H&K VP70
テンプレート:Infobox H&K VP70は、ドイツのH&K社(Heckler & Koch GmbH)が1970年から1989年8月までの間に発売していた、世界初のポリマー製フレームをもった自動拳銃である。弾丸は9x19mmパラベラム弾を使用する。
概要
VP70のコンセプトそのものは、第二次世界大戦の頃に計画されていた「国民拳銃(Volkspistole)」まで遡る。敗色濃厚であったドイツは、少ない資源と労力で生産可能な火器の研究をしていた。国民拳銃はそのプランの1つであり、試作まで完成していたが、結局生産される前にドイツは降伏した。
その後、1960年後半にH&K社は「兵器購入予算をあまり取れない諸国向けの銃器」として、国民拳銃のコンセプトを受け継いだ拳銃の開発を開始し、1968年に最初のデザインができ上がり、1970年に発売を開始した。しかし、まとまった数を購入したのはモロッコなどの極めて少数の国・機関に留まった。また、民間向けにストック(銃床)を廃し、セミオートオンリーとしたVP70Zも販売された。 H&K社は1989年8月に生産を打ち切った。
特徴
国民拳銃のコンセプトを受け継いだVP70は、コストダウンのために先進的なアイデアを数多く盛り込んでいる。VP70は商業的に失敗したが、その影響を強く受けたグロック17は革命的な影響をもたらした。
- 部品点数を極力減らした設計
- VP70はコストダウンのために思い切った部品点数の削減が行われていた。
- 本来ならショートリコイル方式などを採用すべき強力な9x19mmパラベラム弾を使用する拳銃ながら、銃身内のライフル溝の谷径を通常より深く彫り、発射時のガスが弾丸の周囲を通り抜けて若干低圧となるよう調整する事で、構造の単純なストレートブローバック方式を利用する事に成功した。
- 撃発機構には、撃針をトリガーで引ききる変則的なストライカー方式を採用し、その引き味はDAO(ダブルアクションオンリー)ピストルやDAリボルバーに近いため精密な射撃には適さないが、単純な構造から故障を減らしている。この変則ストライカー方式は、後述のように設計当初から本銃をマシンピストルと兼用できる製品とする目的で採用されたという側面が強い。
- また、VP70の変則ストライカー方式を発展させた撃発機構がグロック17に採用されている。
- マシンピストル可変ユニット
- VP70の軍用モデルであるVP70Mには、専用の着脱式銃床が用意されている。この銃床にはホルスターとしての機能があり、専用のバックルを使用してベルトに装着できる。さらに、前端部にあるスライドの後退をカウントする機構により三点射が可能で、マシンピストルとして使用できる(民間モデルのVP70Zではバースト射撃機能は削除されている)。
- 史上初のポリマー(強化プラスチック)製フレーム
- VP70には少コスト化の一環として、拳銃では史上初となるポリマーフレームが採用されている(正確に言えば、同社のH&K P9Sがプラスチックの部品を使っている。プラスチックを使った銃として考えた場合、史上初という意味は異なるとも言える)。
- VP70自体が商業的に失敗作であったため、オーストリアのステアー社が製造したAUG自動小銃や、グロック社のグロック17にポリマーが大胆に採用され、成功するまで忘れ去られていた。
- ポリマー製フレームは比強度で軽合金に勝るが、硬度において金属に及ばないため、金属製のインナーフレームが射出成型時に鋳込まれ、金属部品と接触・摩擦する部分の硬度を補っている。
- 欠点
- 本銃は変則ストライカー方式のために、トリガーを引く距離が長く精密射撃には向かない。
- ショートリコイルを採用しないかわりに深いライフル溝で発射ガスを逃して腔圧を弱めているため、.380ACP弾程度まで威力が落ちてしまっている。
- ストレートブローバック方式であるため、射手が体感する反動はショートリコイル式の拳銃よりも鋭いものとなっている。
- 評価が定まっていない点
- ストックがあるとはいえ、ストレートブローバック方式である事と、2,200発/分相当という高速の連射レートも相まって、3点バースト時のリコイルコントロールは人間には不可能であり、3点バーストはひと塊の大きな反動として体感される。
- 拳銃をベースとする軽量なマシンピストルは、通常の短機関銃のように重量による反動制御が難しいが、逆に反動によって射手の姿勢が変化するより短い時間に、複数弾をバースト射撃すれば近距離の人体大の標的に集弾させ、高い制圧効果が得られるというコンセプトが存在する。
- 1970年代にH&K社が試作したG11で、最初に具体化したこのコンセプトに従って、本銃やベレッタM93R・グロック18といった製品が実際に作られているが、警察や軍の制圧活動で使用されたケースは皆無に近いため、実際の効果は未知数である。
- また、一方では、マシンピストルのような小型短機関銃であるVz 61のように、連射速度を強制的に遅くする事でコントロールを優先するコンセプトを採り、高い評価と使用実績を有する製品も存在している。
登場作品
映画・テレビドラマ
- 『エイリアン2』
- 植民地海兵隊の制式拳銃として登場。
- 『ガンヘッド』
- ヒロイン・ニムが使用。ダットサイトが装着されている。
- 『ザ・グリード』
- T.レイが使用。
- 回想シーンにてレオン・S・ケネディが使用。
漫画・アニメ
- クラエスが使用。
- 『砂の薔薇』(コミック)
- 第2巻「file4 ライナー501(前編)」に登場。
- アニメ版第23、24話で一方通行が使用。
- 『闇のイージス』(コミック)
- 第3巻「仮面の下(Behind The Mask)I-V」に登場。
ゲーム
- 入手したときから3点バーストである。
- 『バイオハザード2』
- レオン・S・ケネディとハンクの初期装備。途中のカスタム化によりストックが装着され、3点バーストが可能になる。
- 『バイオハザード4』
- 隠し武器として登場。こちらは入手したときから3点バーストになっており、「マチルダ」と表記される。
- 『2』に引き続きハンクが使用。
- バイオハザード2と同じく、レオンが使用。武器の名称はゲーム中では「ハンドガン」となっているが、初回特典のダークサイドレポートにはバイオハザード4での名称「マチルダ」と書かれている。
- 2と同じくクレアが使用している。
VP70の遊戯銃
VP70の遊戯銃化は、小林太三の設計によって2度行われている。1度目はMGCの発火式モデルガンであったが、作動が不安定で、当初発売予定であった銃床もジャンク品同然の扱いで少数が販売されたに留まった。2度目は小林自身の立ち上げたメーカータニオ・コバのブローバックガスガンで、こちらは綺麗に3点射が可能となっており、モデルガンのリベンジを果たす形となった。