アクラ型原子力潜水艦

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アクラ型原子力潜水艦(-がたげんしりょくせんすいかん Akula class submarine)は、ソヴィエト/ロシア海軍の攻撃型原子力潜水艦である。

アクラ型NATOコードネームであり、ソ連海軍の計画名は971型潜水艦(シチューカBПодводные лодки проекта 971 "щука-в")である。

ファイル:Akula class submarine.JPG
浮上航行中のアクラ型。セイル前方の赤白に塗り分けられた部分はDSRVのメイティングハッチ。縦舵上方のポッドは曳航ソナーの格納部

概要

アクラ型は1986年にソ連海軍に配備された攻撃型原子力潜水艦 (SSN) である。チタン製船殻を採用したアルファ型は目を見張る高性能を誇ったが、水中放射雑音が大きかった。その後に就役したシエラ型は、静粛性も向上しており、当初ソ連海軍は、シエラ型をヴィクター型の後継として大量建造しようとした。が、チタンは極めて高価なうえ工作が難しく、建造できる造船所も限られており、量産は不可能と判明した。そこで、シエラ型の設計を流用し鋼製船殻(100kgs/mm2)によって経済性を確保した新型艦971型として1977年から開発が始まった。971型の設計を命じられたマラヒート海洋工学設計局は、シエラ型を設計したラズリート設計局から図面を取り寄せ、船体はほぼそのまま流用し、セイルだけマラヒートの特徴である流線形のものにすげ替えた。1980年にはロサンゼルス級原子力潜水艦のデジタル・ソナー・システムに対抗して新型のデジタル・ソナー・システム搭載が決定されている。


アクラ型は1982年から1986年にかけて建造された最初の七隻から成るオリジナルの971型(アクラ1型)SSN、1986年から1991年までに建造された五隻の971U型(改アクラ1型)SSN[訳注 1] 、1991年から建造されていた4隻の09710型(または971M型。アクラ2型)SSNの三つの型から成る。しかしながら各艦の区別については議論があり、各型の隻数には諸説ある。

アクラ1型は、複殻式潜水艦で流線化された司令塔(セイル)をもち、やや扁平な魚雷型船体を持つ。艦首潜舵は引き込み式、艦尾潜舵は一般的な十字形で上部縦舵の上には曳航ソナー・ポッドが装備されている。自動化によりロサンジェルス級SSNより大きな艦体を、およそ半分の乗員で運用している。本型は船体の33%に相当する予備浮力を持っている。またアクラ型SSNはロシアで最も静粛なSSNとして知られる(K-284で12 - 15dB)。2型の放射雑音はアメリカのロサンジェルス級原子力潜水艦の初期建造艦に相当するレベルまで抑えられている。

アクラ1型SSNは53型65K魚雷、RPK-2ヴィユーガ (Vyuga) (SS-N-15 Starfish) 対潜水艦核ミサイルRPK-6ヴォドパート (Vodopad) (SS-N-16 Stallion) 対潜水艦ミサイル、RK-55 Granat (SS-N-21 Sampson) 巡航ミサイルを使用できる四門の533mm魚雷発射管、および65型魚雷とRPK-7ウェテル (Veder) (SS-N-16 Stallion) 対潜水艦ミサイルを使用できる四門の650mm魚雷発射管を備えている。魚雷ミサイルは合計で40本を搭載可能である。これら魚雷発射管は艦首に上下に四門ずつ配置されている。650mm魚雷発射管はライナーを装備すれば533mm魚雷/ミサイルを使用することができる。また魚雷発射管は機雷を放出することも可能である。

これらに加え改971型SSNと09710型SSNは、6本の533mm外装魚雷発射管を備えるとされるが、それが実際に魚雷発射管なのかどうかは不明瞭であり、これらが機雷と音響デコイの貯蔵のみを行う可能性がある。外装発射管は通常の魚雷発射管の上の耐圧殻の外側に一列に並べられている。魚雷の再装填は帰港してから、または潜水艦支援船の補助によって行う[訳注 2]

現況

アクラ型SSNの現状に関する情報はせいぜいスケッチ風である。いくつかのインターネットサイトによってさまざまな情報が提供されている。

冷戦終了後のロシアの経済的混迷から、2隻が早期に退役し、ロシア海軍に在籍するのは12隻だが、実質的に予備役になっている艦もある。運用中の艦は8-9隻と思われ、このうち北方艦隊所属艦は、ムルマンスク・フィヨールドの入り口付近に位置するガジェーヴォ基地に、太平洋艦隊所属艦は、カムチャツカ半島のルイバチー基地(ヴィリュチンスク市)を母港としている。後継艦である885型ヤーセン級SSNの整備は遅々として進まず、1993年に起工された一番艦「セヴェロドヴィンスク」は未だに竣工していないため、21世紀初頭現在においても、アクラ型SSNは「ロシアで最新の原潜」となっている。

各型 

ファイル:AkulaProjekt971klein.png
проект971級 各型側面図

アクラ1型 (971型)

