ティラノサウルス

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ティラノサウルス学名genus Tyrannosaurus)は、約6,850万- 約6,550万年前(中生代白亜紀末期マストリヒシアン)の北アメリカ大陸画像資料[1])に生息していた肉食恐竜。 大型獣脚類の1である。 他に「ティランノサウルス」「チラノサウルス」「タイラノサウルス」など数多くある呼称については第一項にて詳しく述べる。

現在知られている限りで史上最大級の肉食恐竜の一つに数えられ[2]、地上に存在した最大級の肉食獣でもある。 恐竜時代の最末期を生物種として約300万年生態系の頂点に君臨するが、白亜紀末の大量絶滅によって最期を迎えている。

非常に有名な恐竜で、『ジュラシック・パーク』等の恐竜をテーマにした各種の創作作品においては、脅威の象徴、また最強の恐竜として描かれることが多く高い人気を誇っている。また恐竜時代終焉の象徴として滅びの代名詞にも度々引用される(詳しくは「関連項目」を参照)。

Tyrannosaurus という名称は特に断りのない場合は属名を指す。 Tyrannosaurus として広く認められているのは現在のところ rex のみである。

呼称

属名 Tyrannosaurus は、テンプレート:Lang-grc (テュランノス)「暴君[3]」 + σαῦρος (サウロス)「とかげ」の合成語で、「暴君の爬虫類」といった意味になる。本属に属する Tyrannosaurus rexの名は一般にも広く通用している。テンプレート:要出典範囲 種小名 rexラテン語で「王」の意。

日本語の音訳には揺らぎが多く、「ティラノサウルス」の他、「チラノサウルス」「チランノサウルス」、「チラノザウルス」、「チランノザウルス」、「ティランノサウルス」、「タイラノサウルス」、「テュランノサウルス」などがある。また、「暴君竜」という漢訳もあり、以前ほど盛んではないものの現在も用いられている。中国語では「暴龙・霸王龙」(baolong・bawanglong; バォロン・バワンロン;『』は竜の簡体字)と呼ぶ。

生物的特徴

ファイル:Tyrannosaurusscale.png
人(テンプレート:Color)とティラノサウルスの各標本のスケール比較。標本は左から順に、
テンプレート:Color”スー”(FMNH PR2081)、テンプレート:ColorAMNH 5027、テンプレート:Color”スタン”(BHI 3033)、テンプレート:Color”ジェーン”(BMRP 2002.4.1)。

骨格標本から推定される成体の体長は約11~13m、頭骨長は約1.5mで、その体重は概ね5~6tと推測されている(体重に関しては異説も多い)。発見されているティラノサウルスの化石はそれほど多くはなく、2001年の時点では20体程度であり、そのうち完全なものは3体のみである。

ティラノサウルスの上下のには鋭い歯が多数並んでいるが、他の肉食恐竜と比べると大きい上に分厚く、最大で18cm以上にも達する。また、餌食となったとみられる恐竜の骨の多くが噛み砕かれていたことから驚異的な咬合力[4]を持っていたと考えられ、その力は少なくとも3 t、最大8 tに達したと推定される。これらの事実から、ヴェロキラプトルのような小・中型獣脚類が爪を武器として用いていたのとは対照的に、ティラノサウルスは強大な顎と歯のみを武器として使用していたと考えられている。

ティラノサウルスは各部位によって僅かながら歯の分化が進んでいたとされる。特に門歯は断面が特徴的なD字型をしており、ティラノサウルス類を見分ける上での指標になっている。前上顎歯数は4、上顎歯はティラノサウルス類ではティラノサウルス・レックスが最も少なく11本。下顎歯もT-rexが最少の11本である。 頭蓋は同じ大きさの他の獣脚類に比べて明らかに幅広であり、特に後眼窩部の張り出しが著しい。吻部も丸みを帯びた広い形になっている。

