ツイン・ピークス

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テンプレート:基礎情報 テレビ番組 テンプレート:Sidebar with collapsible listsツイン・ピークス』(テンプレート:Lang-en)は、1990年から1991年にかけてアメリカ合衆国にて放映されたテレビドラマおよび1992年に公開された映画。製作総指揮はデイヴィッド・リンチマーク・フロスト

このページでは、テレビドラマ版をメインに解説をする。

概要

FBI特別捜査官デイル・クーパーの活動を主軸として、架空の田舎町ツインピークスの日々を描く。パズルのような人間関係が織り成す物語は連続殺人事件捜査のミステリーを導入部として、性や麻薬、虐待といった日常生活と隣り合わせの暗部から、社会問題、環境破壊、宗教、超常現象、宇宙など幅広い題材とともに展開し、1950年代風の音楽と北ヨーロッパを髣髴とさせる茫漠とした映像、そして古今東西の名作の引用を背景にして描かれる。

テレビ・シリーズは、実質的な第1話となるパイロット版に、ファーストシーズン全7話、セカンドシーズン全22話の計30話で構成されている。各エピソードにサブタイトルはなく、パイロット版の後に続くエピソードからEpisode1、Episode2……と通し番号が割り振られているのみで、日本語版もこれに習い、序章と題されたパイロット版は例外として、第1章、第2章……というように各エピソードを勘定している。全30話のエピソードは一話完結ではなく連続しており、基本的に1エピソードが劇中時間の1日分に相当している。

ABCテレビにて、1990年4月8日から5月23日にかけてパイロット版を含めたファーストシーズンが、1990年9月30日から1991年6月10日にかけてセカンドシーズンが放送されたテレビ・シリーズは、パイロット版が21.7%の視聴率、33%のチャンネル占拠率を上げた事からも分かる通り、大ブームを巻き起こし、世界各国へ飛び火した。日本でも、WOWOWにて1991年4月の開局と同時に放送が開始され、ロケ地であるワシントン州スノクァルミー周辺を巡るツアーが企画されるほどの大反響を呼んだ。

テレビ・シリーズ終了後の1992年には、『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(原題:Twin Peaks:Fire Walk With Me)のタイトルで、テレビ・シリーズの前日談が映画化され、同年5月第45回カンヌ国際映画祭に出品後、一般公開となった。日本での公開時には、主演であるカイル・マクラクランが来日し、プロモーションを行った。

現在でも、世界中に根強いファンが多数存在しており、テレビ・シリーズも繰り返し再放送されている。

あらすじ

2シーズンを通し、実質的に物語は3部編成となっている。

【第一部】「ローラ・パーマー事件」(1st第1話-2nd第9話)

カナダ国境から南に8キロ、州境から西に20キロの所に位置するワシントン州の田舎町、ツイン・ピークス。山林に囲まれ、外界から隔絶された感もある片田舎。

ある朝、湖畔のほとりでビニールに包まれた若い女性の全裸遺体が発見される。それは“学園の女王”として町の誰からも愛されていた17歳の少女、ローラ・パーマーだった。手足を縛られた上、数人の男性に陵辱された上での凄惨な死に関係者は衝撃を受ける。また、ローラと同じ高校に通うロネット・ポラスキーが行方不明となっていることがわかり、その後、彼女は下着姿で線路脇を彷徨っているところを発見され保護される。だが彼女はショックのため錯乱していた。

ハリー・トルーマン保安官は未成年者の拉致監禁暴行殺人および殺人未遂容疑で捜査を開始し、第一容疑者としてローラのボーイフレンドとして公認の仲だったボビィ・ブリッグスを逮捕する。ほどなくして、FBIからデイル・クーパー特別捜査官が派遣される。素行不良で黒い噂のつきまとうボビィだったが、クーパーは即座に彼が犯人でないと判断。クーパーはローラの遺体から近隣の街で1年前に発生したまま未解決となっている別の少女の殺害事件との共通性を発見し、一連の犯行が同一犯による連続殺人との見解を抱く。

その後、ローラの日記帳に隠されていた鍵から、ローラが貸金庫にコカインと1万ドルの大金を隠していたことが判明。また、部屋にあったビデオカメラの映像からローラには親友のドナ・ヘイワードだけが知るジェームズ・ハーリーという別の恋人がいたことが発覚し、ローラには人々の知らない裏の顔があったことが徐々に明らかになっていく。また、一見穏やかで争いごととも無縁なツイン・ピークスには不倫、麻薬取引、売春、開発計画を巡る陰謀といった負の側面が見え隠れしていた。クーパーは奇抜な方法と鮮やかな手並みで様々な謎を解明し、街の人々の信頼を得ていくがそんな彼を思わぬ事態が待ち受けていた。

【第二部】「クーパーの危機」(2nd第10話-2nd第13話)

ローラ殺害事件は悲劇的な幕切れを迎えた。事件を解決したクーパーはツイン・ピークスを去ることになり、事件を通して知り合った街の人々と最後の日々を過ごす。だが、彼が行った“片目のジャック”での捜査を巡り、FBI上層部はクーパーに様々な嫌疑をかけ、停職処分を命じた。この一件にはクーパーへの復讐を目論むジャン・ルノーが背後にいた。クーパーはハリーやDEAから派遣された旧知のデニス・ブライソンと共に自身にかけられた容疑を晴らすべく奮闘する。

一方、ジェームズは心の痛手を癒やすべく旅に出る。彼はそこで知り合った人妻と恋に墜ちる。

【第三部】「ブラック・ロッジの秘密」(2nd第14話-最終話)

自身の容疑を晴らしたクーパーは“保安官助手”としてツイン・ピークスに留まる。そんな彼のもとに元相棒のウィンダム・アールが失踪したという情報が届けられる。彼はかつてクーパーの愛した女性・キャロラインの夫であり、クーパーの師匠であり、キャロラインを殺害した犯人でもあった。並み外れた知性を持ち、かつ凶悪で無慈悲なアールはクーパーに宣戦布告をつきつける。彼はかつてガーランド少佐も関わる軍の極秘作戦に従事していたこともあった。アールの魔の手はツイン・ピークスの住人たちに静かに忍び寄ろうとしていた。

身の破滅という絶望から我に返ったベンジャミン・ホーンは人格が一変し、開発反対を訴える環境保護活動に熱心に取り組むようになり、オードリーとの親娘仲も改善される。だが、彼が過去の秘密に誠実に向き合おうとした結果、平穏に暮らすある家族に悲劇が訪れることとなる。

ダブルRダイナーに修道院暮らしをしていたノーマの妹・アニーがやってくる。クーパーは純粋な彼女に一目惚れする。

ハリーたちが追い求めた『森の悪魔』こと諸悪の源である『ブラッグ・ロッジ』についての情報がガーランド少佐からもたらされ、クーパーはその秘密に迫るのだが、重大な落とし穴が待ち受けているのだった。

登場人物

FBI(連邦捜査局)/DEA(麻薬取締局)

