S・S・ヴァン=ダイン

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テンプレート:Infobox 作家 S・S・ヴァン=ダイン(S. S. Van Dine, 1888年10月15日 - 1939年4月11日)は、アメリカ合衆国推理作家・美術評論家。本名はウィラード・ハンティントン・ライト(Willard Huntington Wright)。名探偵ファイロ・ヴァンス(Philo Vance)を生み出した。日本語表記はS・S・ヴァン・ダインが一般的である。

経歴

1888年アメリカ・ヴァージニア州に生まれる。ハーバード大学卒業後、美術評論家として雑誌や新聞に寄稿していた。しかし生活への不安や第一次大戦中の緊張などから健康を害し、1923年には神経衰弱にかかり長期療養を余儀なくされる。医者から仕事や学問を止められたため彼は書物を読むことができず、交渉の末暇つぶしに軽い小説を読むことを許されたが冒険物や恋愛物を読む気にはなれなかった結果英国ミステリーに行き着いた。彼は2年間で過去75年間2000冊もの推理小説を読破して体系的な研究を重ね、「経験の浅い他の作家がこれだけ成功するのなら自分にもできないことはあるまい」と考えるようになった。これが、自叙伝『半円を描く』で語られているミステリー作家としての出発点である。[1]

ただしこれは虚偽で、原稿が売れず、自棄になって麻薬中毒となり、借金で首が回らなくなったため、ミステリーに手を染めたという説もある(ジョン・ラフリー『別名S・S・ヴァン・ダイン: ファイロ・ヴァンスを創造した男』,1992)[2]

退院後、ミステリーを書き始め、1926年に第一作『ベンスン殺人事件』を上梓、たちまち評判となる。版元はスクリブナー社で、担当編集者はF・スコット・フィッツジェラルドアーネスト・ヘミングウェイの編集者としても知られるマクスウェル・パーキンスである。その後、死去するまでに12作の長編推理小説といくつかの犯罪実話を執筆。さらにアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』を酷評するなどの評論や、『世界短編傑作集』序文の推理小説を書く上での鉄則を記したいわゆるヴァン・ダインの二十則などのアンソロジー等も精力的に発表した。

12作の長編全てに、名探偵ファイロ・ヴァンスが活躍する。ヴァン=ダインは面白い長編小説を書くのは、一作家6作が限度だろうとしていた。その言葉通り、12作のうち前期6作、とくに『グリーン家殺人事件』や『僧正殺人事件』の評価は高い[3]。対照的に、後期6作の評価は芳しいものではない。特に11作目の『グレイシー・アレン殺人事件』は、映画製作を前提としてヒロインをフィーチャーして執筆されたもので、作風とそぐわないキャラクターが登場する。また、最終作の『ウインター殺人事件』は、完成稿に取り掛かる前に作者が亡くなったため、作風である衒学趣味的な言説がほとんど見られない作品となっている。

自国の本格ミステリー小説が低迷していたアメリカに彗星の如く現れ、以後のミステリーに多くの影響を与えた。以後のアメリカ本格派を代表するエラリー・クイーンも、彼の影響を公言している。現在は本国では半ば忘れられかけた存在だが、日本では依然人気が高く、全作品が文庫化されて版を重ねている。

著作

ファイロ・ヴァンスもの長編

  • ベンスン殺人事件 (The Benson Murder Case, 1926年)
  • カナリヤ殺人事件 (The Canary Murder Case, 1927年)
    • 瀬沼茂樹訳 新樹社 1950 のち角川文庫 
    • 井上勇訳 東京創元社 1957 のち文庫 
  • グリーン家殺人事件 (The Greene Murder Case, 1928年)
    • 延原謙訳 新樹社 1950 のち新潮文庫 
    • 井上勇訳 創元推理文庫、1959 
    • 坂下昇訳 講談社文庫、1975 
  • 僧正殺人事件(The Bishop Murder Case, 1929年)
    • 武田晃訳 新樹社 1950
    • 井上勇訳 東京創元社 1956 のち文庫 
    • 中村能三訳 新潮文庫、1959 
    • 宇野利泰訳 世界推理名作全集 第7 中央公論社 1960 のち文庫、嶋中文庫  
    • 鈴木幸夫訳 角川文庫、1961 のち旺文社文庫 
    • 平井呈一訳 世界推理小説大系 7 講談社 1972 のち文庫 
    • 日暮雅通訳 集英社文庫、1999 のち創元推理文庫 
  • カブト虫殺人事件 (The Scarab Murder Case, 1930年)
    • 甲虫殺人事件 森下雨村,山村不二訳 新潮社、1931
    • 井上勇訳 東京創元社 1959 のち文庫 
    • 甲虫殺人事件 能島武文訳 新潮文庫、1960 (本訳書は甲虫を「こうちゅう」と読ませる)
  • ケンネル殺人事件 (The Kennel Murder Case, 1931年)
    • 延原謙訳 早川書房 1954
    • 井上勇訳 東京創元社 1958 のち文庫 
  • ドラゴン殺人事件 (The Dragon Murder Case, 1933年)
    • 杉公平訳 芸術社 1956
    • 宇野利泰訳 早川書房 1956
    • 井上勇訳 創元推理文庫、1960 
  • カシノ殺人事件 (The Casino Murder Case, 1934年)
    • 井上勇訳 創元推理文庫、1960 
  • ガーデン殺人事件 (The Garden Murder Case, 1935年)
    • 井上勇訳 創元推理文庫、1959 
  • 誘拐殺人事件 (The Kidnap Murder Case, 1936年)
    • 杉公平訳 芸術社 1956
    • 井上勇訳 創元推理文庫、1961 
  • グレイシー・アレン殺人事件 (The Gracie Allen Murder Case, 1938年)
    • 田中清太郎訳 早川書房 1957
    • 井上勇訳 創元推理文庫、1961 
  • ウインター殺人事件 (The Winter Murder Case, 1939年)
    • 宇野利泰訳 早川書房 1958
    • 井上勇訳 創元推理文庫、1962

原題は第11作を除き、全作が「The + 6文字の英単語 + Murder Case」で統一されている。

短編

  • ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿 (日本で独自に編纂された短編集) 論創社、 2007

クラブトリー博士もの

  • The Clyde Mystery(Illustrated Detective Magazine 1932.7掲載の脚本)
  • The Symphony Murder Mystery (1932 映画の脚本)

リレー長編

  • 大統領のミステリ (The President's Mystery Plot, 1935年)

フランクリン・ルーズベルトの提出したプロットをもとに6人の作家が書き継ぐ(のちにE・S・ガードナーが改訂)。

評論

  • 推理小説二十則 1928

ヴァン・ダインの二十則として日本でも有名。

脚注

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外部リンク

  1. 『ベンスン殺人事件』(創元推理文庫、1959)における中島河太郎の解説より。
  2. 中島河太郎『江戸川乱歩賞全集第一巻 探偵小説辞典』(講談社文庫、1998)における権田萬治の解説より。
  3. 1975年週刊読売』の海外ミステリー・ベストテンで『僧正殺人事件』と『グリーン家殺人事件』はそれぞれ8位と9位、1985年週刊文春』の同ベストテンで『僧正殺人事件』は9位に挙げられていた。