脊椎骨数は、頚椎:10、胴椎:13(ただし、第13胴椎は僅かに仙椎的に変化している)、仙椎:5、尾椎:35-44。頚椎、胴椎といくつかの仙椎は側腹腔(pleurocoel)を生じ、椎体にはcamellate構造がある。つまり、含気化pneumatization)が進んでいるのである。

体の大きさに比して前肢は異常に小さく、指が2本あるのみで、用途は未だにはっきりとしていない。ただし、その大きさのわりにはかなり大きな力を出せたことがわかってきている。[5]逆に頭部は非常に大きく、それを前肢の代わりに上手く活かしていたのではないかと考えられている。また、進化の過程で体の前方が重くなったため、前肢を短く軽くすることでバランスを取ったとする見解もある。

他のテタヌラ類同様、恥骨の遠位部が前後に長く伸びるが(ピュービックブーツ(pubic boot)と呼ばれる)、ティラノサウルスの仲間はこれが特に巨大である。

ティラノサウルスとその類縁種(ティラノサウルス上科)は、足の速いオルニトミモサウルス類ダチョウに似た恐竜群)と共通の特徴であるアークトメタターサルを有していた。アークトメタターサルとは、第三中足骨が、第二、第四中足骨によって挟み込まれ、上端が押しつぶされる形態のことを指す(メタターサル〈metatarsal〉は中足骨のこと)。近年の研究によると、第三指骨および中足骨に負荷が加わると靭帯の働きにより第二、第四中足骨が中央にまとめられ、負荷の方向を一直線にすることで俊敏性を増すのに役立っていたと考えられている。また靭帯の損傷も防げたのではないかと推測される。このアークトメタターサルはオルニトミモサウルス類との共通先祖から受け継いだ形質と思われていたが、それを持たないティラノサウルスの先祖種の発見から現在では収斂進化によるものとされている。

発見と研究の歴史

ファイル:Trex skull.gif
実化石を含むカーネギー自然史博物館のティラノサウルスの模式標本であるが、一部に誤った復元がなされており、2003年から再構成のための作業が開始されている[6]

1892年、アメリカ古生物学者エドワード・ドリンカー・コープは後にティラノサウルスのものと同一視される脊椎の一部を発見し、マノスポンディルス・ギガスManospondylus gigas)と名付けた。2つ目の化石は1900年にワイオミング州アメリカ自然史博物館学芸員であったバーナム・ブラウンによって発見された。この標本はコープに師事していたヘンリー・フェアフィールド・オズボーンによって1905年にディナモサウルス・インペリオススDynamosaurus imperiosus)と名付けられた。三つ目の化石も1902年にブラウンによってモンタナ州で発見され、オズボーンによりティラノサウルス・レックスとして記載された。ディナモサウルスとティラノサウルスはオズボーンが1905年に発表した同じ論文の中で記載・命名されている。翌1906年にオズボーンは両者が実は同種であったとして統一したが、その際ディナモサウルスではなくティラノサウルスが有効名とされたのは、たまたま論文中で先に書かれていたのがティラノサウルスであったためである。1900年に発見された元ディナモサウルスはイギリスロンドン自然史博物館に、1902年に発見されたティラノサウルスの模式標本は現在、米国はペンシルベニア州ピッツバーグにあるカーネギー自然史博物館en)にて保管されている。

なお、1917年にオズボーンはマノスポンディルスとティラノサウルスに共通する特徴を見出し、それ以後は両者が同一視されるようになった。ただし発見されていたマノスポンディルスは一例のみで、標本はきわめて部分的であったため、オズボーン自身はそれらが同一種であると結論付けたわけではない(後述するように、この時点でもし同一種だと認められていたならば「ティラノサウルス」の代わりに「マノスポンディルス」が有効な名前になっていたはずである)。