デイル・バーソロミュー・クーパー
演:カイル・マクラクラン、吹替:原康義
事件捜査のため、ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるFBI支局からツイン・ピークスにやってきた特別捜査官。長身でハンサム。感激屋で謙虚かつ誠実という人好きのする男。旨いブラックコーヒーとパイやドーナッツといった甘いものには滅法目が無い。また本人は独身だが、秘めた男女関係を見破る能力を持ち、ハリーとジョシュ、エドとノーマの関係を一目で見破った。
人並み外れた観察力を持ち、些細な証拠から事件を読み解く能力に優れる反面、夢や幻影、直感に宿るオカルト的な力を信じており、それらを解読できれば、事件も解決できると信じている。さらに3年前に見たチベットに関する夢によって、そこに住む人々の高い精神性に傾倒するようになり、同時に、その夢から、心と身体を一体化させて直感を研ぎ澄ます演繹法的テクニックを学んだ。また、その研ぎ澄まされた直感により、今回の事件を発生の1年前の時点で、おぼろげながらも予感していた。
常に携帯用のカセットテープレコーダーを持ち歩き、現状を記録する事を欠かさない。思春期の頃に最初に手にしたものは、オープンリール式の背負う程大袈裟なものであったらしい。周囲の出来事を音声の形で記録する事に興味が芽生えたという。録音の際、必ず“ダイアン”と呼びかけるが、スコット・フロスト著『クーパーは語る』によれば、ダイアンとは彼の秘書の名だという(因みにサウンドトラックのライナーノーツには登場人物の顔写真がならぶ中に、冗談めかして〈?〉クーパーの手にあるテープレコーダーが掲載されている)。信頼できる優秀な第三者に語りかける形を取る事によって、自身の判断の正否を判断しているのだという。
『クーパーは語る』によると、1954年4月19日、ペンシルベニア州フィラデルフィアに生を受けた。両親と兄・エメットとの四人家族に育ったが、母は彼が15歳の時、1969年11月15日に亡くなった。現在の彼がしている金の指輪は、その亡くなった母の形見である。不思議な夢や幻影を見るという体験は幼少期からのもので、その性質は母からの遺伝であるらしい。黒一色のスーツという現在の服装は、10代後半の頃にはすでに形成されていた。
ツイン・ピークスに到着するなり、クーパー捜査官はその豊かな自然と住民の純粋さに魅せられる。さらにダブルRダイナーの“すげえ”美味いブラックコーヒーと、チェリー・パイドーナツの組み合わせを何よりも好む彼にとって、当地は去りがたい土地となっていく。
アルバート・ローゼンフィールド
演:ミゲル・フェラー、吹替:江原正士
クーパー捜査官の同僚にあたるFBI鑑識員。
クーパーも認める優秀な手腕を持つが、強烈な皮肉屋で偏見の塊。社交儀礼に全く欠けており、そのトゲのある言動から周囲との摩擦が絶えないなどクーパーとは対照的な男。あまりに横暴な態度に業を煮やしたハリーが殴ったことを根に持ち、上司に報告するなど協調性には著しく欠ける。しかしながら、意外にもマハトマ・ガンディーマーティン・ルーサー・キング・ジュニアに傾倒する非暴力主義者という面もあり、誤解されやすい性格だが根は正義感に溢れ義に厚い。事件を通じ、その言動から小馬鹿にしていたクーパーや敵対していたハリーとも深い友情を持つようになっていく。
ゴードン・コール
演:デイヴィッド・リンチ、吹替:池田勝
FBI地方捜査主任で、クーパー捜査官らの上司。
補聴器を両耳に装着しているが、それが機能しているのかすら疑ってしまうほど極度の難聴で、周囲に響き渡るほどの大声で話す。
『クーパーは語る』によれば、キャロライン・アール事件での精神的・肉体的ショックで、詐欺やスパイ事件を専門とする対情報活動班に異動し、現場の第一線を退いていたクーパー捜査官を現場復帰させたのも彼である。
デニス/デニース・ブライソン
演:デイヴィッド・ドゥカヴニー、吹替:鈴置洋孝
女装癖のあるDEA捜査官。
1年前、麻薬取引を摘発するための潜入捜査の際、必要に迫られて女装したのがきっかけで、図らずも女装をすると心が落ち着くという自身の意外な一面に気付かされ、今日に至っている。ただし、性癖は至ってノーマル。
任務によって服装を使い分け、男装の時はデニス、女装をする時はデニースと名乗る。長身を除けば女性として十分通用する美貌もあり、誤解したオードリーが嫉妬したほど。
『クーパーは語る』によれば、DEAとFBIの合同の麻薬撲滅プログラムにおいて、クーパー捜査官がキャロライン・アール事件以来、久しぶりに現場復帰した際、最初にパートナーを組んだのが彼、デニス・ブライソンであった。
ウィンダム・アール
演:ケネス・ウェルシュ、吹替:原田一夫
師として、相棒として、クーパー捜査官に捜査のいろはを叩き込んだ元FBI捜査官。
4年前、妻・キャロラインがある事件の重要参考人となった際、護衛任務の中でキャロラインとクーパーは相思相愛の仲となってしまう。しかも、そこに隙が生じて任務は失敗。クーパー捜査官は重傷を負い、キャロラインは殺害されてしまうという惨憺たる結果となり、アール捜査官は精神に変調を来たし、施設に収容される事となった過去を持つ。
FBI最高の人材であったウィンダムは、いつのころからか、またどこで知ったのか、ブラック・ロッジという世界の果てにある超絶パワーの源泉とそこに至る道を探求している。
チェスの名手で、クーパー捜査官とはコンビを組んでいた3年の間、毎日ゲームをしたが、一度も負けた事はなかったという。

ツイン・ピークス保安官事務所

ハリー・S・トルーマン
演:マイケル・オントキーン、吹替:銀河万丈
ツイン・ピークスの保安官。また、街の自警組織“ブックハウスボーイズ”のリーダー。
真面目で誠実、勇敢で我慢強いナイスガイ。
街を取り囲む森の奥深くに、実体のない悪が存在していると信じており、同志であるエドやホークたちと共に非合法な捜査活動も行う。
一目するなり、クーパー捜査官の人柄と非凡な捜査能力を感じ取り、彼に尊敬の念を抱くようになる。相棒として二人三脚の捜査を展開し、親交を深めてゆく。奇想天外なクーパーの捜査手法にも、怪訝な態度は見せるものの非難がましい事は口にせず協力する。クーパーとの友情が深まるにつれ、彼を“クープ”と呼ぶようになる。
私生活では、6週間ほど前から、地元のパッカード製材所の所有者でもある未亡人、ジョシィ・パッカードと交際している。
ある出来事がきっかけで自暴自棄となり、酒浸りの生活に落ちぶれる。クーパーやホークの呼びかけでも立ち直れなかったが、自らの身にふりかかった“災難”により完全復帰を果たす。
アンディ・ブレナン
演:ハリー・ゴアス、吹替:幹本雄之
気が弱く、凄惨な場面に遭遇すると泣き出してしまう保安官補。普段は非常に頼りないが、思わぬ手柄をあげる事もあり仲間たちから愛されている。数々の失敗をとがめることなく手柄を評価するクーパーに対して尊敬の念を抱いている。画才があり、容疑者の似顔絵描きや重要なスケッチは彼が担当している。
保安官事務所の受付を担当するルーシー・モランと交際しているが、彼女の態度に振り回され、右往左往している。
無精子症と診断されたことを相当気に病んでいる。
トミー・“ホーク”・ヒル
演:マイケル・ホース、吹替:中田和宏
先住民の保安官補。
追跡の達人で、伝承や神話にも詳しく、トルーマン保安官と同様、森の奥深くに悪の存在を感じている。また、詩人という一面も持っている。
無愛想でいかついが、意外にも官能的な女性には弱くメロメロになってしまう。
ウィル・ヘイワード
演:ウォーレン・フロスト、吹替:村松康雄
キャルフーン記念病院に勤める医師で保安官事務所の検死官。
検視のみならず事件の捜査においては保安官事務所の一員として活動。老練な頭脳と街の事情に通じていることもあり、クーパーの助けとなる。ローラの遺体についての取り扱いを巡り、ローゼンフィールドとやり合ったことも。
私生活ではドナ、ハリエット、ガースティンの三姉妹の父親。内科から産婦人科まで幅広く手がけ、ローラ・パーマーも彼が取り上げた。リーランド・パーマーとはプライベートでも非常に親しくしており、家族ぐるみで交際している。足が不自由な妻アイリーンをいつも気にかける愛妻家。
ルーシー・モラン
演:キミー・ロバートソン、吹替:安達忍
鼻にかかった声に特徴がある保安官事務所の事務員。電話取り次ぎはもちろん、大量のコーヒーとドーナツの用意まで、幅広い雑務をこなす。
優秀とはほど遠く、頭も良くないが応対した会話の内容をわりと正確に記憶しており、不審な会話を盗み聞きするなど仕事ぶりはわりと真面目。だが、話をしていると、本題にはそれほど関わりのない些細な事にこだわりすぎ、どんどん脱線していってしまう。
保安官補のアンディ・ブレナンと交際しており、彼には男らしい態度であってほしいと願うのだが、いつも期待を裏切られてしまう。そしてあることをきっかけに、急に冷たい態度をとるようになる。
「ミス・ツイン・ピークスコンテスト」では見事なダンスシーン見せるが、皮肉にも保安官事務所の面々はアンディも含め、誰一人としてそれを見ていない(次のラナの出番には到着し、全員で鼻の下を伸ばしていた)。

パーマー家

ローラ・パーマー
演:シェリル・リー、吹替:高島雅羅(テレビ・シリーズ) / 小山茉美(劇場版)
ビニールに包まれた他殺体となって発見された17歳の少女。
ツイン・ピークス高校の“学園の女王”として有名。ボランティアで人の世話をしたり、英語が不自由なジョシィや精神発達遅滞のあるオードリーの兄・ジェニーの家庭教師としても評判が良く、気だてのよい優等生として町の誰からも愛されていた。
遺体が2月24日の夜明け頃、湖畔に打ち上げられたところを発見された。死因は大量出血で、遺体の左手薬指の爪の下には、犯人の手によって“R”とタイプされた紙片を押し込まれていた。さらに解剖の結果、コカインの常用者と判明し、死の前に少なくとも三人と性交渉を持っていた事が明らかとなった。
事件発生直後の捜査によって、殺害現場と特定された廃貨車の中には、ハートのネックレスの半分と“火よ、我とともに歩め”というメッセージが残されていた。そして、パーマー家から押収されたローラの日記の、遺体発見前日にあたる2月23日のページには“今夜、Jに会うのが心配”と記されていた。
ジェニファー・リンチ著『ローラの日記』によれば、生年月日は1972年7月22日
リーランド・パーマー
演:レイ・ワイズ、吹替:沢木郁也(テレビ・シリーズ) / 堀勝之祐(劇場版)
ローラの父親。
グレート・ノーザン・ホテルなどを所有する地元の名士、ベン・ホーンの弁護士として、彼の土地売買に関わっている。
ローラの死後間もなくは、情緒不安定となった妻・セーラを冷静になだめていたが、次第に精神に変調をきたし、歌とダンスへ異様なほどの執着を示したり、人前を憚らず号泣するなど奇行が目立つようになる。やがてあることを境にして一夜で髪の毛が真っ白な白髪となった。
セーラ・パーマー
演:グレイス・ザブリスキー、吹替:竹口安芸子
ローラの母親。
かなりのヘビー・スモーカー。
元々、よく幻影を見ていたというが、ローラの死後は情緒不安定となり、それが顕著になる。セーラの幻影を見る性質は娘のローラにも受け継がれていたという。
マデリーン・ファーガソン
演:シェリル・リー(二役)、吹替:高島雅羅
ローラ・パーマーのいとこ。普段は野暮ったい大きな眼鏡をかけているが外すとローラにそっくりの美少女。髪の色を除けばローラと瓜二つでほとんど見分けが付かない。
モンタナ州ミズーラに住んでおり、ローラの両親を励ますためにツイン・ピークスを訪れる。
容姿が瓜二つという事もあってか、ローラと心が通じあっており、事件の前日にも、虫の知らせでローラに何か重大な事が起こったと感じたという。それが彼女にツイン・ピークス行きを決意させた。
幼い頃、何度かツイン・ピークスを訪れていたが、パーマー家の人々以外には見知った人間もいなかった。しかし、ローラの幼馴染であるドナ・ヘイワード、ローラの秘密の恋人だったジェームズ・ハーリーと知りあい、二人に協力して、事件の謎を追う事になる。

