プルサーマル
プルサーマルとは、プルトニウムで燃料を作り、従来の熱中性子炉で燃料の一部として使うことを言う。
目次
概要
名称の由来
プルトニウムのプルとサーマルニュートロン・リアクター(熱中性子炉)のサーマルを繋げた和製英語(plutonium thermal use)である。
通常の軽水炉との違い
通常、軽水炉ではウラン235とウラン238を混合したウラン燃料(二酸化ウラン)を核分裂させることで熱エネルギーを生み出すが、ウラン238が中性子を吸収し2度のβ-崩壊を経てプルトニウム239が生成され、そのプルトニウム239自体も核分裂する。その結果、発電量全体に占めるプルトニウムによる発電量は平均約30%となる(プルサーマル発電を行わない場合でも、運転中の軽水炉の中にはプルトニウムが存在している)。それに対し、プルサーマルではMOX燃料と呼ばれるウラン238とプルトニウムの混合酸化物 (Mixed Oxide) を燃料として使用する。プルサーマルで使われるMOX燃料はプルトニウムの富化度(含有量)が4 - 9%であり、MOX燃料を1/3程度使用する場合、発電量全体に占めるプルトニウムによる発電量は平均50%強となる。
なお、高速増殖炉でもMOX燃料が使用されるが、プルトニウムの富化度は20%前後である[1]。
プルサーマル方式の利点と欠点
利点
- もしワンス・スルーにするならば使用済核燃料は数万年管理が必要だが、使用済核燃料から、再処理・群分離で、プルトニウムを含む超長半減期核種を分別抽出し、プルトニウムをプルサーマルで焼却してしまえば半減期30年の核分裂生成物に変換でき、長期保管物質を大幅に削減できる。
- 原則として、従来の軽水炉のままで運用が可能である。少なくもプルトニウムは加速器駆動未臨界炉が実用化する前にある程度 焼却可能になる。(残りのマイナーアクチノイドは加速器駆動未臨界炉でないと焚けない)
- プルサーマルにより、資源の有効利用が図られウランの可採年数は1.75倍に増えて、陸上ウランだけで140年分になるだけでなく、エネルギー自給率を高めることができる。さらに、余剰のプルトニウムを持たないという国際公約を守ることができる。
- 再処理は使用済み核燃料からウランを回収する事を意味し、ワンススルー方式に比べ高レベル放射性廃棄物の量が大幅に減る。リサイクルされる低濃縮ウランとプルトニウムと貴金属の分だけ高レベル廃棄物が減少する。しかし、ガラス固化体の取り扱いは大変(20年間常時監視、その後深地層処分が必要)だが、輸送や処分場の規模を1/10程に抑えることができる[2]。
欠点
プルサーマル方式は、元々ウラン燃料を前提とした軽水炉でプルトニウムを(一部)燃やすこともあり、経済的な面の他、技術的な課題が多い。
- 再処理にかかわる部分
- 軽水炉からの高レベル核廃棄物をそのままガラス固化させる場合と比べ、事故が発生する確率は相対的にやや高まる。
- 使用済み防護服や、廃水など低レベル廃棄物も含めた最終的な核廃棄物の総量はかえって増える(一般的な資源のリサイクルと異なる点)。
- 冷戦終結後、ウラン資源の需給は安定しており、再処理費までMOX燃料の製造コストの一部と看做すと経済的に引き合わない状態になっている(プルトニウム垂れ流しのワンススルーで、使用済み核燃料を数万年監視するコストを考えないならば、ワンススルーに比べれば、再処理で抽出しプルサーマルで焼却する手間をかける分 不経済)
- 再処理を行うと核燃料の高次化が進むため、最大でも2サイクルまでしか行えない(高速増殖炉の場合はこの問題は発生しにくい、加速器駆動未臨界炉は2回プルサーマルを繰り返して燃えにくくなった高次プルトニウムも燃やせる)[3]。
- 利用できるのは使用済み核燃料のうち1 - 2%を占めるプルトニウムのみで、残りのウラン238は高速増殖炉が実用されない限り、プルトニウムMOXの原料の94%を占めるウラン238以外では、利用するアテがない。
- MOX燃料の軽水炉での燃焼にかかわる部分
- プルトニウムは遅発中性子がウランより少なく、やや制御棒の効きがわるくなるので「ウランを想定して設計された炉で燃やす場合」は、最初は1/3装荷などで様子を見ることが必要。
- 高速増殖炉と比べて燃焼中に核燃料の高次化が進みやすく、特に中性子吸収断面積の大きいアメリシウムが生成されやすくなる。核燃料の高次化が進むと反応が阻害され、臨界に達しなくなってしまい、核燃料として使用できなくなる。
- 上記と関連し、事故が発生した場合には従来の軽水炉よりプルトニウム・アメリシウム・キュリウムなどの超ウラン元素の放出量が多くなる。