原型となる971型、西側では「アクラ1型」と呼ばれるタイプは9隻建造され、1番艦K-284は1984年12月30日に就役した。ロシア海軍では、まだ全艦在籍しているが、実際には、行動可能状態にあるのは半数程度と見られている。

特に太平洋艦隊所属艦の稼動状態は悪く、在籍する7隻のうち、行動可能な艦は4隻程であり、K-284はすでに工廠に回航されて修理待ち、2002年、2005年には浮きドックに載せられて宗谷海峡を西に向かう本級の姿が海上自衛隊に目撃されている。おそらくはK-263「デリフィン」と K-322「カシャロート」である。 この他の太平洋艦隊在籍艦は、動物名から都市名に改名された。これは、その都市の名前を付ける代わりに、何らかの援助をもらうためであり、本型に限らず、最近のロシア海軍潜水艦全般に見られる傾向である。

なお、ソ連では潜水艦には個艦名が付けられることはほとんどなく、K(潜水巡洋艦)、B(大型潜水艦)、S(中型潜水艦)、M(小型潜水艦)で始まる番号が艦名となっていた。名前が付けられた艦も少数あるが「ソヴィエト連邦成立50周年記念」とか「レニンスキー・コムソモール(レーニン共産党青年団)」など、共産党やソ連邦に因んだ命名だった。1990年に乗員から請願があり、1991年頃から個艦名(主に動物名)が賦与されるようになった。最初に命名されたのはK-317で、1990年10月10日、20世紀初頭にロシア帝国海軍に在籍していたバルス級の一艦からパンテラ(Pantera、クロヒョウ)と命名された。また、本級の1番艦 K-284の艦名は、西側では長い間「プーマ」(Puma)であると信じられていたが、最近、ロシア側から公表された資料によると、1993年に「アクラ」(Akula)と命名されていることが明らかになった。東西冷戦時代にソ連原潜に付けられた西側コード名と「1番艦の名前」が一致する唯一の例である。

アクラ2型 (09710型)

さらに静粛性を向上させ、650mm魚雷発射管を廃止して533mm8門に統一した09710型、西側では「アクラ2型」と呼ばれるタイプは8隻が起工されたが、竣工に漕ぎ着けたのは5隻であり、K-337クーグアル(Kuguar)、K-152ニェールパ(Nerpa、アザラシ)は、未だに就役していない。この他、K-333ルイシ(Rys、オオヤマネコ)も起工されたが、建造は中止された。K-337とK-152は、1990年代末期には完全に工事がストップしていたが、プーチン政権になってから工事再開が指示された。だがその後も工事は進捗せず、もはやロシア海軍への就役の見込みはないと見られている。2001年頃、これらの二隻をインド海軍へリースする提案がありインドも検討していたが、フランスから通常型潜水艦6隻の輸入と6隻のライセンス生産が決まり、原潜リースの話は一時棚上げになった。その後、残りの建造費を負担して艦をインドが取得する案もあったが、結局、2007年11月11日にモスクワを訪れたインド首相が2隻の10年間のリース契約に調印した。契約料は7億ドルと見積もられていた。1隻目の「Nerpa」はINS「チャクラ」と名付けられ2008年末の就役に向けて準備が進められ、約300名のインドの乗組員候補もサンクトペテルブルク近くの施設で訓練を受けた。2012年1月23日に「Nerpa」がインド海軍に引き渡された。リース額は9億2千万ドルと伝えられる。 2008年11月8日に日本海で航行試験中、消火システムの誤作動による死亡事故を起こした原潜が、この「Nerpa」であるとの報道がされている[1]