ブリッグス家

ボビー・ブリッグス
演:デーナ・アッシュブルック、吹替:二又一成(テレビ・シリーズ) / 檜山修之(劇場版)
周囲はもちろん、双方の両親も公認するローラ・パーマーのボーイ・フレンド。
ローラ・パーマーとは同い年で、14歳の時から交際しているが、現在では、その本心は人妻であるシェリー・ジョンソンへ傾いている。
フットボール部のスター選手であるが、部活はサボりがちで素行不良。悪友であるマイク・“スネーク”・ネルソンと共に、シェリーの夫で、コカインの密売に手を染めるレオ・ジョンソンから下請し、売人としてコカインをさばいている。
ローラの遺体が発見される前夜、彼女を自宅に招き、9時半頃まで共に過ごしていたことで第一容疑者となる。その後、ローラが彼を裏切りジェームズと密かに交際していたことを知り、激しい敵意と憎悪を抱く。
性格は単純かつ純粋で周囲が思っているほど悪くはないのだが、頭はそれほど良いわけでなく稚拙なアイデアでレオを陥れようと画策するがその結果シェリーを危険に晒すことになり、レオから命を狙われる。
レオが保身のために隠していたベンジャミン・ホーンとの通話テープを発見し、それをネタに近づこうとした結果、紆余曲折あってホーン産業の社員となる。
ガーランド・ブリッグス
演:ドン・S・デイヴィス、吹替:辻村真人
空軍少佐。ボビーの父親。
外宇宙を行き交う電波を傍受し解読するという、国家機密に類する任務についている。このためなにかというと機密がつきまとい、家族にも秘密主義であることがボビーとの確執を生む結果となっている。
非凡な才能の持ち主で、仕事柄、家族にも行き先を告げずに家を空ける事もあるが、妻のベティと共にできるだけ、反抗的な息子・ボビーとの対話の機会を持とうと努力している。
誠実で温厚な人物であり、ボビーの素行に対しても暴力に訴えるようなことは決してしない。クーパーの人柄を愛して彼をキャンプに誘う。物語全体を通じてのキーパーソンの一人。

ヘイワード家

ドナ・ヘイワード
演:ララ・フリン・ボイル(テレビ・シリーズ) / モイラ・ケリー(劇場版)、吹替:高山みなみ(テレビ・シリーズ) / 佐々木優子(劇場版)
ヘイワード家の三姉妹の長女で、ローラ・パーマーの幼馴染。
周囲からはボビー・ブリッグスと交際しているものとばかり思われていたローラ・パーマーが実は、密かにジェームズ・ハーリーという同級生と交際していた事を知る唯一の人物でもあり、二人の交際を手助けしていた。
ボビー・ブリッグスの悪友であるマイク・“スネーク”・ネルソンと交際していたが、ローラが死んだ事で、自分が本当はジェームズと惹かれあっていた事に気付いてしまう。親友を裏切ったような罪悪感を覚えながらも、ジェームズを愛する気持ちは押さえられず、葛藤する。
ローラの秘密と事件の真相を探るため、ジェームズ、マディと共に独自に捜査を行うが、そのことでジェームズは逮捕され、犯人として追っていたジャコビー医師を危険に晒す結果となる。
ローラの死の真相を追ううち、次第に行動や趣向が変化し、飲酒や喫煙をするようになったり服装なども垢抜けるようになっていく。
アイリーン・ヘイワード
演:メアリー・ジョー・デシャネル
ウィルの妻。ドナの母親。
足が不自由で車椅子での生活を余儀なくされている。料理好きで非常に理解のある母親。慈善活動に熱心に取り組んでいる。

ハーリー家

ジェームズ・ハーリー
演:ジェームズ・マーシャル、吹替:竹村拓(テレビ・シリーズ) / 大塚芳忠(劇場版)
ローラ・パーマーの秘密の恋人でバイカー。少し陰のある好青年。
父は他界し、仕事のため海外に出ている母親とも離れ叔父エドの庇護のもとで事実上の一人暮らしをしている。家族関係に関してはそれ以上に深刻な秘密を抱える。エドから仕込まれているせいで車の修理などもお手の物。
性格は心優しく誠実。バイカー仲間からの信頼も厚い。忍耐強くて口も堅く、容易に他人の秘密は漏らさない。事件の2ヶ月前からコカインを常用するローラを、彼女の幼馴染であるドナ・ヘイワードと協力して更生させようとしていたが、ローラの死後、自分がドナと惹かれあっていた事に気付く。
ローラの遺体発見前夜、彼女と会っていた。そこで別れ際に意味深な発言を聞いている。だが、事件当夜のアリバイがなく、二人の関係も秘密であるなど非常に不利な立場にあることから名乗り出られなかった。ローラからペンダントの片割れを渡されていたがそれが事件の重要な物証と知り、ドナの勧めで密かに埋めたが、何者かに持ち去られる。ドナの勧めもあって、ローラのため、そしてローラの死を乗り越えるため、自ら犯人を探し出そうとする。だが、ローラがジャコビー医師とやりとりしていたテープからその真意を知り非常にショックを受ける。
ローラの死後、二人の関係が公に知られることとなったせいでボビーと激しく敵対。彼の陰謀により麻薬所持の容疑で警察に逮捕される。その後、潔白が証明されて釈放されるが、ドナの態度や性格が変化したことに戸惑いマディに相談していたことを誤解され、すれ違いが重なった結果三角関係に発展してしまう。
度重なる悲劇により心を痛め、バイクで旅に出る。旅先で知り合った人妻と恋に墜ちるが、その結果再び危機に陥る。
エド・ハーリー
演:エヴェレット・マッギル、吹替:若本規夫
“ビッグ・エドのガソリンスタンド”を経営する、ジェームズの叔父。
両親がいないジェームズの面倒を、親代わりとしてみている。
高校時代はフットボールの選手で、ダブルRダイナーのオーナーであるノーマ・ジェニングスと交際していたが、ふとしたすれ違いから、互いに想いあっていながらも彼女と別れてしまう。今もノーマとは密かに会っており、妻ネイディーンとの離婚を考えているが、ネイディーンの左目の失明に責任を感じているため、なかなか行動に起こせずにいる。ネイディーンの失明は狩りの際に散弾が岩に跳ねたことによる過失。
“ブックハウスボーイズ”の一員で捜査にも協力し、ジャック・ルノーを追っていた。『片目のジャック』に潜入する際には変装してクーパーに同行した。だが、2ndシーズンに入るとネイディーンに振り回されることが増え、クーパーやハリーに協力する機会は激減する。
ネイディーン・ハーリー
演:ウェンディ・ロビー、吹替:山田礼子
街一番のお騒がせ女。左目に黒い眼帯を着けている。ジェームズの叔母。
高校卒業後間もなくエドと結婚したが、現在では彼との暮らしに空虚なものを覚えており、それが精神の不調や、世界初のどんなに開け閉めしても無音のカーテンレールを発明する事を目指す、という奇矯な言動となって表れている。神経質で病的なため煙たがられる存在。
過量服薬による自殺を図るがエドに発見されて一命を取り留める。だが、そのことがきっかけで記憶退行を起こして中身が学生時代に戻ってしまい、更にはアドレナリンの過剰分泌により異常な怪力の持ち主となる。
ジャコビー医師のすすめで治療の一環としてツイン・ピークス高校に編入しドナたちの学友となる。チアチームに志願するがその怪力で一騒動を起こす。怪力を見込まれてレスリング部にスカウトされ、州チャンピオンのマイクを倒したのを皮切りに数々の大会で大暴れする。マイクに一目惚れしてまとわりついていたが、相思相愛の関係に発展し、逆にエドに対し執着しなくなる。

