ガ
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ガ(蛾)とは、節足動物門・昆虫綱・チョウ目(鱗翅目、ガ目とも)に分類される昆虫のうち、チョウ(具体的にはアゲハチョウ上科、セセリチョウ上科、シャクガモドキ上科)を除いた分類群の総称。
日本にはチョウ目の昆虫が3,500種類知られているが、「チョウ」と呼ばれるものは250種類にすぎず、他はすべて「ガ」である。世界全体で見ると、ガの種類数はチョウの20 - 30倍ともいわれている。チョウとガに明確な区別はない(チョウ目参照)。
特徴
- 成長段階は、卵 - 幼虫 - 蛹 - 成虫という完全変態をおこなう。幼虫は外見や行動によってイモムシ、ケムシ、シャクトリムシ、ミノムシなどと呼ばれる。
- 幼虫は植物食のものが多いが、様々な食性を持つものがある。例えば主にヒグラシなどセミの仲間に寄生するセミヤドリガ、コナラやクヌギに穿孔し樹液に集まる虫を捕食するボクトウガ、普段は植物食だが機会的にイモムシなどを捕食するオオタバコガ、ミツバチの巣を専食するハチノスツヅリガ(Honeycomb Moth、Galleria mellonella)、チョコレートなども含む乾燥子実類を食うノシメマダラメイガ、乾燥羽毛・獣毛を食うイガなどがいる。変わった食性の物としては陸貝を専食する Hyposmocoma molluscivoraが知られている。
- 蛹になる前に糸を吐いたりして繭(マユ)を作る種類が多く、カイコガなどはその糸が人間に利用される。 ただしスズメガ科の多くの種類など、繭を作らずに土中でさなぎになるものもいる。
- 成虫の4枚の翅は鱗粉や毛でおおわれる。ただしオオスカシバ(スズメガ科・羽化後に鱗粉を落としてしまう)などの例外がいる。
- 成虫の触角は先端がふくらまず、糸状や羽毛状の種類が多い。
- 成虫の口はストロー状に細長く伸びており口吻と呼ばれる。花の蜜や樹液、果汁など水分を吸うのに適している。ただしカイコガやミノガなどの成虫は口が退化していて、幼虫時代に蓄えた栄養分だけで活動する。また、コバネガなどでは咀嚼可能な口器を持ち、花粉などを食べる。
- 夜に行動する種類が多いが、サツマニシキ(マダラガ科)などのように派手な体色を持ち昼間に行動するものもいる。
分類
- コバネガ科 Micropterigidae
- スイコバネガ科 Eriocraniidae
- コウモリガ科 Hepialidae
- モグリチビガ科 Nepticulidae
- Stigmella oxyacanthella、Stigmella pyri、Stigmella minusculellaなど。
- ヒラタモグリガ科 Opostegidae
- ツヤコガ科 Heliozelidae
- ヒゲナガガ科 Adelidae
- ホソヒゲマガリガ科 Prodoxidae
- マガリガ科 Incurvariidae
- ムモンハモグリガ科 Tischeriidae
- ヒロズコガ科 Tineidae
- ミノガ科 Psychidae
- 小型のガで、オオミノガやチャミノガの幼虫が「ミノムシ」として知られる。オス成虫は翅があって飛び回るが、多くの種類のメス成虫には翅がなく(脚もないものが多い)、姿はほぼイモムシ同様でミノから出ず一生を送る。
- ミノガ、オオミノガ、チャミノガなど。
- ナガヒゲガ科 Amphitheridae
- チビガ科 Bucculatricidae
- ホソガ科 Gracillariidae
- スガ科 Yponomeutidae
- クチブサガ科 Ypsolophidae
- コナガ科 Plutellidae
- コナガなど。
- アトヒゲコガ科 Acrolepiidae
- ホソハマキモドキガ科 Glyphipterigidae
- マイコガ科 Heliodinidae
- ヒルガオハモグリガ科 Bedelliidae
- ハモグリガ科 Lyonetiidae
- スヒロキバガ科 Ethmiidae
- クサモグリガ科 Elachistidae
- エダモグリガ科 Parametriotidae
- オビマルハキバガ科 Deuterogoniidae
- ヒロバキバガ科 Xyloryctidae
- キヌバコガ科 Scythrididae
- メスコバネマルハキバガ科(メスコバネキバガ科) Chimabachidae
- ミツモンホソキバガ科 Schistonoeidae
- マルハキバガ科 Oecophoridae
- ニセマイコガ科 Stathmopodidae
- ヒゲナガキバガ科 Lecithoceridae
- ホソキバガ科 Batrachedridae
- ツツミノガ科 Coleophoridae
- アカバナキバガ科 Momphidae
- ネマルハキバガ科 Blastobasidae
- カザリバガ科 Cosmopterigidae
- Hyposmocoma molluscivoraなど。
- キバガ科 Gelechiidae
- バクガなど。
- ネムスガ科 Galacticidae
- セミヤドリガ科 Epipyropidae
- セミヤドリガなど。
- イラガ科 Limacodidae
- 小型のガで、成虫は胴が太く翅が小さめ。幼虫は毒棘をもっていて街路樹によくあらわれる。硬い殻でできた繭をつくる。蛹は魚釣りの餌として用いられることもある。
- イラガ、ナシイラガ、クロシタアオイラガ、ヒロヘリアオイラガなど。
- マダラガ科 Zygaenidae
- ヒロハマキモドキガ科 Brachodidae
- スカシバガ科 Sesiidae
- 前翅、後翅に鱗粉がなく透明な部分を有する種が多い。幼虫は、ブドウ虫として釣り餌として使われている。
