池澤夏樹

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2014年8月17日 (日) 00:02時点における240b:253:a0:500:e95c:8b91:6532:8036 (トーク)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

テンプレート:Infobox 作家 池澤 夏樹(いけざわ なつき、1945年7月7日 - )は、日本小説家詩人翻訳書評も手がける。日本芸術院会員。

文明や日本についての考察を基調にした小説随筆を発表している。翻訳は、ギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。 各地へ旅をしたことが大学時代に専攻した物理学と併せて、池澤の作品の特徴となる[1][2]。また、詩が小説に先行していることも、その文章に大きな影響を与えている[3]

声優の池澤春菜は娘。

来歴

北海道帯広市出身。マチネ・ポエティクで同人だった原條あき子(山下澄、1923年 - 2004年)と福永武彦の間に、疎開先の帯広で誕生した。1950年、両親が離婚し、1951年母に連れられて東京に移る。母はその後再婚して池澤姓を名乗ったため、池澤は実父について高校時代まで知らなかったという。

都立富士高校卒業後、1964年埼玉大学理工学部物理学科に入学。1968年中退。ハヤカワミステリー短編やテレビ台本、『リーダーズダイジェスト』の記事の翻訳などをしていた。1972年に、お茶の水女子大学を卒業し、日本航空に勤務し始めたばかりの直美と結婚(のちに池澤と離婚後元国際基督教大学教授で弁護士のThomas J. Schoenbaumと再婚し、池澤ショーエンバウム直美を名乗る)。直美が勤める日本航空の社員割引制度を使い、南太平洋を中心に各地へ旅をするなど、世界各地を割安で旅行できた[4]

ロレンス・ダレルの弟のナチュラリストであるジェラルド・ダレルが少年時代を回顧した、ギリシアを舞台にした『虫とけものと家族たち』『鳥とけものと親類たち』『風とけものと友人たち』を1974年から翻訳している。これがきっかけで、1975年ギリシアに夫婦で移住、3年間同地で過ごす。直美は在ギリシア日本大使館に勤務し、ギリシア在住の間に娘の春菜が生まれる。

ユリイカ』の当時の編集長・三浦雅士の誘いがきっかけで、『ユリイカ』に詩を掲載[5]。帰国後、初の詩集『塩の道』を出版。1979年より『旅芸人の記録』(監督テオ・アンゲロプロス)の字幕を担当、これがきっかけでアンゲロプロスの作品の字幕を担当する。

1984年5月号『』に長編小説「夏の朝の成層圏」を発表、1987年中央公論新人賞を受賞した小説「スティル・ライフ」で、1988年に第98回芥川賞を受賞。

1993年沖縄に移住。1999年7月に直美と離婚。直美との間には春菜とその妹の2女がある。同年8月、歳の離れた編集者と再婚し2児をもうけた。2005年フランスフォンテヌブローに移住。2009年北海道札幌に移住。「ぼくが生まれて育ったのは北海道である。梅雨がないことで知られるとおり、最も乾燥した土地だ。フランスを離れて日本に帰ろうかと思った時、同じ空気の中に住みたいと思って、札幌に決めた。ここの今日の湿度は六八パーセント。やっぱり乾いている。」と本人のブログで述べている。

小説では『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、『花を運ぶ妹』で毎日出版文化賞、『すばらしい新世界』で芸術選奨、『静かな大地』で親鸞賞などを受賞。また、随筆では『母なる自然のおっぱい』で読売文学賞(随筆・紀行部門)、評論では『楽しい終末』で伊藤整文学賞(評論部門)を受賞。2007年紫綬褒章受章。

『むくどり通信』シリーズなどの随筆もある。2010年北海道新聞中日新聞東京新聞北陸中日新聞西日本新聞及び中国新聞に、小説「氷山の南」を連載。

2001年9月11日アメリカでのアメリカ同時多発テロ事件の直後から『新世紀へようこそ』というメールコラムを100回にわたって発信し、その後メールコラムは『パンドラの時代』、『異国の客』へと移っている。2002年11月にはイラクを訪れ、現地の普通の人々の暮らしを伝える『イラクの小さな橋を渡って』(写真・本橋成一)を緊急出版した。

池澤の個人編集の河出書房新社の『世界文学全集』全30巻が2007年11月より刊行された。

小説や評論が国語の教科書など教育現場において採用されることも多く、『スティル・ライフ』は2002年度の大学入試センター試験国語Ⅰ・国語Ⅱの追試験問題で出題された(過去問題集では池澤の意向で文章は省略されている)。