ホーン家およびホーン産業

オードリー・ホーン
演:シェリリン・フェン、吹替:紗ゆり
ローラたちのクラスメイト。
跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘で周囲の人々を困らせたり慌てふためく様子を見るのが好きという小悪魔的美少女。父には特に反抗的であるため疎まれている。
ローラには、精神的な発達が遅れている27歳の兄・ジョニーの家庭教師をしてもらっていたが、品行方正で人々の愛情を独占するローラに良い印象を抱いてはいなかった。『ローラの日記』によると、父・ベンの愛情が自分よりもむしろ、他人の娘であるはずのローラの方へ注がれていると感じていたからであるらしい。
クーパーに一目惚れし、彼の気を惹くためにアプローチをしつつ、事件の手がかりを密かに教えるなどしていた。クーパーの捜査に役立ち、認められたい一心もあってドナに接近して互いに情報を交換するようになる。だが、父とキャサリンの会話を盗み聞きしたことで、父親が犯罪に関わっていることを知り、そのショックからクーパーに夜這いをかける。だが、誠実に断られたことで彼を深く愛するようになり、身の危険を冒して“片目のジャック”に潜入。そこで父親の裏の顔を知る結果となる。正体が露見してベンジャミンを脅迫するための人質となり麻薬漬けにされるが、クーパーにより救出された。救出後は父が逮捕されるとわかっていながら証言した。
ローラの事件解決後、クーパーに二度目の告白をするが10代の若さもあって受け入れられず、大人のいい女になって見返すことを誓う。落ち目となったホーン産業を立て直すべく、ボビーと協力して心神喪失状態となったベンジャミンを立ち直らせるべく奔走。そうした努力の甲斐もあって、自分を取り戻した父から全幅の信頼を寄せられるようになり、経営に参加するようになる。父が信頼を寄せるジャンと二度目の恋に墜ちるが、友人の死でブラジルに向かうことになった彼と辛い別れをする。
ベンジャミン・ホーン
演:リチャード・ベイマー、吹替:秋元羊介
オードリーの父親。通称“ベン”
グレート・ノーザン・ホテルやホーンズ・デパートを所有する地元の名士で、自身が所有する土地・ゴーストウッドの開発計画を進めている。また、計画の一環として、パッカード製材所の所有する広大な土地を手に入れる事も画策している。常に葉巻をくわえる。
陽気で紳士然とした振る舞いをする一方、裏では国境を越えたカナダ側にある“片目のジャック”というカジノ売春宿のオーナーでもあり、表のビジネスの顧客をそこに招いて接待する事も多い。また、レオ・ジョンソンなどと繋がっており麻薬取引などツイン・ピークスの暗部に深く関わっている。
異常なまでに好色で、シルヴィアという妻がいるが、実はパッカード製材所のキャサリン・マーテルと不倫関係にある。また、“片目のジャック”に入った新顔の娘を弟のジェリーとの賭けで奪い合い“味見”するのがなによりの楽しみ。
ローラの死、自らの逮捕、キャサリンからの復讐、ハンクの裏切りという数々の逆境により精神を病み心神喪失状態となる。自らが南北戦争の英雄リー将軍であるという妄想に取り憑かれ、史実とは逆の結末に向けて爆走する。だが、オードリーの献身的な支えにより自分を取り戻す。その後は人格が一変。葉巻を野菜スティックに持ち替え、環境保護に力を注ぐようになる。
『ローラの日記』によれば、どういうわけか、オードリーを差し置いて、12歳の誕生日を迎えたローラ・パーマーに、父・リーランドからのプレゼントだという事にして、自身の名前は出さずにポニーを贈った事がある。ちなみに、そのポニーはローラによって、トロイと名付けられた。
ジェリー・ホーン
演:デイヴィッド・パトリック・ケリー、吹替:山口健
ベンの実弟で、彼のビジネスパートナー。世界各地を飛びまわり交渉事をこなす。
乱痴気騒ぎが大好きで、はた迷惑かつ腰が据わっておらず、兄の家族からはよく思われていない。
ブリーチーズバターを挟んだサンドイッチなど、兄弟そろって食の好みと性欲に関して異常な執着を持っている。
兄のビジネスの裏側も熟知しており、そちらでも良きパートナー。
1974年ゴンザガ大学をクラス最下位の成績で卒業した後、3度の司法試験の果てにようやく弁護士資格を取得するも、現在、その資格はイリノイ州フロリダ州アラスカ州マサチューセッツ州の4州で無効となっている。
兄ベンの破滅により、ホーン産業トップの座を伺うがオードリーに一蹴された。
リチャード・トリメイン
ホーンズデパート紳士服売り場の店員。通称“ディック”。
気取り屋でどケチ。いい加減でビビリな男。
ルーシーの浮気相手として登場し、彼女を巡って最終回までアンディと張り合う。だが、養護施設から引き取った孤児を巡ってアンディとは仲良くなる。
ホーン産業がイベントを企画する際にベンジャミンから抜擢され、司会役や講師役、果てはミス・ツインピークスの審査員となるなど活躍するが、ことある事にルーシーから幻滅される結果となる。

ジョンソン家

レオ・ジョンソン
演:エリック・ダ・レー、吹替:大塚明夫
長距離トラックの運転手。
交通違反や暴行など複数の前科があり、要注意人物として保安官事務所から常々マークされており、実際、ロードハウスのバーテンダー、ジャック・ルノーらと手を組み、彼らがカナダから持ち込んできたコカインを密売する裏稼業に手を染めている。
妻シェリーをメイド以下の扱いでこき使い、意に沿わないと暴力までふるう。その一方で、相手がボビー・ブリッグスだという事までは知らないが、彼女が不倫している事に薄々感づいている。ローラ・パーマーが殺害された時刻には、仕事でモンタナ州にいたというが……。
ハンクに銃撃され生死の境を彷徨った結果、植物状態に陥る。その後、奇跡の復活を遂げ、不貞の妻シェリーとボビーに復讐しようとするのだが、とんでもない災難に見舞われることになる。
シェリー・ジョンソン
演:メッチェン・アミック、吹替:榊原良子
ダブルRダイナーのウェイトレス。レオの妻。
高校を中退してレオと結婚した。結婚後に豹変したレオから虐待を受け続けており、現在では、ローラ・パーマーの恋人、ボビー・ブリッグスと不倫関係にある。ミールズ・オン・ウィールズ(外出が容易ではない老人の住まいへ食事を届けるサービス)のボランティアとして店に出入りしていたローラとは職場の同僚でもあった。
雇い主であるノーマとは女同士の深い友情で結ばれている。人目を惹く美人だがあまり自覚がなく、それほど自信もない。
不貞を許さないレオにより一度は殺されかけるがキャサリンに命を救われる。その後、植物状態となったレオをボビーに唆され保証金目的で引き取ったものの期待通りとならず介護に手を焼き、両立が出来ずウェイトレスの仕事もやめることに。介護に非協力的なボビーとの仲も冷え切っていたとき、レオが奇跡の復活を遂げる。再び殺されかけたものの、結果的には厄介払い出来たことでダブルRダイナーに復帰した。
クーパーを訪ねてきたゴードンから熱烈なアプローチを受ける。

パッカード製材所

ジョスリン・“ジョシー”・パッカード
演:ジョアン・チェン、吹替:堀越真己
パッカード製材所を所有する未亡人。
6年前に香港からやってきた州きっての美女で、ツイン・ピークスを築いた名士であるアンドルー・パッカードと結婚したが、彼が1年半前に不慮のボート事故で他界してしまい、以来、遺言にしたがってその全財産を相続し、パッカード製材所の所有者となった。
現在は、トルーマン保安官と交際している。
英語はまだ堪能ではないようで、生前のローラ・パーマーに週に2度、英語の家庭教師を頼んでいた。事件前日も午後5時頃から1時間ほどローラに英語を教わっており、その時の彼女は“ご主人を亡くした気持ちがよく分かる”と意味深な発言をしたという。
キャサリン・マーテル
演:パイパー・ローリー、吹替:達依久子
亡くなったアンドルーの実の妹。
遺言によってパッカード製材所を相続したものの、製材の知識を持たないジョシーに代わって、実質的に製材所を取りしきっている。
ジョシーに財産を横取りされた格好で、彼女に敵意を抱いており、いさかいが絶えない。そればかりか、愛人であるベンジャミン・ホーンのパッカード製材所乗っ取り計画に加担している。
ピート・マーテル
演:ジャック・ナンス、吹替:伊井篤史
キャサリンの夫で、ローラ・パーマーの遺体の第一発見者。
善良で素朴な人物。趣味は釣りとチェス。また大の酒好き。
元々はパッカード製材所の従業員で、当時の雇い主であったアンドルーの妹・キャサリンと恋に落ち、結婚したが、今や夫婦仲は完全に冷え切っている。その反動か、現在では妻であるキャサリンよりも、ジョシーに肩入れしている。
事情聴取にやってきたクーパーとハリーに誤って“魚入りコーヒー”を出した。これがクーパーにとってはトラウマとなっている。またチェスの腕前は街一番で誰も歯が立たない。終盤ではその才能でクーパーを助けることになる。