ファイル:Field fg05.jpg
フィールド自然史博物館にて展示されているスー

1990年8月12日、サウスダコタ州で非常に保存状態のよいティラノサウルスの全身骨格化石が発見された。この標本は発見者のスーザン・ヘンドリクソン(Susan Hendrickson)にちなんで「スーSue)」と名付けられた。しかし発掘者のピーター・ラーソン博士と地主とのあいだで所有権をめぐる裁判に発展、連邦捜査局は強引な方法でピーター・ラーソン博士が保有していたスーの骨格を押収した。その後国が一時保管した後、スーはオークションにより日本円にして約10億円という高額で落札されたことでも話題を呼んだ。現在、米国イリノイ州シカゴ市にあるフィールド自然史博物館にて展示されている(標本番号:FMNH PR2081)。

1996年、ティラノサウルス科の恐竜のものと考えられる歯の化石が日本で初めて福井県で発見された。白亜紀前期の地層からの発見であり、ティラノサウルス科のアジア起源説を裏付けるものとしても注目された。

2000年6月、米国サウスダコタ州のかつてマノスポンディルスが発見された場所から、ティラノサウルスの化石が発掘された。この化石は1892年に発見された化石と同一個体のもの(掘り残し)と考えられ、マノスポンディルスとティラノサウルスが同一種であることが実際に確認されることとなったが、そこでコープの命名した「マノスポンディルス・ギガス」という名前の方に優先権があるのではないかという論争が生じた。しかし、2000年1月1日に発効された国際動物命名規約第4版[7]に定められた規定により、動物命名法国際審議会が強権を発動して学名 Tyrannosaurus を「保全名」としたため、名称の交代が行われることはなかった[8]

2007年4月、ノースカロライナ州立大学などの研究チームは、ティラノサウルスの骨のタンパク質を分析した結果、遺伝子的にニワトリに近いという結果を得たと発表した。

2009年、ハトに寄生するトリコモナスの古代菌種が、ティラノサウルスの命を奪っていた可能性があると発表された。 この研究結果はシカゴ・フィールド自然史博物館のティラノサウルス「スー」の化石のあごの骨にあいた穴から判明した。 鳥類がトリコモナスに感染した場合、クチバシや消化管の炎症によって餌を飲み込むことや呼吸が困難になることが報告されているが、「スー」の場合も同じような症状で餓死した可能性を研究チームは示唆している。またこの感染症の痕跡が同じティラノサウルス科のアルバートサウルスダスプレトサウルスの化石からも発見されており、トリコモナスによる感染症がかなり昔から存在していたと考えられるとともに、鳥類が恐竜から進化したという可能性をさらに強める証拠となった。[9]

系統分類

シノニム

本種のシノニム(異名)を記載年の古いものから記す。左から、学術名、仮名転写、特記事項。

:ティラノサウルス属の幼体とされているが、極めて近縁の別属である可能性が残る。
  • Dinotyrannus Olshevsky, 1995 ディノティラヌス
  • Stygivenator Olshevsky, 1995 スティギヴェナトル(スティギウェナトール)

分類学的位置付け

ファイル:Tarbosaurus080eue.jpg
ティラノサウルスの近縁種であるタルボサウルスの頭骨

ティラノサウルスの類縁種

ティラノサウルス属として現時点で広く認められているのはrex 種のみである。ただし、タルボサウルスティラノサウルス・バタールT. bataar)として、また、ダスプレトサウルスティラノサウルス・トロススT. torosus)としてティラノサウルス属に含める主張もある。特にモンゴルで発見されたタルボサウルスはその大きさと形態がティラノサウルスによく似ているため、ティラノサウルスそのものではないかとも言われるが、実際にはタルボサウルスのほうが前肢の比率が小さい。古生物学関連の科学雑誌『アクタ・パレオントロジカ・ポロニカ(Acta Palaeontologica Polonica)』の記事(外部リンク参照)によれば、フィリップ・カリー(en)、ジュン・フルム(Jřrn H. Hurum)、カロル・サバト(en)は、系統解析をもとにタルボサウルスとティラノサウルスは別属と考えるべきであるとしている。ただし、この差異は生息していた環境の違いによるものであって両者は同属であるという説も根強く、決着は未だ付いていない。現在のところ、ダスプレトサウルスとタルボサウルスは比較的近年発見されたナノティラヌスとともにティラノサウルス亜科に分類されている。なお、ティラノサウルス科には他にアルバートサウルスゴルゴサウルスが属している。