2011年第145回をもって、1995年第114回から務めた芥川賞の選考委員を辞任。

2012年現在、谷崎潤一郎賞、読売文学賞選考委員。

2014年8月1日より、北海道立文学館館長に就任[6]

受賞・受章歴

親交のある人々

作品一覧

  • 塩の道(書肆山田、1978)
  • もっとも長い河に関する考察(書肆山田、1982)
  • 池澤夏樹詩集成(書肆山田、1996)
  • メランコリア(光琳社出版、1998)
  • この世界のぜんぶ(中央公論新社、2001)のち文庫

小説

  • 夏の朝の成層圏(中央公論社、1984)のち文庫
  • スティル・ライフ(中央公論社、1988)のち文庫
    • La Vie immobile (tr. Véronique Brindeau et Dominique Palmé, Arles: Philippe Picquier, 1995)
    • Still Lives (tr. Dennis Keene, Tokyo: Kodansha International, 1997)
    • L'uomo che fece ritorno (tr. Antonietta Pastore, L'arcipelago Einaudi; 21, Torino: Einaudi, 2003)
  • 真昼のプリニウス(中央公論社、1989)のち文庫
  • バビロンに行きて歌え(新潮社、1990)のち文庫
  • マリコ / マリキータ(文藝春秋、1990)のち文庫、角川文庫
  • タマリンドの木(文藝春秋、1991)のち文庫
  • 南の島のティオ(楡出版、1992)のち文春文庫
    • Tio du Pacifique : les histoires que me racontait (tr. Corinne Quentin, Arles: Philippe Picquier, 2001)
  • きみが住む星(文化出版局、1992)のち角川文庫
  • マシアス・ギリの失脚(新潮社、1993)のち文庫
    • Aufstieg und Fall des Mecias Guili (tr. Otto Putz, Berlin: edition Q, 2002)
  • 骨は珊瑚、眼は真珠(文藝春秋、1995)のち文庫
    • Des os de corail, des yeux de perle (tr. Véronique Brindeau et Corinne Quentin, Arles: Philippe Picquier, 1997)
  • やがてヒトに与えられたときが満ちて…(河出書房新社、1996)のち角川文庫
  • 世界一しあわせなタバコの木。(絵本館、1997)
  • 花を運ぶ妹(文藝春秋、2000)のち文庫
    • A burden of flowers (tr. Alfred Birnbaum, Tokyo: Kodansha International, 2001)
    • La sœur qui portait des fleurs (tr. Corinne Atlan et Corinne Quentin, Arles: Philippe Picquier, 2004)
  • すばらしい新世界(中央公論新社、2000)のち文庫
  • カイマナヒラの家(ホーム社、2001)のち集英社文庫
  • 静かな大地(朝日新聞社、2004)のち文庫
  • キップをなくして(角川書店、2005)のち文庫
  • きみのためのバラ(新潮社、2007)のち文庫
  • 光の指で触れよ(中央公論新社、2008)のち文庫
  • 星に降る雪 修道院(角川書店、2008)のち「星に降る雪」と改題し、角川文庫
  • 熊になった少年 (スイッチパブリッシング、2009)
  • カデナ(新潮社、2009)のち新潮文庫
  • TIO'S ISLAND(小学館、2010)写真:竹沢うるま
  • 氷山の南(文藝春秋、2012)
  • アトミック・ボックス(毎日新聞社、2014)