ダブルRダイナー

ノーマ・ジェニングス
演:ペギー・リプトン、吹替:松岡洋子
地元の食堂・ダブルRダイナーのオーナー。
ダイナーの業務と並行して、身体が不自由で外出が容易ではない老人の住まいへ食事を届けるというボランティア活動(ミールズ・オン・ウィールズ)も行っている。『ローラの日記』によれば、このボランティア活動は元々ローラ・パーマーの発案で、生前のローラは配達業務に熱心に取り組んでいたという。
高校時代、エド・ハーリーとは周囲も認めるカップルだったが、些細な喧嘩がもとでハンクの誘いに乗ったことがきっかけでエドがネイディーンとデートすることになり、ヤケになったエドが酔った勢いでネイディーンにプロポーズしたことで破局した。このことが、ネイディーンとの間に根深いしこりとなっており、自身もハンクと勢いで結婚してしまったことを深く後悔している。
ハンクが後述の事情で服役することになった為、エドと密会を重ねるようになる。ハンクとは離婚を考えていたが、なかなか行動に起こせずにいる。その後、ネイディーンの自殺未遂でエドが彼女にかかりきりとなり、出所したハンクがダイナーで働くようになった為、エドとの関係は事実上解消された。だが、年齢退行したネイディーンの関心がエドに向かなくなったことと、ハンクが逮捕されたことにより復縁し、上手く行くかに思えたが・・・
資産家の実母と根深い確執を抱えており、再婚を機に街に戻った彼女を快く思っていない。
ハンク・ジェニングス
演:クリス・マルキー、吹替:郷里大輔
ノーマの夫。
高校時代はエドやノーマのクラスメイトだった。
道端で眠っていたホームレスを誤って車で轢いてしまった過失致死の罪で服役している。『ローラの日記』によれば、事件が起こったのは1987年12月23日の夜中だったという。
服役前の彼は、ノーマにとってあまりよい夫ではなかったようだが、現在はよき模範囚として、仮釈放の審理を間近に控えている。
トルーマン保安官とは幼馴染で“ブックハウスボーイズ”にも参加していたが、現在ではその関係は壊れてしまっている。
根っからの悪党でホーン兄弟の手下として動く。二人の命令でレオ・ジョンソンを銃撃する姿をボビィに目撃されている。
アニー・ブラックバーン
演:ヘザー・グラハム、吹替:
ノーマの妹で、十代後半からずっと修道院に入っていた。
人気者で外向的な姉とは対照的に、空想の世界を愛し、周囲からは浮世離れした変人と思われている。したがって友人も少なく、人間よりもむしろ自然の方に親しみを覚えていたが、本当は夢の中から抜け出し、世の中に戻りたいとずっと考えていた。
自身の人生をやり直すためには必須となる恐怖と向き合うため、修道院を出、ノーマが経営するダブルRダイナーでウェイトレスと働き出したところで、ツイン・ピークスにとどまるクーパー捜査官と出会う。過去にリストカットしたことも含めて彼女を心から受け入れようとするクーパーと相思相愛の仲に発展するのだが・・・

カナダの人々

ジャック・ルノー
演:ウォルター・オルケウィッツ、吹替:島香裕
“バンバンバー”という名のロードハウスで働く、カナダ国籍のバーテンダー。
しかし、裏では弟のベルナールと共に、カナダからツイン・ピークスへコカインを密輸している。
町外れに山小屋を持っており、そこでウォルドーという名の九官鳥を飼っている。
ジャン・ルノー
演:マイケル・パークス、吹替:
ジャックとベルナールの兄。
二人の弟の仇を打つため、クーパー捜査官を付け狙う。
表向きは保険外交員を装っているが、その正体は賭博に薬物、何でもありの危険人物。ジャックやベルナールがツイン・ピークスへ密輸しているコカインの出所も実は彼である。
カジノ兼売春宿“片目のジャック”は彼の保険屋稼業における顧客であり、度々出入りしているが、その実、店の所有者であるベン・ホーンの目を盗んで、女主人であるブラッキー・オライリーと裏稼業における密接な関係を結んでいる。
ブラッキー・オライリー
演:ヴィクトリア・キャトリン、吹替:一城みゆ希
所有者であるベン・ホーンから、カジノ兼娼館“片目のジャック”の取りしきりを任されている女性。
ナンシーという妹がおり、こちらはジャン・ルノーと行動を共にしている。その縁から、ホーン兄弟はあずかり知らぬ事だが、ルノー兄弟ともつながりがある。

その他の人々

ロネット・ポラスキー
演:フィービー・オーガスティン、吹替:沢海陽子
ローラ・パーマーの遺体が発見されたその日、廃線にて保護された少女。
下着姿のまま、衰弱しきった様子で彷徨っているところを保護されたが、彼女もまた、ローラと同じく複数人と性交渉を持っていた。精神的に大きなショックを受けており、地元病院の集中治療室に収容された後も昏睡状態が続く。
ローラとは同じツイン・ピークス高校に通っていたが、交友関係はなかった。
ローレンス・ジャコビー
演:ラス・タンブリン、吹替:仲木隆司
ハワイかぶれの精神科医。派手な服装を好み奇抜な言動をとる怪しげな男。
事件の半年前から、ローラ・パーマーのたっての希望で密かに診察を行っていた。オードリー・ホーンの兄、ジョニーも患者の一人である。
患者には無関心だが、ローラに対しては特別な感情を抱いている。患者の秘密保護を盾にクーパーには協力しようとはせず、独自の手法で事件の捜査とローラの秘密に迫ろうとする。ローラの裏の顔や秘めた性格について多少なりとも知るところがあり、後に自分の患者となったボビィーが実はローラの“被害者”であることも知っている。
ハワイにイオラニという名の妻がいる。
マーガレット・ランターマン
演:キャサリン・E・コールソン、吹替:巴菁子
丸太おばさん(ログ・レディ)とあだ名される、丸太を抱いた女性。街の人々からは心を病んでいると思われており、変人扱いされている。
町外れの山小屋で、腕に抱いた丸太と共に暮らしている。丸太は自身が見聞きした事を彼女に教えてくれるそうで、それによれば、事件の晩、丸太は、謎を解く鍵となる特別な光景を目撃したらしい。
彼女の夫は樵であったが、結婚式の翌日、仕事中に火事に遭い、命を落とした。彼女の言葉を借りれば、“火の形をし、卑怯者のように煙の陰に隠れる悪魔と遭遇した”という。以来、彼女の家の暖炉は火が起こせないよう板張りされ、マントルピースには夫の遺灰が収められた壷が置かれている。
クーパーに『巨人』についての情報をもたらす役となる。
ハロルド・スミス
演:レニー・フォン・ドーレン、吹替:堀秀行
ローラ・パーマーが生前、ダブルRダイナーで行っていた食事配達を受けていた顧客の一人。
一見健康な若い男性だが過去の体験から極度の人間不信に陥っている。広場恐怖症を持ち、家から出る事ができず、無理に出ると発作を起こして倒れてしまう。外出できない彼は、自分の元を訪れる人々が話してくれる実体験を“生きた小説”として文章にまとめ上げる事をライフワークにしている。
元々は園芸家で、外出が出来なくなった今も家の中で洋ランを育てている。
保安官事務所によって押収されたものとは別の、ローラのもう一冊の日記を生前の彼女から預けられ、大切に保管している。
ローラの導きでやってきたドナを深く愛するようになるが、ドナの手引きでマディが自宅に侵入したのに気づき、ドナが『ローラの秘密の日記』を手に入れるために近づいてきたと悟り、裏切りを苦にして首を吊る。遺体は事情聴取に来たホークに発見される。自らの遺書はズタズタに引き裂かれていた。
フィリップ・マイケル・ジェラード
演:アル・ストロベル、吹替:藤本譲
左腕がほとんど根元から失われている、靴の行商人。
クーパー捜査官の見た夢に登場し、“来たるべき過去の闇を見通すのが魔術師の望み。2つの世界の闇から人は声を放つ。火よ、我とともに歩め”という謎の詩を語り、犯人は“ボブ”だと名指しした“マイク”という男と瓜二つ。
極度の不安状態に陥ると発作を起こすため薬物を常用している。

不明

トレモンド夫人(シャルフォン夫人)
演:フランシス・ベイ、吹替:
ローラ・パーマーが生前、ダブルRダイナーで行っていた食事配達を受けていた顧客の一人。
身体が不自由で、手品が得意な孫・ピエールと暮らしている。しかしながら、外出できない事はないようで、映画では生前のローラへ町中で不可思議な絵を手渡しで贈っている。
クリーム・コーンが嫌いらしい。
別の場所から来た小さな男
演:マイケル・J・アンダーソン、吹替:辻村真人
クーパー捜査官が睡眠中に見た夢に現れた、全身赤尽くめの異様に小柄な男。
ローラ・パーマーと瓜二つの、彼女のいとこだと名乗る女性と共に姿を見せ、奇妙な話し方をし、奇妙なダンスを踊る。
夢や幻影、直感に宿る力を信じるクーパー捜査官は、その夢にこそ、事件の謎を解く手がかりがあると直感する。
巨人
演:カレル・ストルイケン、吹替:清川元夢
捜査の過程で、クーパー捜査官の前に姿を現した謎の幻影。
少なくとも3メートルほどの身長を持っており、クーパー捜査官に“フクロウは見かけと違う”、“薬品なしで男は指さす”などの謎めいた助言を与え、彼の指輪を預かっていく。その後も、事件が展開を見せる度にクーパー捜査官へ助言を与える。
キラー・ボブ
演:フランク・シルヴァ、吹替:
最初にロネット・ポラスキーが目撃し、さらにローラ・パーマーの母、セーラとローラのいとこ、マデリーンが見た幻影の中に現れた、白髪の獣のような謎の男。
続いて、クーパー捜査官の夢にも姿を現し、“俺はまた殺す”と宣言した。
夢の中で“マイク”が犯人と名指ししていた事もあり、クーパー捜査官は、この“ボブ”を最重要容疑者と目し、似顔絵を作成させる。

