巡航ミサイル

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ファイル:Tomahawk Block IV cruise missile.jpg
トマホーク巡航ミサイル

巡航ミサイル(じゅんこうミサイル、テンプレート:Lang-en-short)は、飛行機のようにジェットエンジンで水平飛行するミサイルである。

歴史

「空中魚雷」の構想は1909年イギリス映画「The Airship Destroyer」に見られる。無線で制御された「飛行魚雷」で飛行船がロンドンを攻撃する[1]。 世界初の巡航ミサイルは第一次世界大戦時にアメリカ合衆国で開発されたケタリング・バグである。

初めて戦争で使用された巡航ミサイルは第二次世界大戦時にナチス・ドイツで開発されたV1飛行爆弾である。V1はパルスジェットを用い、イギリス本土の攻撃に用いられた。詳しくはそちらの記事を参照のこと。

ドイツ敗戦後、この飛行爆弾の研究およびそれに携わっていた人は西側東側どちらにも流れ、それが双方ともにほとんどすべてのミサイル技術に適用されていくようになった。アメリカではV1の破片などを鹵獲、研究し、命中精度を上げる研究を特に熱心に大戦末期に行っていた。この時期には、「巡航ミサイル」という名称がいまだ考案されていなかったため、ニュース映画などでは「ロボット爆弾」などと呼ばれていたこともあった。一部で、「人間爆弾」と称される日本の「桜花」もこの範疇に含まれるのではないかという見方も存在する。

第二次大戦後は米ソとも巡航ミサイルを開発したが、ソビエトが一連の核弾頭搭載の大型対艦ミサイルをシリーズ化した。それに対して、アメリカでは長距離弾道ミサイル実用化前に、核搭載巡航ミサイルを開発している。ナバホやスナークなどの大陸間巡航ミサイルやMGM-1 マタドールなどが開発された。また、専用潜水艦から発射する核弾頭搭載の戦略巡航ミサイルレギュラスを実用化されている。これらの核搭載巡航ミサイルは、弾道ミサイルより着弾時間や被迎撃性で劣り、長距離弾道ミサイルの実用化に伴い、退役した。

その後、戦略兵器制限交渉(SALT)の制限に囚われない投射手段としてトマホークが開発され、核弾頭、非核弾頭、対地、対艦ミッションなどバリエーションを増やし、冷戦以降は「ならずもの国家への挨拶状」代わりに多用されるようになる。巡航ミサイルは主に通常弾頭で固定施設への精密攻撃に使用されている。アメリカ軍湾岸戦争イラク戦争において巡航ミサイルを多用した。

特徴

航空機形状
小型の航空機のような外形をしている。大きな主翼揚力を作り、ジェットエンジンで推進力を得て、ほぼ水平に飛行する。小さな主翼と動翼だけを備えてロケットエンジンの推進力で飛行している通常のミサイルとは、著しい相違をなす。
低速・長距離飛行
ジェットエンジンであるため、ロケットエンジンに比べれば低速度であるが、燃料の燃焼効率が高く長射程となる。多くの長距離ミサイルのような弾道飛行はせず、水平に飛行する。そのため、低高度で飛行することでレーダーに探知されにくいという利点がある。
大規模
一般に弾体が大きく搭載する炸薬量も多いため、威力に優れる。通常弾頭核弾頭のいずれも装着可能である。また、大きな搭載空間を利用した高性能の制御機器を内蔵するため、目標への誘導精度が比較的高い。
多様な発射機
1つの基本となる設計型から多様な派生型が作られ、陸上、水上の艦船、水中の潜水艦、空中の航空機など比較的多様なプラットフォーム上の発射機から発射される傾向がある。
高価格
高性能な航法装置類やジェットエンジン、大きな弾体は単価を押し上げ、高価格である[2]
高価値目標
攻撃対象となる目標は固定されているか動いても低速なもので、高価値なものが選ばれる。

分類

発射プラットフォーム

巡航ミサイルは発射プラットフォームの違いによって次の3種に分けられる。

速度

  • 亜音速巡航ミサイル
  • 超音速巡航ミサイル[2]

地表地図情報

巡航ミサイルの飛行の初期段階は、目標地点と発進地点の緯度経度情報が与えられ、慣性誘導電波高度計による誘導だけで自律飛行が可能である。

対地攻撃任務でも敵陣深く侵入する場合には、敵レーダーの探知圏内に入ってから低空を飛行してレーダーで捕捉されないようにする必要があり、地上の障害物を避けながら高速度で低空飛行するためには、自然の起伏や送電線、鉄塔などの詳細な地表地図情報を搭載の航法コンピュータ内の地形等高線照合(TERCOM: Terrain Contour Matching)システムのような航法システムに入力しておく必要がある。

過去には、この地表地図情報を得るには軍事衛星などによる偵察が必要だと云われていた。21世紀の現在でも常に敵性国・団体の地表地図情報は巡航ミサイル用に更新されているが、民間衛星による地上衛星画像や地下資源探査用の電波高度計マップが入手できるので必要な地表地図情報の入手は容易になった。こういった地表地形に基づく航法システムは、地表近くを低空飛行するためだけでなく、現在のGPSなどが存在しなかった頃に正しく目標まで誘導するための航法装置としても使用されていたため、GPSが多くの誘導兵器に搭載されるようになって、巡航ミサイルも起伏変化が必要な地表地形に基づく航法システムの弱点の補完としてGPSによる航法システムが搭載されるようになっている。

