徳川美術館
徳川美術館(とくがわびじゅつかん)は、愛知県名古屋市東区徳川町の徳川園内にある、公益財団法人徳川黎明会が運営する私立美術館である。
目次
概要
徳川家康の遺品(駿府御分物)を中核として、徳川御三家筆頭で徳川家康の九男・徳川義直を祖とする尾張徳川家伝来の大名道具を展示公開している。他にも、徳川将軍家や一橋徳川家、蜂須賀家などの大名家の売立てで購入した作品、名古屋の豪商であった岡谷家や大脇家、高松家をはじめとする篤志家から寄贈された作品も収蔵している。ことに国宝『源氏物語絵巻』を収蔵することで著名である。
尾張家の第19代当主・徳川義親は1931年、財団法人尾張徳川黎明会を設立した(その後財団法人徳川黎明会と改称)。徳川美術館は、同財団により1935年、尾張徳川家名古屋別邸跡の現在地に開館した。大倉集古館、藤井斉成会有鄰館、大原美術館などと並び、日本の私立美術館の草分けである。
なお、財団法人徳川黎明会の本部は東京都豊島区目白に所在し、同地には尾張家の藩政史料を集めた徳川林政史研究所がある。また、尾張家伝来の古文書類は名古屋市に移管され、現在、徳川美術館に隣接する名古屋市蓬左文庫に収蔵されている。
日本の私立美術館は、実業家や大企業のコレクションを母体にしたものが多いのに対し、徳川美術館は旧藩主家伝来の道具類がまとまって遺されている点が特色であり、その保存状態は極めて良好である。
創設者の義親は、徳川黎明会の設立に際して周囲から強い反対を受けながらもこれを実行したが、日本各地の旧藩主・大名家の伝来品は、明治維新・第二次世界大戦中の戦災や戦後の混乱、そして1946年の財産税課税の影響などにより、大部分が散逸・焼失した。その中で早い時期から財団法人に移管されていた尾張徳川家の収蔵品は散逸を免れ、結果的に義親の先見性を証明することになった。
現在残されている徳川美術館の収蔵品は、近世大名の所有していた「大名道具」とはいかなるものであったかを知る上で、きわめて貴重な歴史資料となっている。
なお、徳川美術館本館と南収蔵庫は、登録有形文化財となっている[1]。
展示
国宝9件、重要文化財59件、重要美術品46件を含む1万数千件の収蔵品は、武家の表道具である刀剣、武具類や家康の遺品、華麗な婚礼調度をはじめとする調度類、服飾品、茶道具、書画など多岐にわたっている。
常設展示室には、藩主の公的生活の場であった、名古屋城二の丸御殿の一部を時代考証に基づいて復元してある。こうした展示方法により、道具類(現代の言葉でいう「美術品」「文化財」)が、床の間、茶室、能舞台といった実際の場面で、どのように飾られ、使われたのかが理解できるように工夫されている。また、現在企画展示室として使われている建物は、財団設立当時の昭和7年(1932年)に建てられた「帝冠様式」という、和風の屋根や外観をもった洋式建築で、国の登録有形文化財建造物として登録されている。
徳川光友夫人千代姫所用の婚礼調度
3代将軍徳川家光の長女千代姫(当時2歳)が、尾張家2代藩主徳川光友に嫁いだ際の婚礼調度類。『源氏物語』の「初音」「胡蝶」の巻にちなんだ蒔絵を施した、棚、化粧道具、文房具、香道具などの一揃いである。室町時代以来、代々皇室、将軍、大名などの調度を手がけてきた蒔絵師・幸阿弥家の10代長重が寛永14年(1637年)から3年をかけて制作したものであることが知られ、当代最高の蒔絵師が、あらゆる技法を駆使して制作した名品である。