生態に関する研究

姿勢

ファイル:T. rex old posture.jpg
画像-1:ゴジラ型

ティラノサウルスの姿勢は、当初はいわゆる「ゴジラ」(カンガルーが2足で立ち上がったときの形)と考えられていたが、生体力学的研究の結果、尻尾を地面に付けず、体をほぼ水平に延ばした姿勢であったとされるようになった。尻尾は体重の支えとはならないが、体のバランスをとるための重要な役割(姿勢制御や動作制御)を担ったと推測されている(恐竜#姿勢・歩行法の特徴も参照)。

画像-1:従来の説に基づき尻尾を引きずったゴジラ型で描かれた想像図。1919年、チャールズ・ナイトen)筆。(ただし、この画像では尻尾を地面に付けてはいない)
画像-2:近年の姿勢に関する研究に基づいて作られた生態再現模型。前後に均衡のとれた体形となっている。

感覚

ファイル:Sue TRex Skull Full Frontal.JPG
眼窩は立体視可能な位置にある
ファイル:Baby Tyrannosaur.jpg
羽毛に覆われた幼体の想像図

嗅球が非常に発達しており、嗅覚が非常に優れていたと考えられる。またティラノサウルスは立体視ができる数少ない恐竜であり、視神経はとても太いと推測され、対象までの距離を正確に判断できたと考えられている。加えて、非常に発達した三半規管を具えていたとされ、これは狙いを定めた獲物に向けて頭や眼を固定するための姿勢制御に役立っていたと見られている。

体温・羽毛

ティラノサウルスが鳥類のような恒温動物であったか、一般的な爬虫類と同じく変温動物であったかについて、決定的な結論は出ていないが(恐竜恒温説も参照)、彼らは羽毛恐竜として知られるコエルロサウルス類の一種で、鳥類とも比較的近縁であることや活動的と思われる骨格構造などから恒温動物であった可能性は高い。羽毛があったか否かについては1990年代中頃から議論の的となっている。ティラノサウルス上科の原始的な種(ディロング)に羽毛の痕跡が発見されていることから、最近では、少なくとも幼体には羽毛が生えていたのではないかと考えられるようになってきている(この説では、体の大きさで体温を保てるようになる成体は羽毛を持たない)。

走行速度

ティラノサウルスの歩行・走行速度については未だ論争中である。その最大の原因は、彼らの速さを示す足跡化石が見つかっていないことにある。足跡化石そのものは発見されてはいるが、歩幅がわからないのである。加えて、走るのには不利な巨体を持ちながら、足の速い恐竜の特徴であるアークトメタターサルを併せ持っていることが挙げられる。なお、ティラノサウルスのアークトメタターサルを研究し、その論文の執筆を行ったエリック・スニベリー(Eric Snively)とアンソニー・ラッセル(Anthony P. Russell)は、ティラノサウルスがアークトメタターサルを持たない大型獣脚類と比べて遥かに機敏であることを立証しないが、ほのめかしている。このような事情があるため、下は18km/hから上は70km/hまで実に様々な走行速度説が提示されている。以下に現在の代表的な説を紹介する。

