖鳳、珠子~北海道立近代美術館名品選では、ボストン美術館収蔵品ではない作品のみの展覧会が初めて催された。(これまでもボストン美術館収蔵品でない作品展示は有ったが、一部であり、展覧会作品全部がボストン美術館収蔵品でないのは今回が初。)

  1. 『日本経済新聞』2007年3月31日付
  2. 美術館運営・管理学の岩淵潤子は、朝日新聞の取材に応じ、名古屋ボストン美術館の姿勢を批判して次のように述べた。「美術館は入場料収入だけで賄える施設ではありません。開館時すでに不況で、これほど不平等な契約では赤字拡大は予測できたはず。美術館は一度つくったら続ける義務があるとの考えが無かったのかと疑いたくなります」。学芸部の廃止については、「運営する財団がハコさえあればいいと表明したわけで、美術館は学芸員がつくるものだという発想が無い。施設の根幹に関わる問題です」と述べた。「名古屋ボストン美術館閉館へ 文化資源生かす観客育たず-静岡文化芸術大・岩淵潤子助教授に聞く」『朝日新聞(夕刊)』2003年8月9日付12面
  3. 名古屋ボストン美術館「閉鎖は視野にない」小笠原新理事長」『中日新聞』2005年3月24日付。
  4. 「ボストン美術館支援へ 名古屋市基金取り崩し方針 存続確実に」『毎日新聞(夕刊)』2006年3月23日付
  5. 『日本経済新聞』2007年3月31日付
  6. 名古屋千種ロータリークラブ、2006-2007年度例会卓話集、馬場駿吉「名古屋ボストン美術館のこれまでとこれから」2007年3月20日。※名古屋千種ロータリークラブのホームページ上の“gallery”をクリックすると2006-2007年度例会卓話集へつながり、各人の講演要旨が閲覧できる。

関連項目

外部リンク

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