日本最古の望遠鏡
オランダより伝来した徳川義直の望遠鏡が、現存する日本最古の望遠鏡である。17世紀の望遠鏡は、世界でも希少価値が高い。
指定文化財
国宝
- 源氏物語絵巻 絵15面 詞28面
- 婚礼調度類(徳川光友夫人千代姫所用)(明細は後出)
- 初音蒔絵調度 47種
- 胡蝶蒔絵調度 10種
- 蒔絵香箱 5合
- 蒔絵伽羅割道具 一対
- 長持 2棹
- 長袴 2腰
- 長刀 中身共 一対
- 糸巻太刀 中身、袋共 1口
- 脇指拵 1口
- (以下、附指定)
- 油箪 2枚
- 文箱袋 11口
- 詰物 4本
- 霊仙院道具目録 1巻
- 建中寺霊仙院道具目録 3冊
- 太刀 銘光忠
- 太刀 銘国宗
- 太刀 銘正恒
- 太刀 銘長光(名物遠江長光)
- 太刀 銘来孫太郎作(花押)正応五□辰八月十三日以下不明
- 短刀 無銘正宗(名物庖丁正宗)
- 短刀 銘吉光(名物後藤藤四郎)
国宝源氏物語絵巻より
- Genji emaki Yomogiu.JPG
蓬生
- Genji emaki Kashiwagi.JPG
柏木二
- Genji emaki YOKOBUE.jpg
横笛
- Genji emaki HASHIHIME.jpg
橋姫
- Genji emaki SAWARABI.jpg
早蕨
- Genji emaki YADORIGI 2.JPG
宿木二
- Genji emaki Yadorigi.JPG
宿木三
- Genji emaki YOKOBUE Ms.JPG
横笛 詞書
重要文化財
(垂迹画)
- 石清水八幡宮縁起絵(伝大山崎離宮八幡利益縁起)
(水墨画)
(近世絵画)
- 四季草花図(百花百草図) 田中訥言(とつげん)筆 紙本金地着色 六曲屏風一双
- 風俗図 (伝本多平八郎姿絵) 紙本着色 二曲屏風一隻
- 豊国祭礼図 伝岩佐又兵衛筆 紙本金地着色 六曲屏風一双
- 遊楽図(相応寺屏風) 紙本金地着色 八曲屏風一双
- 歌舞伎草紙(歌舞伎図巻) 紙本着色 2巻
(渡来画)
- 柳燕図
- 竜図 陳容筆
- 遠浦帰帆図 玉澗筆 自賛がある
- 布袋図・ 朝陽対月図(無住子筆 元貞元年の自賛)
(刀剣・山城国)
(刀剣・備前国)
(刀剣・相模国)
(刀剣・その他)
- 刀 折返銘備中国住次直
- 刀 無銘(伝義弘)
- 刀 銘本作長義天正十八年庚寅五月三日ニ九州日向住国広 銘打長尾新五郎平朝臣顕長所持云々
(陶磁器)
(染織)
- 白地葵紋紫腰替辻が花染小袖
- 辻が花染小袖(槍梅葵紋散小袖 1領、地紙形散葵紋小袖 1領、楓文散葵紋小袖 2領、雪持笹文散小袖 1領)
- 紫地葵紋付葵葉文様辻が花染羽織・浅葱地葵紋散文様辻が花染小袖
- 刺繍阿弥陀三尊来迎図
(その他工芸)
- 長生殿蒔絵手箱
- 朱漆七宝繋沈金花鳥漆絵御供飯(うくふぁん)(琉球漆器)
- 金銀調度類 34種(明細は後出)
(書跡典籍)
- 紫紙金字金光明最勝王経 巻第六
- 法華経 懐良親王筆