- スカシバ、ブドウスカシバなど。
- ボクトウガ科 Cossidae
- ハマキガ科 Tortricidae
- ヒメハマキガ亜科(Olethreutinae)など。
- ナシヒメシンクイ (Grapholita molesta)など。
- ハマキモドキガ科 Choreutidae
- ホソマイコガ科 Schreckensteiniidae
- ササベリガ科 Epermeniidae
- ニジュウシトリバガ科 Alucitidae
- トリバガ科 Pterophoridae
- ランタナトリバなど。
- ニセハマキガ科 Immidae
- セセリモドキガ科 Hyblaeidae
- シンクイガ科 Carposinidae
- マルバシンクイガ科 Copromorphidae
- マドガ科 Thyrididae
- メイガ科 Pyralidae
- 小型のガで、成虫の翅は細長い。害虫として扱われる種が多い(シンクイムシ)。幼虫は、ブドウ虫の代わりとして釣り餌として使われている。
- ニカメイガ、サンカメイガ、マエアカスカシノメイガ、ハチノスツヅリガ(Honeycomb Moth、Galleria mellonella)、コハチノスツヅリガ(Lesser Wax Moth)、ノシメマダラメイガ(Plodia interpunctella)など。
- ツトガ科 Crambidae
- 小型のガで、成虫の翅は細長い。害虫として扱われる種が多い(シンクイムシ)。幼虫は、ブドウ虫の代わりとして釣り餌として使われている。
- ハイマダラノメイガ(ダイコンシンクイムシ)(Hellula undalis)、アワノメイガ(もろこし虫、コーンワーム)(Ostrinia furnacalis)、ヨーロッパアワノメイガ(ヨーロッパもろこし虫、ヨーロッパコーンワーム) (Ostrinia nubilalis)など。
- カレハガ科 Lasiocampidae
- 中型のガ。名のとおり成虫の翅が褐色で、枯れ葉のような外見をしている。幼虫はケムシで、集団生活をする。幼虫の毛に毒をもつものもいる。マツの害虫のマツカレハなどが分類される。
- マツカレハ、オビカレハなど。
- オビガ科 Eupterotidae
- カイコガ科 Bombycidae
- ヤママユガ科に近縁の中型のガ。成虫は胴が太い。幼虫はさなぎになる前に糸で繭を作る。カイコは家畜化された種で、人間が世話をしないと生きられない。
- カイコガ、クワコなど。
- ヤママユガ科 Saturniidae
- 大型のガで、成虫はチョウのような羽と羽毛状の触角をもつ。幼虫はさなぎになる前に糸で繭を作るので、かつては人間に利用された。この科の昆虫をまとめて、「マユガ」と呼ぶ場合もある。
- ヤママユ、クスサン、オオミズアオ、ウスタビガ、エゾヨツメ、ヒメヤママユ、シンジュサン、ヨナグニサンなど。
- イボタガ科 Brahmaeidae
- スズメガ科 Sphingidae
- 中型から大型のガ。成虫は胴が太く翅が細長いが流線型の体型をしているものが多い。ホバリングしながら長い口吻を伸ばして花の蜜を吸うが、口吻の長さや花の好みは種類によってちがう。幼虫は大型のイモムシで、尾に1本の角がある。
- エビガラスズメ、メンガタスズメ、キイロスズメ、シモフリスズメ、セスジスズメ、タバコスズメガ、ホシホウジャク、オオスカシバなど。
- イカリモンガ科 Callidulidae
- アゲハモドキガ科 Epicopeiidae
- アゲハモドキなど。
- カギバガ科 Drepanidae
- ツバメガ科 Uraniidae
- 小型から中型のガ。昼行性のものが多く、熱帯産の種にはチョウのように美しい模様の翅を持ったものもいる。
- ギンツバメ、ウラニアツバメ、ニシキオオツバメなど。
- シャクガ科 Geometridae
- 小型から中型のガで、幼虫が「シャクトリムシ」として知られる。成虫は胴が細くチョウのような外見をしている。フユシャクの仲間はメス成虫の翅が退化している。
- 近年まで当科の1グループとされていた中南米産のシャクガモドキ類は、その後の見直しでむしろアゲハチョウ上科に近いことがわかり近年になってチョウに分類しなおされた。
- シャチホコガ科 Notodontidae
- ヤガ科に近縁の小型から中型のガ。幼虫が頭・胸部と尾部を大きく反らしシャチホコのようなポーズをとることから名付けられた。幼虫は胸脚がイモムシの類としては異様に長く発達した種類が多く、また尾部の疣足が2本の角のように変化し、常に尾を持ち上げている種類もある。だが、ごく普通のイモムシ形の幼虫態を持つものもいる。成虫はふさふさした体毛を持つ。幼虫は、ブナ虫と呼ばれ、釣り餌として使われている。
- シャチホコガ、ムラサキシャチホコ、オオトビモンシャチホコ、ブナアオシャチホコなど。
- ドクガ科 Lymantriidae
- 中型のガ。幼虫はケムシで、細かい毒針毛(どくしんもう)を持つ。これが成虫や卵にもつき、人に害を与える。
- ドクガ、チャドクガ、マイマイガなど。
- ヒトリガ科 Arctiidae
- 小型から中型のガ。翅が横長で、白、黄色などの割合目立つ色をしている。幼虫はケムシ。外来種で街路樹の害虫として知られるアメリカシロヒトリなどが分類される。
- ヒトリガ、アメリカシロヒトリ、カノコガなど。
- コブガ科 Nolidae
- ケンモンガ科 Pantheidae
- ヤガ科 Noctuidae
- 中型から大型のガ。種類が非常に多い。成虫は胴が太く、前翅と後翅の模様が異なるものが多い。この科の昆虫を合わせて「ヤガ」と呼ぶ場合もある。
- アケビコノハ、ムクゲコノハ、フクラスズメ、ヨトウガ、シロシタヨトウなど。