カバ

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カバ(河馬、学名Hippopotamus amphibius英語名:Hippopotamus)は、アフロユーラシア淡水域に棲息し、水陸両棲の形質を持つ、大型の草食性哺乳類の一分類群(1)。鯨偶蹄目カバ科に分類される動物であり、現在はアフリカにのみ生息する。

呼称

属名 Hippopotamus は、「カバ」を意味するテンプレート:Lang-la (ヒッポポタムス)をそのまま用いたもので、大プリニウス『博物誌』等にも言及のある古い言葉である。 さらに遡ればテンプレート:Lang-grc (ヒッポポターモス; < ἵππος 「馬」 + ποταμός 「川」)であり、当時はナイル川下流でも見られたカバに対してギリシア人が命名したものであった。

日本語の「河馬」は近代になってこれを直接訳したか、もしくは、ドイツ語で「カバ」を意味する Flusspferd (< Fluss 「川」 + Pferd 「馬」)を訳したもの。

系統分類

種分類

クジラとカバの共通点

テンプレート:Main 1994年以降、ミトコンドリアDNA法などにより、クジラ類とカバ類(カバ科)が姉妹群である可能性を示唆されていた。 従来説では水生生活への適応の結果としての収斂進化の一例と見なされていたが、分子生物学分野からもたらされる新知見を採り入れることにより、水生への依存が強かった共通祖先を持つことも関連する共通派生形質であることが明らかになった。

形態

ファイル:Hippopotamus-1.jpg
直線上に並んでいる眼・鼻孔・外耳を水中から出して周囲の様子をうかがう
ファイル:HippoJaw.jpg
大きく開いた顎と歯

体長(頭胴長)約3.5- 4 m、体重約1.2- 2.6 t。陸上動物としてはゾウに次ぐ重さとされる。丸みを帯び、脚の短いずんぐりとした体つきがブタと相似をなすことから、同じイノシシ亜目 (Suiformes) に属するとされていた。 しかし、DNA分析の結果、カバはイノシシ類よりもウシと近縁であることが証明され、かつ、クジラとの遺伝的関係が最も近い陸上動物であることが分かった[1]

頭部は非常に大きく、顔の側面上方に鼻孔外耳が一直線に並んで突き出しているのが特徴であり、水中からこれらだけを出して周囲の様子をうかがっている様子がしばしば見られる。鼻孔は自由に開閉することができ、水中での水の流入を防ぐことができる。の筋肉が非常に発達しており、関節の構造と相まって、を150度まで開くことができる。この巨大な口には、長く先のとがった門歯犬歯が生えている。中でも下顎の犬歯は長さ40- 50cmほどにも達し、自らの口腔を貫く場合さえある。闘争時にはこの犬歯が強力な武器となる。尾は、尾骨の骨盤に接する部分が長いため、外部から見える部分は短い。

性質

そのユーモラスな外見から、カバは“穏和で動きの鈍い草食動物”といった印象を持たれることが多い。しかし、野生のカバは獰猛な面も持っており、自分の縄張りに侵入したものは、ワニライオン、ヒト等だけでなく、他の縄張りから来たカバを攻撃することがある。雄同士の縄張り争いにおいては命を落としたり瀕死の重傷を負う個体も少なくない。また、新たに縄張りを乗っ取った雄は、ライオンと同じように先代のボスの子供を殺す「子殺し」を行うことが確認されている。

出産前もしくは子を守ろうとする雌は、雄以上に気性が荒くなる。子供のカバは捕食対象として狙われることも多いためである。縄張りに侵入したワニに襲いかかり、噛み付いて真っ二つにしたという報告例もある。その一方で、口を開けたままのカバの牙に小鳥が止まって、小鳥が飛び去るまでそのままでいたというケースもある。

生態

ファイル:Hippopotamus in San Diego Zoo.jpg
水より比重が大きいため、水底を歩くことができる

アフリカ大陸の赤道付近に生息している[3]。1日のほとんどを水中で過ごしており、交尾出産も水中で行う。4- 5分程度の潜水が可能であり、その際は鼻孔や耳を閉じることができる。比重が水よりわずかに大きく体が水に沈むため水底を歩くことができ、また呼吸の際に肺を大きく膨らませることで浮かぶこともできる。ただし、泳ぐ事は出来ない。陸上では時速40km以上で走る能力を持つが、持久力に乏しく、長距離走は苦手。