スタッフ

  • 製作総指揮 - マーク・フロスト、デイヴィッド・リンチ
  • 製作 - グレッグ・ファインバーグ、ハーリー・ペイトン
  • 音楽 - アンジェロ・バダラメンティ
  • 撮影監督 - ロン・ガルシア、フランク・バイヤーズ
  • 編集 - ドゥエイン・ダナム、ジョナサン・P・ショウ、トニ・モーガン、ポール・トレジョー、メアリー・スウィーニー
  • 脚本 - マーク・フロスト、デイヴィッド・リンチ、ロバート・エンゲルス、ハーリー・ペイトン
  • 演出 - デイヴィッド・リンチ、ダイアン・キートン、スティーブン・ギレンホール、ティム・ハンター

ちなみに『ツイン・ピークス』終了後、リンチとフロストは再びABCにて、放送業界の裏側を描いた『オン・ジ・エアー』(On The Air)というコメディ仕立てのテレビ・シリーズを製作したが、低視聴率により、7話分製作されたうち3話までが放送されたところで打ち切りとなってしまった[1]。その後、2人はいくつかの作品を共同で手がけた後、コンビを解消している。

エピソードリスト

ファーストシーズン

各話 邦題 原題 放送日 (ABC)
1 序章 Pilot 1990年4月8日
2 第1章 Episode #1.2 1990年4月12日
3 第2章 Episode #1.3 1990年4月19日
4 第3章 Episode #1.4 1990年4月26日
5 第4章 Episode #1.5 1990年5月3日
6 第5章 Episode #1.6 1990年5月10日
7 第6章 Episode #1.7 1990年5月17日
8 第7章 Episode #1.8 1990年5月23日

セカンドシーズン

各話 邦題 原題 放送日 (ABC)
1 第8章 Episode #2.1 1990年9月30日
2 第9章 Episode #2.2 1990年10月6日
3 第10章 Episode #2.3 1990年10月13日
4 第11章 Episode #2.4 1990年10月20日
5 第12章 Episode #2.5 1990年10月27日
6 第13章 Episode #2.6 1990年11月3日
7 第14章 Episode #2.7 1990年11月10日
8 第15章 Episode #2.8 1990年11月17日
9 第16章 Episode #2.9 1990年12月1日
10 第17章 Episode #2.10 1990年12月8日
11 第18章 Episode #2.11 1990年12月15日
12 第19章 Episode #2.12 1991年1月12日
13 第20章 Episode #2.13 1991年1月19日
14 第21章 Episode #2.14 1991年2月2日
15 第22章 Episode #2.15 1991年2月9日
16 第23章 Episode #2.16 1991年2月16日
17 第24章 Episode #2.17 1991年3月28日
18 第25章 Episode #2.18 1991年4月4日
19 第26章 Episode #2.19 1991年4月11日
20 第27章 Episode #2.20 1991年4月18日
21 第28章 Episode #2.21 1991年6月10日
22 第29章 Episode #2.22 1991年6月10日

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間(劇場版)

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あらすじ(劇場版)

ワシントン州南西部にある田舎町 ディア・メドウで、テレサ・バンクスという少女が殺害された。FBI地方捜査主任であるゴードン・コールから指名を受けた特別捜査官 チェスター・デズモンドは、鑑識の専門家であるサム・スタンリーと共に現地へ向かい、捜査を開始する。

一方、フィラデルフィア支局の特別捜査官 デイル・クーパーは以前から、この日が来るのを不穏な予感と共に感じ取っていた。やがて、クーパー捜査官の予感通り、不可解な出来事が立て続けに起こり、テレサ・バンクス殺害事件は未解決のまま、棚上げとなってしまうのだった。

1年後、同じワシントン州のツイン・ピークスという町に暮らす17歳の高校生 ローラ・パーマーはある日、自分の秘密の日記帳のページが、何者かによって破り取られている事に気づき、愕然となる。

登場人物(劇場版)

※ここでは、劇場版にのみ登場する人物を記す。

主要人物は#登場人物を参照。

テレサ・バンクス
演:パメラ・ギドリー、吹替:色川京子
ビニールに包まれた他殺体となって発見された、どこかローラ・パーマーと似た雰囲気をもつ17歳の少女。
ローラを殺害した犯人によって、彼女の殺害からさかのぼること前年の「2月9日」に殺害され、ディア・メドウという町を流れるウィンド川を流されているところを発見された。
死因は後頭部を鈍器で何度も殴られた事による頭蓋骨陥没で、左手薬指からはフクロウがデザインされた指輪が奪い取られており、さらにその爪の下には“T”とタイプされた紙片が押し込まれていた。
身寄りのない流れ者で、1ヶ月前、どこからか町へ流れてきて、ハップス・ダイナーという店でウェイトレスとして働き始めた。
コカインを常用しており、そのせいか、殺害される3日前から左腕が麻痺していたという。
チェスター・“チェット”・デズモンド
演:クリス・アイザック、吹替:大塚明夫
テレサ・バンクス事件の捜査を担当する事になった、独自の捜査手法を持つFBI捜査官。
『クーパーは語る』によれば、テレサ・バンクス事件を担当したのは、クーパー捜査官という事になっている。
サム・スタンリー
演:キーファー・サザーランド、吹替:伊藤和晃
デズモンド捜査官とコンビを組む事になったFBI鑑識員。
鑑識能力に申し分はないようだが、御人好しで要領の悪い面がある。
フィリップ・ジェフリーズ
演:デイヴィッド・ボウイ、吹替:大塚芳忠
およそ2年間消息を絶っていたFBI捜査官。
突然、フィラデルフィアのFBI支局に姿を現し、クーパー捜査官らを困惑させる。
失踪中、ジュディという人物(?)と関わりを持ち、それによって、常識では計り知れないものを目撃した。
カール・ロッド
演:ハリー・ディーン・スタントン、吹替:千田光男
テレサ・バンクスが暮らしていた、ファット・トラウト・トレーラー・パークの管理人。

スタッフ(劇場版)

  • 製作総指揮 - マーク・フロスト デイヴィッド・リンチ
  • 製作 - グレッグ・ファインバーグ
  • 音楽 - アンジェロ・バダラメンティ
  • 撮影監督 - ロン・ガルシア
  • 編集 - メアリー・スウィーニー
  • 脚本 - デイヴィッド・リンチ ロバート・エンゲルス
  • 監督 - デイヴィッド・リンチ

劇中用語

ブックハウス・ボーイズ
コーヒー・ショップ“ブックハウス”を本拠地とする町の自警団。20年ほど前に結成され、トルーマン保安官をリーダーに、ホーク保安官補、エド・ハーリー、ジェームズ・ハーリーらが所属しており、かつてはハンク・ジェニングスもメンバーだった。リーダーが保安官だという事もあり、保安官事務所が表立って手がけられない捜査業務を秘密裏に手伝う事が多く、管轄外での捜査には大きな力を発揮する。
現在はカナダから持ち込まれ、町に蔓延しつつあるコカインの出所を探る事に全力をあげているが、その最大の目的は、古くから森の奥深くに存在するとされる邪悪な何かから町を守る事にある。こめかみを人差し指でなぞるのがメンバー同士の合図で、メンバーにはその証として特製のワッペンが贈られる。
ホワイト・ロッジ
人と自然を支配する精霊の住処とされる、この世とは別の善の世界。米国空軍は秘密裏に、外宇宙の探査のかたわら、このホワイト・ロッジの探索もすすめている。
ブラック・ロッジ
ホワイト・ロッジの影にあたる、この世とは別の悪の世界。古くから伝わる伝承によれば、全ての魂はブラック・ロッジを通らなければ、悟りに達する事はできないという。ブラック・ロッジを訪れる者は、そこで“戸口に住む者”と呼ばれる自分自身の影と出会うが、勇気なくしてブラック・ロッジを訪れると、それは魂の破滅を意味するという。このブラック・ロッジに住む邪悪な精霊を支配下に治められれば、地上を思いのままに出来るほどの力が備わるという。
赤い部屋(レッド・ルーム)
白黒の床に赤いカーテンで区切られた、何処に存在するとも知れぬ謎の空間。クーパー捜査官など、限られたごく少数の人間のみが、睡眠中の夢などを通して訪れる事が出来る。夢の中のクーパー捜査官が25年もの時を経ていたように、この部屋では時間の流れが一定ではなく、過去・現在・未来が混然として一つ所に同居している(劇場版ではその特性を生かし、テレビ・シリーズの前日談であると同時に後日談でもあるという非常に特殊な作劇となっている)。
ホワイト・ロッジ、またはブラック・ロッジとどういう関係にあるかは不明。
ガルモンボジーア
片腕の男“マイク”や別の場所から来た小さな男にとって、“痛みと悲しみ”と定義される何かで、クリーム・コーンの形態を取っている。

