膵臓
テンプレート:Infobox 解剖学 膵臓(すいぞう、テンプレート:Lang-en-short)は、脊椎動物の器官のひとつで、膵液と呼ばれる消化酵素を含む液体を分泌し、それを消化管に送り込む外分泌腺である。
また、魚類以外の脊椎動物の膵臓の中には、ランゲルハンス島(らんげるはんすとう)と呼ばれる球状に小さな細胞の集塊が無数に散らばっている。ランゲルハンス島は、1個1個が微小な臓器と考えられ、インスリン、グルカゴンなどのホルモンを血液中に分泌する内分泌腺である。なお、魚類のランゲルハンス島は膵臓ではなく肝臓近辺に散在する。
したがって膵臓全体として見ると、両生類以上の脊椎動物の膵臓は、2つの機能を持つといえる。
ランゲルハンス島を、膵臓の内分泌部とも呼び、これに対し、ランゲルハンス島でない部分(膵液を分泌する部分)を外分泌部とも呼ぶ。(ただし、魚類では、ランゲルハンス島は、膵臓とは別の場所に分かれて存在しているので、魚類の膵臓は、内分泌腺としての機能は持たない。)
膵臓の解剖
ヒトの膵臓は、成人で長さ15 cm程度の右側が太く左側が細いくさび型の臓器である。向かって左端は、肝臓の下にある十二指腸がコの字型に曲がった部分の間にはまりこんでいる。反対側の右端は、腹部の右端の脾臓まで達している。十二指腸側を膵頭部、脾臓側を膵尾部と呼ぶ。
膵臓の中には、膵臓で作られた膵液を十二指腸まで運ぶ管である膵管が通っている。膵管は、十二指腸側に近づくにつれて合流し、最後は太い2本(主膵管、副膵管)になって、十二指腸につながる。主膵管は、十二指腸につながる前に胆嚢から胆汁が流れてくる総胆管と合流する。膵管は十二指腸の壁を貫き、その内側に膵液を出すが、膵管の開口部は腸の内側に向かって盛り上がっており、十二指腸乳頭と呼ばれる。
膵臓の組織と機能
膵臓の体積の95%以上は外分泌部が占める。残りがランゲルハンス島である。
外分泌部
外分泌部の構造は、唾液腺に似ている。膵液を分泌する細胞は、十数個でひとつの腺房と呼ばれる丸い塊を構成し、その内側のせまい隙間に膵液を分泌する。腺房にはごく細い導管がつながっており、導管は次第に合流し、膵液を膵管へと導く。分泌された膵液は十二指腸乳頭部から十二指腸へと送り出される。
膵液は、この外分泌細胞の分泌液であり、腺房細胞より分泌された多種類の消化酵素を含む分泌液と、導管部より分泌されたアルカリ性の分泌液の混合物である。消化酵素の多くは活性を持たない前駆体(例えばキモトリプシノーゲン)として分泌され、これが胃液中のペプシンや小腸上皮の刷子縁に存在するペプチダーゼの働きで部分分解される事で、活性を持った酵素(例えばキモトリプシン)となる。これは、強力な分解酵素である膵酵素によって膵臓自身が消化されてしまわないようにする為と考えられている。膵管の閉塞による膵液のうっ滞やその他何らかの原因によって膵臓内で膵酵素が活性化されてしまうと、膵臓自身の自家消化が生じ、時に生命を脅かす程の病態である急性膵炎を生じる場合がある。膵液中にはタンパク質分解酵素であるキモトリプシンやトリプシン、炭水化物の分解に働くアミラーゼ、脂質の分解に働くリパーゼなどが含まれており、食物の大雑把な分解に寄与する。即ち、タンパク質やデンプンをそれぞれオリゴペプチドやマルトースまで分解する。この後の消化は小腸上皮の刷子縁に存在する酵素の役割である。膵酵素の至適pHはややアルカリ側に偏っており、膵液中の高濃度の重炭酸塩が強い酸性である胃液を中和して消化酵素の働きを助ける。血中のアミラーゼやリパーゼは膵炎のマーカーとして用いられる。これ等の酵素は身体の他の部位でも産生されるため、例えば血清アミラーゼの上昇が即ち膵炎の存在を示すと解釈する事はできない。免疫学的に膵アミラーゼと唾液腺アミラーゼ等を区別する事も可能であるが、必ずしも総ての医療機関で可能である訳ではない。そのため、血清アミラーゼの解釈には注意を要する。一方、血清リパーゼは比較的膵臓の異常に対して特異度が高いと言われている。
ランゲルハンス島(内分泌部)
膵臓中に散在するランゲルハンス島の数は、20万~200万個程度といわれている。標本を作製してランゲルハンス島を特殊な染色法で観察すると、ランゲルハンス島を構成する細胞は、染色液による染まり方の違いから、A細胞(α細胞)、B細胞(β細胞)、D細胞(δ細胞)、PP細胞などに分けられる。A細胞はグルカゴン、B細胞はインスリン、D細胞はソマトスタチン、PP細胞は膵ポリペプチドを分泌する細胞である。
グルカゴンは血糖を上昇させる働きがある。インスリンはホルモンの中で唯一、血糖を低下させる働きがある。
インスリン抵抗性などによって生じた高血糖状態は、膵β細胞内において、大量の活性酸素種の生成やタンパク質とグルコースとの糖化反応を引き起こす。一般に糖毒性と呼ばれるこの現象は、β細胞のインスリン含量の減少やβ細胞数の減少を引き起こすと考えられる[1]。
歴史
膵臓は西洋文明においてヘロフィルス(335–280 BC:ギリシャの解剖学者・外科医)により初めて同定された。その数百年後、ギリシャの解剖学者エペソのルフスにより"pancreas"と命名された。宇田川玄真が『医範堤綱』において"panceras"を「膵臓」とした。
膵臓の病気
脚注
- ↑ 綿田裕孝ほか、特集 病期別にみた糖尿病およびその合併症への新しい対策 膵β細胞不全からみた2型糖尿病の病期とそれに応じた対策、糖尿病Vol. 45 (2002) No. 10