ポルシェ・944
ポルシェ944(Porsche 944 )は、ポルシェがポルシェ・924とポルシェ・928の中間グレードを担うモデルとして1983年から1991年の間に製造していたスポーツカーである。
目次
[非表示]開発経緯
ポルシェ・911の後継車として当時ポルシェに在籍していた技術者兼最高責任者のエルンスト・フールマンが928を開発したものの、911の後継車に928はサイズが大きすぎたため、主に924以上928未満の市場開拓を狙って開発された。
概要
最初に944の名称が使用されたのは1981年のル・マン24時間レースにヴァルター・ロールとユルゲン・バルトの運転で参戦したレーサー、944LMである。これはポルシェ・924カレラGTのボディーにポルシェ・928のV8DOHC4.7Lエンジンを半分のL4とし、ボアアップ、DOHC化、シングルターボによるチューニングを受けたもので、市販車ベースながら総合7位GTプロトタイプクラス3位となった。後にトランスミッションはポルシェ・956に流用されている。
市販車としては1981年フランクフルトモーターショーで発表[1]され、1983年から製造が開始された。ボディ形状は2ドア4座クーペであり、当時のポルシェ最高責任者ペーター・シュッツの政策で、当初は911の後継車として位置づけられていた。特に1986年発売のポルシェ944ターボは「世界一ハンドリングが良い自動車」(Best Handling Car In The World )と称され、スポーツカーのベンチマークとして同業他社からマークされた。当時の販売台数は911を上回るなど商業的に成功し、実質的にこの時期のポルシェの経営を支えたモデルとなった。
エンジン
924とは違い全てがポルシェ製で、928のV8エンジンの片バンクをベースとし5mmボアを拡げボアφ100×ストローク78.9mmの2,478cc[2]としたSOHC直列4気筒水冷エンジンを搭載する。1985年に過給機付きの944ターボが発売され(『80年代輸入車のすべて』三栄書房、85頁参照)、また944S2では2,990ccまで拡大された。
バランスシャフトは、既に日本の三菱自動車(以下三菱)が取得していた特許があったため、一部書籍には三菱がポルシェに技術供与したと受け取れる記述が見られる。ポルシェ側の説明では、独自研究開発していたバランスシャフトが、三菱が持つサイレントシャフトの特許に抵触したとしている。バランスシャフト自体は自動車のエンジンに限らず、内燃機関で広く利用されている技術であり、三菱の特許はその実装法(シャフトの位置関係等)のひとつに対するものである。最終的には、ポルシェと三菱との間の契約として、ポルシェは三菱が特許を持つバランスシャフト技術を、三菱はポルシェが特許を持つトランスアクスル技術を、互いに利用することを認める、とされたものとされている。
トランスミッション
発売当初から5速マニュアルトランスミッション車、3速オートマチックトランスミッション車が用意されている。トランスミッションはどちらもアウディ製でトランスアクスル レイアウトとなっている。
スタイリング
モチーフとなったのは前身モデルにあたる924のレーシングバージョンの924カレラGT。フロントバンパー下のエアダム、前後のブリスターフェンダー、ハッチ後端のスポイラーなどに影響が見られる[3]。
モデル
1983年
製造開始。
- ポルシェ944 - ボアφ100×ストローク78.9mm、2,478cc、圧縮比9.5、SOHCのM44/02エンジン。ボッシュLジェトロニックで155ps/5,500rpm、20.2kgm/3,000rpm。日本仕様は155ps/5,500rpm、19.6kgm/3,000rpm[4]。内装は3連独立メーターなど924と同じデザイン。トランスミッションは5MTまたは3AT。手動で冷暖房を設定するエアコン。集中ドアロックなし。ホイールは7J15、オプションで7J16。タイヤは185/70VR15、オプションで205/55VR16。
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1983年型ポルシェ944(前期型)フロントマスク。
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1983年型ポルシェ944(前期型)リア。
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1983年型ポルシェ944(前期型)3AT、924と同じ内装、ステアリングは社外品。
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1983年型ポルシェ944(前期型)924と同じ内装、ステアリングは社外品。
1984年
パワーステアリングがオプション設定された[5]。
- ポルシェ944 - リアスポイラーを標準装備した。
1985年
この年ポルシェ944ターボが追加された[6]。
- ポルシェ944 - この年の後期から[7]大幅にモデルチェンジされ、これより前のモデルをポルシェ944A、これ以降をポルシェ944Bと呼称することがある。オートエアコンを装備。シートファブリックはおとなしいデザインになった[8]。
- ポルシェ944ターボ - 2,478ccSOHC、KKK製水冷インタークーラー付きターボのM44/51エンジン[9]。圧縮比8.0で220hp/5,800rpm、33.6kgm/3,500rpm[10]。トランスミッションは強化され、MTのみ[11]。内装はコンビネーションメーター。944とはフロントマスク(バンパー回り)のデザインが異なり、リアバンパーの下にはエアスポイラーがついている。フロントガラスとボディの段差をなくして空気抵抗を低減しているなど細かな改良がある。車両型式で951と呼ばれることも多い。ブレーキはブレンボ製4ポッド[12]。オートエアコン装備。集中ドアロックなし。リアシートは2点式シートベルト。ホイールは7J16、タイヤはフロント205/55VR16[13]。
1986年
- ポルシェ944
- ポルシェ944ターボ
1987年
- ポルシェ944
- ポルシェ944S - ポルシェ928S4のヘッドを載せ[14]DOHC16バルブ化され圧縮比10.9で190hp/6,000rpm、23.5kgm/4,300rpm[15]のM44/40型エンジン[16]。トランスミッションはMTのみでATなし。
- ポルシェ944ターボ
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1987年型ポルシェ944ターボ(中期型)フロントマスク、空気抵抗値が一段と低くなった。
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1987年型ポルシェ944ターボ(中期型)リア、バンパー下部にもスポイラー。