製作経緯

パイロット版(序章)

デイヴィッド・リンチとマーク・フロストが知り合ったのは、ワーナー・ブラザーズから持ち込まれた、実現せずに終わったある映画の企画がきっかけであった。それから後の1987年、リンチの発案による『ワン・サライヴァ・バブル』(One Saliva Bubble)という、やはり未映像化に終わったコメディ映画の脚本を共同執筆した事により、リンチとフロストの親交は一層、深まる事となった。

1986年の『ブルーベルベット』以降、エージェントからテレビ・シリーズを手がける事を勧められていたリンチはある日、インスピレーションを得る。湖のほとりに打ち上げられた遺体のイメージである。言うまでもなく、『ツイン・ピークス』の物語の発端となるローラ・パーマーの遺体のイメージであり、このイメージこそが『ツイン・ピークス』誕生の原動力となった。

この当時はまだ、ノースダコタ州の田舎町で殺人事件が起こるという設定であり、タイトルも『北西部への道』(Northwest Passage)というものであったが、殺人事件のミステリーを軸に、様々なエピソードが延々と展開していき、謎解きは徐々に背景的ストーリーと化していく、という物語の基本路線はすでに確立していた。

1988年、リンチとフロストは共同で書き上げた『ツイン・ピークス』の脚本を、全米三大ネットワークの一つ、ABCへ持ち込んだ。その後間もなく、半年間に渡る脚本家のストライキが発生した事によって、契約にこぎつけるまでには相当の時間がかかったものの、とりあえずは2時間のパイロット版製作の許可が下りた。1989年初頭、パイロット版の撮影は厳寒のワシントン州スノクァルミーとその付近にて、24日間という強行スケジュールで行われた。

インターナショナル版(ヨーロッパ版)パイロット

リンチとフロストはABCの許可と資金提供を受け、パイロット版の製作に取りかかったが、ABCからの制作費だけでは不足で、パイロット版を映画として世界中に配給する権利と引き換えに、ワーナー・ホーム・ビデオ社と契約を結び、残りの制作費の提供を受けた。

ワーナー・ホーム・ビデオ社は契約において、パイロット版を一個の独立した映画として主にヨーロッパへ配給できるよう、ローラー・パーマー殺害事件が解決するエンディングの撮影をリンチとフロストに迫った。

もちろん、リンチとフロストはパイロット版をテレビ・シリーズの第1話にするつもりであり、パイロット版において事件を解決させるつもりはなかった。しかしながら、撮影途中にワーナー・ホーム・ビデオ社から念を押されたリンチは、即興とインスピレーションに任せてエンディング部分を撮影した。そのエンディング部分こそ、シリーズ全体に大きな影響を及ぼす事となった“赤い部屋(レッド・ルーム)”におけるシーンであった。契約に迫られて撮影したものではあったが、そのパワフルな内容に、リンチは、それら一連のシーンをテレビ・シリーズで再利用したのだった。

以上のような事情で、パイロット版には、テレビ・シリーズの第1話として放映されたオンエア・ヴァージョンと、それ自体で完結する長編映画としてのインターナショナル・ヴァージョンの2種類が存在するという事態になった。パイロット版の映像ソフトについては長らく、配給権を有するワーナー・ホーム・ビデオ社によってインターナショナル・ヴァージョンのみが販売され、オンエア・ヴァージョンはソフト化されないままの状態が続いていたが、2002年の『ファーストシーズン スペシャル・コレクターズ・エディション』発売を契機に、オンエア・ヴァージョンもDVDとして初めてソフト化され、2007年に発売された『ゴールド・ボックス』では、両ヴァージョンのパイロット版がいつでも鑑賞できるようになった。

ファーストシーズン(製作経緯)

パイロット版の完成後、モニター調査を経たABCによって、リンチとフロストはさらにファーストシーズン7話分の製作許可を与えられた。しかしながら、その頃になると、リンチは『ワイルド・アット・ハート』の製作準備に取りかからなければならなくなっていた。ファーストシーズンの製作準備を終えたリンチは当初、全7エピソードを自ら演出したいと考えていたが、前述した事情のためにそれは叶わなかった。そこで、ティム・ハンターなど、自身が認める監督を演出陣に迎えた。

ファーストシーズンの撮影は主にロサンゼルスのスタジオで行われ、1989年の年末には終了した。リンチが現場不在の間、複数の脚本家を束ね、ドラマの整合性を調整したのはフロストであった。

1990年4月8日、パイロット版を皮切りにファーストシーズンの放送が開始され、大ヒットのうちに5月23日、シーズン・フィナーレを迎えた。ABCはもちろん、セカンドシーズンの製作を決定したが、『ワイルド・アット・ハート』の製作に入っていたリンチは、セカンドシーズンの製作準備にほとんど関与する事ができなかった。

セカンドシーズン(製作経緯)

6月から7月にかけて、やはりロサンゼルスで撮影が開始されたセカンドシーズンは、9月30日、リンチが演出を手がけたシーズン・プレミアにあたる2時間のエピソードによって放送が開始され、ファーストシーズンと同様、熱狂を持って迎えられた。

しかしながら、その爆発的人気がストーリー展開に弊害を与えるようになる。“殺人事件のミステリーを軸に、様々なエピソードが延々と展開する”というのが、リンチとフロストが考案した『ツイン・ピークス』の特色の一つであったわけだが、視聴者の中には、いつまで経っても事件の真犯人が明かされない事に苛立ちを覚える者が多く現れ始めた。それを敏感に察知したABCによって、早く真犯人を明らかにするよう、リンチら製作陣はプレッシャーをかけられるようになった。

リンチとフロストは、ABCに企画を提出したごく初期の段階から真犯人を決めていたが、すぐにそれを明らかにするつもりはなかった。被害者であるローラ・パーマーと町民の関係性を描く事こそが真のミステリーだと考えていたからである。しかしながら、殺人事件の謎が魅力的過ぎたためにそれは上手くいかず、セカンドシーズン半ばで真犯人を明かさざるを得なくなってしまった。

事件の真犯人が明らかとなるのを待って、フロストは映画『ストーリービル 秘められた街』の製作のため、『ツイン・ピークス』を離れる。これによって『ツイン・ピークス』は実質上、リンチとフロストの手を離れる事となったわけだが、事件が解決してしまった事によって、『ツイン・ピークス』に対する視聴者の興味は薄れ、視聴率は下降を始めた。さらに、ABCが放送日の変更や放映の中断(セカンドシーズンの放映期間が8ヶ月以上にも渡っているのはこのため)を行ったために、視聴率は下降の一途をたどった。

リンチは『ツイン・ピークス』の放送継続を求めて記者会見を開くなどしたが事態は好転せず、1991年6月10日、最終2話が、2時間スペシャルとして、まとめて放映されたのを最後に、テレビ・シリーズは打ち切られた。

久々に現場復帰したリンチが演出を担当した最終話は壮絶なストーリー展開を示したが、彼によると、このエピソードはあくまでもセカンドシーズンの最終話に過ぎず、『ツイン・ピークス』という物語そのものの結末ではないという事である。

劇場版

ローラ・パーマーというキャラクターにのめりこんでいたリンチは、テレビ・シリーズが打ち切られた後も『ツイン・ピークス』の世界を去りがたく、ローラを主人公に、彼女が殺害されるまでの7日間を映像化するという形で『ツイン・ピークス』の映画化を決定する。

しかしながら、劇場版の製作決定時、テレビ・シリーズでドナ・ヘイワードを演じたララ・フリン・ボイルとオードリー・ホーンを演じたシェリリン・フェンはすでに別の仕事へ取りかかっており、加えて、クーパー捜査官を演じるカイル・マクラクランが、自分の俳優としてのイメージが固定される事を恐れ、出演に難色を示した事で、劇場版製作が危ぶまれるという事態が待ち受けていた。

最終的には、モイラ・ケリーにドナを演じさせ、オードリーの出番を脚本から削除する事でリンチは製作準備を進め、マクラクランも出演を承諾した事で、劇場版製作は実現する。

撮影は1991年秋から、パイロット版と同じくワシントン州スノクァルミーにて行われた。完成した作品は1992年のカンヌ国際映画祭に出品後、一般公開となったが、上映時間の都合上、膨大な量のシーンがカットされてしまった事もあって、難解なストーリー展開を示し、当時の評価は惨憺たるものだった。

劇場版が酷評された直後、『ツイン・ピークス』について、リンチはドイツの映画誌にて“二度と製作しない”と断言した。その言葉を裏付けるように、フェニックスメディアというイギリスのプロダクションによって、『ツイン・ピークス』の前日談にあたる『With a Thousand Angels』という新作映画の企画が立ち上げられた事があったが、リンチが許可を出さず、実現せずに終わった経緯がある。その一方でリンチは、“今でももう一度(『ツイン・ピークス』の世界に)戻りたいと思うくらい、強烈な魅力がある”とも語っている。

