技師の親指

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テンプレート:Portal テンプレート:Infobox技師の親指」(ぎしのおやゆび、The Adventure of the Engineer's Thumb)は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズの一つで、56ある短編小説のうち9番目に発表された作品である。「ストランド・マガジン」1892年3月号初出。同年発行の短編集『シャーロック・ホームズの冒険』(The Adventures of Sherlock Holmes) に収録された[1]

大半のホームズの物語はホームズ(とワトスン)の元へ依頼人が訪れるか、既に依頼を受けておりそれにワトスンを誘うという導入だが、本作はワトスンがホームズに依頼を仲介するという珍しい導入となっている(他には「海軍条約文書事件」に例がある)。

あらすじ

1889年のある夏の朝、ホームズと別居して開業医に戻っていたワトスンのもとに、親指を切断された男が治療に訪れた。彼はヴィクター・ハザリーという水力技師で、ライサンダー・スターク大佐という痩せたドイツ人の男から高額の仕事を依頼され、危うく殺されるところだったという。ワトスンは彼をホームズの住むかつての下宿へ連れて行き、その体験をホームズと共に聞くことにした。

水力技師として独立したものの、全く鳴かず飛ばずだったハザリー氏の事務所に、ライサンダー・スターク大佐と名乗る人物が訪れ、内密にするよう念を押して、巨大な水圧機が故障したので、原因を調べてほしいと依頼する。

大佐の話では、自宅の敷地に酸性白土 (fuller's earth) の層があるのを発見したが、それは両隣の別の人物の土地に広がっていたため、まず自分の敷地内にある酸性白土を掘って、それを売った金で両隣の土地を買おうと考えているため、秘密にしているのだということだった。酸性白土を掘るのになぜ水圧機を使うのかと聞くと、掘った酸性白土を圧縮して運び出すのだと言う。

不自然なところの多い仕事に疑問を抱きつつも、高い報酬にひかれて引き受けたハザリー氏だが、呼び出された屋敷で謎の婦人に、すぐ逃げるようにと警告される。

警告を無視して水圧機の故障原因を説明し、仕事を終えたハザリー氏は、問題の巨大な水圧機の中に入り、底に付着したあるものを発見して、その機械の本当の使い道に気付く。スターク大佐は叫び声をあげるが、ハザリー氏に指摘されると、逆上した大佐はハザリー氏を閉じ込め、水圧機を動かし始めた。

矛盾点

ファイル:Engr-07.jpg
窓から脱出するハザリー(シドニー・パジェット画、「ストランド・マガジン」掲載時の挿絵)
  • ハザリーが窓枠にぶら下がっているとき、肉切り包丁で親指を切断されたとなっているが、包丁で骨を断つのは強度上困難で、現実にそのようなことが可能であるか疑問を持つ研究者は多い(ただし、包丁の説明に「斧のような」といった表現が使われており、形状が包丁とは違うと見られる)。
  • 窓枠からぶら下がっている状態のときの指の位置からして、親指が切り落とされるのは考えにくい。ハザリーは逃げ出そうとしていたのだから、親指は空中にあるか、窓枠にあったとしても他の指と並んでいるはずである。したがって切り落とされたとしても手の他の部分に怪我が無ければならない。
  • 屋敷の火事の原因(ホームズの推測であるが)や燃え方(未明から日没近くまで燃え続けていた)が現実的ではなく、焼け跡が完全な廃墟となっていたにもかかわらず、窓敷居から判別の付く形で親指が見つかったことにも、疑問が持たれている。

脚注

  1. ジャック・トレイシー『シャーロック・ホームズ大百科事典』日暮雅通訳、河出書房新社、2002年、91頁

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