賈逵 (魏)

賈 逵（か き、174年 - 228年）は、後漢末期から三国時代の政治家・武将。魏に仕えた。本名は衢、字は梁道。子は賈充・賈混、孫娘は賈南風（賈充の娘）。

生涯

魏建国前

河東郡襄陵（山西省臨汾市襄汾県）の人。賈逵の一族は名家であったが、幼少時に両親が死没したため、貧しい暮らしを余儀なくされたという。しかし賈逵はそのような中で兵法などの勉学に励み、祖父の賈習からも、「大人になれば将軍に出世する」と評価されたという。

郡の役人となり、絳邑の長となる。河東郡において、袁紹の部下の郭援が乱を起こすと、周囲の県が次々と降伏する中、賈逵のみが城を堅持した。郭援は匈奴の援軍を呼び賈逵を激しく攻め立て、落城は免れない状況となった。絳の長老達は郭援に賈逵の助命を嘆願した。賈逵の名声が高いことを知った郭援は賈逵を部下にしようとしたが、賈逵は郭援を逆賊と罵った。激怒した郭援は賈逵を殺害しようとしたが、絳の長老達の猛抗議に遭い、また配下からもたしなめられたため、賈逵は命を長らえた（『魏略』によると、祝公道という人物に牢から助け出されたという）。賈逵は郡に使者をおくり、要害である皮氏の地の占拠を勧めると共に、郭援の参謀の祝奥を騙して郭援の軍を遅延させた。河東郡はまもなく郭援の反乱を鎮圧することに成功した。

賈逵の働きは孫資によって世間に伝えられ（注に引く『孫資別伝』）、茂才となり、澠地の令となった。高幹が反乱を起こすと、張琰という人物がこれに呼応しようとした。賈逵は一計を用いて張琰の兵力を騙し取り、澠地の反乱者を一掃し、城壁を修理して張琰を破った。そののち、祖父の喪により官を去った。

後漢の実権を握る司徒曹操の招きを受け、司空の掾（属官）となり、議郎となって司隷の軍事を担った。馬超征伐のとき、賈逵は曹操により弘農太守の代理に任命され、曹操と対面した。曹操は賈逵を気に入り、太守が皆賈逵のようであれば心配ごとはない、とまで言った。賈逵は屯田都尉と職務をめぐっていざこざを起こし免職となったが、曹操の寵は衰えることはなく、丞相主簿にとりたてている（楊修伝に引用された『魏略』によると、王淩、楊修と同僚であったという。あるとき曹操の不興を買って、三人は一時免職となりかけたことがあるという（『魏略』）。

劉備を征伐したとき随行し、軍務において優秀さを発揮したため諌議大夫に昇進し、夏侯尚と共に軍事面での計略を掌った。曹操が洛陽で死去すると、その葬儀責任者を務め、長安からかけつけて印璽のありかを尋ねた曹彰を厳しく退け、棺を太子である曹丕のいる鄴に奉じた。『魏略』によると、曹操の喪を伏せようとする意見を退け、死を発表するよう主張してそれを実行したとあり、また葬儀の後、禁令に反して青州兵が勝手に帰国したことを咎める意見が出たが、彼等を討伐せず、逆に恩寵を施すべきとも主張している。

建国後

曹丕が魏王になると、賈逵は鄴の令となり、やがて魏郡の太守に昇進した。曹丕が遠征した際は丞相主簿祭酒に任命され随行し、厳しく軍律を履行し、譙についたときに豫州刺史に任命された。賈逵は豫州の治政が緩んでいたのを見て、官吏の綱紀粛正につとめ、他の州治の手本となるほどの治績を挙げた。関内侯に封じられた。

豫州は呉と国境を接していたため、軍備の整備と防備の充実に励んだ。中でも特筆すべきは二百里にも及ぶ大運河を築き上げたことであり、この大運河は『賈侯渠』と呼ばれている。呉との軍役にもたびたび参加し、呂範を破るなど功績を挙げ、建威将軍、陽里亭侯となった。孫権の東西にのびた防備ラインを打ち破るため、長江までの直通の通路を整備することを主張した。文帝（曹丕）はこれを賞した。

隣の揚州の都督で征東大将軍の曹休とは仲が悪く、文帝が賈逵に節を与えようとき、曹休は賈逵の性格に問題があると言いそれを撤回させている。

曹叡（明帝）の時代となった228年に呉に侵攻したとき、呉領深く進攻した曹休が窮地に陥った。賈逵はその援軍として赴き、呉軍に大敗した曹休の窮地を救った。『魏略』においては、曹休は賈逵に敗戦の責任転嫁をするような上奏をしたため、賈逵はやむを得ず弁明の上奏をしたという。また、『魏書』においては、曹休は救援が遅いと賈逵をなじり、罪に陥れようとしたが、賈逵は黙ったままだったという。

その後、病気にかかって危篤に陥り急死した。享年は55。粛侯と諡された。12歳で爵位を相続した子の賈充は西晋時代に司馬炎の重臣として活躍した。

三国志演義に於ける賈逵

小説『三国志演義』では、呉の周魴の髪を切った偽りの投降を魏軍で唯一見抜き進言したものの、曹休の怒りを買い後軍を任される。しかし曹休が呉軍に大敗すると読んでいたため曹休の窮地を救い、曹休から感謝されている。