ポピュリズム

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テンプレート:民主主義 ポピュリズムテンプレート:Lang-en-short)とは、一般大衆の利益や権利、願望を考慮して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想または政治姿勢のことである[1][2][3][4]。日本語では通常は大衆主義人民主義[5]などと訳されるが、一部では「大衆迎合」[6][7][8]などの政治学上は不正確な訳も使われている。また、同様の思想を持つ人物や集団をポピュリストテンプレート:Lang-en-short)と呼び、民衆派や大衆主義者、人民主義者などと訳されている。

歴史

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ノーラン・チャート。ポピュリズム(全体主義)は左下に位置する。

「ポピュリズム」の用語は「テンプレート:Lang-la(民衆)」に由来し、通常は「エリート主義」との対比で使用される[9][10]

古代ローマでは「populus」は「ローマ市民権を持つ者」の意味であったが、ポピュリスト達は「民衆派(大衆派)」とも呼ばれる事実上の党派となり、ティベリウス・グラックスガイウス・マリウスガイウス・ユリウス・カエサルアウグストゥスなどは、元老院を回避するために民衆に直接訴えて市民集会で投票を呼びかけた[11]

19世紀にヨーロッパで発生したロマン主義は、従来の知識人中心の合理主義や知性主義に対抗し、大衆にナショナリズムやポピュリズムの影響を与えた。1850年から1880年のロシア帝国では、知識人(知的エリート)に対立する運動として現れた[12]

19世紀末のアメリカ合衆国では、人民党(通称ポピュリズム党)が既成の支配層である鉄道や銀行を攻撃し、政治思想としての「ポピュリズム」が広く知られるようになった。以後もアメリカでは、マッカーシズムや、2000年代のティーパーティー運動などがポピュリズムと呼ばれている。

1930年代のイタリアファシズム運動[13][14][15]ドイツナチズム[16]アルゼンチンフアン・ペロン政権[17]などは、既存のエリート層である大企業・外国資本・社会主義者・知識人などに強く反対し、大衆に対して雇用や労働条件向上を実現する変革を直接訴えたため、ポピュリズムと呼ばれる場合が多い。

概念

1990年代以降の日本ではマスコミ等で、「複雑な政治的争点を単純化して、いたずらに民衆の人気取りに終始し、真の政治的解決を回避するもの」として、ポピュリズムを「大衆迎合(主義)」と訳したり、「衆愚政治」の意味で使用した例が増加した[18]。しかしこれは政治学上の「ポピュリズム」の本来の意味とは異なる[19]

民主主義は民意を基礎とするものの、民衆全体の利益を安易に想定することは少数者への抑圧などにつながる危険性もあるという意味では、衆愚政治に転じる危険性は存在する[4]が、それは民主主義の本質であって、ポピュリズムそのものの問題ではない。民主制は人民主権を前提とするが、間接民主制を含めた既存の制度や支配層が、十分に機能していない場合や、直面する危機に対応できない場合、腐敗や不正などで信用できないと大衆が考えた場合には、ポピュリズムへの直接支持が拡大しうる。その際にはポピュリストが大衆に直接訴える民会出版マスコミなどのメディアの存在が重要となる。

ノーラン・チャートによる定義では、個人的自由の拡大および経済的自由の拡大のどちらについても慎重ないし消極的な立場を採る政治理念をポピュリズムと位置づけ、権威主義全体主義と同義としており、個人的自由の拡大および経済的自由の拡大のどちらについても積極的な立場を採るリバタリアニズム(自由至上主義)とは対極の概念としている[20]

脚注

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関連項目

テンプレート:政治思想
  1. テンプレート:Cite web
  2. populism – Cambridge Dictionary Oline
  3. populist - Oxford Dictionary online
  4. 4.0 4.1 今村仁司、三島憲一、川崎修「岩波社会思想事典」 岩波書店、2008年、p298-299
  5. 蒲島郁夫竹中佳彦「現代日本人のイデオロギー」p402、東京大学出版会
  6. 堀紘一「日本の成長戦略: こうすれば必ず甦る!」214p PHP研究所、2010年
  7. 民主・仙谷氏と自民・石破氏、小沢氏の主張批判 読売新聞
  8. 近聞遠見:バラマキ・ポピュリズム 岩見隆夫毎日新聞
  9. Populist Mobilization: A New Theoretical Approach to Populism, Robert S. Jansen, Sociological Theory, Volume 29, Issue 2, pages 75–96, June 2011
  10. Ideology, Public Opinion, and Media - Glossary - American Politics
  11. Julius Caesar (William Shakespeare, Marvin Spevack) 2004, p70
  12. Larousse, Le Petit Robert, des noms propres, 1997, <populisme> の項
  13. Ferkiss, Victor C. 1957. "Populist Influences on American Fascism." Western Political Quarterly 10(2):350–73.
  14. Dobratz and Shanks–Meile 1988
  15. Berlet and Lyons, 2000
  16. Fritzsche, Peter. 1990. Rehearsals for Fascism: Populism and Political Mobilization in Weimar Germany. New York: Oxford University Press. ISBN 0-19-505780-5: 149–150.
  17. Latin America - The return of populism - The Economist
  18. 「ポピュリズム」を「大衆迎合」や「衆愚政治」などの意味で使用した書籍の例には以下がある。「日本型ポピュリズム:政治への期待と幻滅」(大嶽秀夫、中央公論新社、2003年)。「ポピュリズム批判:直近15年全コラム」(渡邊恒雄、博文館新社、1999年)書籍の帯は「大衆迎合は国を滅ぼす。新世紀を斬る。」博文館新社の経済・社会。「自治体ポピュリズムを問う:大阪維新改革・河村流減税の投げかけるもの」(榊原秀訓、自治体研究社、2012年)
  19. 橋下・大阪市長らの政治手法を批判する際に使われる「ポピュリズム」って何? - 読売新聞
  20. Christie, Stuart, Albert Meltzer. The Floodgates of Anarchy. London: Kahn & Averill, 1970. ISBN 978-0900707032