草食性であり、夜間に陸上に上がり、草原などで採食する。 しかし、死亡したカバの個体も含めて死んだ動物の肉を食べる事例が以前から報告されているほか、1997年7月には、インパラを捕らえて食べるカバの群れの様子が撮影され、ナショナルジオグラフィックチャンネルでも放映されたため、世界的な反響を呼んだ。また、死んだシマウマを食べていたという記録もある。 ただし、他の草食動物でも、キリンハトを食べた事例、トナカイレミングを捕食した事例、ヒヨコを食べた事例があり、また、草食動物が肉を食べる習慣があることも広く知られている。カバの食性の中心はあくまでであり、ほとんど肉に依存していないため、分類上は草食動物である。

通常、10- 20頭程度の群れで生活している。縄張りを示すため、をする際に尾でそれを撒き散らす。 妊娠期間は210- 240日程度で、一回に1子を産む。オスは5歳、メスは4歳程度で繁殖可能となる。平均寿命は約30年。繁殖力が高い反面、同じ一族の子孫による近親交配も多い。

“血の汗”

水中生活を主とする彼らの皮膚は乾燥や紫外線に弱く、それらから保護するために、俗に「血の汗」や「ピンクの汗」などと呼ばれる赤みを帯びた粘液を体表から分泌する。カバは汗腺を持たないため、この粘液はではない。この粘液は紫外線を遮断し、直射日光から皮膚を保護する役割を持っている。主成分も分離されており、ヒポスドール酸 (hipposudoric acid)、ノルヒポスドール酸 (norhipposudoric acid) と命名されている[4]
また、最近の研究で、粘液自体に殺菌作用があることが明らかとなった。このため、よく縄張り争いをするオスの体が傷だらけになっていても、汚れた淡水中で感染症に罹ることなく生活できる。
カバの皮膚は乾燥に弱く、水や泥などで絶えず湿らせていないと、表面がひび割れを起こしてしまう。粘液には、この皮膚を保護する役割もある。

人間との関係

アフリカでは、野生動物からの攻撃による人間の死者数は、カバによるものが最も多いと言われている。これは川辺のカバの縄張りに誤って侵入したことが原因とされる[5]。アフリカでは1年あたり約2900人がカバに襲われて死亡している[6]

飼育

かつて、移動動物園をしたカバヤ食品の「デカ」はいしかわ動物園で飼育された[7]東山動物園のカバの番(つがい)「重吉」(2代目)と「福子」(初代)は、19頭の仔をもうけ最多産記録である[8]。技術の向上から、1997年に天王寺動物園では日本で初めてガラス越しに水中を歩くカバを観察できるカバ舎を製作した[9]。この展示スタイルは富士サファリパークの「ワンダー・オブ・ピッポ」なども追随している。また、神戸市立王子動物園はスロープの傾斜を緩くしたバリアフリーを配慮したカバ舎を2003年に造っている。

カバ牙の利用

ワシントン条約で国際取引が禁止されている象牙の代替品として、カバの牙が印鑑や工芸品の高級素材として使われることがある。

カバをモチーフとした作品

文学作品

  • 早乙女勝元『さようならカバくん』 - 太平洋戦争末期に食糧事情悪化を理由に絶食処分された京子を扱った作品。
  • マイク・セラー、ロバート・グロスマン(画)『ぼちぼちいこか』 - 邦訳は今江祥智 による。
  • 坪内稔典『カバに会う 日本全国河馬巡り』
  • 小川洋子『ミーナの冒険』 - 坪内は前著で「このコビトカバ、私はあまり好きではない」と書いている。
  • ひろかわさえこ『かばくん・くらしのえほん』
  • ふくだとしお『うしろにいるのだあれ』
  • マーシャ・ブラウン『ちいさな ヒッポ』 - 邦訳はうちだりさこによる。

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

  1. 東京工業大学大学院生命理工学研究科生体システム専攻進化・統御学講座岡田研究室 クジラとカバの系統解析 新聞掲載記事集 [1]
  2. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「Redlist」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  3. 実際には放送されるほとんどの番組はケニアのツァボ国立公園にあるムジマ・スプリングス(Mzima Springs)で撮影されたものである。
  4. カバの赤い汗から新物質のヒポスドリック酸を分離 紫外線カット(UVカット)、細菌防止に効果?
  5. 地球ドラマチックNHK教育テレビ、2007年3月14日放送回 『知られざるカバの世界』 2007年3月14日番組内容
  6. サメと比較。どっちが毎年多くの人を殺す?さまざまな死因による年間死者数
  7. テンプレート:Cite news
  8. テンプレート:Cite news
  9. テンプレート:Cite web

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関連項目