- 原子炉の運転や停止を行う制御棒やホウ酸の効きが低下する[4]。
- 燃え方にムラが生じ、よく燃えるところの燃料棒が加熱・破損しやすくなる。これは現行方式では前記の事情とコストを下げるために一部の燃料棒のみにMOX燃料を入れるために起きる現象で、全燃料棒にMOX燃料を入れれば回避は可能。
- 水蒸気管破断のようなPWRの冷却水温度が低下する事故や、給水制御弁の故障のようなBWRの炉内圧力が上昇する事故が発生した場合において、出力上昇速度がより速く、出力がより高くなる(対処するために燃料体の設計および原子炉内での配置に工夫が必要。[4])。
- MOX燃料そのものの持つ危険性
- テンプレート:Main
- ウラン新燃料に比べ放射能が高いため、作業員の被曝リスクが高まる。
日本国外での動向
冷戦の終結と、ソビエト連邦の崩壊によって核兵器の解体が進んでいるため、世界的なプルトニウムの剰余が核不拡散の観点から問題になっている。一方で、プルトニウム利用の主流である高速増殖炉については、各国で計画の中止や遅延が相次いでおり、プルトニウム処理の有効な方法として、プルサーマルを捉える向きもある。
ヨーロッパでのプルサーマルの実績は長く、1963年に開始したベルギーを始めとして、イタリアやドイツでは1960年代からの経験がある。また、オランダやスウェーデンでも行われたことがある。ただしドイツ・スイス・ベルギーでは抽出済みのプルトニウム在庫を燃やしたらプルサーマルは終了とされており、今後も再処理を行ってプルトニウムを抽出し、積極的にプルサーマルを続けようとしているのはフランスだけとなっている。
アメリカ合衆国では1960年代にプルサーマルが始められたが、20年間ほど中断が続いた。その後、2005年6月からカトーバ1号機でMOX燃料の試験運転が開始され、同年10月にはエネルギー省所有のサバンナリバーサイトで解体核用のMOX燃料加工工場の建設が開始された。また同年11月には、これとは別に使用済燃料再処理・MOX加工・廃液ガラス固化・中間貯蔵を目的とした複合リサイクル施設建設の予算が議会を通過、承認された。こちらは2007年までに建設場所を選定し、2010年までに着工する予定となっている。
2006年には、アメリカが国際原子力パートナーシップを発表し、日本を含む国際協力による高速炉を用いた核燃料サイクルの実施計画が開始された。
日本国内での動向
日本においてプルサーマル計画が注目を集めたのは、もんじゅの事故により高速増殖炉の開発の見通しが立たなくなったことがきっかけである。日本においても、プルサーマルの開始に向けて国による安全審査や地元の事前了解が進んでいたが、住民投票による反対(新潟県)などにより、計画は遅れていた。 ほかにも福島県知事(当時)の佐藤栄佐久が、福島第一原子力発電所で計画されていたプルサーマル導入について、(発電所のある自治体の意向はともかく)県全体の安全上の観点や県民多数派の不安を背景に強く反対してきた、といった事例もある。
一方で、2006年(平成18年)3月に、九州電力の玄海原子力発電所3号機で実施したいという申し入れに、佐賀県知事の古川康は事前了解を出した。また2008年(平成20年)1月には、福井県知事の西川一誠が高浜原子力発電所の3・4号機で、2010年(平成22年)までにプルサーマル発電を実施する計画に事前了解を、静岡県知事の石川嘉延が浜岡原子力発電所でのプルサーマル発電に事前了解を出す[5]など、実施に向かって進んでいるところもあった[6]。
2010年8月、東京電力が福島第一原子力発電所3号機(大熊町)で計画していたプルサーマル導入について、佐藤雄平知事は受け入れを決定。[7]。 しかし、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所事故により同原発は国際原子力事象評価尺度7の大事故を起こしたことにより、計画の先行きが不透明なものとなった。
運転停止中の原子炉
- 九州電力 玄海原子力発電所3号機 2009年(平成21年)11月5日より試運転開始。同年12月2日より、営業運転を開始[8]。2010年12月11日より定期検査で運転停止。
- 東京電力 福島第一原子力発電所3号機 2010年(平成22年)9月18日より試運転開始。同年10月26日より、営業運転を開始[9]。2011年3月11日、福島第一原子力発電所事故により運転停止。3月14日に水素爆発。
- 四国電力 伊方発電所3号機 2010年(平成22年)3月2日より試運転開始。同年3月30日より、営業運転を開始[10]。2011年4月29日より定期検査で運転停止。
