武井武雄
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
武井 武雄(たけい たけお、1894年6月25日-1983年2月7日)は、童画家、版画家、童話作家、造本作家である。
童話の添え物として軽視されていた子供向けの絵を「童画」と命名し、芸術の域にまで高めた。武井武雄の童画は、大胆な構図や幾何学的な描線によって、モダンかつナンセンスな味わいを感じさせ、残された作品はいまもって古びていない。「コドモノクニ」をはじめとした児童雑誌の挿画、版画、図案(デザイン)、おもちゃの研究・創作「イルフ・トイス」、本自体を芸術作品と捉えた「刊本作品」、童画批評など多岐多彩な分野で作品を残した。
刊本作品
刊本作品とは本をその内容である絵、話だけではなく、印刷、装幀、函の全てにおいて表現の一つであると捉え制作された作品である。それ故に作品ごとにその装幀が異なり、そのこだわりは紙の繊維を得るためにパピルスを栽培したというものまである。その美しさから「書物の芸術」「本の宝石」と呼ばれる。当初は「豆本」としていたが、42号以降が「刊本作品」とされている。「親類」と呼ばれる約300名の会員にのみに実費で頒布されたため、各々の本に通し番号がついており、図書館などへの収蔵も少なく「幻の美書」となっている。初号は昭和10年の「十二支絵本」で、通算139作が制作された。
イルフ・トイス
イルフとは、古い(フルイ)の反対で新しいという意味の武井による造語。新しい様式のおもちゃの創造することをめざしていた。
略歴
- 1894年 長野県平野村(現岡谷市)西堀の裕福な地主の家に生まれる(父:慶一郎 母:さち)。武井家は諏訪高島藩では御中小姓(性)を代々務め、父慶一郎は平野村長を務めるなど地域に貢献した人物であった。その慶一郎の一人息子である武雄は、幼い頃は病弱で、多くの時間を家の中で過ごし、友達も少なかった。そこで空想の中に「妖精ミト」という友達を創り出し、童話の世界で一緒に遊んでいた。この経験は、生涯武井の中から消えることはなく、童画を描く原点になったのではないかといわれている。
- 1913年 長野県立諏訪中学校(現長野県諏訪清陵高等学校)卒業。
- 1919年 東京美術学校(現東京芸術大学)西洋画科卒業。
- 1922年 東京社が創刊した絵雑誌『コドモノクニ』創刊号のタイトル文字及び表紙絵を担当、その後絵画部門の責任者となる。
- 1923年 処女童話集『お伽の卵』出版
- 1925年 初の個展を開催。このときに用いられた「童画」という言葉がのちに定着する。
- 1927年 岡本帰一、清水良雄、深沢省三、川上四郎、初山滋、村山知義とともに日本童画家協会を結成。
- 1929年 自ら創案した新作の玩具・小手工芸品「イルフ・トイス」展を開催。
- 1935年 「刊本作品」の制作を始める。
- 1944年 恩地孝四郎の推薦で日本版画協会会員となる。
- 1946年 日本童画会結成。会員となる。文化団体「双燈社」を起こす。
- 1959年 紫綬褒章受章
- 1967年 勲四等旭日小綬章受章
- 1983年 死去
主な著作
- 『童話集 お噺の卵』 目白書房 1923年(1976年 講談社より文庫化)
- 『ペスト博士の夢』 金星堂児童部 1924年
- 『ラムラム王』 叢文閣 1926年
- 『武井武雄画噺1 あるき太郎』 丸善 1927年
- 『武井武雄画噺2 おもちゃ箱』 丸善 1927年
- 『武井武雄画噺3 動物の村』 丸善 1927年
- 『日本郷土玩具』 地平社書房 1930年
- 『おもちゃ絵諸國めぐり』 伊勢辰 1929-30年
- 『いろは四十八面集』 伊勢辰 1932年
- 『武井武雄傑作童画集 第1輯』「コドモノクニ」秋の増刊 東京社 1934年(1978年 ほるぷ出版より復刻)
- 『赤ノッポ青ノッポ』 鈴木仁成堂 1934年(のち1948年 講談社、1955年 小学館、1981年 集英社など刊行)
- 『地上の祭』 アオイ書房 1938年
- 『愛蔵こけし図譜』 吾八 1941年
- 『本とその周辺』 中央公論社 1960年(のち文庫化)
- 『武井武雄童画集』 盛光社 1967年
- 『戦中気侭画帳』『戦後気侭画帳』 筑摩書房 1973年(のち文庫化)
- 『武井武雄作品集 Ⅰ童画』 筑摩書房 1974年
- 『武井武雄作品集 Ⅱ版画』 筑摩書房 1974年
- 『武井武雄作品集 Ⅲ刊本作品』 筑摩書房 1974年
- 『武井武雄版画小品集』 集英社 1982年
挿画・装幀など
- 『九月姫とウグイス』岩波の子どもの本10 著=サマセット・モーム 訳=光吉夏弥 岩波書店 1954年
- 『動物はみんな先生』 著=筒井敬介 中央公論社 1962年
- 『サーカス』 著=三島由紀夫 プレス・ビブリオマーヌ 1966年
- 『宮沢賢治童話集1』 著=宮沢賢治 中央公論社 1971年
- 『小川未明童話全集』 著=小川未明 講談社 1976年
- 『小川未明小説全集』 著=小川未明 講談社 1979年
ほか多数
関連書籍
- 『武井武雄―おとぎの国の王様』別冊太陽 絵本名画館 平凡社 1985年
- 『武井武雄の世界 青の魔法』 著=武井武雄 編=武井三春 彌生書房 1992年
- 『父の絵具箱』 著=武井三春 ファイバーネット 1998年
- 『武井武雄の本: 童画とグラフィックの王様』別冊太陽 日本のこころ216 平凡社 2014年
作品を収蔵する美術館等
- 岡谷市西堀に現存する生家は、元禄時代の建築[1]ともいわれ、長野県諏訪地方では現存する一番古い民家ではないかといわれている。長野県の中・南信地方の代表的な建築様式である本棟造である。しかし教員住宅として内部が改装された経緯があり、価値については疑問視する声もある。2008年5月、土地建物が岡谷市に寄贈されたが、岡谷市は老朽化を理由に取り壊す方針である。
脚注
- ↑ 元禄11年(戊寅年)の御柱祭の年に一家で留守をしているときに火災に遭い再建したといわれている。長野県内で最古の民家は大町市美麻の旧中村家住宅(元禄11年棟上)であり、ほぼ同時期に建築された武家住宅である。
外部リンク
- イルフ童画館(大澤コレクションほか)
- 銀貨社(武井武雄の世界)
- ラムラム王 - 「近代デジタルライブラリー」より。武井武雄『ラムラム王』(叢文閣、1926年)全文のデジタル画像。
- おもちゃ箱 - 『おもちゃ箱』(丸善、1927年)全文のデジタル画像。
- 動物の村 - 『動物の村』(丸善、1927年)全文のデジタル画像。
- 赤ノッポ青ノッポ - 『赤ノッポ青ノッポ』(講談社、1948年)全文のデジタル画像。
- コドモノクニ掲載作品検索 - 『コドモノクニ』掲載作品検索(国際子ども図書館「絵本ギャラリー」内)
- 武井武雄作品一覧 - 武井武雄作品一覧(絵本ナビ)
- 武井武雄生家 - 武井武雄生家のYouTube動画
- 武井武雄をあいする会 - 武井武雄をあいする会(武井武雄生家の保存と活用を求める活動をしている。)