ポルシェ・924

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ポルシェ924Porsche 924 )は、ポルシェ1975年に発売した2+2乗り、FRレイアウトのスポーツカー

テンプレート:Infobox 自動車のスペック表

924

ファイル:1976 Porsche 924.jpg
ポルシェ・924(1976年型)
ファイル:Martiniporsche.jpg
ポルシェ・924(1977年型)

ポルシェ一族から1972年に経営を引き継いだエルンスト・フールマンの元、新世代ポルシェとして設計された。マーケティング上ではポルシェ・914の後継車種である。

当初はフォルクスワーゲン(VW)との共同開発で「フォルクスワーゲン・アウディ・スポーツ」として開発が進められていた。部品共有によるコストダウン、VWの生産ラインを使用することでの量産化等が前提であったが、同社の経営陣の交代による開発打切りにより最終的にポルシェが案件を買い取り独自商品として発売されることとなった。生産はNSUの本拠地であったアウディネッカーズルム工場に委託された。

1975年に発売が開始され、先代のポルシェ・914と同じく、ポルシェ・911よりも下の市場を狙った。価格もポルシェ・911よりも安く設定された。1978年にはターボチャージャーを用いた高性能版924ターボが追加された。

前後ブレーキ(前ディスク、後ドラム)はフォルクスワーゲン・K70から、ドライブシャフトはフォルクスワーゲン・タイプ181から、フロントサスペンション(ストラット部)、ステアリング系統、ヒーターユニット等はフォルクスワーゲン・ゴルフから、フロントサスペンション(ロアアーム部)はフォルクスワーゲン・シロッコから、リアサスペンションはフォルクスワーゲン・タイプ1から、エンジンはアウディ・100からなど、フォルクスワーゲンアウディ各車の部品を多数流用してコストダウンを図ったのも特徴的であるが、その部品の選択と組み合わせは深く吟味され、当時としては第一級のスポーツカーに仕立てられた。

量産車の部品を多用していることから一部には「本物のポルシェではない」と揶揄する声もあったが、安価でかつ安定供給される量産車の部品を多用しコストを抑えつつ高品質かつ高性能のスポーツカーを造るという思想はポルシェ生産車第一号のポルシェ・356からしてそうであり、その合理性はむしろ「ポルシェらしい」と言える。

開発の初期段階では部品共用化を考慮し、前輪駆動の採用が検討されたが、当時の前輪駆動技術ではポルシェの理想とする高度な操縦性の獲得が困難であるために断念された。先代のポルシェ・914では高度な操縦性の獲得のためミッドシップレイアウトが採用されたが、その結果それまでのポルシェ車の特徴であった+2のリアシートが設置できなくなり、トランクが前後に分かれるなど実用性の点でユーザーに不便を強いた。この反省から924の開発に当っては実用性も大いに重視し、実用性と操縦性を兼ね備えたFR(フロントエンジン、リアドライブ)のレイアウトを採用した。

基本構成はその後1983年登場のポルシェ・944を経て、1991年登場のポルシェ・968まで受け継がれた。

エンジン

ポルシェのそれまでの車種に採用していたミッドシップエンジンやリアエンジンではなくフロントエンジンとし、後輪を駆動した。

フォルクスワーゲン・LT(en:Volkswagen LT )用に開発されアウディ・100に用いられていた水冷直列4気筒OHV1,871ccエンジンをベースとしているが、ボアφ86.5×ストローク84.4mmで1,983cc[1]に拡大、コグドベルトによりSOHC化、ボッシュKジェトロニックインジェクションを装備するなど別物になっている。最高出力はヨーロッパ仕様で125PS/5,800rpm、16.8kgm/3,500rpm、日本仕様は51年規制に合格するため100PS/5,500rpm、15.6kgm/3,500rpmであった。アウディが生産し、その後シングルキャブレター115PSという仕様でアウディ・100にも搭載された。

1977年後半から日本仕様のエンジンの圧縮比が8.5に上げられて115PS/5,750rpm、15.9kgm/3,500rpmとなった。

トランスミッション

高度な操縦性を実現すべく重量配分は特に重視され、トランスミッションディファレンシャルギアを一体化し後輪車軸に直結する後輪トランスアクスル レイアウトを採り、重量配分を前後でほぼ同じとした。このトランスアクスルには、エンジン縦置きの前輪駆動車であるアウディ・100のトランスアクスルをほぼそのまま流用している。