GPSシステムも備え、ある程度途中で撃墜されるリスクを許容すれば、地表情報を持たずに地上より充分離れた高度を飛行することで、敵国の深部を巡航ミサイルで攻撃は可能となる。敵国が先進国でなければ、巡航ミサイルをレーダーで捕捉し撃墜する能力を全く備えていない国のほうが多く、海岸線近くの都市を攻撃するには地表情報は必要ない。一方で、敵レーダーの防空探知範囲を知ることは今でも難しい。

対艦攻撃任務には地表地図情報は関係がない。

構成

飛翔時の弾体は概ね大きな2枚の主翼と1枚の垂直尾翼、小さな2枚の水平尾翼を備えた小型航空機の形状をしている。後部にジェットエンジンを備え、燃料タンクが中央になる。航法・誘導装置は弾頭と共に前部に位置する。

弾体断面形状が他のミサイルのような円形以外にも、丸みを帯びた台形のものも存在する。以下に巡航ミサイルに特徴的な翼とジェットエンジンについて述べる。

発射されるまでは格納容積を小さくするために、主翼と垂直尾翼は弾体内や側面に折りたたまれており、飛翔時に空中でコイルバネのような機構によって展張される。多くの巡航ミサイルでは水平尾翼も同様である。

ジェットエンジン

エンジンは同一の原型でも繰り返し使用される航空機用と異なり、油圧や始動機構といった補機類はできるだけ省かれ、コンパクトになるが圧縮比が低く性能の劣る遠心式圧縮機を採用するものもある。始動には火薬を使用したカートリッジスタータとイグナイタが使用される。

現有の巡航ミサイルの多くがフロントファンのターボジェットエンジンであるが後に一部の国では超音速飛行能力を獲得するために液体ラムジェットエンジンの開発と採用が進められている[3][2]

日本の巡航ミサイル保有に関する動き

2004年の16大綱、中期防衛力整備計画(平成17年度-平成21年度)の原案に陸上自衛隊は島嶼防衛に使用する長距離支援火力として射程300キロの巡航ミサイルの研究開発をATACMSHIMARSの導入と共に要求し、庁議の段階では盛り込まれていたが、「明らかに専守防衛に反し、周辺国を刺激する」「自国に対地ミサイルを撃ち込む事になる」「ミサイルの推進方式を改良すれば射程を延ばす事は可能である」[4]との連立与党であった公明党の反発によりいずれも土壇場で見送られている。また、同時期に海上自衛隊は先制攻撃のためのトマホークの導入を要求してきたという[5][6][7]

2007年11月7日に行われた第10回日米安全保障戦略会議にて玉澤徳一郎防衛庁長官がボドナー元米国防副次官に対して「中国の膨大な数のミサイルを考えた場合、発射されたこれらすべてを撃ち落とすことは不可能。ミサイル攻撃を受けた場合、まず重要施設をミサイル防衛で防護し、すかさずアメリカ軍機による相手発射施設の破壊を期待するより他ない。今後、わが国の防衛力を高めるには戦術抑止システムの配備を検討しなければならない」と述べ、具体的には「巡航ミサイルだ。米国の協力を得てわが国も保有したい」と述べた。同会議に於いてレイセオン社は日本に対してトマホークの導入を提案している。

2009年に予定されていた新大綱策定と中期防衛力整備計画(2010)において自民党は「提言 新防衛計画の大綱について」において巡航ミサイルの導入を対艦弾道ミサイルの研究開発と共に要求したが、第45回衆議院議員総選挙によって自民党から民主党へ政権交代したことにより、上記の要求は2010年12月17日に決定された民主党政権初の防衛大綱と中期防衛力整備計画(2011)には盛り込まれなかった。

巡航ミサイル一覧

{{col| テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国 項目名(制式番号、名称)

テンプレート:UK/テンプレート:Flagicon フランス/テンプレート:Flagicon イタリア

テンプレート:Flagicon 韓国

テンプレート:Flagicon ソビエト連邦/テンプレート:Flagicon ロシア ハイフン以降はDoD番号とNATOコードネームを表す。

テンプレート:Flagicon 中国

テンプレート:ROC-TW

テンプレート:Flagicon ドイツ/テンプレート:Flagicon スウェーデン

テンプレート:Flagicon ノルウェー

テンプレート:Flagicon パキスタン

テンプレート:Flagicon フランス

テンプレート:Flagicon インド/テンプレート:Flagicon ロシア

テンプレート:Flagicon インド


その他

出典・脚注

  1. テンプレート:Cite web
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 防衛技術ジャーナル編集部編 『ミサイル技術のすべて』 (財)防衛技術協会 2006年10月1日初版第1刷発行 ISBN 4990029828
  3. 液体ラムジェトエンジンそのもののミサイルへの採用はアメリカ空軍ボマーク地対空ミサイルで既に行なわれている
  4. 軍事研究 2005年3月号
  5. 共同通信 2003年 1月24日
  6. Christopher W. Hughes 2005b P.121
  7. リチャード・J・サミュエルズ著 『日本防衛の大戦略 富国強兵からゴルディロックス・コンセンサスまで』 日本経済新聞社

関連項目

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