DNAコンピュータ

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DNAコンピュータ(ディーエヌエーコンピュータ)とは、デオキシリボ核酸(DNA)の4種類の塩基を演算素子にして計算をするコンピュータ。非ノイマン型方式。

概要

DNAを構成する塩基分子結合を利用した将来実現が期待されるコンピュータである。アデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が対をなして結合する特性と、DNAを操作する酵素(様々な制限酵素や、DNAリガーゼDNAポリメラーゼ)を利用する。解答候補となる多数のDNAが同時に生成するという意味で一種の超並列マシンであり、NP困難問題など今までのコンピュータの不得意だった分野の問題に対応できるといわれており、解くべき問題の種類によってはスーパーコンピュータの1億倍もの計算スピードの実現が予想される[1]</sup>。加えて、人間の体内に組み込みチューリングマシンとして機能させるなど、従来の半導体素子では実現困難な細胞内で働く超微小治療装置への応用も期待されている。

DNAコンピュータの原理を最初に思いついたのは、南カリフォルニア大学のコンピューター科学者で、RSA暗号を開発したレオナルド・エーデルマンである。彼はジェームズ・ワトソンの『遺伝子の分子生物学』を読んでいてDNAコンピュータの類似点に気付いたと言われている。エーデルマンは1994年に初めてDNA鎖を用いて、数学の古典的な問題である「ハミルトン経路問題」を解いた。ハミルトン経路問題は一筆書きの一種であり、グラフ上のすべての節点(ノード)を1回ずつ通るような経路(パス)が存在するかどうか、存在する場合は具体的な解を示せ、という問題である。エーデルマンの実験ではノード7、パス14という規模だった。問題を21本 (7+14) のDNA鎖に翻訳し、解を示した。

現在では解を取り出すアウトプットに難がある。たとえば、エーデルマンの実験では演算自体は数秒で終了したが、解を取り出すのに2日間を要している。これは以下のような操作を手動で進めたためだった。まず、開始ノードで始まり、終了ノードで終わるDNA鎖をPCR (polymerase chain reaction) 法で増幅する。次に、解として適切な長さを持つDNA鎖(エーデルマン実験では6)を電気泳動で分離する。最後に、全ての点を経由しているDNA鎖を鉄粉と結合した特殊な相補DNA鎖と混合し、ノードの数だけ精製を繰り返した。つまり、DNAコンピュータは演算は早いのだが、問題をDNA鎖の形に翻訳(入力)し、解をデジタルデータの形に変換する(出力)工程に問題がある。

また、複雑な問題をやらせようとすると、必要なDNAの量が指数関数的に増加するという問題もある。

その後、電子コンピュータとDNA反応装置を組み合わせてプログラミング可能にした汎用型コンピュータも試作され、2002年には東京大学の陶山らとオリンパスが実用タイプの装置を共同で開発した。またイスラエル・ワイツマン研究所のシャピロらはDNAや酵素の分子だけからなる分子コンピュータを現在開発中で、医学的応用を目指している。

本文注釈

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参考文献

  • L.Adleman,“Molecular Computation of Solutions to Combinatorial Problems,”Science,vol.266,pp.1021―1024,Nov.11,1994.

関連項目

  • *M. Adleman (1994-11-11). "Molecular Computation Of Solutions To Combinatorial Problems". Science (journal) 266 (11): 1021-1024. には、当時の最速のスーパーコンピュータには、1秒間に1012回の演算が可能であること、彼のDNAコンピュータは原理的には毎秒1020回の演算が可能であることが記述されている。つまり、当時のスーパーコンピュータの1億倍高速ということになる。