斎藤きち
テンプレート:Infobox 人物 斎藤 きち(さいとう きち、天保12年11月10日 / グレゴリオ暦 1841年12月22日 - 1890年3月27日[1])は、幕末から明治期にかけての伊豆国下田の芸者。唐人お吉(とうじんおきち)の名で知られる[1]。
生涯
下田一の人気芸者
グレゴリオ暦 1841年12月22日(天保12年11月10日)、尾張国知多郡西端村(現在の愛知県南知多町内海)に船大工・斎藤市兵衛と妻きわの二女として生まれ、4歳まで内海で過ごし、その後、一家は下田へ移る[1]。7歳の時河津城主向井将監の愛妾村山せんの養子となり琴や三味線を習った。14歳で村山家から離縁され芸者となりお吉と名乗ったきちは、瞬く間に下田一の人気芸者となる。
唐人お吉
安政4年(1857年)5月、日本の初代アメリカ総領事タウンゼント・ハリスが玉泉寺の領事館で精力的に日米外交を行っている最中、慣れない異国暮らしからか体調を崩し床に臥せってしまう。困ったハリスの通訳ヘンリー・ヒュースケンはハリスの世話をする日本人看護婦の斡旋を地元の役人に依頼する。しかし、当時の日本人には看護婦の概念がよく解らず、妾の斡旋依頼だと誤解してしまう。そこで候補に挙がったのがお吉だった。
当時の大多数の日本人は外国人に偏見を持ち、外国人に身を任せることを恥とする風潮があったため、幼馴染の婚約者がいたお吉は固辞したが、幕府役人の執拗な説得に折れハリスのもとへ赴くことになった。当初、人々はお吉に対して同情的だったが、お吉の羽振りが良くなっていくにつれて、次第に嫉妬と侮蔑の目を向けるようになる。ハリスの容態が回復した3か月後の8月、お吉は解雇され再び芸者となるが、人々の冷たい視線は変わらぬままであった。この頃から彼女は酒色に耽るようになる。
最期
慶応3年(1868年)、芸者を辞め、幼馴染の大工・鶴松と横浜で同棲する[1]。その3年後に下田に戻り髪結業を営み始めるが、周囲の偏見もあり店の経営は思わしくなかった。ますます酒に溺れるようになり、そのため元婚約者と同棲を解消し、芸者業に戻り三島を経て再び下田に戻った。お吉を哀れんだ船主の後援で小料理屋「安直楼(あんちょくろう)」を開くが、既にアルコール使用障害となっていたお吉は年中酒の匂いを漂わせ、度々酔って暴れるなどしたため2年で廃業することになる。
その後数年間、物乞いを続けた後、1890年(明治23年)3月27日、稲生沢川門栗ヶ淵に身投げをして自殺した[1]。満48歳没(享年50)。
その後、稲生沢川から引き上げられたお吉の遺体を人々は「汚らわしい」と蔑み、斎藤家の菩提寺も埋葬を拒否した為、河川敷に3日も捨て置かれるなど下田の人間は死後もお吉に冷たく、哀れに思った下田宝福寺の住職が境内の一角に葬るが、後にこの住職もお吉を勝手に弔ったとして周囲から迫害を受け、下田を去る事となる。お吉の存在は、1928年(昭和3年)に十一谷義三郎が発表した小説『唐人お吉』で広く知られることとなる。
作品化
十一谷義三郎の小説『唐人お吉』を始め、小説、映画等が同タイトルで存在する。
- 小説
- 『唐人お吉』(十一谷義三郎、1928年(同年初出))
- 『実話唐人お吉』(村松春水、1930年(初出は1927年))
- 『女人哀詞 唐人お吉物語』(山本有三、1933年)
- 『唐人お吉伝 艶麗の悲歌』(丹潔、1940年)
- 『唐人お吉』(井上友一郎、1950年)
- 『唐人お吉物語 実説秘話』(竹岡範男、1962年)
- 『紅椿無惨 唐人お吉』(中山あい子、1975年)
- 戯曲
- 映画
- 『唐人お吉』(監督村越章二郎、原作村松春水、脚本八尋不二、演:琴糸路、河合映画製作社、1930年6月6日公開)
- 『唐人お吉』(監督溝口健二、原作十一谷義三郎、脚色畑本秋一、演:梅村蓉子、日活太秦撮影所、1930年7月1日公開)
- 『唐人お吉』(監督衣笠貞之助、原作村松春水、脚本悪麗之助、演:飯塚敏子、松竹下加茂撮影所、1931年12月18日公開)
- 『唐人お吉』(監督冬島泰三、原作川村花菱、脚本川口松太郎、演:初代 水谷八重子、新興キネマ東京撮影所、1935年1月5日公開)
- 『唐人お吉 黒船情話』(監督池田富保、原作十一谷義三郎、脚色滝川紅葉、演:花井蘭子、日活京都撮影所、1937年6月17日公開)
- 『新釈・唐人お吉 焚身篇』(監督・脚本犬塚稔、演:田中絹代、松竹下加茂撮影所、1938年12月24日公開)
- 『唐人お吉』(監督若杉光夫、脚本依田義賢・若尾徳平・若杉光夫、演:山田五十鈴、京映プロダクション・現代俳協 / 北星、1954年1月15日公開)
- 『黒船』 (The Barbarian and the Geisha)(監督ジョン・ヒューストン、原作エリス・セント・ジョセフ、脚本チャールズ・グレイソン、演:安藤永子、20世紀フォックス、1959年2月3日公開)
脚注・参照
関連項目
- 唐人お吉 - 曖昧さ回避
- タウンゼント・ハリス
- 羅紗緬
- さくら (サザンオールスターズのアルバム) - サザンオールスターズの1998年のアルバム。きちを題材とした「唐人物語 (ラシャメンのうた)」が収録。
外部リンク
- 唐人お吉物語 - 宝福寺