随筆・評論・編集など

  • サーカムナビゲーション(イザラ書房、1980)
  • 見えない博物館(小沢書店、1986)のち平凡社ライブラリー
  • ギリシアの誘惑(書肆山田、1987)
  • ブッキッシュな世界像(白水社、1988)のちUブックス
  • シネ・シティー鳥瞰図(中央公論社、1988)のち文庫
  • 都市の書物(太田出版、1990)
  • インパラは転ばない 飯野和好イラスト(光文社、1990)のち新潮文庫
  • 読書癖1-4(みすず書房、1991-1999)
  • エデンを遠く離れて(朝日新聞社、1991)のち文庫
  • 南鳥島特別航路(日本交通公社、1991)のち新潮文庫
  • 沖縄いろいろ事典(編)(新潮社、1992)「オキナワなんでも事典」文庫
  • 母なる自然のおっぱい(新潮社、1992)のち文庫
  • 宇宙のつくりかた(福音館書店、1992)たくさんのふしぎ、小学生向け
  • 楽しい終末(文藝春秋、1993)のち文庫
  • クジラが見る夢 ジャック・マイヨールとの海の日々(テレコムスタッフ、1994、写真:高砂淳二垂見健吾)のち新潮文庫
  • むくどり通信(朝日新聞社、1994)のち文庫
  • 小説の羅針盤(新潮社、1995)
  • 星界からの報告(書肆山田、1995)
  • むくどりは飛んでゆく(朝日新聞社、1995)
  • 海図と航海日誌(スイッチ・パブリッシング、1995)
  • むくどりは千羽に一羽…(朝日新聞社、1996)
  • ハワイイ紀行(新潮社、1996)のち文庫
  • むくどりの巣ごもり(朝日新聞社、1997)「むくどり通信 雄飛編」文庫
  • 沖縄式風力発言(ボーダーインク、1997)
  • 明るい旅情(新潮社、1997)のち文庫
  • 室内旅行 池澤夏樹の読書日記(文藝春秋、1998)
  • むくどりとしゃっきん鳥(朝日新聞社、1998)
  • むくどり最終便(朝日新聞社、1999)「むくどり通信・雌伏編」文庫
  • 旅をした人 星野道夫の生と死(スイッチ・パブリッシング、2000)
  • 新世紀へようこそ(光文社、2002)
  • 言葉の流星群(角川書店、2003)
  • イラクの小さな橋を渡って(光文社、2003)のち文庫
    • On a Small Bridge in Iraq (tr. Alfred Birnbaum, Okinawa: Impala, 2003)
    • SUR UN PETIT PONT EN IRAK (tr. Corinne Quentin, Okinawa: Impala, 2003)
    • AUF EINER KLEINEN BRÜCKE IM IRAK (tr. Otto Putz, Okinawa: Impala, 2003)
  • 憲法なんて知らないよ というキミのための「日本の憲法」(ホーム社、2003)のち集英社文庫
  • 世界のために涙せよ 新世紀へようこそ2(光文社、2003)
  • 神々の食(文藝春秋、2003)のち文庫
  • 風がページを… 池澤夏樹の読書日記(文藝春秋、2003)
  • パレオマニア 大英博物館からの13の旅(集英社インターナショナル、2004)のち文庫
  • アマバルの自然誌 沖縄の田舎で暮らす(光文社、2004)のち文庫
  • 異国の客(集英社、2005)のち文庫
  • 世界文学を読みほどく スタンダールからピンチョンまで(新潮選書、2005)
  • 池澤夏樹の旅地図 Along the footsteps of a lay pilgrim(世界文化社、2007)
  • 虹の彼方に 池澤夏樹の同時代コラム(講談社、2007)のち文庫
  • 叡智の断片(集英社インターナショナル、2007)
  • セーヌの川辺(集英社、2008)
  • 風神帖―エッセー集成1(みすず書房、2008)
  • 雷神帖―エッセー集成2(みすず書房、2008)
  • ぼくたちが聖書について知りたかったこと(小学館、2009)
  • 探究この世界 2009年10-11月(NHK知る楽/月)池澤夏樹の世界文学ワンダーランド(NHK出版、2009)
  • 嵐の夜の読書(みすず書房、2010)
  • 本は、これから(岩波新書、2010)
  • 池澤夏樹=個人編集 世界文学全集【全30巻】(河出書房新社、2011)2007年11月より刊行開始、2011年3月完結
  • 序 福永武彦戦後日記のこと(福永武彦戦後日記 新潮社 2011)
  • 序 あるいは「新生」にいたる経緯(福永武彦新生日記 新潮社 2012)

翻訳

脚注

  1. 結城正美 「狩猟民を横目で見ながら 言葉の海で舵を取る」『文芸』第50巻第1号(2011年2月1日発行)、河出書房新社、2011年。
  2. 「【Q&A】読者から池澤夏樹への50の質問」P.94 Q26への回答、「プラスかマイナスかわかりませんが、理科を勉強したことはぼくの一部です。嫌でも書くものに出てきます」。 『文芸』第50巻第1号(2011年2月1日発行)、河出書房新社、2011年。
  3. 小池昌代 「かたまりの塩」『文芸』第50巻第1号(2011年2月1日発行)、河出書房新社、2011年。「池澤夏樹は毒が回る前に、詩を呼吸する方法を残しながら、しなやかに小説へと移行した。」
  4. 『インパラは転ばない』所収「憧れのスチュワーデス」参照。言及されている“友人の友人”とはレトリックであり、すなわち池澤本人である
  5. 南里空海 「ぼくはこんな旅をしてきた」『池澤夏樹の旅地図』池澤夏樹、世界文化社、2007年
  6. [1]

外部リンク

テンプレート:芥川賞