- 法華経普門品(装飾経)
- 西塔院勧学講法則(金銀泥下絵料紙)
- 重之集
- 斎宮女御集(唐紙) 1帖
- 藤原公経筆懐紙(詠花有歓色和歌)
- 伏見天皇宸翰和歌集 六曲屏風貼付(百二十首)
- 藤原定家自筆書状 九月廿二日
- 安元御賀日記
- 虚堂智愚墨蹟 偈語 宝祐甲寅秋
- 古林清茂墨蹟 与月林道皎偈 泰定四年九月
- 婚礼調度類
- 初音蒔絵調度 47種
- 厨子棚
- 黒棚
- 書棚
- 書棚
- 貝桶 一対
- 十二手箱
- 大角赤手箱(おおすみあかてばこ)
- 小角赤手箱
- 昆布箱
- 昆布箱
- 楊枝箱
- 渡金箱(わたしがねばこ)
- 歯黒箱
- 鏡台
- 小櫛箱
- 小櫛箱
- 櫛箱
- 旅櫛箱
- 眉作箱
- 旅眉作箱
- 乱箱
- 乱箱
- 湯桶・盥(ゆとう・たらい)
- 耳盥・輪台(わだい)
- 耳盥・輪台
- 沈箱(じんばこ)
- 薫物壺(たきものつぼ)・薫物台
- 香盆
- 旅香具箱
- 文台・硯箱
- 文台・硯箱
- 硯箱
- 短冊箱
- 色紙箱
- 文箱(ふばこ)
- 長文箱
- 料紙箱
- 見台(けんだい)
- 見台
- 机
- 机
- 刀掛
- 寄掛
- 枕(祝之枕)一対
- 枕香炉(匂枕)
- 帯箱
- 衣桁
- 胡蝶蒔絵調度 10種
- 書棚
- 手箱
- 長文箱
- 掛硯箱
- 机
- 将棋盤・駒箱
- 碁盤・碁笥
- 枕香炉(匂枕)
- 帯箱
- 挟箱 一対
- 名所香箱
- 宇治香箱
- 古今香箱
- 花月香箱
- 十種香箱
- 葵紋蜀江文蒔絵伽羅割道具 一対
- 梨子地葵紋蒔絵長持 2棹
- 緋之袴 2腰
- 梨子地葵紋散蒔絵長刀拵(中身共) 一対(中身のうち1口 銘下坂出雲守貞重)
- 葵紋散蒔絵糸巻太刀拵太刀(中身 太刀 銘国行)
- 黒漆脇指拵
- (附指定)
- 葵紋亀甲繋文唐織油箪 2枚
- 唐織文箱袋 11枚
- 繻珍詰物 4本
- 霊仙院様御道具目録 1巻
- 建中寺霊仙院道具目録 3冊
- 金銀調度類
- 純金台子皆具(だいすかいぐ)
- 純金台子
- 純金葵紋蜀江文切合せ風炉
- 純金霰丸形切合釜
- 純金葵紋蜀江文水指
- 純金葵紋蜀江文下蕪形杓立
- 純金葵紋牡丹唐草文建水
- 純金唐草文三足形蓋置
- 純金葵紋天目
- 純金葵紋蜀江文天目台
- 純金肩衝茶入
- 純金葵紋蜀江文棗(なつめ)
- 純金花鳥図香盆飾り
- 純金花鳥図香盆
- 純金葵紋唐草文阿古陀形炷空入(たきがらいれ)
- 純金葵紋唐草文瓜形炷空入
- 純金葵紋薫物壺
- 純金葵紋唐草文阿古陀形香炉
- 純金葵紋山水図香盆飾り
- 純金葵紋山水図香盆
- 純金葵紋唐草透六角形香筯建(きょうじたて)
- 純金葵紋蜀江文三足香炉
- 純金葵紋蜀江文三重香合
- 純金葵紋蜀江文沈箱
- 純金葵紋散蜀江文硯箱
- 純金葵紋蜀江文薬鍋
- 純金葵紋蜀江文薬茶碗
- 純金葵紋牡丹唐草文盃
- 純金葵紋蜀江文皿
- 純金薬茶碗
- 銀檜垣に梅図香盆飾り
- 銀檜垣に梅図香盆
- 銀六角形香筯建
- 銀三足香炉
- 銀三重香合
- 銀瓜形炷空入
- 銀阿古陀形香炉
- 銀葵紋唐草文手拭掛
出典:『初音の調度 徳川美術館蔵品抄3』徳川美術館、1985