絶縁ゲートバイポーラトランジスタ

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絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(ぜつえんゲートバイポーラトランジスタ、Insulated Gate Bipolar Transistor、IGBT)は半導体素子のひとつで、MOSFETをゲート部に組み込んだバイポーラトランジスタである。電力制御の用途で使用される。

特徴

電圧制御型のMOS-FET (Metal Oxide Semiconductor - Field Effect Transister) の欠点である高耐圧に伴って高くなるオン抵抗による発熱と、バイポーラトランジスタ (Bipolar Junction Transistor, BJT) の低いスイッチング速度という欠点をそれぞれ補うように、入力段にMOS-FETを、出力段にバイポーラトランジスタを1つの半導体素子上に構成したものである。ゲート・エミッタ間の電圧で駆動され、入力信号によってオン・オフができる自己消弧形であるので、大電力の高速スイッチングが可能な半導体素子である。

通常3相インバータを構成する場合、ゲート信号(トランジスタの場合はベース信号)用の独立した電源が4組必要だが、小容量IGBT/MOS-FETではゲート電流が非常に小さい事からコンデンサに充電した電荷で駆動できる(ブートストラップ回路)。但しコンデンサが不良になるとゲート信号が出力できなくなる欠点があるため、以下に示すIPM駆動の小型インバータで採用されている程度である。

構造

ファイル:IGBT cross section.svg
プレーナゲート型IGBTの断面構造
ファイル:IGBT structure chart 1.PNG
IGBTの構造模式図
1.酸化膜 赤い部分がBJTで黄色い部分がMOS-FETをそれぞれ構成している。
ファイル:IGBT structure chart 2.PNG
IGBT等価回路
1.MOS-FET 2.BJT(寄生サイリスタも描いている)
ファイル:IGBT 3300V 1200A Mitsubishi.jpg
3300V/1200A_IGBTモジュール(三菱電機)‎

Nチャネル縦型MOS-FETのドレイン側にPコレクタを追加した構造である。Pコレクタからの正孔の注入により、Nベース層の導電率変調が起こり、抵抗が低下する。このため、MOS-FETと比較すると高電圧の用途に適している。その一方で、注入したキャリアの消滅に時間がかかるため、ターンオフ時間が長くなる。

パンチスルー (Punch Through) 形

1980年代から製造されているものである。オフ時に空乏層がコレクタ側に接触しているものであり、エピタキシャルウェハーを使用しコレクタ側からキャリアを高濃度注入しライフタイムコントロールを行う設計となっている。

特徴として、次の点が挙げられる。

  • エピタキシャルウエハーを使用するためコストが高い。
  • ライフタイムコントロールのため、高温でスイッチング損失が増加する。
  • 高温でオン電圧が低下(電気抵抗が低下)し、並列使用時に特定の素子に電流が集中し破損の原因となることもある。
  • 最近では、ウエハー厚を薄くしコレクタ側の注入を抑えることにより、上記の欠点を克服したものが開発されている。

ノンパンチスルー (Non Punch Through) 形

ウエハーを薄く加工し取り扱う技術の進歩により、1990年代中ごろから製造されているものである。オフ時に空乏層がコレクタ側に接触しないものであり、フローティングゾーン (Floating Zone) ウエハーを使用しコレクタ側のキャリアの注入濃度を下げ輸送効率を上げる設計となっている。

特徴として以下の点が挙げられる。

  • フローティングゾーンウエハーを使用するためコストが低く、結晶欠陥が少なく信頼性が高い。
  • 高温でオン電圧が上昇(電気抵抗が上昇)し、電流分布が均一となり並列使用に有利である。

2000年代より、トレンチゲート構造やコレクタ側にフィールドストップ層を形成した、よりオン電圧が低くスイッチング損失の少ないものも製造されるようになった。

逆阻止絶縁ゲートバイポーラトランジスタ

結晶欠陥密度が高いダイシング側面でのキャリア発生を抑えることによって逆耐圧特性をもたせたものである。

双方向スイッチングを構成するときに、逆耐圧をもたせるためのダイオードが不要になる。素子数の低減によりコストダウンと小型化・軽量化が可能となる。また、オン電圧の半減が期待できる。交流-交流の直接変換用素子として開発された。

  • メサ型
  • 分離阻止型

用途

IPM

21世紀になってからは、IGBTを中心に制御信号増幅回路や電流・電圧・温度といった保護回路、還流用ダイオードなどが1つのパッケージに収められたIPM (Intelligent Power Module) と呼ばれる電子部品も登場している。定番の電力制御回路がまとめられたことによる利便性の向上だけでなく、素子間の配線短縮によるインピーダンスの低下を図れるため雑音低減も期待でき、装置の小型化に寄与し信頼性も高まる。従来のモジュール形状のほかDIPやSIPパッケージなど小型の物も登場し洗濯機、冷蔵庫、空調機器のモータ駆動用などの他、小型汎用インバータなどで使われる。制御をインバータ化することで周波数や電圧を問わず共通仕様のモータが使用できるため生産コスト低減に寄与している。

関連項目

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