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1987年型ポルシェ944ターボ(中期型)5MT、968とほぼ同じ内装、コンソール類が変更。デュアルエアバッグ装備車。
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1987年型ポルシェ944ターボ(中期型)968とほぼ同じ内装、オプションスポーツシート(ノーマルよりバケットが深い)装備車、デュアルエアバッグ装備、ドアスピーカーは社外品。
1988年
- ポルシェ944 - 圧縮比が10.2:1に変更され160ps/5,900rpm、21.4kgm/4,500rpm[17]。タイヤは195/65VR15[18]。
- ポルシェ944エクスクルーシブ - 限定車。ATのみ。
- ポルシェ944S
- ポルシェ944ターボ
- ポルシェ944ターボS - ターボカップレーサーをベースとした1,000台限定車。フロントブレーキ大径化、ターボチャージャーの大型化によるパワーアップなどを行なっている。250ps。
1989年
- ポルシェ944 - ボアφ104×ストローク78.9mmにアップされて2,681ccで165ps/5,800rpm、22.9kgm/4,200rpm[19]。ホイールは7J15、タイヤは195/65ZR15[20]。
- ポルシェ944S
- ポルシェ944エクスクルーシブ
- ポルシェ944クラブスポーツ
- ポルシェ944S2 - ボアφ104×ストローク88mmの2,990cc、DOHC、圧縮比10.9で211ps/5,800rpm、28.6kgm/4,000rpm[21]。ABS装備。カブリオレも設定された。シャーシはポルシェ944ターボを流用。ホイールはフロント7J16、リア8J16、タイヤはフロント205/55ZR16、リア225/50ZR16[22]。。内装は944ターボと同じでほぼそのまま968にも踏襲された。
- ポルシェ944ターボ - ブースト圧が0.7バールに上げられ250hp/6,000rpm、35.6kgm/4,000rpm[23]。集中ドアロック装備。リアシートは3点式シートベルト。ホイールはフロント7J16、リア9J16、タイヤはフロント205/55ZR16、リア245/45ZR16[24]。
1990年
車内から光軸調整可能となった。
- ポルシェ944S2 - ダイアグノーシス採用。セキュリティーシステムとアンチロックブレーキを標準装備した。
- ポルシェ944S2クラブスポーツ - サーキット走行を想定したスポーツモデル。スポーツオプションの足回りが標準装備され、大型フロントブレーキ、LSDなどが標準装備。
- ポルシェ944ターボ - リアスポイラーがウイングタイプに変更された。この年で生産終了[25]。
1991年
この年を以て生産が終了された。1992年春販売終了、後継モデル968が販売開始された。
- ポルシェ944S2 - リアスポイラーがウイングタイプに変更された。集中ドアロック装備。
- ポルシェ944S2クラブスポーツ
関連項目
参考書籍
- 「外国車ガイドブック1983」日刊自動車新聞社
- 「外国車ガイドブック1984」日刊自動車新聞社
- 「外国車ガイドブック1986」日刊自動車新聞社
- 「外国車ガイドブック1988」日刊自動車新聞社
- 「ワールドカーガイド1ポルシェ」ネコパブリッシング
脚注
- 元の位置に戻る ↑ 「外国車ガイドブック1983」P149、「ワールドカーガイド1ポルシェ」P126。
- 元の位置に戻る ↑ 「外国車ガイドブック1984」P128やP208では2,478cc、「ワールドカーガイド1ポルシェ」P126やP199では2,479ccとなっているが、ボアとストロークの数値はどの書籍でも同一であり、そこから算出される数値2,477.46ccの小数点未満繰り上げにより2,478ccを採った。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P126。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P126。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P126。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P127。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P125。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P124。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P200。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P127。
- 元の位置に戻る ↑ 「外国車ガイドブック1986」P208。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P127。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P201。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P126。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P127、P200。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P200。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P125
- 元の位置に戻る ↑ 「外国車ガイドブック1988」P140
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P127、201。
- 元の位置に戻る ↑ 「外国車ガイドブック1988」P201
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P201。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P201。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P200。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P200。
- 元の位置に戻る ↑ 「ワールドカーガイド1ポルシェ」P127。