もう一人の製作総指揮者であるフロストは現在、カイル・マクラクランに再びクーパー捜査官を演じさせて続編を製作したいと考えており、マクラクラン本人にもその意向を伝えてあるという。

配役・演出

デイヴィッド・リンチは場当たり的な配役・演出を多く採用している。

ローラ・パーマーを演じたシェリル・リーも、パイロット版の撮影当初は死体役として採用されたに過ぎなかったが、リンチに才能を認められ、マディ・ファーガソンとしてテレビ・シリーズに再登場し、劇場版では主役を演じる事となった[2]。ちなみに彼女は、オードリー・ホーン役のシェリリン・フェンらと共に『ワイルド・アット・ハート』にも出演している。劇中に幾度となく登場する、写真立てに入れられたローラの写真は実は、ローラ役のシェリル・リーの大学祭用写真で、そのままローラの写真として撮影に使用されたテンプレート:要出典

パイロット版の撮影スタッフであったフランク・シルヴァは撮影中にリンチの目にとまり、そこからインスピレーションが膨らんで、当初の脚本に存在しなかったキラー・ボブというキャラクターが出来上がり、後のストーリー展開に大きな影響を及ぼす事となった[3]。シルヴァはその後、心臓発作のために1996年、46歳で死去している。

キャサリン・E・コールソン演じる“丸太おばさん(ログ・レディ)”というキャラクターについては、『イレイザーヘッド』を撮影していた1970年代前半の頃からすでに、リンチの発想の中に存在していたという。それは、当時『イレイザーヘッド』の撮影スタッフであったコールソンに“丸太おばさん”を演じさせ、30分のテレビ番組の主演を任せるというアイディアであった[4]

リンチの息子、オースティンが手品を得意とするピエール・トレモンド役で、マーク・フロストの実父、ウォーレンがウィリアム・ヘイワード医師役で、クーパー捜査官を演じるカイル・マクラクランの弟、クレイグが浮浪者役で出演しているなど、キャストやスタッフには血縁者も見られる。関連書籍についても、リンチの娘・ジェニファーが『ローラの日記』の執筆を、フロストの弟・スコットが『クーパーは語る』の執筆を手がけている。

プロモーション

セカンドシーズン放送開始を控えた1990年9月29日、NBCのコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』にカイル・マクラクランがホストとして出演した。この番組内では、『ツイン・ピークス』のパロディコントが行われ、カイル本人もクーパー捜査官を演じた。また番組冒頭のモノローグでは、『ツイン・ピークス』に関するネタバレのようなトークを展開したため、直後にリンチから苦情の電話を受けるというコントも行われた。

1992年 - 1993年に缶コーヒージョージアとの一大タイアップキャンペーンにより、デヴィッド・リンチ監督、ツイン・ピークス出演者と日本の俳優を交えて、警視庁の刑事・斎藤健(菊池隆則)の婚約者であり日本人観光客の原麻美の失踪事件の解決を、クーパー捜査官に依頼するという内容のコラボCMが放送された。また「ジョージアに、まかせろ。」のキャッチコピーによる広告展開、6タイプ32種類のツインピークス缶での発売が行われた。CMは第2シリーズも計画されていたが、ジョージア側の第1シリーズへの不満で中止となった[5]。カイル・マクラクランは自身のサイトで、CMのため大量に缶コーヒーを飲んだが、悪くはなかったと述べているテンプレート:要出典

映画の公開時に新宿アルタ前にてファンによる献花方式によるローラ・パーマーのお葬式も行われたテンプレート:要出典

受賞歴

  • エミー賞 - 14部門にノミネート、編集とコスチューム・デザインの2部門を受賞(1990年10月)。
  • ゴールデングローブ賞 - 最優秀ドラマシリーズ、最優秀主演男優賞(カイル・マクラクラン)、最優秀助演女優賞(パイパー・ローリー)と、テレビ・シリーズとしては異例の3部門を受賞(1991年1月)。
  • 流行語大賞 1992年流行語大賞・大衆語部門 銅賞

関連商品

書籍

  • 『ツイン・ピークス/ローラの日記』 ジェニファー・リンチ著 飛田野裕子訳 扶桑社ミステリー ISBN 4-594-00764-3
劇中にて、ローラ・パーマーがハロルド・スミスへ預けた、彼女の秘密の日記を書籍化したもの。12歳の誕生日を迎えた1984年から殺害される直前までの彼女の本当の姿が描かれている。1991年6月27日発売。
  • 『ツイン・ピークス/クーパーは語る』 スコット・フロスト著 飛田野裕子訳 扶桑社ミステリー ISBN 4-594-00836-4
クーパー捜査官がこれまでテープに残してきた彼の個人史を書籍化したもの。テープ・レコーダーをプレゼントされた1967年のクリスマスからツイン・ピークスを訪れるまでのクーパー捜査官の人生が描かれている。1991年11月28日発売。
  • 『Welcome to TWIN PEAKS/ツイン・ピークスの歩き方』 リンチ&フロスト&ワーマン著 高橋良平監修 扶桑社 ISBN 4-594-00877-1
観光案内のガイドブックの体裁を取って、ツイン・ピークスという土地をまるで実在するかのように扱い、町の歴史や観光名所、住民の生い立ちなどが紹介されている。2008年10月現在絶版。

CD

  • 『ツイン・ピークス』 ワーナー・ブラザーズ
テレビ・シリーズ、ファーストシーズンのサウンドトラック。1990年9月11日発売。
  • 『ピークス・マニアEP』 ワーナー・ブラザーズ
挿入歌を歌ったジュリー・クルーズの来日記念盤のEP。1992年5月25日発売。
  • 『Twin Peaks:All New Season Two Music』 日本未発売
テレビ・シリーズ、セカンドシーズンのサウンドトラック。2007年10月23日発売。
  • 『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間 オリジナル・サウンドトラック』 ワーナー・ブラザーズ
劇場版『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』のサウンドトラック。1992年8月11日発売。

DVD

  • 『ツイン・ピークス ファーストシーズン スペシャル・コレクターズ・エディション』 パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
序章(オンエア版)とファーストシーズン(第1章から第7章まで)、映像特典を収録。
ハイビジョンテレシネによるマスタリングと、英語音声に限って5.1chサラウンドが施されている。2002年10月25日発売。
  • 『ツイン・ピークス セカンド・シーズンPart1 スペシャル・コレクターズ・エディション』 パラマウント・ジャパン株式会社
セカンドシーズンのうち、第8章から第18章までの12エピソードと、映像特典を収録。
後述する『ゴールド・ボックス』と同じリマスター映像と5.1chサラウンドの英語音声が用いられている。2007年11月9日発売。
  • 『ツイン・ピークス セカンド・シーズンPart2 スペシャル・コレクターズ・エディション』 パラマウント・ジャパン株式会社
セカンドシーズンのうち、第19章から第29章までの11エピソードと、映像特典を収録。
やはり『ゴールド・ボックス』と同じリマスター映像と5.1chサラウンドの英語音声が用いられている。2007年11月9日発売。
  • 『ツイン・ピークス ゴールド・ボックス』 パラマウント・ジャパン株式会社
オンエア版序章、インターナショナル版序章を含めた全話と、映像特典を収録。12枚組ポストカード、レア・ポストカード応募葉書、ブックレット封入。
映像にはデイヴィッド・リンチの監修によるデジタルリマスターが、英語音声には5.1chサラウンドが施されている。2007年11月9日発売。
2012年7月13日にAmazon限定で『セカンド・エディション』として再発売予定。封入物はブックレットのみ。
  • 『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』 パイオニアLDC
劇場版本編と映像特典を収録。
しかしながら、PALマスターが用いられているため、ランタイムが短くなっている。2002年9月26日発売。
  • 『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間(廉価版)』 パラマウント・ジャパン株式会社
劇場版本編のみを収録。
ランタイムの問題は解消されたが、映像特典は未収録となっている。2007年11月9日発売。

Blu-ray

  • 『ツイン・ピークス/ローラー・パーマー最期の7日間 デイヴィッド・リンチ リストア版』パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
映像特典●メイキング&インタビュー●オリジナル予告 2012年7月13日発売予定。

参考文献

『映画作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ』 クリス・ロドリー編 広木明子+菊池淳子訳 フィルムアート社 ISBN 4-8459-9991-9

脚注

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  1. クリス・ロドリー編『映画作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ』広木明子+菊池淳子訳、フィルムアート社、1999年、319-320頁。
  2. クリス・ロドリー編『映画作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ』広木明子+菊池淳子訳、フィルムアート社、1999年、259-260頁。
  3. クリス・ロドリー編『映画作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ』広木明子+菊池淳子訳、フィルムアート社、1999年、246-249頁。
  4. クリス・ロドリー編『映画作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ』広木明子+菊池淳子訳、フィルムアート社、1999年、109-110頁。
  5. クリス・ロドリー編『映画作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ』広木明子+菊池淳子訳、フィルムアート社、1999年、316-317頁。

外部リンク

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