発売当初は4速マニュアルトランスミッション(MT)のみの設定で、1977年後半に3速AT仕様が加わり、1978年にはMTが5速になった。

スタイリング

当時のチーフ、アントワーヌ・ラピーヌの元で若きハーム・ラガーイが担当した。リトラクタブルヘッドライトや曲面ガラスのリアハッチゲート等は当時斬新だった。様々なスポーツカー、スポーティーカーに多くのデザイン的影響を与え、その後マツダ・サバンナRX-7等類似デザイン車が氾濫した。

924ターボ

当時のポルシェのフラッグシップモデルであるポルシェ・928と、エントリーモデル924との、ラインナップ上の大きな隙間を埋めるために1978年に登場した924の高性能版。当初は911の後継車の本命と目されていた。

日本には三和自動車(現在のミツワ自動車)の手で1979年から輸入され、1983年上級車種ポルシェ・944の充実に伴い生産終了となった。

増大した出力に対処するため足回りも強化され、サスペンションは前後ともスタビライザーが追加され、ビルシュタイン製強化ダンパーが装備された。ブレーキは前後ともに通風式ディスクに改められ、ホイールは6J15inに、タイヤは185/70VR15にグレードアップされた。また16inホイールと205/55-16サイズのピレリP7タイヤが装着されたものもあった。

エンジン

アウディ製エンジンに拡大の余地がなくKKK製K26型ターボチャージャーを装着した。既存のエンジンにただターボチャージャーを装着するだけでなくシリンダーヘッドは新設計され、補機類の配置もそれまでの924とは異なるなどエンジン本体にも手が加えられた。またオイルクーラーも装着された。エンジン形式はM31/50型。

トランスミッション

5速MTのみ。ポルシェ自製となった。

スタイリング

外観はノーズ先端に4つのエアインテーク、フロントバンパー下にスリット、エンジンフード上にNACAダクトが設けられた。リアスポイラーが装備されたが、日本仕様では法規上許されず装備されなかった。

924S

ファイル:Porsche924S.JPG
ポルシェ・924S

924の進化版として1986年に本国で発売され、1987年日本にも輸入された。ブレーキはベンチレーテッドディスク。リアスポイラーを装備している。

エンジン

ポルシェ・944と同じ自社製の2,479cc、圧縮比9.5で155PS/5,500rpm、20.2kgm/3,000rpm、M44型エンジンを搭載している。インジェクションはボッシュLジェトロニック。

トランスミッション

5速MTと3速ATから選択。

スタイリング

リアにスポイラーが装備された。

評価

販売は順調に推移し、生産開始5年目の1981年2月4日には10万台目がラインオフした。これと比較しポルシェ・356は17年で総生産台数7万9千台に過ぎず、ポルシェ911は10万台生産まで12年掛かっている[2]

スポーツカーの命とも言える操縦性の面でも、リアエンジンレイアウトによるテールヘビーな重量配分から来る直進性の悪さや、オーバーステア特性の強い操縦性の克服に長年悩まされた上級車種911よりも、トランスアクスルレイアウトによる良好な重量配分を持つ924は先天的に高いポテンシャルを持ち、カレラGTを911モデルのレース専用車であるポルシェ・935から後任のレース専用車としてメーカーがスライドさせようとしていた。しかし元々のエンジンベイが小さく、パワーアップに限界がある事から、最終的にレースでの主力にはなり得なかった。

後期には日産・フェアレディZマツダ・RX-7などのより安価なライバルの台頭などにも悩まされたが、後の944や968の原型となり長寿を保つなど、ビジネス的にも車両の設計の面でも総じて成功であったと言える。

モデル

1975年

  • ポルシェ924 - 当初グレードはこれだけであった。

1976年

三和自動車(現在のミツワ自動車)の手で日本への輸入が始まった。

  • ポルシェ924 - 当時の日本での販売価格は4速MT仕様438万円。ノーマルは5.5J14inスチールホイール、165HR14タイヤ。
  • ポルシェ924S - 前後スタビライザー、強化ダンパー、6J14inアルミニウム合金鍛造ホイール、185/70HR14タイヤのスポーツキットや本革ステアリング、リアワイパーなどを装備したもの。当時の日本での販売価格は4速MT仕様488万円。

1977年

後半から日本仕様のエンジンの圧縮比が8.5に上げられて115PS/5,750rpm、15.9kgm/3,500rpmに強化され、3速オートマチックトランスミッションがオプション設定された。

