血液型
血液型(けつえきがた)とは、血液内にある血球の持つ抗原の違いをもとに決めた血液の分類のことである。
目次
概要
抗原は、赤血球・血小板・白血球・血漿などに存在し数百種類が知られており、その組み合せによって決まる血液型は膨大な数(数兆通り以上という説もあり)になる。世界を捜しても、一卵性双生児でもない限り自分と完全に同じ血液型をしている人はいないとすら言われる。この性質を利用して畜産、特にサラブレッド生産の分野において血液型が親子関係の証明に使われていた(現在は直接DNAを鑑定する手法が用いられる)。
輸血をする場合、ABO式など一部の分類は自然抗体が形成され、型違いの血液を混ぜると凝集や溶血が起きるため、型合わせする必要がある。また、血液型によって、凝集や溶血反応はそれぞれである。反応が一番激しいとされているのは、jr(a+)型である。
主な分類方法
ABO式血液型
赤血球による血液型の分類法の一種。1900年から1910年ごろにかけて発見された分類法で、最初の血液型分類である。
- A型は赤血球表面にA抗原を発現する遺伝子(= A型転移酵素をコードする遺伝子)を持っており、血漿中にB抗原に対する抗体が形成される。
- B型は赤血球表面にB抗原を発現する遺伝子(= B型転移酵素をコードする遺伝子)を持っており、血漿中にA抗原に対する抗体が形成される。
- O型はどちらの遺伝子も持っておらず、赤血球表面にA/B抗原は無い。血漿中にA抗原、B抗原それぞれに対する抗体が形成される。
- AB型は赤血球表面に両方の抗原(A抗原およびB抗原)を発現する遺伝子を持っており、血漿中の抗体形成はない。[1]
Rh式血液型
赤血球膜の抗原による分類法。1940年ごろから明らかにされた。現在は40種以上の抗原が発見されている。その中でもD抗原の有無についての情報を陽性・陰性として表示することが最も多い。すなわち、Rh+(D抗原陽性)とRh−(D抗原陰性)である。
Rh−型の人にRh+型の血液を輸血すると、血液の凝集、溶血等のショックを起こす可能性がある。Rh−型の女性がRh+型の胎児を妊娠することが2回以上になると病気・流産の原因となることがある。日本人の99.5%はRh+である[2]。
ヒト白血球型抗原
白血球の抗原の分類によるもの。現在では血液に限らず、組織の適合性に関わる情報として用いられるようになっているものである。ヒトの遺伝子上で白血球の抗原に関わる部位は、主要なものだけでもA,B,C,DP,DQ,DRの6箇所があり、それらの部位のタイプの組み合わせは数万通り以上あると言われており、結果として、特に血縁関係でもない限り人間同士でHLA型が完全に一致することは極めて稀である(主要組織適合遺伝子複合体も参照のこと)。
ダフィー(Duffy)式血液型
赤血球表面の抗原(糖鎖)の多様性による分類法。Fy(a)とFy(b)の2つの抗原の有無によって、Fy(a+b+), Fy(a+b-), Fy(a-b+), Fy(a-b-)の4つの血液型に分けられる。三日熱マラリア原虫はヒトの体内で赤血球表面にあるFy(a)とFy(b)の2つの抗原に結合して赤血球に侵入、増殖する。Fy(a)とFy(b)のどちらの抗原も持たないFy(a-b-)型は三日熱マラリアに抵抗性を示す。Fy(a-b-)型はアフリカのサブサハラの三日熱マラリア流行地に遺伝的起源を持つ人に非常に多いのに対して、それ以外の地域に起源を持つ人にはほとんど存在しない。なお、熱帯熱マラリア原虫は三日熱マラリア原虫とは赤血球への侵入様式が異なるためダフィー式血液型は熱帯熱マラリア抵抗性とは関係がない。
その他の分類方法
MN式、P式など約300種類が発見されている。分類法としてはそれほど一般的ではない。遺伝関係の確認や警察の鑑識においてなど、可能な限り詳細な情報が必要な時に用いられる。
高頻度抗原を欠く稀な血液型
テンプレート:節stub 適合率が約1%以下の型。さらにⅠ群(適合率0.01%以下)、Ⅱ群(それ以外)に分けられる。
また、一人の人間が複数の血液型を持っている場合は、「血液型キメラ」と呼ばれる(例:A型99% AB型0.1%等)。この血液型は70万人に1人程度といわれている[3]。
Ⅰ群
- Bombay(Oh)
- para-Bombay
- -D-(バーディーバー)
- K0(ケーゼロ)
- p(スモールピー)
- Rh null
- I(-)
Ⅱ群
などがある。
適合性
赤血球
受血者の血液型 | ドナーの赤血球は以下の型のいずれかでなければならない: | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
O− | O− | |||||||
O+ | O− | O+ | ||||||
A− | O− | A− | ||||||
A+ | O− | O+ | A− | A+ | ||||
B− | O− | B− | ||||||
B+ | O− | O+ | B− | B+ | ||||
AB− | O− | A− | B− | AB− | ||||
AB+ | O− | O+ | A− | A+ | B− | B+ | AB− | AB+ |
血漿
血漿の適合性に関しては、赤血球の適合性チャートとは反対向きの関係があり、AB型からA,B,O型に与えることができ、A型B型からO型に与えることができる。O型はどこへも与えることができない。
受け手の血液型 | ドナーの血漿は以下の型でなければならない: | |||
---|---|---|---|---|
AB | AB | |||
A | A or AB | |||
B | B or AB | |||