速度40~50km/h説
ティラノサウルスは含気骨化した恐竜であり、近年の研究では鳥類と同様の気嚢を具えていたとされる。そのため、研究者によっては現在考えられているより軽量である3~4tの体重を主張している。もし体重が3~4tであれば、40~50km/hが妥当だと言われている。事実、最近気嚢の痕跡を残す獣脚類のミイラが発掘されたため、恐竜全体、少なくとも獣脚類が気嚢を備えていたという学説は大幅に強化されている。結果としてこれ以外の下記説はそもそも体重の見積もりが過大であった可能性が高い。
走行は困難であるという説
ドナルド・ヘンダーソン(en)はアロサウルスとティラノサウルスの3D骨格モデルを作成してコンピュータ・シミュレーションを行った結果、ティラノサウルスの歩幅はそれほど広くなく、18km/h程度が限界という結果を得たと1999年に発表した。さらに2002年、ジョン・ハッチンソン(John Hutchinson)らはティラノサウルスは生体工学的に走ることができないと発表した。ハッチンソンはティラノサウルスが走行に必要とする筋肉量を計算したが、その結果は走行が極めて困難であることを示しており[10]、妥当な最高速度をフルード数から求められる歩行速度限界である18km/h前後とした。なお、この研究ではモデル(標本番号:MOR 555)の体重を6tと仮定している。食用に改良されたニワトリをコンピューター・シミュレーションのモデルとするのに問題があるとの指摘もある。
長距離歩行適性説
四肢骨の長さの比率を分析した結果、ティラノサウルスの後肢は高速疾走に向いた形態から長距離歩行に適した形態へ進化する傾向があり、あまり速くはなかったという説がある。歩幅と体軸の回転性を追求した疾走型生物の場合、四肢骨は大腿部(もも)に対して下腿部(脛から足先)の方が長い。しかし、ティラノサウルスはティラノサウルス科の中で相対的に下腿部が大腿部より短く、大型化するとともにその特徴が現れていったようである。この事実から、ティラノサウルスは疾走型から長距離歩行型に移行していったと説明される。その推定速度は15~34km/hであるが、それでもトリケラトプストロサウルス等の角竜を追いかけるのには十分であったのではないかと論じられている。
ただし、ティラノサウルスは大型恐竜の中では下腿部の比率が大きい恐竜の一種でもある(アロサウルスなどを含むカルノサウルス類と比べると明らかに比率は上回っている)。これはティラノサウルスの中足骨が他の大型肉食恐竜よりずっと長いからである。また、現生するいくつかの捕食動物より下腿部の比率は大きい(ライオンを上回り、ウマよりやや劣る)。なお、生物は進化の過程で大型化するにつれ異形生長(アロメトリックグロウ)するため、必ずしも四肢骨の比率変化が疾走型から長距離歩行型への移行と結び付くわけではない。
速度30km/h前後説
マンチェスター大学のビル・セラース(Bill Sellers)はティラノサウルスの筋骨格のコンピュータ・モデルを作成し、走行のシミュレーションを行った。その結果、体重6tのティラノサウルスは29km/hというかなりの速度で走れるという結果を得たとした(セラースは2007年の論文発表前にシミュレーション結果をWEB公開している[11])。また、ティラノサウルス以外にも3種類の現生動物とアロサウルス、ディロフォサウルスヴェロキラプトルコンプソグナトゥスの最高速度を算定したが、現生種の算定速度は実際のものと一致した。また、アロサウルスのモデルでも発見された足跡化石に一致する歩幅と速度が算定されている。これは現在最も中立的な説の一つであり、筋肉量、速筋・遅筋の割合、筋力などのパラメータはどれも推測される範囲の中間値を使っている。また、2002年にハッチンソンらが発表した鈍足説と違い、筋肉の弾性要素や収縮速度及び速筋や遅筋などがモデルとして考慮されている。算定された速度は29km/hであるが、前述のようにパラメータが中間的であるため、これより速い可能性も遅い可能性もありえる。論文中には、速筋の割合や筋肉量によってどのように最高速度が変化するかのグラフが記載されており、それによると最低値で20km/h、最高値で50km/hである。
ファイル:Tyrannosaurus (arm).jpg
華奢に見える前肢も、ティラノサウルスが狩猟を行っていなかったとする説の論拠とされることがある。