- 関西電力 高浜発電所3号機 2010年(平成22年)12月25日より試運転開始。2011年(平成23年)1月21日より、営業運転を開始[11]。2012年2月20日より定期検査で運転停止。
現在までに事前合意が成立しているプルサーマル発電計画
- 中部電力 浜岡原子力発電所4号機 2012年(平成24年)3月以降に導入予定だったが、運転再開のめど立たず。
- 関西電力 高浜発電所4号機 2011年(平成23年)夏から導入予定だったが、運転再開のめど立たず。
- 中国電力 島根原子力発電所2号機
- 北海道電力 泊発電所3号機
- 東北電力 女川原子力発電所3号機 2015年(平成27年)度までに導入予定。
現在計画中のプルサーマル発電計画
プルサーマル計画の進捗状況
プルサーマル計画は、核燃料の検査データ不正や原発事故により、当初計画が10年以上遅れている[12]。
- 1972年(昭和47年)6月1日 - 国の原子力開発利用長期計画において、プルサーマル実施を明記。
- 1986年(昭和61年) - 日本原子力発電が敦賀発電所1号機で、関西電力が美浜発電所1号機で、それぞれ少数体のMOX燃料の健全性を確認する試験を1995年(平成7年)まで実施。
- 1994年(平成6年)6月24日 - 原子力開発利用長期計画で、1990年代後半からのプルサーマル本格実施を計画。
- 1997年(平成9年)2月4日 - プルサーマルを含めた核燃料サイクルの推進について閣議了解。
- 1998年(平成10年)
- 1999年(平成11年)
- 2002年(平成14年)7月4日 - 9月18日 高浜発電所4号機用BNFL製MOX燃料を高浜発電所からBNFLへ返送。
- 2003年(平成15年)10月23日 - 海外MOX燃料調達に関する品質保証活動の改善状況について、国、福井県、高浜町等に報告。
- 2004年(平成16年)
- 2月5日 - 海外MOX燃料調達に関する品質保証活動の改善状況について、原子力安全・保安院が評価・公表するとともに、原子力安全委員会に報告。
- 3月11日 - 原子力安全委員会が原子力安全・保安院の評価を妥当と判断。
- 3月20日 - 今後プルサーマル計画を進めていくことについて、福井県、高浜町が了承。
- 3月31日 - MOX燃料製造に関する品質保証体制を確認する基本契約を、原子燃料工業およびコモックス社(フランス)と締結。
- 7月12日 - 原子燃料工業熊取事業所およびコモックス社メロックス工場に対する品質保証システム監査結果を国、福井県、高浜町等に報告。
- 8月9日 - 美浜原発3号機2次系配管破損事故が発生。プルサーマル計画の準備作業を休止。
- 2007年(平成19年)2月7日 - 美浜発電所3号機の本格運転を再開。
- 2008年(平成20年)
- 1月30日 - プルサーマル計画の準備作業を再開。
- 2月12日、18日 - 21日 - 原子燃料工業熊取事業所および、コモックス社メロックス工場に対する品質保証システム監査を再度実施。
- 3月14日、17日 - 同監査結果を国、福井県、高浜町等に報告。
- 3月31日 - 高浜発電所3、4号機用MOX燃料16体の調達に関する本案約を原子燃料工業と締結。
- 10月16日 - 23日 原子燃料工業および、コモックス社メロックス工場に対して定期監査を実施。
- 11月10日 - 高浜発電所3、4号機用MOX燃料調達に係る輸入燃料体検査申請を行なう。
- 11月21日 - 高浜発電所3、4号機用MOX燃料32体の調達に関する契約を原子燃料工業と締結(2回目装荷用)。
- 2009年(平成21年)
- 2010年(平成22年)
- 2010年(平成22年)
- 2011年(平成23年)
- 3月11日 - 東北地方太平洋沖地震により、福島第一原子力発電所3号機が国際原子力事象評価尺度レベル7(暫定評価)の事故を起こす。
脚注
参考文献
- 小林圭二・西尾漠『プルトニウム発電の恐怖』創史社
関連項目
外部リンク
- プルサーマル - 電気事業連合会
- 関西電力 プルサーマル計画
- 九州電力 プルサーマル計画
- プルサーマル計画について - 佐賀県の原子力安全行政(佐賀県ホームページ)
- 原子力百科事典 ATOMICA
- 原子力政策の現状について - 資源エネルギー庁
- 原子力発電を考える石巻市民の会(慎重派)
- プルサーマルを考える柏崎刈羽市民ネットワーク(反対派)
- 佐藤栄佐久元福島県知事 緊急インタビュー - 岩上安身ホームページen:MOX fuel#Thermal reactors