O | O, A, B or AB |
これらの性質を利用し、緊急時の危機的出血で血液型を確定できない場合には、交差適合試験抜きでO型の濃厚赤血球、AB型の新鮮凍結血漿や濃厚血小板を使う。 しかし輸血前には必ず患者検体を確保し、後追いで検査を進める。また、輸血経過を記録し、使用済み製剤も回収して保存する。同意書は輸血後に確保してもいい。
血液型の発見と歴史
- 1900年、オーストリアの医学者カール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner, 1868-1943)によって初めて血液型が発見され、翌年の1901年に論文発表された[6]。型名は「A型、B型、C型」とされ、自身の血液型をA型と名付けた。
- 1902年、アルフレッド・フォン・デカステロとアドリアノ・シュテュルリによって第4の型が追加発表された[7]。
- 1910年、エミール・フライヘル・フォン・デュンゲルンとルードビッヒ・ヒルシュフェルドにより、第4の型にAB型という名称が与えられ、「C型」とされていた型の名称はO型に変更された[8]。
- 1937年、ラントシュタイナーおよびアレクサンダー・ヴィナーが、アカゲザルを用いた実験によってD抗原を発見、それを1940年に論文発表した[9] 。アカゲザルは英語での通称がRhesus Monkeyであるため「Rh因子」と呼ばれるようになった。
血液型と免疫
1980年代は血液型(抗原)によって発病(感染)しやすい病気としにくい病気があるとの仮説を唱えていた者が一部ではいたが、ヒトゲノム計画が終わりつつあった2000年に科学雑誌『Nature』の総説として掲載された情報によると「血液型と胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が確認できるが、血液型と疾患の相関について再現性よく示されたものは無い」とのことであった。ただし、最近になって膵臓がんはB型はO型に比べると1.72倍リスクが高いなど、ABO式血液型で病気のリスクが変わるという報告もある[10]。
血液型性格分類
テンプレート:Main ABO式血液型に基づいた性格分類説や相性占いの類は、日本を中心とした東アジアで一定の普及現象や社会的影響力が見られるが、医学的・科学的観点からは有効性が実証されたものではなく、また世界的には概ね否定ないし無視されている概念であるが、日本においても社会心理学者の縄田健悟が、血液型と性格の関連性に科学的根拠はないとする統計学的な解析結果を発表[11][12]していることにより、今後の動向が注目される。
出典 脚注
関連項目
テンプレート:Asbox- ↑ 小川聡 総編集 『内科学書』第7版-vol6、中山書店、2009年、p49
- ↑ 【日本赤十字社】寄付・献血・ボランティア|血液型
- ↑ 2009年4月29日放送 世界仰天ニュース
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ BLOOD TYPES and COMPATIBILITY BLOODBOOK.COM
- ↑ Dr. Karl Landsteiner, Ueber Agglutinationserscheinungen normalen menschlichen Blutes, Wiener klinische Wochenschrift, 14 Jg., Nr.46 (14. November 1901), S.1132-1134.
- ↑ Dr. Alfred v. Decastello und Dr. Adriano Sturli, Ueber die Isoagglutinine im Serum gesunder und kranker Menschen, Münchener medicinische Wochenschrift, 49 Jg., No.26 (1. Juli 1902), S.1090-1095.
- ↑ Prof. E. v. Dungern und Dr. L. Hirschfeld, Ueber Vererbung gruppenspezifischer Strukturen des Blutes, II, Zeitschrift für Immunitätsforschung und experimentelle Therapie, Bd.6, H.1 (22. Juni 1910), S.284-292.
- ↑ Landsteiner K, Wiener AS, An agglutinable factor in human blood recognized by immune sera for rhesus blood., Proc Soc Exp Biol Med 1940;43:223-224.
- ↑ 永田宏(2013)『血液型で分かる なりやすい病気 なりにくい病気 がん、胃潰瘍、脳梗塞から感染症まで』講談社ブルーバックス、に紹介されている論文の例
- Brian M. Wolpin et al. (2009). ABO Blood Group and the Risk of Pancreatic Cancer. Journal of the National Cancer Institute, 101(6), 424-431.
- ↑ 科学 血液型と性格「関連なし」…日米1万人超を調査読売新聞(YOMIURI ONLONE) 2014年7月19日
- ↑ 科学 血液型と性格「関連なし」…日米1万人超を調査読売新聞(YOMIURI ONLONE) 2014年7月19日(リンク切れ対応)