食性

ティラノサウルスは非常に強力なプレデター(predator、捕食者)で生態ピラミッドの頂点に位置する存在であったと考えられているが、研究史上何度か異説が提唱されてきた。古くはローレンス・ラムが1917年に提唱したもの(説の主題は本種ではなく近縁のゴルゴサウルスであるが、いずれにせよ、大型獣脚類をプレデターと見なす説には否定的)、最近では米国人古生物学者ジャック・ホーナーのスカベンジャー(scavenger、腐肉食者)説が有名である。ただし、この説は一般向けの出版物やテレビ番組などでよく取り上げられるものの、ホーナー自身一報たりと論文にしておらず学説として、ティラノサウルス腐肉専門説なるものは存在しない。これらの説ではいくつかの論拠[12] をもってティラノサウルスはほぼ腐肉食専門であったとされる(もっとも多くの肉食動物は捕食と腐食の両方を行っており、どちらの比率が高いかであるが)。

しかし、ティラノサウルスが積極的に狩猟を行っていたことを支持する証拠・論拠が多数存在している。まずエドモントサウルストリケラトプスの化石には、ティラノサウルスに噛み付かれた痕も生存し、治癒していたことを示すものが発見されている。これは、本種が生きた獲物を襲うという事実があった証拠と見ることができる。また、当時の北アメリカに存在した恐竜のうち角竜は全体の約8割を占めていたようで、生態系のバランスを保つためには相応の捕食動物がいたはずであると推論されるが、1t以上の体重を持ち、トリケラトプスのような角竜を襲撃することのできた恐竜は今のところティラノサウルスしか発見されていない。なお大型角竜の化石だけでなく、本種同士が共食いをしていた痕跡を残す化石も発見されており[13]、近年発見されたこの証拠は本種が凶暴な捕食者であった可能性を高く示している。なおかつ、ティラノサウルスは成長期に非常に早いスピードで成長し、高代謝であったとされるため、腐肉のみでそれを維持できるとは考えにくい。立体視能力や鋭い嗅覚なども狩猟において真価を発揮したのではないかと考えられている。これらを根拠として現時点での総合的な推測としては、時折に腐肉食もしたであろうが、本質的に獰猛なプレデターであったと仮定されるケースが多い。

社会性

ティラノサウルスは単独で行動していたと、かつては考えられていた。しかし近年では、家族または同種族の様々な世代で集団を構成し、社会生活を営んでいたのではないかとの意見もある。この説は、とうてい歩けそうもない骨折が治癒した形跡のある個体が発見され、狩りができない期間に仲間が餌を運んでいた可能性があることに基づく推論である。

親子による狩り説
最近ではティラノサウルスは親子で狩りを行っていたとする説も登場している(この説はハッチンソンらの走行速度説を前提とし、成体の速度を10km/h程度と推算)。ティラノサウルスの咬合力は3t(1360kgという説もある[14])と非常に強力で、現在生息するワニの550kg~1tをしのぎ、トラック鉄格子をも砕いてしまう大きさである。そこで、小型・軽量なため約30km/hで走ることのできる子供と、機敏な動作は不可能であるが強力な顎を持つ親がお互いの長所を活かし、協力して狩りを行っていたのではないかと説明されている。すなわち、子が獲物を追い詰め、親が止めを刺したとする説である。ただし、群れに子供がいて初めて成り立つ狩猟方法である点に異論が差し挟まれる余地ある。

化石の評価

2012年5月、アメリカのオークションにティラノサウルスの骨格化石が出品され105万ドルで落札されている。ただし、この標本は、モンゴルから密輸されたことが明らかになり、後日、差し押さえを受けている (この化石はティラノサウルスではなく、タルボサウルスとされることもある種のものである。記事ではティラノサウルスと紹介している)[15]

脚注

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関連項目

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ティラノサウルスを題材とした事物(名称のみのものも含む)

