連接台車
連接台車(れんせつだいしゃ)とは、鉄道車両において車体の連接部に設置して2つの車体を支える台車を言う。欧米を中心に採用されているが、ボギー台車を用いた従来型の車両に比べて普及は限られており、日本でも一部で使用されているのみである。
定義
連節車を実現する一手法であり、2つの車体の間に設けられた鉄道車両の台車を指す。日本工業規格(JIS)では、「2個の車体の一端を1個の台車で支持し連結している車両」を「連接車」と規定している。このため話し言葉では区別できないが「連接車」と「連節車」の表記を区別している。連節車は運用中に分離可能な連結器を使わずに、半永久的、直接的に車体同士を関節構造で接続した列車のこと全般である。したがって連接車は連節車の一部と言えるが、連接台車を採用している列車を連接車、連接台車を用いない列車を連節車と表記する場合が多い。近年はLRVを中心に台車を持たない「浮き車体」と台車付き車体を連節したり、1台車のみを持つ車体を連節している。これらは車体間接続に全く台車を介在させない連節車である。もちろん連接台車を用いる列車を連節車と表記しても良い。関節車と称している事例も存在する[1]。
特徴
長所
- 2車体が連結器を介さず、台車によって直接つながるため、横方向の複合振動が起きない。ボギー車に対して車体間ダンパやヨーダンパを省略できる場合が多い。
- 台車の総数が減らせるので、軽量化に貢献する(6両編成の場合、ボギー台車なら12個の台車になるのに対して、連接台車なら7個で済む)後述の通り台車各部の強度を引き上げる必要性も生じるため全体を通じたバランスの問題ではあるが、鉄道車両の台車は1台で数トンの重量があるため、その数が減らせる事は全体の軽量化に通じる場合が多い。
- 連接部は車体に前後方向のオーバーハングが無く、曲線通過時に外側へ車体のはみ出しが少ない。[2](内側は台車間距離に依存するため"連接車である"ことは影響しない)
- 車端に台車があるため、室内へ騒音を遮音するデッキ部を減少でき、スペース効率が良くなる。
- 台車と車体のマウント部を車体間の隙間を利用して高い位置に設定することができ、車体のロールセンタを上げ、ロールを少なくすることで乗り心地を向上できる。
- 騒音源となりやすい台車が車体端にあるため、静粛性が向上する[3]。
短所
- 個々の車両を必要に応じて増結・解結する事が困難で、編成の自由度が下がり、保守にも手間がかかる。
- ボギー台車編成に対しオーバーハングのなくなる分、車体長は短くなる(台車間距離を延ばすと上述の通り曲線での内側への偏位が増大し車両限界に抵触する)。同一輸送力とするためには、編成両数を増やす必要がある。
- 車両の重量を負担する台車と車軸が少ないため、通常のボギー台車に比べて台車枠、ばね、軸受、車軸、車輪の強度を上げなければならない。また、軸重も増大するので軌道への負荷が大きくなる。従って重量を抑えるためにも、ボギー式車両に比べ1車体あたりの全長は短くなる場合が多く、輸送量が低下する。
- 動力分散型車両では、同一両数では車軸数が少ない分、可能な最大の編成出力が制限される。
採用例
曲線通過時に外側へ車体のはみ出しが少ないため、急曲線が多い路面電車などで採用が多い。 テンプレート:出典の明記 フランスではフランス国鉄の高速鉄道であるTGVの客車間に全面的に採用されている。ただし世界的に見ても採用しているのはTGVなどを製造するアルストム社系の車両に限られ、特に高速性能に有利とは見なされていない。日本では多層建て列車のように途中で編成を併結・分割させることや、輸送力に応じて適時車両を増結する事が多かったため、増解結の面で融通が利かなくなる事から採用例は少ないが、昨今の電車・気動車は、新幹線を典型として特急・急行などの優等列車では固定編成で運用される場合が多く、これが連接式を採用しない決定的な理由とも言えない。しかし、日本の鉄道では欧米諸国に比べて最大軸重が小さいので[4]、連接台車の採用には明らかに不向きである。
欧州では、1936年に登場したイタリア国鉄ETR200型特急電車が本格的な高速電車として初の連接台車を採用し、200km/時以上の高速でも安定した走行性能を発揮した。また、この電車は、ばね上装荷の電動機を持つ、いわゆるカルダン駆動を採用した点でも画期的であり、以後セッテベッロとして名高いETR300型等に発展し、これも連接台車を採用している。このほか、スペイン国鉄には1軸連接台車を採用したタルゴ (Talgo)と呼ばれる高速運転用の低床式客車が1950年から運転されている。その他、IC3、423形、タレントのように、優等、通勤、ローカル向けと用途を問わず連節構造が採用される例が、他の地域に比較すると多いといえる。
一方、アメリカ合衆国では1941年に登場したシカゴ北海岸線のエレクトロ・ライナーが連接台車とWN駆動による高性能高速電車として名高い。また、現代アメリカの鉄道の象徴ともいえるダブルスタックカーも、連節構造を採用した車両が大半を占めている。
日本における最初の採用例は、1934年の京阪電気鉄道60型電車とされている。その後、西日本鉄道の500形、福井鉄道等で採用された。江ノ島電鉄の全車両や小田急電鉄の特急車の一部、東急世田谷線では現在でも連接台車が採用されている。
小田急電鉄では、ロマンスカーと称する特急形車両において1957年の3000形以降、連接台車を多く採用した。これは、当時の小田急電鉄の関係者が、スペインのタルゴの連接構造へ強い関心を持ったからだとされている[5]。3000形電車「SE」では、モノコック構造を採用する等、その他に車体の軽量化に取り組んだ事もあるが、従来の車両に比べて重量を25%削る事が出来たと言う。だが、その小田急でも後に分割・併結を行う必要性等から、30000形電車「EXE」のように普通のボギー台車を採用した特急形車両を登場させている。
路面電車では札幌市電でのA800形・A810形・A820形・A830形、名古屋鉄道岐阜市内線のモ770形、名古屋市電3000形などでの採用例がある。江ノ島電鉄300形や鹿児島市電での700形(元大阪市電3001形)の701AB・703ABのように元々単行車であった車両を連接車に改造した例も存在する(702AB・704ABの車体は新製)。近年はバリアフリーの進展に伴い「連節車」は増えているが「連接車」ではない。「コンビーノ」をベースとした広島電鉄5100形電車のような「フローティング構造」を持つ車輌や、富山ライトレール等に採用された単車体に単台車という構成の超低床電車が増えている。
国鉄では振り子式車両の試験車として製作された591系試験電車と、ガスタービンエンジンを採用したキハ391系試験気動車が連接構造を採用していたが、前者は後に通常のボギー車に改造されている。
以降、国鉄→JRでは本格採用の例は無かったが、1992年に新幹線952形・953形電車、2002年に東日本旅客鉄道(JR東日本)が開発した試作通勤形電車のE993系「ACトレイン」は車輪に電動機を直結した構造としたDDM方式と併せて連接構造を採用した。2007年より「ACトレイン」の成果を受けたE331系量産先行車が京葉線で営業運転を兼ねた試験に供されている。ただ、試作車的意味合いが強い車輌であり1編成しか存在しない事と、不具合の発生などにより運用が間欠的で、今後の量産の可能性は未知数である。
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特急用電車で連接構造を採用した小田急ロマンスカー50000形