やらせ

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テンプレート:出典の明記 やらせとは、事実関係に作為・捏造をしておきながらそれを隠匿し、作為等を行っていない事実そのままであると(またはあるかのように)見せる・称することを言う。

新聞テレビなどメディアにおいて行われるやらせを指すことが多く、侮蔑的な意味を込めて片仮名でヤラセとも表記される。やらせには倫理的な問題のみならず犯罪行為にまでエスカレートすることが多いため、やらせを行うことで社会的な評価は著しく下がる傾向にある。

語源

元は業界用語であったが、「やらせ」が発覚して社会問題となった事で一般用語化した。

一方、元NHK職員の池田信夫によると、やらせは新聞が作った言葉で、実際にはテレビ局では使われていないという[1]

手法

全てのやらせに共通するのは打ち合わせするなど事実関係に手を加えておきながら、それを読者視聴者などの受け手から隠蔽する事である。やらせの方法は様々あるが、制作者の意に沿う結果を生じさせるための人(事前の打ち合せを受けた素人や番組スタッフ、および芸能人を用意して演技させる手段が多い。このような人や物を用意する事は「仕込み」ともいわれ、ほぼ同義である。しかし一説によると「仕込み」は下記やらせ事件をきっかけに、それまでの「やらせ」を言いかえる言葉として業界内で定着したという。

用語の一般化

「やらせ」という用語が一般化したのは1985年テレビ朝日アフタヌーンショー』において、ディレクターが「何か面白いものをとりたい」と知り合いの暴走族に依頼して人を集め仲間内でリンチをさせるVTRを撮影、その模様を「激写! 中学生女番長! セックスリンチ全告白!」という企画で同年8月20日[2]に放送した際である。10月8日、リンチ加害者の少女の証言からこの事件が発覚。リンチを指示したディレクターが暴力示唆の容疑で逮捕懲戒解雇され、当時テレビ朝日社長だった田代喜久雄が同番組で謝罪した上で打ち切りとなった。田代喜久雄は社長の引責辞任は行わなかったものの、テレビ朝日は放送免許の更新を拒絶されるのではという未曾有の危機に瀕する事となった[3]。この不祥事によりテレビ番組の制作において「やらせ」があることは広く知られるようになった。

また同様の有名な事件として、1992年NHKNHKスペシャル』にて放送されたドキュメンタリー番組、「奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン[4][5][6]」のやらせ問題がある。朝日新聞スクープによって大きな社会問題となったこの事件ではヒマラヤの気候の厳しさを過剰に表現した点、スタッフに高山病にかかった演技をさせた点、少年僧の馬が死んだ事にした点、流砂や落石を人為的におこした点が主に問題とされた。皮肉にも同番組は高い視聴率をマークし、評判も良かった。ニュース・報道・ドキュメンタリー番組において高い評判を得ていたNHKの信用を大きく傷つけた不祥事となった。池田信夫によると、「ムスタン」のディレクターは最後まで辞めなかったという。ディレクターは査問する管理職に対して、「あれで辞めるなら、あなたの作った昔の番組はどうなのか」と開き直ると、管理職は誰も答えられなかったという[1]

やらせの問題点

テンプレート:独自研究 報道・ドキュメンタリーのように、取材対象が事実である事が前提となっている分野において、事実を歪曲するほどの過剰な演出、つまりやらせを行った場合、報道の対象が存在しないにもかかわらずこれを作り出す「捏造」とも本質において変わりがなく、倫理的に非常に大きな問題となる。

一方、やらせはバラエティ番組でも発生しており、映画『クイズ・ショウ』のモチーフとなったアメリカの人気クイズ番組『21』において発生したやらせ事件などがあげられる。

また捏造でなくても、報道・ドキュメンタリー番組において同一場面(有識者のコメントなど)でも制作意図に合致した部分のみ切り取り、合致しない部分はカットして放送する、実態にそぐわないがイメージ的には欲しいシーンを出演者に要請する、内容に対して明らかに誇大なタイトルをつけるなどの作為的歪曲が行われるケースもあり、石原発言捏造テロップ事件などが代表としてあげられる。

池田信夫によると、あるものだけ撮っても絵にはならないので、何らかの意味でのやらせ無しにはドキュメンタリーは成り立たないという。NHK『新日本紀行』などは今の基準で言えば、最初から最後までやらせだという[1]

しかし、より強く・効果的に印象付ける、円滑に進行して結論へ至るなどの点では演出と差異を付けることが出来ない。「川口浩探検隊」シリーズのように、過剰な演出自体が人気を博した番組もあり、許容されるべき「演出」か、非難に値する「やらせ」かの明確な線引きは困難である。近年ではネットによる番組精査のしやすさによる発覚の容易さや、テレビ局をはじめとするマスコミへの不信感からわずかなミスや従来レベルの演出であっても「やらせ」と糾弾されるケースも多い。

また、放送免許を有するテレビ局側と、実際の番組制作を請け負う下請け、孫受け番組制作会社との癒着、制作予算の削減による制作現場への重圧も「やらせ」の発生する重要なファクターとなっている。教えて!ウルトラ実験隊発掘!あるある大事典双方における捏造、やらせ問題も予算の圧縮や下請け、孫請けという構造が招いたとされる。

メディアの反応

「禁断の王国・ムスタン」の事件が発覚するとメディアは一斉にこれを非難したが、その前年には朝日新聞に於いてスクープの為に記者自身の手で珊瑚に落書きしたという不祥事が発生しており(朝日新聞珊瑚記事捏造事件)、またテレビ各局でもその直前直後に「やらせ」が発覚している。

メディアが「やらせ」問題を追及された場合、「過度の演出であった」と釈明することが多い。そうしたことから逆に、行き過ぎた演出が視聴者からやらせと捉えられることもある。又、昨今では「行き過ぎた演出」は「やらせ」と同義的に捉えられる。

やらせが発覚した主な番組

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 テンプレート:Cite web
  2. 同年8月13日にも放送予定だったが、日本航空123便墜落事故により放送は休止された。
  3. 免許剥奪自体は「条件付き」という事で免れたが、この事件を機にテレビ朝日は暗黒時代に突入し、「振り向けばテレビ東京」と揶揄されたこともあった。
  4. テンプレート:Cite web
  5. 2011年8月19日に閲覧した際には「該当する保存番組が見つかりませんでした」と表示された。
  6. テンプレート:Cite web
  7. フジテレビ「テラスハウス」内部告発!セクハラ・パワハラ・やらせ三昧の撮影現場 週刊文春WEB 2014年5月28日]

関連項目

関連書籍

  • 小松健一 『ムスタンの真実―「やらせ」現場からの証言』 リベルタ出版(1994年10月)。ISBN 4947637315
  • 日木流奈 『ひとが否定されないルール―妹ソマにのこしたい世界』 講談社(2002年4月)。ISBN 4062113120
  • テンプレート:Cite book

外部リンク