K-335ゲパルトが備える艦尾の縦舵上の曳航式ソナー・アレイ・ポッドは、本級の他の艦に比べてかなり小型化されていることが知られている。

要目

  • 分類 - ロシア海軍の原潜師団に所属する攻撃型原子力潜水艦(SSN、ロシア語ではPodvodnaya Lodka Atomnaya (PLA))
  • 全長 - 108.0 - 111.7m(諸説あり)
  • 全幅 - 13.5m
  • 吃水 - 9.6m(971型)/13.8m(09710型)
  • 排水量
    • 水上 - 5,700-7,500 トン
    • 水中 - 7,900-9,100 トン(971型)/7,900-9,500 トン(09710型)
  • 乗員 - 50-70人(諸説あり)
  • 最高速度
    • 水上 - 20ノット(37km/h)
    • 水中 - 35ノット(65km/h)
  • 潜航深度
    • 保障深度 - 450m
    • 最大深度 - 550m
    • 圧壊深度 - 600-660m
  • 放射雑音レベル 艦速4ノット
    • 200Hz以下 110dB(静粛性が特に高いレベル)
    • 1KHz    90dB(静粛性が特に高いレベル)
  • 推進装置
  • 武装
  • 聴音システム - MGK540型スカト3 (Skat3) デジタル水中音響総合システム
    • 艦首MGK-503-M スカト アクティブ/パッシブ・ソナー・スイート
    • 側面フランクアレイ
    • ペラミダ(Pelamida)曳航式ソナー・アレイ
    • MG-7機雷探知ソナー
  • カウンターメージャー
    • ブクタ(Bukhta)ESM/ECM
    • MG-74 コルンド(Korund)ノイズ・シミュレーション・デコイ(外装魚雷発射管より発射)
    • MT-70 音響邀撃受信機
    • ニクロムM(Nikhrom-M)敵味方識別装置
  • 他のシステム
    • チビス (Chiblis) 水上レーダー
    • メドヴェヂツァ945 (Medvyedista945) 航法システム
    • モルニア-M (Molniya-M) 衛星通信装置
    • MGK-80水中通信装置
    • ツナミ (Tsunami) 衛星通信システム
    • アニス (Anis) 短波通信装置、
    • コラ (Kora) 超短波通信装置
    • Sintezと Kiparis通信アンテナ
    • パラワン (Paravan) 曳航式VLFアンテナ
    • Vspletsk戦闘指揮システム
    • シムフォニアU全緯度航海装置
    • ツィクロン衛星航法システム
    • 改良されたオムニブス総合戦闘指揮情報システム

艦名

971型・改971型 9隻(起工順)
艦番号 名称 起工年 進水年 竣役年 建造所 所属
K-284 Akula 1980年 1982年10月6日 1984年12月30日 SY199 退役
K-263 Delphin 1981年 1984年7月15日 1985年12月 SY199 太平洋艦隊
K-322 Kashalot 1982年 1985年 1986年 SY199 太平洋艦隊
K-391 Kit/Bratsk 1982年 1985年 1987年 SY199 太平洋艦隊
K-331 Narval/Magadan 1983年 1986年 1989年 SY199 太平洋艦隊
K-480 Bars/Ak-Bars 1986年 1988年 1989年12月 SY402 退役
K-317 Pantera 1986年11月 1990年5月 1990年12月30日 SY402 北方艦隊
K-461 Volk 1986年 1991年6月11日 1992年1月27日 SY402 北方艦隊
K-328 Leopard 1988年10月 1992年10月6日 1993年1月15日 SY402 北方艦隊
09710型 8隻(起工順)
艦番号 名称 起工年 進水年 竣役年 建造所 所属
K-419 Morj/Kuzbass 1984年 1989年 1992年 SY199 太平洋艦隊
K-295 Drakon/Samara 1985年 1994年7月15日 1996年 SY199 太平洋艦隊
K-152 Nerpa 1993年 2006年6月24日 2009年12月28日 SY199 太平洋艦隊、インドにリース中
K-154 Tigr 1989年 1993年7月10日 1994年1月5日 SY402 北方艦隊
K-157 Vepr 1991年 1994年12月10日 1996年1月8日 SY402 北方艦隊
K-335 Gepard 1992年 1999年 2001年12月4日 SY402 北方艦隊
K-337 Kuguar 1993年 建造中止 SY402 解体
K-333 Rys 1993年 建造中止 SY402 解体
  • SY199(第199造船所):レニンスキー・コムソモール記念工廠(現アムール造船所)、コムソモリスク・ナ・アムーレ市
  • SY402(第402造船所):セヴマシュ・プレドプリャーチェ(北方機械建造会社)、セヴェロドヴィンスク市

参考資料

  • 「世界の艦船」2003年5月号「ソ連/ロシア原潜建造史」第8回 海人社刊
  • 「世界の艦船」2003年6月号「ソ連/ロシア原潜建造史」第9回 海人社刊
  • 「世界の艦船」2003年11月号「特集=次世代の潜水艦」海人社刊
  • 「世界の艦船」別冊「世界の潜水艦ハンドブック」改訂第2版 海人社刊

出典・注記

  1. ロシア原潜で事故、20人以上死亡 日本海で航行試験中」,日本経済新聞,2008年11月9日
  2. 注:このカタパルトは9K36 ストレラ3(Strela-3)を使用するMTU-4S(SA-N-8)と考えられ、セイルに搭載されているとされる。ただし同じミサイルの携帯バージョンであるストリェラー3携行地対空ミサイル(SA-14)を艦内に18本搭載とする資料もある。

訳注

  1. 別の資料によれば、ロシア側はアクラI級と改アクラI級を特に区別していない。両者は同じ971型に分類されている。西側でのアクラI級と改アクラI級の区別について、コムソモリスク・ナ・アムーレ建造艦(アクラ1型)とセヴェロドヴィンスク建造艦(改アクラ1型)が区別されたのではないかとロシア側は推測している。ここでは便宜的に改アクラ1型を改971型と表記する。
  2. 別の情報によれば、これら外装発射管は実際には装備されていないとされる。また改971型と09710型では魚雷発射管が533mm八門に改装され、魚雷/ミサイルは45本搭載可能とのこと。

関連項目

外部リンク

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