  • ポルシェ924
  • ポルシェ924S

1978年

ターボが追加された。マニュアルトランスミッションがポルシェ製5速になった。

  • ポルシェ924
  • ポルシェ924S
  • ポルシェ924ターボ - ヨーロッパ仕様で170PS、25kgm、日本仕様はブースト圧0.7バールで150PS/5,500rpm、21.0kgm/3,500rpm。

1979年

  • ポルシェ924
  • ポルシェ924ターボ - 645万円。
  • ポルシェ924ターボS - 5穴16inアルミニウム合金鍛造ホイール、205/55のピレリP7タイヤ、928用ベンチレーテッドディスク、ビルシュタイン製サスペンションなどを装備した豪華版で710万円。

1980年

マニュアルトランスミッションがアウディ製5速になった。

  • ポルシェ924
  • ポルシェ924ターボ
  • 924カレラGT(1980年限定発売) - 1980年のル・マン24時間レースに参加し6位に入賞、同名のデチューンバージョンが400台市販され[3]、グループ4のホモロゲーションを取得した。日本に正規輸入されたのはシャシナンバー92ZBN700060の1台のみ[4]である。エンジンは1,983ccのM31/50型であるがピストンがカールシュミット製の鍛造になっており、インタークーラーも装備している。圧縮比は8.5、ボッシュKジェトロニックで210PS/6,000rpm、28.0kgm/3,500rpm[5]。ポリウレタン製オーバーフェンダーが装着され、そのデザインはポルシェ・944に踏襲された。スタビライザはフロントφ23mm、リアφ16mmに強化されている。

1981年

  • ポルシェ924
  • ポルシェ924ターボ - ヨーロッパ仕様177PS、日本仕様160PSに強化された。
  • 924カレラGTS(1981年限定発売) - 924カレラGTをさらに高度にチューンしたもの。エンジンは1,983cc、圧縮比8.0のままであるが245PS/6250rpm、34kgm/3,000rpmに出力向上している。トレッドはフロント1475mm、リア1481mm。リトラクタブルライトは廃止されている。有力プライベーターによりラリーに参戦、ワルター・ロールが1981年のヘッセンラリーで優勝している。
  • 924カレラGTR(1981年限定発売) - 924カレラGTをさらに高度にチューンしたもの。エンジンは1,983ccのままであるが圧縮比を7.0に下げることでKKK製K27型ターボチャージャーのブースト圧を1.5バールに上げ、375PS/6,400rpm、40.5kgm/5,600rpmを発揮するM31/70型。車輛重量は945kg。トレッドはフロント1534mm、リア1504mm。リトラクタブルライトは廃止されている。生産台数はプロトタイプ2台、市販15台と言われている[6]

1982年

944の輸入開始に伴い、この年輸入が中止された。

  • ポルシェ924 - タイヤは185/70HR14。
  • ポルシェ924ターボ - 160PS/5,750rpm、21.4kgm/3,500rpm[7]

1983年

本国でポルシェ924ターボの製造が終了された。

1986年

本国でポルシェ924ポルシェ924Sに切り替わったがこの年は日本には輸入されなかった。ホイール前後とも6J15in、タイヤ195/65VR15。

1987年

日本への再輸入が始まった。5速MT仕様で535万円、3速AT仕様で550万円。

  • ポルシェ924S

1988年

圧縮比が10.2に向上され160PS/5,900rpm、21.4kgm/4,500rpm[8]。最高巡航速度は218km/h[9]

  • ポルシェ924S
  • ポルシェ924Sクラブスポーツ(1988年限定発売) - MT5速12台625万円、AT3速8台640万円の限定。ホイールは前6J15in、後7J15in。タイヤは前後とも195/65VR15。

脚注

  1. 『外国車ガイドブック1977』p.146。
  2. ポルシェ博物館/松田コレクションの資料p.13。
  3. ポルシェ博物館/松田コレクションの資料p.90。
  4. ポルシェ博物館/松田コレクションの資料p.121。
  5. ポルシェ博物館/松田コレクションの資料p.121。
  6. THE 911&PORSCHE MAGAZINE No.63『走り、愉快』p.132。
  7. 『外国車ガイドブック1982』p.152。
  8. 『外国車ガイドブック1988』p.194。
  9. 『外国車ガイドブック1988』p.15。

参考文献

  • 『外国車ガイドブック1977』日刊自動車新聞社
  • 『外国車ガイドブック1988』日刊自動車新聞社
  • ポルシェ博物館/松田コレクション資料
  • THE 911&PORSCHE MAGAZINE No.63『走り、愉快』

関連項目

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