外部リンク

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  1. 約6,500万年前(K-T境界上)の大陸配置図(K-T (65Ma))。この時までの一時期を、ティラノサウルスは左上の大陸で生きていた。- Mollewide Plate Tectonic Maps - Dr. Ron Blakey
  2. 本種の他に、ギガノトサウルススピノサウルスカルカロドントサウルスエパンテリアスなどが史上最大級とされている。
  3. 「暴君」は近代的な語義。本来のギリシア語の意味については僭主を参照のこと。
  4. 上下の顎の咬み合わせの力をいう。
  5. 片手で200Kgのピアノを持ち上げられるとされる。
  6. Rebuilding T .Rex - カーネギー自然史博物館のサイトのトピック。
  7. 動物命名法解説
  8. ICZN : Palaeontology & Biostratigraphy
  9. 学術誌「PLOS one」ウェブサイト版 ,2009年9月30日 掲載
  10. 走行運動は脚の垂直方向に大きな荷重をかけ、人間の場合は体重の2.5倍ほどの荷重が立脚相中期にかかるとされている。もし、体重6tのティラノサウルスの脚にその2.5倍の荷重がかかるとすると、左右の脚に体重の86%ほどの筋肉が必要になると論文中には述べられている。筋肉量は各関節にかかるトルクと関節から推定されるモーメントアームから計算されている。必要となる片足の筋肉の内訳は、股関節伸展筋が体重の15%、膝関節伸展筋が4%、足首関節伸展筋が15%、屈指筋が9%であり、合計43%必要であると算定されている。そのような筋肉量はありえないので、ティラノサウルスは走れないと結論付けられた。ただし、現生のダチョウのような大型陸鳥では筋肉と腱などの連動性が下肢の筋肉量を小さく抑えるのに役立っているが、ティラノサウルスの筋肉の弾性要素と腱の連動性については不確定要素が多かったため、上のハッチンソンの計算では無視されている。
  11. Tyrannosaurus Simulation - 簡単なティラノサウルスの筋骨格モデルを作成した結果、体重6tのティラノサウルスは最高25~54km/hで走れると書かれている。ムービーで公開されているモデルは時速38.5km(10.7m/s)である。
  12. その論拠には以下のようなものがある。
    • 極度に退化した前肢は、草食恐竜を襲撃するには明らかに不利である。
    • 発達した嗅覚はハゲワシのような腐肉食動物の特徴である。
    • 大型の躯体は他の腐肉食動物を獲物(死骸)から追い払うときに有効であった。
    • 歯の形状がハイエナのように骨を噛み砕くのに適しており、骨の中に残った骨髄を摂取することも可能であった。
    • 当時の温暖な環境は今とは比べるまでもなく草食動物に快適でその数が多かったため、ティラノサウルスは腐肉に困らなかった。
    • ティラノサウルスは遅速で機敏さに欠けるため、素早い草食恐竜を追いかけることは不可能であった。
    ただし、前肢を使用せずとも大きな口と歯を上手く利用すれば狩りは可能であるし、発達した嗅覚や骨を噛み砕ける歯はむしろプレデターとして有利である。そもそも、ハイエナは優秀なプレデターである。また、化石の数から見積もられる草食恐竜と肉食恐竜の比率は現在の自然界のものと大差は無い。このように、スカベンジャー説の論拠には反駁されやすいものが多い。しかし、走行速度次第でスカベンジャー説が支持を集めることもあり得る。
  13. 比較的若い時期に腕を欠損し、その後治癒して生き延びた本種の化石が発見されている。傷の具合から襲った相手も本種と推測されている。
  14. 咬合力については諸説あるが、巨大な板皮類であるダンクレオレステス首長竜に属するクロノサウルスはより強かった可能性が高い。前者は5300kg、後者は2000~3000kgあったと推定されている(アゴ最強伝説およびアゴ最強伝説2)。
  15. 8000万円で落札のティラノサウルス化石、密輸理由に差し押さえAFP.BB.NEWS(2012年6月29日)