フェノール
フェノール (phenol、benzenol) は、水彩絵具のような特有の薬品臭を持つ有機化合物である。芳香族化合物のひとつで、常温では白色の結晶。ベンゼンの水素原子の一つがヒドロキシル基に置換した構造を持つ。和名は石炭酸(せきたんさん)。
広義には、芳香環の水素原子をヒドロキシ基で置換した化合物全般を指す。これらについてはフェノール類を参照のこと。
目次
性質
毒性および腐食性があり、皮膚に触れると薬傷をひきおこす。毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている
水に可溶(8.4g/100mL, 20テンプレート:℃)で、アルコールやエーテルには任意の割合で溶ける[1]。
芳香環の共鳴効果によって共役塩基のフェノキシドイオン(またはフェノラートイオン);C6H5O-が安定化されるため、同じくヒドロキシ基を持つアルコール類よりも5桁以上高い酸解離定数 (pKa = 9.95) を示す[2]。ゆえに弱い酸性を示し、カチオン種と共に塩を形成する。フェノール塩はカチオン種名と「フェノキシド」を合わせて命名する(例:ナトリウムフェノキシド)。
検出
フェノールに塩化鉄(III)水溶液を滴下すると鉄フェノール錯体が生成し紫色を呈する。
- 6C6H5OH + FeCl3 → 3H+ + [Fe(OC6H5)6]3- + 3HCl
この反応はフェノール性ヒドロキシル基をもつ化合物の簡易的な検出法として広く用いられている。
生産と用途
フェノールは有機合成化学工業重要な原料である。コールタールから分離するかベンゼンから合成する。ベンゼンからの合成法は、ベンゼンをスルホン化し、そのナトリウム塩をアルカリ融解する、クロロベンゼンとしてから、これを高圧下で水酸化ナトリウム水溶液と加熱する、クメンヒドロペルオキシドとしてから分解する(クメン法)などの方法によって生産される。クメン法の場合、副産物としてアセトンを生じる。フェノールの2008年度日本国内生産量は 771,641t、消費量は 194,594t である[3]。
実験室的製法として、ベンゼンをスルホン化あるいは塩素化した、ベンゼンスルホン酸あるいはクロロベンゼンを、溶融した水酸化ナトリウム中で加熱分解するとフェノールのナトリウム塩(ナトリウムフェノキシド)が得られる。これは電子密度が低下したベンゼン環への水酸化物イオン OH− のipso型の求核置換反応である。スルホ基やクロロ基は電子求引性が大であることと、脱離基として能力が高い為にこの種の反応が起こりやすくなっている。
フェノールはフェノール樹脂に代表されるプラスチックの他、医薬品や染料など各種化成品の原料として広く用いられている。フェノールそのものは希釈して消毒剤などに利用される。
融解温度以上で水と混合すると、常温に冷却しても含水フェノール(液体)とフェノール水溶液の2相に分離する。生物学では、核酸の分離精製にこの含水フェノール液をよく用いる。含水フェノール液は特に腐食性が強く注意が必要。
反応
ナトリウムと反応してナトリウムフェノキシドを生成する。
- 2C6H5OH + 2Na → 2C6H5ONa + H2
無水フタル酸と縮合し、フェノールフタレインを生成する。
- 2C6H5OH + 2C8H4O3 → 2C20H14O4 + O2
フェノール水溶液に臭素水溶液を加えると白色の2,4,6-トリブロモフェノールが生成する。
ニトロ化することによりピクリン酸を生成する。フェノールは濃硝酸によって酸化されるので先に濃硫酸でスルホン化を行ってからニトロ化する。
歴史
石炭を原料としてコールタールを処理する過程で得られる副産物であることから「石炭酸」の名前で呼ばれていた。 18世紀には消臭剤としての効果が認められ、ゴミや汚水の消臭剤として散布されていた。 ジョゼフ・リスターが初期の消毒薬として使用することで大きな成果を挙げている。これにより、当時手術につきものであった敗血症の発生確率を大幅に下げることに成功した。 医療器具から病院まであらゆる場所の消毒に用いられ、病院にはフェノールを噴霧するための装置が常備されるようになった。しかし、人体に対する毒性があることから後には使用されなくなっている。
主なフェノール誘導体
1価フェノール
2価フェノール
3価フェノール
6価フェノール
参考文献
- ↑ 石油化学工業協会MSDS [1]
- ↑ http://daecr1.harvard.edu/pdf/evans_pKa_table.pdf
- ↑ 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計平成20年年計による